なぜ、混乱をするのか?
イギリスが混乱しています。
なぜ、これほどまでに混乱するのか理由がわからない方が多いと思いますので、歴史的な見地から解説してまいります。
なお予測した通り、ハードブレグジットや国民投票はない方向に展開している点は確認してほしいところです。
イギリスがEU脱退をめぐって混乱する理由を考えるのには、まずなぜEUに加盟したかを考える必要があるのに、それを考える専門家が非常に少ない、というよりも皆無に等しいです。
加盟した理由がわかれば、脱退する理由もなんとなくわかるのは自明なのに、最近の出来事でキャメロン前首相が悪いだの、なんだか付け焼刃なロジックを展開する方が多すぎると思います。
では、イギリスがEUに加盟した理由を考えていきましょう。
イギリスがEUに加盟した理由
イギリスのEU加盟については、実は過去2回の国民投票によって決定されました。
一回目は反対が多く、二回目に保守党主導で国民の2/3の同意を得て、加盟が果たされています。
この二回目の国民投票は1975年に実施され、1976年に当時のECC(EUの前身)に加盟をしました。
イギリスの歴史は、義務教育ではピューリタン革命や産業革命を重点的に教えているのですが、前後の経緯を全く教えていないのに等しいのです。
覚えてほしいのは、第一次世界大戦以前のイギリスは、世界の1/4を領土に持つ世界帝国だった点です。
しかし、第二次大戦後にインドなど多くの植民地を失い、最後に残っていたのが中東になります。
そこにオイルショックが起こった結果、中東の民族自決問題が浮上して、独立を認めざるを得なくなりました。
いわゆる英連邦(コモンウェルス)という植民地から原料素材を仕入れ、それを加工して製品にして逆輸出するという構図が消えてしまったのです。
その英連邦に代わる最終消費地を探さなければいけないということで、注目したのがイギリス以外のヨーロッパ市場でした。
それまで植民地運営によって成り立ってきたイギリスが、新たな市場を大陸ヨーロッパに求めたのがECC(EU加盟)だったのです。
イギリスがEUから脱退する理由
産業革命によってイギリスは、当時は断トツの「世界の工場」になりました。
ゆえに、世界を征服できたのです。
現在では石炭や石油などは斜陽になり、残る有名な製造業は、ジェットエンジンなどのハイテク重工業のみになっています。
車なども日本企業が多く進出していますが、撤退の動きが顕著です。
しかし、イギリスを基盤に輸出が隆盛していることもまた事実になります。
昨今のヨーロッパは、南欧債務危機やドイツ、フランス経済の停滞など、1970年代と比べて市場の魅力がなくなってきているのが現実です。
同じ大陸ということで、ドイツのほうがコスト面では有利に働いていることが、市場の魅力をなくしている原因の一つでしょう。
大陸は市場としての魅力が薄れているから、高い加盟料を払ってまで残留するのにはメリットが感じられなくなったのです。
リーマンショック直後から、人口13億人の魅力的な市場である中国が台頭してきました。
2016年の国民投票によって、中国を新たな市場としてヨーロッパを見捨てる選択をしたのがブレグジットの始まりになります。
ところが2016年以降に中国の横暴が始まり、加えて最近の中国経済の停滞、そして2015年のチャイナ・ショックと、「本当に中国を信用して大丈夫なのか?」ということが混乱の始まりだろうと推測できるのですが、誰もそのことには触れていません。
労働党を知る
イギリスは、もともと二大政党の国になります。
その政党とは、保守党と労働党です。
日本語の語感からは、両政党の歴史が勘違いされますが、これを正しく理解していないと今後の行方を見誤ります。
基本的に労働党は労働者を中心に結成された政党になりますが、日本の左系の政党のように自分たちの利益だけしか考えない政党とは全く似て非なるものです。
経営環境も考えずに「賃金を上げろ」だの「時短をせよ」とか言っているのとは全く歴史的に違います。
まず、基本的な考え方は自由貿易です。
イギリスは産業革命によって世界の工場となりましたが、自分たちの賃金を上げるためには植民地だけではなく当時の新興国であったアメリカを含め、世界中と関税がなく貿易をしたほうが、企業が儲かり、ひいては自分たちの賃金も上昇するという考え方をする政党になります。
日本の身勝手な左系の政党とは全く違う考え方をしているのです。
日本の労働系政党の考え方をなぞるようなことをしていると、イギリスの労働党は理解できません。
保守党を知る
一方で保守党は、基本的にはイギリスの植民地だけでの域内貿易を発展させる考え方です。
植民地などの帝国支配ができない場所には関税をかけ、貿易を制限させるのが保守党の考え方になります。
現代で言えば、保守貿易、閉鎖貿易に依拠している考え方です。
イギリスでは近年まで上院は貴族院と言われ、いわゆる王室の関係者しか上院議院になれなかったのですが、現在は改正されて普通選挙が行われています。
保守党とは、エリザベス女王など帝国主義をもとに、イギリスが世界の海を制するというような考え方が母体で、いわゆるエスタブリッシュメントが支配する政党と考えればいいのです。
混乱に拍車をかける二大政党の対立
現在の論点に帰って考えてみましょう。
本来、労働党は自由貿易、つまり関税のない貿易を望んでいるので、実は党首であるコービンさんは隠れブレグジット派と言われているほどの自由貿易推進者です。
ところが保守党のメイ首相に反対するためにブレグジットに反対しています。
一方、保守党はイギリス王室の考え方を組む流れにおり、イギリス帝国の再来というと言い過ぎかもしれませんが、世界を制して再び世界の頂点に立つことを考えている政党というのが基本的な流れです。
イギリスの仲間じゃない国は排除しましょうという考え方ですので、本来はブレグジットには反対なのが今回は賛成に回っています。
本来の歴史の流れを見れば、労働党がブレグジットに賛成し、保守党が反対に回らなければいけないのが逆の立場になっているのです。
新たな市場が欲しいという理由でイギリスはEUに加盟したのですが、その市場が思ったよりも稼がしてくれないから保守党を中心に離脱の動きになっただけの話です。
対抗上、労働党はブレグジットに反対しなければいけないという、政治ゲームの中でブレグジットをやっているのですからまとまるわけがありません。
ブレグジット今後の展開
本来の主張と照らし合わせれば、国民投票などやらなくても、国民の総意は離脱の方向性に向いています。
なぜなら、保守党もヨーロッパには愛想を尽かして、中国を新たな市場にしようとしたのですから、保守党・労働党ともに本来はブレグジットには賛成なのです。
そこに各議員の選挙区の事情が加わって大混乱になっているだけの話です。
ハードブレグジットはやりたくないのが下院および上院の総意で、再びブレグジットの国民投票などやらなくても、落ちゆくヨーロッパに未練がないというのが普通のイギリス人の感覚でしょう。
でも、ターゲットにしている中国市場が本当に信用できるのか、の問題だと思います。
いったん始まったブレグジットの議論は、新たな市場が決まらなくても走り出したら止まらないわけで、議員や議会の総意は、ブレグジットに賛成に本音はなるわけですから、離脱は決定的なのです。
そして、そのやり方もハードは否決しているのですから、問題は時期だけです。
それだけを押さえておけば、いずれ円満にイギリスはEUを脱退することになるでしょう。
7月に金が高値を迎える理由
イギリスはその離脱期限を4月11日現在、EUに6月30日と通知しています。
つまり、ブレグジットの問題が解決するのは最終的には7月ですから、現在の世界経済停滞の要因の一つにブレグジットがあることは確かです。
世界経済停滞からの脱却で、金のピークは7月になる可能性は極めて高いと思います。
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