中国の現状
昨年の中頃までは、中国は「2030年ごろまでにはアメリカを抜いて世界トップの経済大国になる」というのが世界のコンセンサスでした。
ところが去年の後半から今年にかけては、中国経済の減速がフォーカスされてきています。
今回は、果たして中国は今後、経済トップの国家になるかどうかを考えていきます。
労働者の賃金上昇が伸び、企業の利益が鈍化しているのだから、中国の経済停滞は自明であると以前も指摘しました。
当然、従業員へのお給料は企業の利益以下でないと、その企業は慢性的な赤字になるので、経済成長が鈍化するのは当たり前の帰結です。
では、なぜそのようなことが起こっているのかを考えなくてはいけません。
今回は、この問題に関する考察です。
中国は寡頭体制による独占国家
中国を資本主義や自由主義国家と勘違いしているような文章とよく出くわすのですが、明確な誤りであり、共産党による一党独裁国家です。
近年では、一党独裁ではなく、習近平による個人独裁という見方もあります。
これは、以前は党総書記による集団指導体制だったのが、前回の共産党大会で習近平による独裁体制が固まったので、実質上の独裁であるという世間一般の認識によります。
私たち日本人にとって常識であることが、通用しない国家なのです。
日本では報道や行動の自由、そして財産権などが保証されていますが、中国では保証なんてされていません。
中国の発展と貿易
近年の米中貿易戦争によって貿易量は極端に落ち込んでいますが、これは確かに中国の経済成長の一躍を担ってきたものです。
それが減速しているのだから、全体で減速するのが当然ということには、一定の理解はできます。
しかし、中国が鄧小平による改革開放の下で経済を発展させてきたのは、実は貿易ではなく金融、不動産、鉱業、株式市場なのです。
中国の国家システム
1970年代に旋風を起こした世界的な社会主義、共産主義ブームは、世界の政権を震撼させました。
アメリカのベトナム戦争が長引き、厭戦気分からこうしたブームが起こったと考えられます。
この時期の中国はレッキとした共産国家でしたので、西側先進国から嫌われていたことは事実です。
当時、これから発展を目指そうとする中国は、その開発資金が欲しかったのですが、共産国家というレッテルを貼られ、世界の誰もがお金を貸してくれない状態でした。
これを打破するために、鄧小平が推し進めたのが改革開放路線です。
その結果、潤沢な開発資金を得ることができ、2000年代に入ってから飛躍的な発展を遂げたことは誰の目にも明らかでしょう。
発展を遂げた中国だが…
70年代は共産国家として世界の成長からはカヤの外でしたが、21世紀に入ってからは発展を遂げ、グローバルのサプライチェーンに組み込まれました。
中国がくしゃみをすれば、日本はかぜを引くのが現在の状況になります。
すなわち、中国は世界経済には欠かせない国家となったのです。
しかし、現在でも世界の嫌われ者である共産体制は、一切変わっていないという事実を認識すべきです。
リーマンショックに端を発する中国の巨額借金
現在までの大きな不景気は、リーマンショックによる世界的な大恐慌になりますが、この間、発展途上国である中国に誰もお金を貸してくれませんでした。
そこで、この状況を脱するために何をやったのかと言えば、自らの財政に借金を行ったのです。
自分で資金を集めて、その借金を背負いました。
結果として、中国はリーマンショック後にどこの国よりも早く景気回復したので、その借金の上塗りしたのです。
中国のGDPに対する借金の割合
下記グラフは、中国のGDPに対する借金の割合です。
リーマンショック時には27%くらいだったのが、現在は48%程度まで増えています。
歴史上まれに見る、借金の増え方です。
つまり中国は、たった10年で巨額の借金を負ってしまったのです。
2012年頃から外資が続々と撤退
実はこの10年の成長は、2000年代前半に多くの外国企業が投資したことによります。
しかし2012年くらいから、中国国内での規制の多さに多くの外国企業、特にアメリカ系の企業が相次いで撤退したことから、貿易で稼げなくなりました。
上記のグラフで2012年くらいから中国の借金が増えているのは、貿易で稼げなくなっていることがわかったので、稼ぐ構造を変革するためにさまざまなことを行った帰結です。
中国は、すでに貿易では稼げない構造になっており、現在の米中貿易摩擦は「何を今さら」という感が国内には必ず存在していると思われます。
では、2012年以降は何で稼いでいるのかと言えば、ほとんど不動産と株式市場なのです。
AIIB立ち上げの真の目的とは
中国の不動産市場のバブル具合は、報道されているように異常なものがあります。
なぜ、このような形になっているのかと言えば、非常に明快です。
リーマンショック前まではほとんど借金がなかった国家がそれ以降、短期間に倍々ゲームで借金を膨らませていく様を見て、どこの金融機関がお金を貸すでしょうか?
事実、借り手に困った中国は2013年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)という国際金融機関を立ち上げ、各国から資金を募っています。
周辺諸国がお金を貸してくれなくなったので、自らが音頭をとって貸してくれる金融機関を作っただけの話です。
AIIBの次は土地を強制収用して売却
AIIBを立ち上げても資金が足りない中国政府が次にやったのが、共産国家であることの利用です。
地方の農家の所有している農地を強制的に収用して、付加価値を何十倍にもして民間に売却しました。
資本主義国家であれば、財産権の保証や私有財産制度は認められていますので、こんなことをやれば暴動が起きます。
実際、各地で暴動やデモなどが起こっていますが、中国政府はメディアをコントロールすることによって封殺しています。
広大な土地を所有する中国ですから、売れる土地はナンボでもあるわけで、それを地方政府が収容して売却し、収入を得ている状態です。
中国のいびつな不動産市場
実際に不動産売却益による収入は、各自治体の7割以上に達する異常状態になっています。
中央政府もこれを見て見ぬふりなのは当然です。
地方政府にお金を貸したくても、誰もゼニは貸してくれないのですから。
そして、その不動産価格は下がってもらったら困るわけです。
地方政府は、不動産価格が上昇することを見込んで予算を立てていますし、また、その土地を担保にお金を借りている場合は、値段が下がると簡単にデフォルトしてしまいます。
不動産価格が常に上昇することが前提なのです。
その結果、2015年に不動産価格が急落するに至り、世界的な不景気になりました。
どんな不動産でも、ずっと上がり続けるわけがなく、どこかで調整するから上がるので、調整するのは当然です。
しかも2015年には上海株式市場も急落しています。
上海株式市場急落の真相
上海株式市場急落の背景には、産業インフラの基幹をなすたくさんの国営企業があります。
これらの企業は漏れなく赤字であり、この赤字を支えているのは銀行です。
野放図な経営をしていても、経営者は中国共産党の幹部や元幹部、またはその子弟になりますので、「カネを貸せ」と言われれば貸さざるを得ません。
そこで共産党幹部が思いついたのは、新株発行による資金調達です。
国営企業を上場させ、その株で資金調達すれば新たな資金を得られます。
国営企業が野放図な経営を続ければ、また巨額の赤字を負うことも明白です。
2015年の上海市場での株価急落は、国営企業がもうどうにもならないところまできたので、共産党幹部が一斉に株を売ったというのが真相になります。
万策尽きて資源の買いあさりに走る
地方政府の財源である不動産価格も、下がればどうにもならなくなるのは当然です。
そこで共産党幹部は思いついた、「資源を持っていれば、滅びた国はない」と。
ここまで来るともうめちゃくちゃで、世界中の資源を買いあさりました。
実際に買収して黒字の企業は1割にも満ちません。
ただ、資源元を買収しているので、どんなにダメな企業でも現金を稼いでくれます。
その筆頭がベネズエラです。
なぜ中国が現政権を支持するかと言えば、石油を製造して現金を稼いでくれないと困るからです。
不動産や株式は含み損以上には稼いでくれません。
共産党はこの2015年のチャイナ・ショックで、不動産市場と株式市場を買い支えしました。
株式市場と不動産市場の根本的問題は何ら改善していなく、また価格が下がれば問題が起こることは明白です。
賃金上昇は身から出たサビ
あなたは、自分の耕作地を共産党に奪われたら怒るでしょう。
今後の糧を得るために都会に出て職を得るでしょう。
ところがその就職先は、国営企業で賃金の未払いが多発しています。
誰でも激怒する状況が、中国の現状なのです。
今、中国の従業員の賃金が上昇しているのは過去の共産党のやったことの帰結です。
自分の耕作地を収奪された上にお給料まで支払われなかったら、全土で反共産党運動が起こっても不思議ではありません。
実際にはどうなのかわかっていませんが、非公式の調査では過去最高件数になっているようです。
防衛費の増強は人民の平定が目的!?
国内で暴動が多発するのが当然だと誰もが思う中、今回の全人代でも承認されたように防衛費が過去最高になっています。
これは外敵を排除するためではなく、人民の平定が目的であることは明白です。
軍事力によって人民の不満を抑え込んでいるわけで、もはや人民解放軍ではなく人民平定軍と言ってもよいでしょう。
中国は、リーマンショック以降に増やした借金によってどうにもならない状況なのです。
環境破壊でも行き詰まりを見せる中国
そのほか、経済発展を優先すれば当然、環境破壊問題が多発します。
実際に2010年以降の自然災害、つまり土砂崩れや豪雨災害、河川汚染などは世界最悪レベルになります。
国民が安心して暮らせる環境がないのが実態です。
酸性雨は日本、韓国だけでなく、アメリカの西海岸にまで影響を及ぼしているという報告もあります。
現状も未来も中国は八方塞がり
中国がまともな国家かと言えば、到底「まとも」と言えるレベルからはほど遠いのが現状です。
諸悪の根源は産業インフラ、つまり電気やガス水道、鉄鋼、自動車などがほとんど国営企業であり、その放漫経営です。
赤字体質は、ほとんどが共産党幹部の経営であり、誰も文句が言えません。
借金、赤字体質が改まる気配など微塵もないのです。
こんな国にお金を貸す国があるかと問われれば、皆無です。
アメリカを抜いて世界一の大国になるなんて…
中国共産党自身が、人民元が紙切れ同然だということを知っているので、金を買いあさっているだけの話です。
しかも、世界2位の規模まで買いあさられたら、金の価格がどうなるかは言うまでもありません。
共産党の一党支配が終わるとは思えませんが、2030年までにアメリカを抜いて世界一の経済大国になるなんて、夢のまた夢というのが大筋の見方です。
日本人がバブルのころにアメリカを抜いて世界一の経済大国になるなんて、今から思えば愚の骨頂でしたが、中国も同様ということです。
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