リアルの対ドル相場と金
以前からアメリカはイラン核合意からの離脱を表明していたのですが、実際に8月からイラン核合意から抜け、単独で制裁を開始しました。
今回はその話をしてまいります。
上記のグラフは、イランの通貨であるリアルの対ドルの為替チャートです。
ドル円同様、リアルが安くなればなるほどチャートの上のほうに行きます。
4月にいきなりリアルが安くなったのは、アメリカがイラン核合意を廃棄し、制裁を開始すると表明したタイミングです。
そして8月にリアルが急騰したのは、実際に制裁が開始された時期に当たります。
現在、リアルは1ドル42,000リアルというような状態です。
日本円が1ドル110円、ユーロが1ドル1.15ユーロですから、この値が異常であることがわかると思います。
このように通貨が下落しているときに起こるのがインフレ(物価上昇)になります。
インフレと金購入の関係
初歩的な事ですが、通貨が下落するとなぜインフレが起こるのでしょうか。
それは下落を続ける通貨には信用がなくなるので、給料などをもらえばすぐにモノを買うのが庶民の防衛術になるからです。
なぜなら、もらった現金は瞬間に下落するので、できるだけ早く他のモノに変えておくほうが良いからです。
もっと簡単に言えば、今日100円で買えたものが明日には200円になるのであれば、今日買ったほうがお得という話になります。
ただ、お金をいっぱい持っている人や、もう欲しいものが何もない人にとっては、町で売っている商品など欲しくありません。
そういう人たちは、お金の王さまであるドル、そしてそのドルよりも地位が高い金を買うのです。
イランの人たちは、毎日物価が上昇していくので、手始めにドル購入に走ります。
しかし、イランに経済制裁をしているのはアメリカなので、ドルが欲しくない人は金を買うのです。
こうやってイランの通貨であるリアルを皆が手放すので、ますますその価値は下がり、金やドルの価値が相対的に上昇することになります。
WSJのイラン国内の金需要に関する報道
金相場の急騰にもかかわらず、イラン国民は最近、預金を金に変えている。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が2日発表した報告によれば、第2四半期のイラン国内の金塊および金貨への需要は、前年同期の3倍に相当する約15トンに達した。イラン中央銀行は需要増に対応し、何十万枚もの金貨を新たに鋳造した。これに要した金は60トンにも上るが、中銀の対応は金需要を一段とかき立てただけだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルより
このようにイランの通貨であるリアルの急落に伴い、その信用が薄れ、結果イラン国内の物価が上昇しています。
そして、イランの首都テヘランでは物価の高騰に対する抗議デモが発生しており、政府は沈静化を図っていますが、一向にやむことなく続いており、その対応に苦慮しています。
イランのインフレ率
イランのインフレ率は、今年の6月に13%に達しました。
上記は前年同月比のグラフになりますので、去年の6月に100円だったものが今年の6月には113円になっことになります。
このグラフは、前月比でのインフレ率です。
6月のインフレ率が4%になっていますので、つまり5月に100円だったものが104円になってしまったということです。
4円程度の値上がりで何を騒いでいるのか、と思う方も多いと思いますが、毎月4~5%の物価上昇ですと、1年間に約60%の物価上昇が見込まれます。
日本では物価上昇年間2%を目標として金融緩和をやっていますが、これは100円が1年間で102円になることになります。
1年間で毎月4%の上昇すれば、年間で100円が160円になってしまうことになるので、大変なことです。
参考までに、最近、同じくアメリカと関係の悪化をしているトルコの年間の物価上昇は以下のグラフの通りです。
トルコは年間15%の上昇になりますので、イランがもし60%の年間物価上昇率になれば、この大変さがよくわかると思います。
15%で国際社会が大騒ぎしていますので、今後イランの年間物価上昇率が60%になれば、ますます金の需要が増えるでしょう。
イランとトルコの経済体制の違いとは
イランとトルコは隣国になり、イランにアメリカが経済制裁をかけてもトルコはイランと貿易を続けることを宣言しています。
アメリカが日本や韓国にイラン産原油の輸入制限を促しているのに対して、トルコはアメリカと同じNATO同盟国なのに、トルコ制裁まで検討していることは注目に値します。
イランとトルコの決定的な違いは、トルコは2000年以降の工業化によって、かつて中国が世界の工場と言われたように、安いものをより多く生産できるのに対し、イランは他の中東諸国と同様、その経済を原油に頼っている点です。
イランの経済体制はトルコと似ているというよりも、近年最もひどいインフレになっているベネズエラに似ているように見えます。
つまり将来はベネズエラのようにひどいインフレになり、金の売れ行きが大きくなる可能性があるのです。
ベネズエラの主要産業もイラン同様、石油です。
イランはアジア地域では9位の経済圏であり、その規模はかなり大きいと言えます。
このように規模の大きい国でのインフレは、金の需要に大きな変化をもたらす可能性があり、要注意です。
工業化が遅れるイランの現状
イランはサウジアラビア同様工業化が進んでおらず、サウジアラビアが国営石油会社を先進国に上場させて工業化を図ろうとしているのに対し、イランは湾岸戦争、イランイラク戦争、中東戦争を経て、また内政も革命も経験し、工業化の目途が立っていないような状態です。
ですから、アメリカに経済封鎖をされると国内の物資が不足し物価が高騰します。
ただし、アメリカのトランプ政権によるイランへの最終の経済制裁は、11月の中間選挙の投票日前です。
つまり、アメリカがイランを制裁するのは、中間選挙が目的の可能性が高いと思われます。
トランプ大統領の手法とイラン
トランプさんは、東西冷戦を終結させたレーガン大統領に憧憬を抱いている傾向があります。
北朝鮮との会談で核開発をやめさせることができたと誇大宣伝をしていますが、最近の報道ではいまだに核開発をしていることが判明しています。
ただ、アメリカへの挑発的な行動をやめているのでおとがめは一切ありません。
最近、イランの大統領がアメリカを恫喝したことに対して、トランプ大統領は「アメリカを二度と威嚇するな」と注文をつけたように、アメリカに盾突くような行動に出た場合、制裁を強化する傾向にあります。
トルコはアメリカの言うことにイチイチ逆らっており、それが早期の経済制裁の発動を起こしているように見受けられます。
つまりイランがアメリカに対して挑発的な行動を起こした場合、アメリカの制裁は強化されることになるでしょう。
アメリカ中間選挙とイラン制裁の今後
トランプさんには、このような共産圏との闘いでの勝利を選挙でのアピールポイントにしたい思惑があるようです。
その証拠に、アメリカと争っている国はロシア、中国、北朝鮮と全て共産国になります。
トルコの場合、アメリカからの援助よりもロシア、中国からの援助を求めたことによって2閣僚に経済制裁が加えられました。
また、アメリカがイランを孤立させる方針なのに、イランとの貿易を中止しないと敢然と宣言したことがアメリカを刺激していものと思われます。
イランの場合は、長年にわたる経済制裁によって中国、ロシアとの関係を良化させましたが、経済制裁を解除してもその良好な関係を持続したことが制裁の再開になったのでしょう。
つまりイランへの経済制裁の解除は、イランが共産国との付き合いを再考することから始まることになります。
しかし、トルコやイランなどのアラブ人は、アメリカ人を信用していませんので、今後どうなるかは不透明です。
ですから逆に言えば、今のイラン制裁などは悪い方向に向かうというよりも、北朝鮮のように首脳会談を行えば、劇的に改善する可能性もあるということになります。
イラン問題で金価格はどうなるのか
率直に言えば、イラン問題では世界全体の金需給に大きな影響を及ぼすとは考えにくいです。
しかし、イランや最近発生したトルコ問題によるアメリカドルの価値の変化、つまりドルが安くなることによって、金の価格が上昇する可能性はあるでしょう。
実際にトランプさんは7月下旬に「ドルが高過ぎる」とけん制発言を行っていますので、ドルの方向性が変わる可能性は非常に高いと思います。
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