トルコの現状とは
8月10日にトルコの通貨であるリラが対ドルに対して史上最安値を記録し、8月13日の週に入っても新安値を更新し続けています。
今回は、今トルコに起こっていることを解説してまいります。
トルコはヨーロッパと中東を結ぶ位置に存在し、国際社会ではヨーロッパと区分されていますが、住んでいる人は圧倒的にイスラム教の方が多いので、中東と区分けされることもあります。
経済規模は世界18位と決して無視できない規模です。
このトルコに、21世紀に入ってイスラム教に端を発する公正発展党(AKP)が誕生しました。
党首は現在の大統領でもあるエルドアンさんです。
トルコは一般的には世俗主義と言われ、1923年の建国以来、国の方針が宗教に左右されないことを国是としています。
実際、政権に宗教色が強くなると軍部がクーデターを起こし、この宗教に左右されない世俗主義が保たれてきました。
エルドランさんが大統領に就任してからトルコは飛躍的な発展を遂げ、BRICSに次ぐ新興国であるMINTに名を連ねています。
今回は、2016年のクーデターを鎮圧したエルドアンさんが経済悪化の苦境を迎えていることから、リラが叩き売られ、国際社会に波紋を呼んでいます。
またトルコでは、インドや中東など金需要の多い国から宝飾品の加工注文を受けることによって金産業が成り立っています。
トルコには金と切っても切れない縁があるのです。
では、今回のトルコ危機の背景にある2つの理由を、以下で説明してまいります。
【理由:1】ドル高と金利高による新興国からの資金流出
アメリカが2015年にゼロ金利を解除し、2017年には金融緩和を完全に停止した結果、ドルは金利がゼロで投資人気は上がりませんでした。
しかし、今後の金利上昇とアメリカの景気回復によるドル高によってドル投資の人気が復活し、トルコをはじめ新興国に流れていた国際資本のドルへの還流が起こりました。
新興国危機の発生は時間の問題だったのです。
実際にアルゼンチンはIMF管理下入りし、ブラジル、ベネズエラも危機に瀕しています。
トルコの場合、2016年に起こったクーデターに際し、景気が停滞したことによってより多くの資金流出が起こり、それがリラ安につながりました。
以上がトルコ危機発生の第一の理由です。
【理由:2】アメリカが宗教色の強いトルコを嫌う
トルコ共和国が成立して以来、イスラム教色が濃い政権が誕生するのは初めてのことです。
もともとトルコ共和国の創設者は、宗教が政治に関わると近代化の妨げになると考え、世俗主義を始めた経緯があります。
エルドアン政権に対してアメリカは、宗教色が濃いと人権問題が起こることを証明するため、クーデターに関わったとしてトルコ政府に拘束されているアメリカ人牧師を解放するよう要求し、その要求をトルコ政府が拒否していることが事態を悪化させたことが第二の理由になります。
この争いの上に、お互いがお互いに経済制裁をかけたことが事態をさらに悪化させました。
今回のトルコ危機が起こったきっかけは、上記の2点で、この2つの問題が解決しない限り、トルコの再生はないと考えることができます。
すなわち、景気の回復とアメリカとの関係改善です。
他国にトルコ危機が波及した理由
トルコは世界18位の経済規模を持っており、急速な発展のために資金を国際社会から借りていることが大きな問題です。
どこの国でも一緒ですが、資金を借りる際にはドル建てで借金をします。
このドルが8月10日にリラに対して20%以上急落したのですから、ただでさえクーデターで経済が疲弊し、その上にドル安によって借金が急増したことにより、「トルコが倒産するのではないか」といううわさが流れても仕方がないと思います。
トルコ経済は2年前のクーデターから徐々に立ち直ってきたのですが、ドルが急騰したことによって、借金の額も膨らんでしまったことから、トルコに貸している国の銀行が倒産の危機に瀕している可能性があるというのが、他国にも危機が押し寄せた原因になります。
例えば、スペインの銀行のトルコ向け債権は、全体の貸付の割合に対してかなりの率を占めており、「返済が滞った場合、銀行の存亡にかかわる可能性があるのではないか」という疑念が世界のマーケットに広がったのが実情です。
ランドが売られた理由もトルコにあり
新興国、特に南アフリカの通貨であるランドが売られた原因もトルコにあります。
なぜなら、日本のトルコ向け融資などは、アフリカの融資も含まれているからです。
つまり、トルコのアフリカ人脈を経由してアフリカに融資されるケースが圧倒的多数なので、トルコを経由して融資される南アフリカなども連鎖的に売られました。
安倍首相のおじい様である岸信介さんやお父様である安倍晋太郎さんが、日本とトルコの友好に尽力したこともあり、今もパイプはかなり太くあります。
トルコ危機発生懸念からリスク回避のドル高が発生するのはいつものことなのですが、ドル高であれば通常円安になるのにもかかわらず、ドル高と一緒に円高になってしまったのは、やはり日本とトルコの関係が緊密であることも関係していると思われます。
また日本とトルコの関係も緊密なのですが、トルコとアフリカ諸国の関係も緊密なので、一緒に売られたという解釈もあります。
ただ、リスク回避傾向になると最近はドル安だったので、自動的に円高になったという解釈も可能でしょう。
そのほかの新興国、ロシア、中国、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルなどの通貨が売られたのは、世界経済が弱くなると、もともと弱い国が最もダメージを受けるのは当然のことなので、売られる結末となっただけの話です。
トルコは大丈夫なのかという疑問
今回のトルコ危機の原因はドル高と景気低迷だと上記で述べましたが、現状のトルコリラは適正値よりも50%以上安いということが言えます。
つまり、トルコ経済の実力と比較して安過ぎる状態です。
ですから現在のトルコリラ安は異常過ぎる状態で、トルコ大統領エルドアンさんが言う通り、時間が経過をすれば元に戻るのは必然でしょう。
ただし、この一連のアメリカとトルコの争いがこれ以上悪化せずに、中立が保たれていればという前提での話です。
アメリカとトルコの関係がこれ以上悪化すれば、さらにトルコリラが売られる可能性もまだあります。
金価格とトルコ危機の関係
このトルコ危機からで、金は通常買われることになりますが、過去のあらゆる経過を見ても、金価格は需要減から危機発生直後は値段が下がります。
そして、通貨に対する不安から過去は大きく、その後、上昇しているのが経験則、データからの判断になります。
つまり、こういった危機が起こった場合、金は買いという結論になるのが通常です。
トルコの金加工貿易においては金価格は上昇しますが、その加工賃は通貨安によって一層安くなり、注文が急増することが予想されます。
これは金に限らず、どの産業でも同じです。
つまり通貨安は産業育成を促進し、トルコ政府が望む外資の導入が図られることになりますので、トルコの今後にはそれほど心配がないというのが国際的なコンセンサスでしょう。
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