20世紀末から現在までの金の価格の推移
金の売却に関しては国際的な協約があり、その名をワシントン協定と言います。
以前、読者の方から「2009年以降に中央銀行からの売却がなくなったのはなぜか」というご質問をいただき、その話をしていかなければいけないと考えていました。
なぜ中央銀行の売却がなくなったのかと言えば、国家や国家の中央銀行の売却に際して、厳格なルールを求めるワシントン協定ができたからです。
20世紀末の1990年代から21世紀のドル建て金価格の推移は、2000年1月を境として、皆さんが『なんとなく値段の推移が違うね』と感じられるほどに変わっています。
実はその前年である1999年に、金の売却に関してのワシントン協定が発効したのです。
その内容は
中央銀行が金を売却する際には厳しい制限を加える
鉱山会社の先物ヘッジ売りの規制を加える
の2点になります。
詳細は
http://gold.mmc.co.jp/market/word/jp/jp23.html
(三菱マテリアルより)
で、ご確認ください。
要するに金の売却に制限を加えることによって、金の価格を維持しようという試みです。
では、解説に入りましょう。
協定の背景には世界的な財政危機
日本経済は、1992年のバブル崩壊によって財政難に陥りましたが、当時は世界のどこの国も1970年代から財政赤字が膨らみ、その赤字に苦しんでいました。
そのとき、財政赤字を解消するために白羽の矢が立ったのは、各国が保有する準備金になります。
そのため、1990年1月から2000年1月の間、金価格は若干下げ傾向でした。
金のマイナス面の特徴として、金利が発生しないことが挙げられるうえに、その保管にも場所を取ります。
持っているだけで資産価値が下がり、そのうえ金利が発生せず、そのコストもかかるのですから、各国の政府は財政難を理由に売却に走ったのです。
1970年代は1オンス35ドルだったものが、350~400ドルで推移していたのですから、それまでは保有しているだけで財産が増えていったのが、目先のお金がなくなるとともに、自国の財政の補填のために各国の中央銀行が売却に走ったのです。
各国中銀の金売却の阻止が協定の目的
1990年代の金は、保有の価値が何もないという空気が蔓延し、それは日本でも金価格が最安値を更新したことからもおわかりになると思います。
つまり政府の担当者は、そういった世間の風に流され、金の売却に走り、価格が安くなるという悪循環に陥ったのです。
ところが年配の政策担当者は、金が35ドルから10倍以上の価格である350~400ドルになっていることを知っていたので、各国の中央銀行が金の売却に走る事態を何とか食い止めたい、そして売却の連鎖からの価格低迷を防ぎたいということから、この協定ができあがったということになります。
もちろん、当時の産金量世界一の南アフリカが、アパルトヘイト運動によって産金した金を売却し、また将来算出する金を先物市場で売却することによって、価格をさらに押し下げることも規制の対象に加えました。
上記のリンクの説明は、さまざまな施策をほとんど省略していますので注意が必要です。
ワシントン協定を境に金が復権を果す
1990年代は、「金はいずれ、石ころになる」とまで言われた時代だったのですが、1999年9月のワシントン協定発効を境に価格が急上昇しているのがよくわかると思います。
このワシントン協定の発効によって各国の中央銀行は、金を保有していれば自動的に自分たちの国の外貨準備高が上昇していくことに満足し、その結果、売却が止まったことによって、金の資産価値が保全されたのです。
2004年には第二次ワシントン協定が結ばれ、さらに金の価値を上昇させました。
これらの協定によって、1990年代に「いずれ石ころになる」と揶揄された金が、永遠の輝きを持つ貴金属に復権を果たしました。
2009年に金売却が止まった理由
上記の金のドル建て価格の2009年1月は470になりますが、その後、金の価格は言うまでもなく急騰しました。
つまり、金を売却しなくても、その金を担保にお金を借りたほうがずっと効率がいいことに各国の中央銀行担当者が気づいたのです。
だいたい、金のリースレートは年利で0.3程度になりますので、市中の金利よりもはるかに借り入れがしやすいのです。
金のリースレートとは、金を担保にお金を借りる際の金利のことになります。
このチャートを見れば一目瞭然ですが、金は保有をしていたほうが勝手に値段が上昇していくので、各国の中央銀行は手持ちの金準備は減らすどころではなくむしろ増やしたいと思うのが通常の考え方になると思います。
最近の価格は低迷していると言えますが、これは各国の財政状況や借金の総額を考えると、いつ私たちが使うお金に価値がなくなっても仕方のない状況になります。
現在は好景気ですのでその心配はありませんが、不景気になれば借金の多さから、再び金の価格高騰が到来することになるでしょう。
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