資源大国、南アフリカの現状

当初はBRICSのメンバーではなかった南アフリカ

南アフリカでは最近、汚職で大統領のズマが退任し、現職のシリル・ラマポーザが就任しています。

政情不安は定番ですが、資源大国である南アフリカは投資家にとって気になる国です。

今回は、その現状について話をしていきます。

当初BRICSに南アフリカは入っていなかった!?

「BRICS」の命名者は、ゴールドマンサックスアセットマネジメントの元会長、ジム・オニールです。

当初、BRICSに南アフリカは含まれていませんでした。

著書の中では最近、南アフリカを含むようなニュアンスになってきており、「そのことに特段問題はない」と記しています。

では、なぜ南アフリカが当時、成長の著しかったトルコやインドネシアを追い越して、BRICSの一員になれたのかという疑問がわきます。

なぜ南アフリカはBRICSの一員となれたのか?

中国の資源調達先として発展の機会をつかんだ南アフリカ

BRICSという言葉ができたのは、2000年以前です。

当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していたのは中国で、皆さんも覚えていらっしゃると思いますが、中国が世界の資源を食べつくすと言われたものです。

例えばWTOが、中国が世界中の穀物を買いあさっているので、将来、人類は昆虫を食べることになるであろうとレポートで報告したほどでした。

この問題はその後、バイオテクノロジーの発達で耕作地の単収が極端に上昇したことによって解決しているのが現状です。

しかし当時の中国は世界の資源を爆食し、資源の調達先に困窮していました。

そこで、中国国内で資源会議を開催し、南アフリカを招待したのです。

当時の中国の経済成長は飛ぶ鳥を落とす勢いでしたので、その資源会議に南アフリカが招待されたことは、成長を保証されたようなものであり、トルコやインドネシアを飛び越えてBRICSに仲間入りすることができたのです。

南アフリカがBRICSの一員になれたのは、中国のおかげなのです。

南アフリカと中国

南アフリカはじめアフリカ諸国での中国のプレゼンスは高まっている

BRICS時代到来と言われて、中国が資源確保のためにアフリカに直接投資を拡大させたのは、リーマンショック前は有名な話です。

弊害として、アフリカ大陸に中国人が大挙して押し寄せ、現地住民の職を奪ったという報道がよくなされました。

これは中国人が悪いのではなく、実はアフリカ人の所得やお給料は高いことが原因です。

中国人労働者は非常に安く、企業が使いたがるのは当然です。

つまり、当時は非人道的ということで、こういう報道を垂れ流していたのですが、出鱈目であったことは皆さんもおわかりになると思います。

もし自分が経営者で、働きもしないのに高給なアフリカ人がいれば採用しないでしょう。

一方で中国人は安い賃金で労働組合にも入らず、懸命に働きます。

どちらを採用するかは自明の理です。

企業は利益を出すために存在しているのであって、人件費は安い方が良いのは当たり前です。

中国は、資源確保のためにアフリカ大陸投資をリーマンショック以降も続けており、アフリカ大陸におけるプレゼンスは非常に高まっています。

中国の南アフリカ投資の現状

小カルー地方の都市、コレスバーグに立つスタンダード銀行の支店

中国は、アフリカ大陸や南アフリカに巨大な投資をしていますが、成果はほとんど出ていません。

サブサハラ地域では油田の開発に中国企業は参入していますが、南アフリカ国内において、実は資源産業には喰い込むことができていません。

南アフリカのスタンダード銀行に中国商工銀行が20%出資したのは有名ですが、これは中国が躍進する前の話で、しかも資源関連ではなく金融の投資です。

つまり、現在も中国政府はアフリカ大陸に巨額の投資を行っていますが、資源権益に関しては、ほとんど欧米や日本に奪われており、結果は良くないというのが現状になります。

南アフリカには、アパルトヘイト改革以降に大勢の欧米日の企業が参入し、そこに中国が入る余地がない状況なのです。

ただ、最近ジンバブエの独裁政権が崩壊し、そこから資本流入が起こる可能性があります。

なぜなら、ジンバブエと南アフリカは陸続きで、ダイヤモンドや金の鉱山が豊富にあるからです。

そして、コンゴ内戦も終了し、コンゴ国内のダムから電力を送電する計画などもあります。

南アフリカ経済最大の弱点

南アフリカのムプマランガ州スタンダートン近くに立つ発電所

南アフリカ経済の最大の弱点は、電力の供給が安定しないことです。

その南アフリカの電力供給会社エスコムに出資しているのは、日本の開発輸入銀行になります。

電力問題は非常に深刻であり、鉱山の採掘には欠かせません。

ストや電力問題で、よく鉱山の採掘が中止になるのは非効率そのものです。

交通網などのインフラは、サッカーのワールドカップ以降にかなり改善していますが、電力問題は南アフリカ経済にとって頭痛の種です。

例えば、トルコは最近、不振が伝えられますが、電力供給が安定していますので、大きな経済不振はないと思われます。

日本の計画停電を知っている皆さんは、あの不便さはよくおわかりになると思います。

つまり電力問題と周辺国の政治的な安定があれば、おそらく南アフリカ経済は良くなっていくでしょう。

あまり知られていないことですが、日本国内を走っているベンツやBMWなどのヨーロッパ系の自動車メーカーのほとんどが南アフリカ製造になります。

白人の農地収容問題

近代的な灌漑システムを用いた南アフリカの農地

つい最近、アメリカのトランプ大統領が、「白人の農地収容を本当に行うのであれば、南アフリカに経済制裁をしなければならない」とツイッターに投稿したことが話題となっています。

これは、アメリカにはあまり関係がない問題です。

実は、南アフリカに住んでいる白人は、アフリカーナーというオランダ系の白人になります。

植民地の宗主国であるイギリス系の白人よりも、オランダ系のほうが多いのです。

アメリカからの移民はほとんどいません。

要するにトランプさんが南アフリカに文句をつけたのは、あのときトルコやイラン、カタールなどがアメリカの意向を無視した行動を取っていたので、特にトルコと結びつきが強い南アフリカを脅しただけと思われます。

南アフリカ経済の没落は世界不況を意味する

インフレの激しいジンバブエの50兆ジンバブエドル紙幣

本当に南アフリカ政府が白人の土地を収用した場合、国際社会に大きな波紋を呼ぶことも事実です。

実際、お隣のジンバブエは、白人の土地を収用したことによって経済が崩壊しました。

白人が経営している農地の収益性は、カラードやアフリカ人のものよりも10倍以上高いのです。

その白人の経営している農地をジンバブエの独裁政権が収容したことによって、ジンバブエ経済はインフレ率10000%という状態に陥りました。

南アフリカ経済は、国際社会の中で資源というカテゴリーに組み込まれていますので、経済の没落は世界不況を意味します。

経済が崩壊した場合、世界経済に大きな影響を与えるから、トランプさんは経済制裁をちらつかせ、その政策を止めようとしたのです。

現職大統領の話

2018年2月15日に南アフリカ大統領に就任したシリル・ラマポーザ

アパルトヘイト解放の話は、世界的に有名です。

その代表格が初代ANC(アフリカ民族会議)大統領であるマンデラになりますが、マンデラ以外でアパルトヘイト解放運動に参画したのは、その後の大統領でもあるズマ、ムベキになります。

ただし、同じ黒人と言っても、マンデラとムベキはナタール人、ズマはズールー人です。

ズマはANCの解放戦士時代から汚職などのうわさが絶えない人物で、今回、その汚職によって失職することになりました。

現職のシリル・ラマポーザはどういう背景の人物かと言えば、実はマンデラの師匠がシリルの父親だったのです。

シリルの父親もマンデラとともにロベン島に幽閉され、マンデラよりも先に解放されました。

シリルは、アパルトヘイト解放の指導者を父親に持つサラブレッドと言ってよいでしょう。

現政権の悩み

「南アフリカに住む人は皆南アフリカ人」が国是だが現実は…

基本的に民族解放を謳っているANCは、人種差別がいけないと言っているのです。

ほかの差別反対、例えばインドのカースト制では「階層がいけない」という運動なのです。

そこがほかの差別反対運動と違うところです。

南アフリカは、国内に住む人間を皆南アフリカ人と呼び、人種による差別を行うのはよくない、というのが国の方針になります。

この国是と国が成長する食料である農業を、白人が効率的に経営しているのですが、ほかのカラードや黒人は極めて効率の低い農業を行っています。

白人を追放すれば、南アは食糧難に見舞われることになりますし、かと言ってこのまま白人の既得権を優遇するわけにもいかない、というのが現政権の悩みです。

国是を取るか、人種融和策を取るかという選択において、現職のシリルは人種融和を取ったということになるでしょう。

貧富の格差という最大の問題

ケープタウン郊外のスラム

貧富の差が非常に激しいのも南アフリカの特徴です。

経済指標の中にジニ係数という貧富の差を図る尺度がありますが、南アフリカは世界最悪となっています。

日本のジニ係数は0.44くらいで、貧富の差で犯罪が起こらないような状態です。

しかし、近年はこのジニ係数が拡大しており、日本も間もなく貧富の差から犯罪が起こる事態になるでしょう。

一般的にジニ係数の標準値は0.45であり、これを超えると犯罪が多発すると言われています。

南アフリカは、世界最悪レベルの0.75です。

これは、お金持ちは他者を寄せ付けないような金持ちですが、貧者は明日の食べ物にも困る生活をしており、中間層が全くいません。

日本やアメリカは、この中間層がいたおかげで近現代に大きく成長したのですが、南アフリカにはその中間層が全くいない状態が最大の問題なのです。

南アフリカの展望

世界景気が着実に回復する中、資源供給国・南アフリカに注目が集まる

アフリカ経済は、資源高によって2003年以降に大きな飛躍を遂げました。

つまり、あのリーマンショックの時代には、南アフリカを含めたアフリカ大陸全体が植民地解放以降初めて好況に沸いたのです。

そして皆さんもご存知のように、リーマンショックで世界の資源需要がしぼんだことによって、南アフリカも沈み込みました。

そして今回、日本国内でも資源問題から、アフリカに注目が集まっています。

背景には、アメリカが完全にリーマンショックから立ち直り、世界景気が着実に回復していることがあります。

つまり、世界経済が回復軌道に乗れば、必然的に資源需要が高まるということです。

その間に、裕福になった中国の需要がリーマンショック前のようになるのは必然です。

リーマンショックが起こって、中国の資源の爆食がなくなるかと言えば、なくなるわけがありません。

世界や南アフリカは現在、リーマンショック前の状態に戻ろうとしています。

そのとき、南アフリカの重要輸出品目である金やダイヤモンドを弱気などできるわけがありません。

ただし、白金やパラジウムは、産業構造の転換であまり強気はできないでしょう。