ベネズエラは世界有数の産油国
今回は中南米の産油国、ベネズエラに関してです。
ここ数年、政情不安がよく報道されますが、日本人にはなじみのない国になります。
ベネズエラの混乱がもたらす国際的な危機と、金について解説します。
世界の主な産油国というと、一般的にはサウジアラビアになるでしょう。
ただし、覚えておいていただきたいのは、現在の世界1位の産油国はアメリカであり、サウジアラビアはその地位にありません。
アメリカ、中東地域に続き生産が多いのが中南米のカリブ海に面したベネズエラであり、最近の政治混乱によって生産量は落ちています。
https://jp.reuters.com/article/venezuela-oil-idJPKBN1F80K3
参考:ロイター「焦点:ベネズエラに経済崩壊の危機、原油減少に歯止め掛からず」
この国が混乱に陥ると、世界の原油生産が混乱をきたすことは間違いありません。
軽質油と重質油の違い
ベネズエラの産油は、世界1位の産油国と全く油の質が違うことが重要です。
アメリカ産原油の代表格はWTIになり、一般的には「軽質油」と呼ばれています。
軽質油とは硫黄などの不純物が少ないという意味で、ガソリンや灯油、ジェット燃料などの生産に適しています。
つまり少ないコストで生産ができますので、一般的に重質油よりも高いのです。
重質油とは不純物が多い石油のことで、日本などでは火力発電用に多く購入します。
「世界の原油需要」と言われますが、原油の世界では、重質油と軽質油の需要は全く違うのです。
一般的に日本などの先進国は安い重質油を多く輸入し、コストを下げようとします。
なぜなら、ご存知のように日本は火力からの発電の比率が高いですし、また重質油からもガソリン、灯油、軽油などの石油製品を製造できる技術力があるからです。
つまり、日本の原油需要は軽質油などはほとんどなく、大部分が重質油になります。
無知な日本の自称「石油専門家」
参考までに言えば、石油の専門家とか気取っている方をよく見かけますが、このことを知らない方が圧倒的多数です。
2014年秋に日本銀行が石油価格の下落を理由に追加緩和を決定しましたが、実は石油に携わっている者からすれば、1バレル100ドル超えの原油が50ドル程度になるのが時間の問題なのに、日本国内にはそれを見通せる専門家など存在しませんでした。
石油をほとんど外需に頼っているのに、そんなことさえも知らない人が9割以上なのです。
軽質油と重質油の違いが重要なのはなぜ?
なぜ、軽質油と重質油の違いが大切なのかを解説しましょう。
重質油が取れる地域が限定をされており、主な生産はサウジアラビアなどの中東地域、そしてベネズエラだけだからです。
メキシコはアメリカと陸続きですので、ほとんどの生産はアメリカに行ってしまいますし、また軽質油になります。
つまり、正常不安の地域に重質油の産地が限定されているのです。
ことごとく不安定な重質油産地
サウジの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマン(MbS)は去年、トルコの自国領事館内でジャーナリストのカショギ氏を殺害した嫌疑を持たれています。
さまざまな状況証拠からMbSが関わっているのは明白ですが、サウジ政府はこれを否定しており、サウジ産原油は世界経済の発展を助けるものですから、各国は見て見ないふりをしています。
サウジは、権力者にとって不利な報道ばかりするジャーナリストを殺害するという暴挙に出ているのですから、経済制裁を敷くのは至極当然です。
皆、サウジの重質油を輸入したいが、アメリカの体面上(イラン制裁)大っぴらに輸入できない側面があります。
加えて言うのであれば、ホメイニ革命以降、イランとアメリカは対立していますが、イランも重要な重質油の産地です。
ただ、イラン制裁の体面上、日本やそのほかアジア各国も重質油を輸入したいのですが、米国の反対で一部しか認められなくなっています。
重質油のひっ迫は抜き差しならない状況
軽質油は世界中でだぶついていますが、中東地域の重要な重質油の産油国であるサウジ、イランからは自由に輸入できない上に、ベネズエラまでも輸出停止に追い込まれると、重質油のひっ迫は抜き差しなりません。
参考までにオマーンの原油も重質油ですが、年々生産量が減っており、世界シェアはほんのわずかです。
ですから、アラブ首長国連邦(UAE)はドバイなどを交易の中心に据え、中東の拠点として産業転換を図っています。
中東依存の強い日本の原油輸入
日本は中東からの原油輸入依存が9割を超えていますが、この依存度は1970年代のオイルショックから変わっていません。
50年も経過しているのだから、「その依存をやめればいいのに」と思う方も多いでしょうが、重質油をイランやサウジから求めているのですから、この依存度は変わりません。
ベネズエラは政情が不安過ぎて、安定的な輸入が期待できませんので、輸入依存度が上がらないのです。
将来的に原油は余る、の滑稽さ?
いくら日本の経済成長が鈍くても、私たちの電気使用量は増えているだろうから、原油輸入量は増えているのだろう、と考える人が過半だと思います。
しかし、実際はオイルショックのときが原油輸入のピークであり、現在ではその時期の半分にまで減っています。
これが将来的には原油価格は10〜20ドルになるという根拠ですが、それは軽質油の話であり、重質油には当てはまりません。
将来は、重質油と軽質油が需給状態から同じ価格になる可能性もあります。
軽質油はアメリカのシェールオイル革命によってだぶついているのですが、重質油の需給はタイトになっているのが現状です。
その主要産地にベネズエラが含まれるのです。
ベネズエラの政情不安が日本の将来をも左右する
遠く離れた中南米の国の政情不安が、日本の将来をも左右する可能性があるのです。
決して私たちの経済にとって遠い話ではないことを理解してください。
ベネズエラへの日本の石油輸入依存度は高くはないですが、アメリカ下院で親イスラエルのペロシ議長が就任したことから、イラン情勢の悪化は確定的ですし、サウジの皇太子MbSの暴挙への制裁解除は当面、国際社会では期待できないでしょう。
ですから、アメリカから日本や韓国などのアジア各国にイラン産原油の禁輸処置が一定期間延期されたのは、重質油の需給がタイトになりすぎるからです。
ベネズエラの借金の現状
ベネズエラの公的債務(借金)は上記のグラフのようになっており、この状態になればすでに破綻しているのは一目瞭然でしょう。
インフレ率が1万%超えというのは当然の帰結です。
これに対して貸し込んでいる筆頭の中国、南米諸国、アメリカ、ロシアはベネズエラが債務不履行(デフォルト)に陥った場合、無傷ではすみません。
少なくともリーマンショックのようにはならないでしょうが、その1/5程度のショックは起こるはずです。
ベネズエラ内戦の可能性は90%
冒頭に挙げたロイターの報道によると、債務返済の延期をベネズエラ政府は行っていますが、返済が滞る状態になるのは今回の混乱で必至です。
この場合、おそらくベネズエラが内戦状態に陥る可能性が大であり、現在その可能性は90%以上だと見ています。
今回の混乱の行く末
今回の混乱は、現政権の失政に対して野党国会議長が暫定大統領に就任したことによります。
現政権を中国、ロシアなどの東側国家が支持し、アメリカ、ヨーロッパなどの西側諸国が暫定大統領を支持している状況です。
問題は、今週発覚した西側諸国が暫定大統領側に人道援助のために食料の支援を行っていることです。
公にはなりませんが、この場合、過去の経験則から武器も援助しています。
これを見たロシア、中国は現政権に援助と称して武器を援助する、という流れがいつもの内戦のパターンです。
つまり支援物資と言いながらも実際には武器の供与になりますので、内戦は必至と見るのが通常です。
イラン情勢があれだけもめるのは、世界の原油生産量や需給に大きな影響を与えるからで、仮にアフガニスタンで戦争が起こっても大きな影響はありませんが、重質油の産地であるイランやベネズエラで戦争や内戦が起これば、原油価格に影響を与え、日本経済にも激甚な影響を与えます。
無関係ではありません、我々日本人にとっては。
デフォルトの可能性
ベネズエラが債務不履行(デフォルト)に陥る可能性は、現在の状況は長引けば長引くほど、唯一の換金手段である石油生産の継続の問題です。
つまり、石油生産量が債務利払いよりも少なくなってしまったら、即デフォルトになります。
そのときに金の価格がどうなるか、言うまでもありません。
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