アメリカ人はあまり金が好きではない理由

金の価格はドルの裏返し

アメリカの代表的な宝飾メーカー、ティファニーのメイン商品はシルバーであって、ゴールドではありません。

この理由は今までに何度か述べてきましたが、今回は新しい理由と思われることを考えていきます。

ロスアンゼルスのビバリーヒルズに立つティファニーの店舗

今まで、金の価格変動要因の第一位はドルの上下動と言ってまいりました。

すなわち、金の価格が上昇すれば、それはドルの価値が下がっていることであり、金の価格が下落すれば、ドルの価値が上昇することになると何度も解説しています。

その金とドルの交換保証を1971年まで行ってきました。

ですから、アメリカ人にとってドルを持つことは結局、金を持つことと一緒なのです。

制度上は、紙切れのお金と金を交換保証する金本位制度は廃止されていますが、そういった意識は残っていると思われます。

つまり、ドルを持っていることは現代でも金を持っていることと一緒になるのだから、アメリカ人があまり金を保有しないという推論は、決して間違いではないということも導き出せるでしょう。

ドルは最終一歩手前の防波堤

ドルも金もその存在意義は似ている

金は、世の中のありとあらゆるお金がなくなった場合でも、価値を持ち続けるから、価値を持っている側面があります。

そして基軸通貨としてのドルも、金の一歩手前のドル以外のお金の価値がなくなったとしても、価値が永続する可能性が高いということで信用が出たのです。

つまり、ドルは金の価値が高まる一歩手前の地位を現在でも維持しているから、「有事のドル買い」と言われます。

そのドルさえも信用がなくなれば、最終的な位置づけとして金に投資先が向かうという、序列を意識することも大事です。

言い換えれば、金とドルの序列は存在しますが、金とドルが同じような最終防波堤であるのであれば、ドルのほうが気軽に持てますので、アメリカ人はそれほど金が好きではない、という推論もあり得るでしょう。

意外な事実

ベトナム戦争による財政赤字の増加によりアメリカの金保有がたりなくなっていった

アメリカは金本位制度、そして固定為替相場終焉近くに大きなインフレと財政不安を抱えていたことは、皆さんご存知だと思います。

これは主に第二次インドシナ戦争、一般的にはベトナム戦争と言われますが、これによって戦費がかさみ、財政赤字がふくらんだ結果、借金の多い人にお金を貸すのはリスクが高いので、アメリカ国内の金利が上昇するのは必然です。

そもそも金本位制度とは、ドルと金の交換保証をするのですから、全世界に流通しているドルの残高をアメリカ政府は保有しなければならないのです。

つまり、金の保有量以上のドルをアメリカ政府は発行できないことになります。

現実的には、当初は70%までと言ってドルを発行し続けましたが、時代の変遷とともに、最終的にはドルの発行量を金の保有に対して40%までに切り下げているのです。

つまり、金の保有額に相当するドルしか発行できないのに、第二次インドシナ戦争によって戦費がかさみ、結果、金の保有が足りなくなっていったのです。

金の輸出禁止、そして…!?

実はアメリカでは金の売買が禁じられていた

それでも泥沼化する第二次インドシナ戦争を継続したいアメリカ政府は、金の輸出を禁止しました。

そうすれば、アメリカ政府の保有している金の海外流出を防ぐことができるからです。

しかし、それでも金の保有量はドルの発行に対して足りなかった。

そこで、日本の書籍やインターネットにもあまり書かれていないことですが、金の売買や保有を個人で行うことを禁止しました。

ですから、アメリカでは金の売買や保有は実質、金本位制度が崩壊する1971年まで禁止されていたのです。

つまり、現代の日本のように、金の地金や宝飾品が店頭で売られているのは当たり前ですが、アメリカは1971年まで、店頭で金を含む地金や宝飾品の販売が禁止されていました。

理由は前述したように、金の保有に対してドルの発行量が大幅に超過した状態だったからです。

庶民の保有している金でさえも、税関などで保有していれば没収していました。

有名な話

アメリカとドイツで大きく違った金に対する認識

これは、非常に有名な話になりますが、ウロ覚えになりますので、間違いがあればお許しください。

あるアメリカ人がドイツに貢献したということで、ドイツ政府から純金製の勲章をいただいたそうです。

その勲章は非常に名誉があるもので、その人にとっては非常に誇らしいものだったといいます。

しかし、いざ、その勲章を持ってアメリカに帰国し税関を通る際、金の保有は禁止されているからという理由で没収されてしまったのです。

記憶に間違いがあるかもしれませんが、当時の庶民の金保有に対するアメリカ政府の厳しい規制を物語っています。

勲章は自分が命を懸けて修めた功績であり、その名誉をアメリカ政府に没収される権利があるのかと、当時のアメリカで相当な話題になりました。

このように、名誉の勲章でさえも懲罰的に没収されてしまうのですから、当時のアメリカ人の金保有は相当な制限がかかっていると想像するのは難くないでしょう。

アメリカ人は金が嫌いではなく?

「スチュワーデス」世代にはどこか馴染みにくい「キャビンアテンダント」という名称

アメリカ人は1971年の金の売買の自由や保有の自由が認められるまで、実質的には金の売買ができない状態でした。

ですから、その厳しい規制を乗り越えてきた世代は、なかなか金の投資に手を出しづらいのが普通でしょう。

例えば、若い年代にはわかりにくいかもしれませんが、「看護師」を「看護婦」と呼び、「キャビンアテンダント」を「スッチー」と呼んでいた世代には、いまだに「看護師さん」、「キャビンアテンダント」と呼ぶのに違和感を覚えるのと一緒です。

アメリカ人は金が嫌いなのではなく、いまだに潜在意識の中に投資してはいけないものという感覚があるのです。

その時代、ほかの国では金の売買や投資は認められているのですから、アメリカ人のその精神性にかなり国際感覚とズレがあって当然のことだと思います。

しかし、結論的にはアメリカ人は決して金が嫌いなわけではありません。

潜在意識でやってはいけないもの、という認識が高齢者を中心にあるだけの話です。

という事は、世代交代・新陳代謝の中でどうなるかが想像に容易いでしょう。


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