「非常事態」の理由
前回、国家非常事態宣言のアウトラインを解説しましたが、今回はより踏み込んで今後の成り行きも含めて解説します。
2月15日にガバメントシャットダウンを解除したトランプ大統領は、メキシコ国境の壁の予算処置への不満を理由に、国家非常事態宣言にて建設費をねん出しようとしました。
これは議会の承認を得ないで発動できる大統領令です。
ただし、議会はこれに反対することができます。
過去には2001年の同時多発テロなど、誰もが本当に国家の危機と思うことに発令されたました。
しかし今回は、国境から渡ってくる麻薬などの非合法の薬物を阻止するための、壁の建設費をねん出するために発動したというのが表向きの理由になります。
非常事態宣言の正当性は?
実際、アメリカ国内では不法薬物による中毒死や中毒症状が社会問題化しており、不法薬物の取り締まりを強化するために国境の壁を建設しようというのは、一見合理的な理由に見えます。
ただし、国境を越えて密輸される麻薬などの不法薬物の量は、コロンビアの麻薬戦争のころと比べて激減しており、現在は密輸ルートの9割が海上輸送によるものです。
今更、壁を建設して麻薬ルートを壊滅できるのかと問われれば、非常に懐疑的であり、あまりにも非合理的な政策であることに民主党の反対意見があります。
つまり、国境の壁建設の根拠が乏しいのです。
議会可決の雲行き
議会では民主党、特にペロシ下院議長が軸となり、今回の国家非常事態宣言が妥当なものかどうかの動議が提案されるのが通常で、実際にそのように動き出しています。
上院は共和党が過半数を握っているので、可決されるだろうと予測される方は多いと思いますが、実際は怪しい雲行きになります。
なぜなら、1月25日にトランプ大統領が予算案に署名してガバメントシャットダウンを解除したのは、上院の共和党議員がこの壁建設に反対票を投じ、ぎりぎりでの重要法案の可決だったことから、渋々解除したのが真相だからです。
今回の国家非常事態宣言の採決でも離反者が多数出る見込みで、議会で反対される可能性があります。
国家非常事態宣言の法的手続き
アメリカ大統領には拒否権があるため、国家非常事態宣言は妥当であるという行政、立法の判断となるでしょう。
この拒否権を覆すのには立法、つまり議会の2/3以上の反対が必要ですが、現時点ではその力は議会にありません。
トランプ大統領の国家非常事態が立法の場では否定されることはない、という可能性が大きいのです。
司法の場での正当性
行政はトランプ大統領、立法では議会ともに国家非常事態宣言の正当性については合法化される可能性があります。
では、三権分立のうち司法の場ではどうなのかを見ていきましょう。
前回、国境の壁建設に関しては審理が殺到し、裁判所は今年9月まではその審理しないという決定があるとお話ししました。
ただし、9月まで審理がストップするのはあくまでも国境の壁建設に関してのみで、非常事態宣言の可否の審理はストップしていません。
国家非常事態宣言に関しては、おそらく多くの地方裁判所にその正当性に疑問を持つということで提訴されるでしょう。
トランプ大統領はこれも想定済みで、そうなった場合には最高裁まで争うと明言しています。
日本の最高裁まで争う場合の審理期間が、たいてい2〜3年かかるのと一緒の感覚です。
トランプ大統領の思惑
国家非常事態宣言に関する司法の判断は、早くて2年はかかるのですから、その前に大統領の再選選挙は終わってしまいます。
これこそトランプ大統領の思惑通りの展開で、国家非常事態宣言は、共和党の中でも特に熱烈なトランプ支持者である党員に向けたパフォーマンスと考えると、最高裁まで争うのではなく、最高裁まで争ってもらわなければ困るということです。
熱烈な支持者の前で、トランプ大統領は「でき得ることはすべてやった」と言明するつもりでしょう。
それを聞いた有権者はが再びトランプ大統領に投票するというのが、真の目的のように思われます。
国境の壁建設など司法の判断においてもできない、そして国家非常事態宣言の可否も判断が出るのは早くても2年後です。
今回の政府閉鎖から始まる一連のアメリカ政治の騒動は、すべてトランプ大統領の選挙対策として行われていると考えると、どっちらけな気分になりませんか?
少なくとも弊社としては、いまいち物足りないと思ってしまいます。
この一連のプロセスでの金の動き
2月20日の金の入電は、20ドル高と高騰しています。
この背景は、ドルが安くなったことにつきます。
昨年の10月に金の買いを推奨したのは、ドルが今後安くなるから金は上がる可能性は高いですよ、と以前ここに記したような展開です。
2月の急騰に関して、次項で解説していきます。
2月の金急騰について
最近、アメリカの株価やそのほかの金融市場は、
① 政府閉鎖
② 米中貿易交渉
を要因として大きく動いています。
①に関しては、2月15日の政府閉鎖解除によってすでに解決したと考えている人が多いのですが、実は3月にもまた債務上限に達し、政府閉鎖の危機があります。
3月の閉鎖については、トランプ大統領がまだその争点を明言していないと思うのですが、思いついたら行動する人なので、ベトナムでの米朝交渉や3月1日に期限が到来する米中貿易交渉次第では、何を言い出すかわかりません。
この2つの材料によって米ドルは上下動に揺れ、株価も同様のことになります。
3月に再び政府閉鎖!? 金の行方は?
再び政府閉鎖の危機になれば、ドルが売られることにより金が買われることになります。
現時点で2月27日の米朝会談、3月1日の米中貿易交渉の見通しが立っていませんので、ドルの動向が急騰することは考えられません。
その上に3月にまた債務の上限に達することから、上記2つの結果次第では、再びトランプ大統領が何を言い出すかわからない側面があります。
こういったリスクが潜在的にあるのに、金の入電が最後の上げのように吹いたからと言って、利食い売りをする必要性はないと個人的には考えています。
つまり、7月中旬から8月上旬まで金の買い持ちは維持という方針に変更はありません。
コメントを残す