外貨準備の説明【1】貿易黒字と赤字
前回は、中国という国家がいかに私たち自由資本主義国家と違うかについてお話ししました。
普通の民主主義国家が発展する要件は、中間層を成長させることが通常です。
しかし中国は、その中間層や貧困層から富を収奪することによって発展してきた国なのです。
さて、このコラムではたびたび国家の金の準備高についてお話しをしていますが、今回は中国の外貨準備高についてです。
最初に、外貨準備高とは何なのかを説明していこうと思います。
よくメディアで貿易赤字、貿易黒字の話が出ます。
貿易赤字は、その国の輸出が輸入を下回り、国から富が出ていく状態を言います。
貿易黒字はその逆です。
貿易黒字が多い国、代表例は中国と日本ですが、それがトランプ大統領の標的になっています。
反対に貿易赤字国の具体例は、アメリカや韓国です。
貿易赤字の国は、富が国家から流れてしまうので、結果として衰退することを意味します。
外貨準備の説明【2】トランプ大統領の言い分
貿易黒字は他国から富を奪っているのですから、トランプ大統領の文句は筋違いではない、という論理構成ができない方が日本には多くいます。
日本はアメリカから利益を享受しているのですから筋違いの文句でもなく、そのアメリカに配慮するのは当然で、トランプ大統領の言い分は何も間違っていません。
あなたが友人の利益を一方的に奪いつつ、他人に襲われた時には「約束だから守れ」(日米安全保障条約のこと)と主張するような関係性では、うまくいくものもうまくいくはずがないでしょう。
だからトランプ大統領は、まともな主張しか言っていないのです。
勘違いしている方が多く見受けられますので、あえて改めてお話させていただきました。
外貨準備の説明【3】外貨準備とは
貿易黒字の大きい国は、アメリカなどの赤字国から利益を上げています。
そのお金は当然、ドルやウォンなどの外貨になので、そのまま日本で流通させることができません。
このお金のことを外貨準備と言っているのです。
日本を例にとると、アメリカや韓国から稼いだお金を外貨としてプールすることを外貨準備と言います。
中国の外貨準備の特質
通常の国では、外貨準備は民間企業に眠ったままになるケースが多いのですが、中国の場合は違います。
稼いだ外貨を共産党が回収し、そのお金を担保に人民元を発行しているのです。
2015年のチャイナ・ショック以降、外国企業が国外に撤退する際に売却する人民元に課税をしました。
つまり、人民元を売却する場合は20%課税すると。
外国企業が稼ぐお金も外貨準備にカウントされるので、その減少は人民元を発行できないことに直結するからです。
なぜ人民元発行の担保に外貨準備を当てる?
なぜ人民元の発行担保に外貨準備を当てるのかと言えば、非常に簡単な理由です。
中国の国家予算は破綻寸前だからです。
そもそも中国という国家にはほとんど徴税能力がありません。
日本の所得税に当たる課税金額に達している人は、全人口に対して5%もいません。
国民のほとんどは所得税を払っていないのです。
この徴税能力不足を補うために消費税の徴税を始めましたが、この納付率も50%以下です。
国営の大企業は赤字ですので、納付する気もありません。
税金を徴収するところがないのです。
発行通貨の価値の源泉は徴税能力
人民元という通貨は、共産党政府の信用で発行されているから価値があるのですが、その価値の源泉は徴税能力にあります。
しかし中国は、税金逃れをすれば国税当局から税務調査という赤紙が届いた時点でほぼ追加の課税が行われる日本とは大違いなのです。
国家予算を組むにしても、人口が13億人もいるのに予算規模が日本よりも小さいのは、徴税能力のなさが理由です。
税金をまともに徴収できない国家のお金など、誰も信用しませんよね。
中国政府の無茶苦茶なウルトラC
そこで中国政府は、またもやウルトラCの策を出しました。
外貨準備を担保にした人民元の発行です。
つまり、中国国内の民間企業が稼いでくる外貨を担保に人民元を発行するのです。
この発行方式だと、全世界に中国製品があふれている現在、外貨準備が豊富にあると誰しもが思うでしょう。
日本も外貨準備が多いのですが、中国の場合は巨額です。
中国政府は、その外貨準備を担保に人民元を発行しています。
これだけ見ても、やっていることが無茶苦茶です。
外貨準備はまるで打ち出の小槌だが…
外貨準備で稼がしてもらったお金は、日本政府がアメリカ国債を購入するように使うのが通常ですが、中国の場合はそのほとんどを人民元発行の担保にしてしまっています。
国家予算がなくても外貨準備を担保にすれば、いくらでも輪転機で人民元を発行できるのです。
まさに打ち出の小づち…。
その結果が米中の貿易摩擦になります。
中国流外貨獲得術 -競争者を潰滅して市場独占-
ともかく鉄でも太陽光パネルでも無茶苦茶な生産をして需給を破壊し、価格も破壊し、生き残るのは中国メーカーだけなのですから、世界中の供給を独占できるのです。
なぜそんなことをするのかと言えば、外貨準備が減るということは人民元が信用を失う、そして紙切れになることと同義だからです。
だから他人やアメリカの利益など気にせず、需給を崩壊させ、価格を破壊し、競争相手を破滅させて市場を独占し、外貨を獲得しようとします。
中国の実態 -収奪性こそが本性-
こんな無茶苦茶な連中に文句を言えるのは、トランプ大統領くらいでしょう。
そう思うのは少数派なのでしょうか。
人民である中間層、貧困層から収奪できるものはすべて収奪してしまったから、今度は世界を相手に収奪を始めている、というのが実態なのです。
何のためにこんなことをやるかと言えば、共産党幹部が生き残るためです。
ですから今回、トランプ大統領が楔を打ち込み突破口を見つけました。
では次にどこから収奪するのか、それが私の興味の焦点になります。
ムニューシン米財務長官の発表
「中国人民銀総裁、為替相場「輸出拡大に使わないと約束」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42273010Q9A310C1FF8000/
引用元:日本経済新聞
「米が中国に人民元安定を要請、通商合意に為替組み入れへ」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-02-19/PN6SQJSYF01T01
引用元:bloomberg
あまり良く書かれた記事がないので、この記事を見てもなかなか理解できない方が多いと思います。
主題は人民元の安定ですが、要するに「貿易戦争に対抗するために人民元の引き下げをやめよ」というのがアメリカ側の主張です。
上記の文章を読んだ方にはおわかりでしょうが、中国は国家予算の拡大が望めないのに借金を拡大させています。
貿易によって黒字を拡大し、その結果として外貨準備を貯め込み、それを担保として人民元の発行を増やしてきました。
人民元の切り下げによって貿易戦争の関税を引き下げる効果は、派生問題です。
この10月からアメリカの景気が低迷したのは、金利の上昇とドル高と見ていますが、その金利上昇の原因の芽であるFRBの資産縮小停止に手をつけ、ドル高の原因である人民元安を止めたことが今回の大きな成果と言えるでしょう。
もう今までの手は通用しなくなった
中国からすれば、貿易戦争で貿易黒字の縮小によって外貨準備の増加に歯止めがかけられる結果、予算の拡大が抑えられてしまいますので、抵抗したいところです。
中国の異常な借金の伸び率は危機を招くことになるため、日本やアメリカには看過できません。
仮に中国がデフォルトを起こせば、東アジアだけではなく世界全体に影響が及びます。
このアメリカの要求を飲まざるを得ないところまで、中国は追い込まれているということです。
つまり、今後の中国の予算の拡大を抑え込むことができる合意となります。
言い換えれば、外貨準備を当てに人民元の発行はできなくなる可能性が高いということです。
もはや金しか頼るものがない中国
中国政府の目的は現在、共産党幹部の保身が第一義になっていますので、予算を拡大できなければ今後、多発するデモやストライキなどに対応する予算がなくなる危惧があります。
では、次に何をするか皆さんもおわかりでしょう。
稼いだ外貨で金を買い始めると考えるのが自然です。
なぜなら仮想通貨は中国自身が流通を禁止したので、ほかに世界的に認められている価値があるものは、アメリカ国債以外に何があるでしょうか?
金よりほかにありません。
中国の金の買い付け量を注視すべし
アメリカ国債は一度買ってしまえば、アメリカの許可なく売却できないという不自由さがあるので、できるだけ買いたくないでしょう。
この仮説を立証するためには、中国の金の買い付け量に注視する必要があります。
事実、「人民元の不当な切り下げをやめる」と発表してから、金の価格は急騰しています。
世界の富裕国である中国が金の買い付け量を増やして、金の需給は緩み、価格が下落するでしょうか?
その上、人民元を安くしないとなれば相対的にドル安になります。
この一つのニュースから、さまざまな金の買い材料が出てくるのです。
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