2018年の金相場を振り返り
年末にかけてアメリカ金利が逆イールドとなり、欧州も不安定な状況です。
今回は、なぜ公的な買い付け需要が旺盛なのかを考えていきます。
2018年は、なんと言ってもトルコを筆頭とする新興国の経済危機が金にとっては重要な事件でした。
ほかにも北朝鮮とアメリカが歴史的な会談を行うなどのニュースがありましたが、それは金相場にはほとんど影響がなく、むしろ危機が後退したので金の価格下げ要因になったと思います。
やはり、トルコを筆頭とする新興国の危機が不安をあおりました。
トルコの金保有量の推移
上記はトルコの金保有量です。
ご記憶の方も多いでしょうが、トルコは夏にいったん200トン以上あった金保有を100トン台まで半減させ、すぐに買い直しを行い保有金の量を拡大させました。
大統領のエルドアンさんは、「今後、金を中心とした政策決定を行う」と宣言しましたが、この意味がわからないアナリスト、メディアばかりなのでこの発言を重視しません。
しかし、国の危機のためにいったん金を売却して、短期間でそれを買い戻したのですから、エルドアンさんが言うように金を政策の重点に置いていることは確かです。
トルコの保有金の売却と金価格の上下動
以下は2017年1月からのドル建て金価格の推移です。
トルコ経済危機の発生は、エルドアンさんの利上げではなく「利下げをする」と発言したころ、つまり2018年5月くらいから急速に下がっています。
もちろん、この時期に2018年4月から一気にドル高が進行したので、下落している側面もあります。
そして、この下げと合わせてトルコの金保有量が急速に減り、危機が収束したされる9〜10月にかけて急速に値を戻しています。
つまりトルコの保有金の売却と買い戻しによって、この1年の金価格が上下動していたと言っても過言ではありません。
もっと言うなれば、各国中央銀行の売却、買い付けによって昨今の金は値段が上下動しているとも言えます。
金を重視する新興国、第三世界の特徴
最近、原油価格が急落しましたが、原因はもともとドル高の割には価格が高過ぎたこともあります。
しかし前回、原油が40ドル台まで急落したときにロシアの経済危機が叫ばれ、通貨ルーブルなどが急落したのですが、今回はそれほど大きな下落ではありませんでした。
ここで言う新興国、第三世界勢力とは主にロシア、中国、インド、トルコ、メキシコ、イランなど、なぜだか最近のニュースで話題になっている国々です。
はっきり言えばメキシコ以外、トランプさんと対立している国になります。
上記の国に共通しているのは、最近、金の保有量を加速度的に増やしている点です。
新興国の買いで金は需要超過
イランは経済制裁の影響で成長が止まっていますが、ほかの成長の著しい国々が旺盛に金を買い付けしていれば、金の価格はどうなるかということです。
年間の新産金が約2500トンで、これらの国々で平均で約800トンを買い付けています。
もちろん、中国は金の保有量を公表していないので推測になりますが、世界一の生産国である中国の新産金の量と保有量は全く比例していませんので、おそらく巧妙に軍などの保管庫に保有金を移しているものと思われます。
つまり新産金の1/3をこれらの国で買い付けており、そのほか日本でも現在金投資ブームが起こっているように、ETFや純金積み立ての額を組み入れると需要超過になっている状態です。
なおETFや純金積み立ては、未受け渡し分は実際に販売者の所有している10倍の量の金を販売できますので、需要はもっと多いことになります。
経済危機発生のメカニズム
金の公的買い付けの中でも新興国や第三世界が金を欲しがる理由は、個々の事情はありますが明快です。
例えば今年のトルコ経済危機の一番の要因は、ここでも何度も書きましたが、エルドアン大統領の不規則発言ではなく、ドル高とドルの金利高です。
要するに、ドルが高くなったことで相対的にトルコリラが安くなった結果、経済危機が起こったということです。
原油安の度に経済危機に陥るロシアも同様で、原油安の背景は不景気ではなく不景気によって起こるドル高で原油が下がることが根本的な原因です。
つまり、新興国のように先進国から大量にドルを借りて、ドルが上昇すれば、その利払いや元本返済が上手くいかなくなることによって、経済危機が発生します。
第三世界や新興国が金を欲しがる理由
新興国や第三世界の経済危機は、今年の春から本格的なドルの上昇になったので予期できたことです。
ドルの上昇によってドル建ての借金の返済額が上昇し、デフォルトまではいかなくても、返済が苦しくなるのは当然です。
また、中国は大量の外貨準備としてアメリカ国債を抱え、その債務不履行のヘッジとして金を保有していると思われます。
つまり新興国や第三世界に限らず、日本を含むアメリカ以外の国は、ドルの状況によって経済が左右されているのです。
世界経済とアメリカ経済はどっぷりとリンクしていて、その作用は相関関係ではなく反相関関係になる場合が多いのです。
現在のアメリカ経済は好調ですが、日本や欧州、中国、ロシア、新興国などは景気が良いとは言えません。
そのためアメリカにお金が集まり、ほかの国ではお金が流出する事態になっています。
この結果が今年の夏以降に起こった新興国などの経済危機です。
つまりドルの上下動によって、国の経済の上下動が当事国は悪くなくても世界の情勢に流されてしまうから、上記に示した新興国や第三国は金の保有を増やすのです。
金の保有を増やせばどうなるか?
新興国やどこの勢力にも属さない第三世界勢力は、はっきり言えば財務的に先進国よりも弱いわけです。
それが先進国に入れない理由であり、何か世界的な事件や災害が起こった場合には、その信用は失われます。
信用がないということは、発行するお金が限りなくゼロに近づき、ひいては紙切れになることを意味します。
そのときに発行量全額とまではいかないまでも、40%程度の金を保有していれば通貨に信用が付きます。
通貨が売られてもその通貨を金と交換することができれば、たとえその通貨の価値がゼロになっても誰も手放そうとはしません。
発行したときには40%しか裏付けてはいませんが、そのような状態になれば金の価格は高騰し、結果的に発行量に対して全部のお金を金に交換することができますので、決して紙切れにならないことは理解できると思います。
新興国、第三世界勢力は、アメリカドルに左右されない経済運営を行うために金の公的買い付けを増やすのです。
結果として
アメリカの景気は現状世界で一番良いわけですから、ドル価格は下がったとしてもそれほど大きくは下げないことが今後予想されます。
一番怖いのはアメリカの景気が後退して、債務不履行や政府閉鎖などの問題が出てくることです。
現在、金が上昇しているのは、ドル高下においても、やはり公的買い付けとETFなどペーパー金の人気の高まりによるものでしょう。
つまりドル高、ドル安によって金価格は上下しておらず、純粋に需給で価格決定が行われている可能性が高いと思います。
今後のETF人気はともかく、上記の理由から金の価格は公的需要によって下げづらい展開が続くと予想できます。
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