トルコの金準備高推移
去年の春から夏にかけて、トランプ大統領とトルコのエルドアン大統領の確執が明らかになり、その結果、トルコリラが国の存亡にかかわるくらい暴落しました。
この危機が終了したと思っている方は非常に多いと思いますが、今回また激震が起こっていますので、解説していきます。
トルコの準備金は、ご覧の通り2018年くらいから激増しています。
これは、トルコ経済の失墜が米ドルリンクによって引き起こされたことに起因します。
トルコ経済はドルが強くなれば停滞し、ドルが弱くなれば強くなるのです。
国家歳入の6割を原油収入に頼っているロシアなども同様で、原油価格はドルの強さに左右されますので、原油とドルの動きにナーバスになるのを回避するために金を大量に持つようにします。
新興国が金保有を増やす理由
金を大量に保有するのは、経済が弱くなった時にロシアルーブルやトルコリラを壊滅的に売られるのを防ぐのが目的になります。
ドルと連動した通貨制度を取っていると、アメリカの景況やドルの強弱に国家の経済が左右されるので、金保有によって国家の信用の担保を保持するのです。
去年、トルコリラが暴落した時に、国民が持っている紙幣がそのうち紙切れになるのではないか、という恐怖心を抱かせました。
理由はトルコ政府には借金が多すぎて、紙幣の価値を守ることができないのではないか、という不安からくるものです。
ところが、政府が大量に金を持っていれば、万が一、自国通貨が壊滅的に売られることがあっても、政府がその通貨と金の交換を保証すれば、皆競って自国通貨を売り飛ばすようなことはしません。
その紙幣を持っていれば政府が金と交換してくれるからです。
よって、通貨の大暴落も起きないことになります。
新興国の金買いにはらむリスク
トルコやロシアに限らず、中国、インド、メキシコなどが国家の金保有を増やす理由は、自国の通貨が壊滅的に売られれば、政府が持たない可能性があるからです。
予備的に金を持っていることを普段から国民に示しておけば、通貨の暴落が避けられます。
今後も新興国の金買いは続くでしょうし、また新興諸国は先進国の景気動向に左右されやすいのを避けるために、金を購入し続けることでしょう。
これは上記で示した中国、ロシア、インド、メキシコ、トルコに限らず、そのほかの経済発展の目覚ましい国々でも導入されるはずです。
今後の新興国の金購入は、拡大することはあっても縮小はあり得ません。
需給に大きなアンバランスが発生し、供給不足になるのは眼に見えていることです。
この部分でリスクは、価格が何らかの理由で上昇していかなくなった時に、これら新興国が抱える金を放出することにあります。
そうなると安値のスパイラルに陥ることになります。
トルコの現状
トルコは去年の春から夏にかけて大きなトルコリラ下落に悩まされました。
これは、独裁体制を固めたエルドアン大統領に反発したアメリカなどの西側諸国が、制裁などを発動したためと考えるのが無難でしょう。
一般的にトルコは、世俗主義と言われる欧米の政教分離とは少し違った政治と宗教の分離を行っています。
政治と宗教を一緒の土俵に上げてはいけないということは、小学生で学習する常識ですが、トルコではエルドアン自身が敬虔なイスラム教徒の指導者であるイマームであり、世俗主義や政教分離があいまいになってきていることが西側諸国の反発の原因になります。
それをエルドアン大統領は、独裁というかたちで西側諸国に対抗したのです。
今回のトルコ危機の発端
日本で統一地方選挙が行われていますが、トルコでも地方選挙が行われました。
そして、主要都市であるアンカラ、イスタンブール、イズミルの市長選挙で、エルドアン大統領の属する与党の公正発展党(AKP)が相次いで敗退したことが今回のトルコ危機の発端です。
重要なのは、エルドアン自身がかつて市長として政治の道を志したお膝元、旧首都のイスタンブールで与党の候補が敗退したことです。
また、アンカラやイズミルでもAKPが敗退したことで、にわかにトルコで緊張が高まっています。
この結果を受けて与党AKPは、選挙管理委員会に対して集計のやり直しを求めていますが、その結果、当選者が変わることは現時点ではありえないでしょう。
トルコで絶大な人気を誇る、エルドアン大統領の支持基盤に陰りが見えてきているのです。
エルドアン失速の背景には新政党
エルドアン大統領が独裁体制を固めている最中に政権を去ったかつての同志が、2018年から新政党を立ち上げ、そこに支持が集まったことが原因と思われます。
この政党は、かつてエルドアン内閣のもとで外相や首相を務めた人たちが独裁政治に嫌気を指して結成しました。
この人たちの意識はイスラム教一色ではなく、全宗教に宥和的な態度を示すということが一般的な主張です。
トルコ最大の民族であるクルド人に対しても宥和的で、エルドアン大統領がクルド人をクルド人と認めず、トルコ人もしくは「山岳トルコ人」として扱うことにも反発しています。
2015年のクーデターの首謀者とされ、アメリカに亡命したギュレン師などもこの考え方に近い人たちです。
アメリカとの関係も再緊張
トルコは先日、ロシアの地対空ミサイルS400の購入を決定し、それに対してアメリカ国防省は戦闘機F35の売却を禁止しました。
この地対空ミサイル購入によって、再びアメリカとの関係も緊張しています。
先々週にはJPMのトルコ売り推奨レポートに対して、トルコ金融当局は「JPMを捜査する」とも発表しています。
現在の状況は、国民からの支持も減少し、世界を震撼させたアメリカとの対立からトルコリラが暴落して国家存亡の危機になった去年の事件を想起させます。
要は去年と同じような状況になってもちっともおかしくない状況にある、ということです。
エルドアン大統領としては、去年と同じような状況が起こらないように、ロシアと同様、金の買い付けをより一層進めていくことは間違いないように思われます。
よって、金の需給は余計にひっ迫することになるでしょう。
前回の選挙敗戦時には…
与党AKPが選挙で敗退するのは今回が初めてではなく、2015年にも総選挙にて国会での議席の過半数に達しないことがありました。
野党が連立内閣の組閣に失敗し、解散総選挙を行い、再選挙ではAKPが圧勝したのです。
この間にエルドアン大統領が何をやったのかと言えば、クルド人勢力に対してテロ掃討作戦を敢行し、その結果、国家の安全が守られたことを背景に再選挙で圧勝しました。
当時はクルド人勢力の台頭があり、トルコ各地でクルド人の蜂起やテロが相次いだのです。
テロや蜂起を排除したことから、一気にAKPの人気が国民の間に広がったことが勝因でした。
エルドアン流危機脱出法と今後の展開
カショギ氏暗殺事件などの手腕を見ればわかるように、エルドアン大統領は政治生命のピンチを迎えた時には無類の強さを発揮します。
しかし、それは上記のクルド人のように、世間や国際社会大しては受けのよくない政策です。
ほかの誰かを傷つけることによって、自身の政治的名誉を回復させることがいつものやり方になります。
テロや蜂起の頻発によって、その治安対策のためにここまではさすがにやらないと思いますが、強い政府を目指して、その根絶を目指すような方法で与党AKPの人気を回復させるというのがいつもの方法です。
こういうやり方は、一歩間違えればトルコを内戦状態に引き込む可能性があり、また政権がかなり偏ったことをすればトルコの軍隊が政治に介入してきます。
そうなるとクーデターの可能性も出てくるでしょう。
いずれにせよ、エルドアン大統領の出方次第ですが、今後のトルコ情勢は緊迫する可能性が非常に高くなります。
結果として需給のタイトさもありますが、金価格は上昇することになるでしょう。
コメントを残す