パラジウム価格高騰の問題
パラジウムと金の価格の逆転が話題になっています。
今回は、環境問題についての誤解とパラジウムの価格について話していきます。
昨年から申し上げているように、パラジウムの高騰がまだ続くという考えは、日本経済新聞に取り上げられても変わりません。
よく金融関係者の間で伝説となっているうわさに「日経新聞に取り上げられると価格の高騰が終わる」がありますが、一時的な押し目は形成しても高騰は終わりません。
そもそもパラジウムの高騰には、
1. パラジウムの産地が限定されている
2. 世界的な環境問題意識の高まり
この2つの要因があります。
パラジウム高騰と産地南アフリカ
パラジウムの産地は南アフリカとロシアで、世界供給の8割を占めます。
このうち南アフリカでは鉱山の高齢化が進行し、閉山も相次いでいます。
例えば金は、発見された当時世界の8割を生産していましたが、現在では相次ぐ新鉱山発見などによって、世界生産の15%程度まで落ち込んでいます。
この要因は、主に埋蔵量が減ったこと、そして発見から長い年月を経過しているので、コストの上昇から生産を続けても見合わないことです。
白金も同様です。
世界供給の9割を南アフリカが産出していますが、昨今の世界的な需要減によって価格が大きく低下しています。
需要減は、主にハイブリッドカーや電気自動車に使われる燃料電池の触媒が、近年の新技術によって白金から炭素に変わってきていることが大きな要因です。
結果として価格も需要も減っています。
その上にもともとパラジウムは、白金の副産物として採取された鉱山資源なので、白金の生産量が減れば自動的にパラジウムの生産も減ります。
南アフリカでの減産が、価格高騰の要因と思われます。
ロシアもまた価格高騰の原因
他方ロシアでは、資源ナショナリズムが近年になく盛り上がっています。
これは、国内で取れる石油は国家のものという中東諸国での意識の高揚によって、オイルショックが発生したことと同じです。
例えば樺太の天然ガスは、日本の三井物産や三菱、世界ではBPやエクソンなども参画した巨大プロジェクトでした。
しかし、資源ナショナリズムの高揚によってこの事業は国営化され、ロシア政府は巨額の和解金を国際メジャーや日系企業に支払い撤退させています。
問題は、ロシアには掘削技術がないことです。
資源は豊かにあるが掘削•採掘する技術がない。
よって生産力の低下がロシアのパラジウム生産が停滞している理由になります。
これもパラジウム価格の高騰の原因の一つです。
環境問題とパラジウム
トランプ大統領が大統領就任当初、パリ協定へのアメリカの不参加を表明したことが話題になりました。
環境対策によって、人間にとってより住みやすい環境を作ろうというのが世界の趨勢であり、これに反対する人はいないでしょう。
この環境問題で、パラジウムに直結するのは自動車の排ガス問題です。
ガソリンを燃焼した際にマフラーから排煙が出ますが、二酸化硫黄などの人体に有害な物質が含まれることが、パラジウムの需要を伸ばす大きな要因になります。
中国や東南アジア各国に旅行に行かれた際、空気の汚さに辟易した方は多いでしょう。
日本や欧米でも1970年代に光化学スモッグなどの公害が発生しました。
これは燃焼元であるガソリンの改質や、自動車のマフラーに触媒としてパラジウムを取り付けることによってほぼ解決しています。
ところが新興国にとって自動車の排ガス問題は、技術不足と資金不足によって、思うように進行しないのが実情です。
空気汚染は深刻な問題であると新興国各国も認識していますが、その対策の元であるパラジウムの価格が高騰してしまったら、一切解決できません。
価格の高騰はいつ終わるのか?
私が想像するに、パラジウムは世界に潤沢にあります。
「では、なぜ価格が高騰するのか!!」と読者からお叱りを受けるかもしませんが、根本的にはこういった需給のひっ迫から起こる価格高騰は、いつも同じ構図です。
1970年代のオイルショックでは、トイレットペーパーが店頭から消えましたが、単なる買い占めから価格高騰が起こっただけでした。
おそらく、今後もパラジウム価格は高騰するでしょう。
買い占めている人たちは、在庫を保有し続けるからです。
そこに十分な新産パラジウムが供給されなければより高騰します。
上述した主な生産国には、これ以上の生産拡大は望めません。
現実に保有している人たち、特に自動車産業などの企業は、パラジウムがなくなれば自社の製品を作れないので、必死に在庫を確保するでしょう。
需要はいつも通りにあり、そして価格高騰によってさまざまな投機家が集まり、さらに価格が上昇するというスパイラルの最中に現在あります。
価格下落のきっかけはズバリ!?
自動車の触媒を扱うメーカーにとって、この高騰の意味は資産価値の上昇です。
今まで価格などあってなかったようなパラジウムの高騰によって、会社の価値が上がり株価が上昇しています。
結果として、保有しているパラジウムを必要以上には放出しません。
ただし、いったん価格が大きく下落した場合には一斉に放出します。
価格が暴落すれば、会社の資産価値が目減りするからです。
では価格の下落は、何がきっかけで起こるのか?
これは非常に簡単で、メディアがこの買い占めの犯人捜しを始めたときです。
世間の声は「濡れ手に粟で儲けやがって」になります。
仮にA社が在庫を大量に持っているという報道がなされた場合、その真偽など関係ありません。
保有している人たちは犯人になりたくないがため、一斉に在庫を放出するでしょう。
この犯人捜しが始まるのは、パラジウム関連企業の大規模な倒産や経営不振が起こったとき、そして大気汚染などで大きな疾病や重症の患者が出たときです。
現在ではその兆候は見られませんので、まだ高いだろうと予測します。
次回は環境問題に関して、皆さんが考えている誤解について話します。
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