アメリカの大統領弾劾制度
「アメリカ政治で興味のあることは、トランプさんが弾劾されるかどうか」ということは、気になる方も多いのではないでしょうか。
改めて弾劾についての結論を書いていきます。
先に回答を書けば、あり得ないということです。
アメリカの大統領弾劾制度は、基本的にはイギリスを模倣して作られています。
「アメリカ合衆国憲法」の第二条第四節には、
大統領、副大統領及び合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪又はその他の重罪及び軽罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場合は、その職を免ぜられる。
と規定されています。
つまり反逆罪はもちろん、そのほか軽微の罪でも弾劾される可能性があることを意味します。
例えば日本では立小便は軽犯罪法違反になりますが、そういう微罪でも弾劾される可能性があるのです。
大統領が弾劾されるのには、下院で弾劾裁判の動議が出され、過半数の賛成によって可決がなされます。
そして、上院にて弾劾裁判を行うという手続きになり、出席者数の2/3の賛成で弾劾が成立することになります。
ここまではどこのウェブにも書いてあることですが、ここから先は日本では誰も解説していないことになります。
大統領弾劾について日本で解説されていないこと
まず、アメリカの下院議会は先の中間選挙で民主党が過半数を握っています。
弾劾の動議を出して可決させようと思えば可決することができるのです。
しかし、下院院内総務であるペロシ議長(民主党)はこの動議に否定的です。
弾劾決議を下院で成立させても、上院では先の中間選挙で共和党が過半数を握っているからです。
下院で弾劾裁判を可決しても、上院で無罪になるのはほぼ確定的になりますので、このような時間の無駄な法案は採決さえもしない、ということになります。
国境の壁に見る共和党内の造反
最近の国境の壁をめぐる攻防にて、下院は民主党多数などでトランプ大統領の緊急事態による予算の支出を否決しました。
上院は当然否決で、大統領は拒否権を行使しています。
この拒否権を否定するのには、全議員の2/3の賛成が必要になりますが、共和党議員のほうが圧倒的多数なので否決されます。
よって国境の壁の建設が進むかと言えばさにあらずで、今度は司法が差し止めを行っています。
少し話が逸れましたが、上院で実は多少裏切り行為が行われているのです。
上院の共和党議員にわずかながら、国境の壁建設に反対票を投じた議員がいました。
彼らはなぜ反対票を投じたのかと言えば、非常に簡単なことで、来期、つまり次期大統領選挙と同時に行われる中間選挙では、出馬せずに引退を表明している議員になります。
実は、トランプ大統領は共和党議員に対する引き締めをかなり頻繁に行っており、造反した議員に対しては高度な恫喝を行っています。
高度と言っても、単に選挙の時にその候補を応援せずに悪口を言うだけなのです。
結果として選挙に落選しちゃった人もいらっしゃるわけです。
共和党の中にも、トランプ大統領の政策に異議を唱える人がおり、特に上院では人数が少ない面もありますが、造反している人が数人いる、ということになります。
共和党はトランプ大統領をボスに一枚岩かと言えばそうでもない、ということです。
民主党の算段
民主党はどうかと言えば、今の次期民主党大統領候補を見ればおわかりになると思いますが、女性候補など小粒な候補が乱立しています。
民主党も次回の大統領選挙にて、トランプ大統領を一枚岩で倒しに行けていない状態なのです。
となると民主党が下院で弾劾裁判を可決させ、上院でも共和党を切り崩せば、弾劾裁判の成立と有罪の確定がなされる可能性があるのですが、ペロシ議長はその行動をしません。
理由は明快です。
前回の中間選挙の結果は下院が民主党の勝利、上院は共和党の勝利というかたちになりました。
しかし中身を見てみると、上院で共和党が勝利した理由は、改選議席の過半が民主党の改選であり、それをことごとく共和党有利な地盤であっただけの話で、上院は選挙前から共和党の勝利が確定をしていたような状態です。
次回の大統領選挙と同時に行われる議会選挙では、民主党有利な議席が改選されますので、上院も民主党が過半を握れば、いつでもトランプ大統領を弾劾裁判にかけることができるという算段です。
モラー検察官による報告
モラー検察官により、ロシアンゲートの報告書は証拠がないということで、トランプ大統領は無罪と報告されています。
これは裁判、司法における原理原則であり推定無罪と言っているのです。
トランプ大統領がロシアに選挙結果を左右させるようなことを書いた指示書やテープが存在しないから無罪と言っているだけで、胡散臭い話はたくさんありますが、どれも決定的な証拠にはなっていません。
民主党の議員団は、バー司法長官に「モラー特別検察官の報告書全文を公開せよ」と要求して機運を盛り上げていますが、やはり政府の政策決定に関与する内容も含まれますので公開はできないでしょう。
民主党のペロシ議長からすれば、司法の専門家が無罪と言っているのに、それを覆して弾劾動議を可決させ、上院にて成立させるかどうかもわからない裁判を開催するわけにはいかないという、極めて真っ当な判断を下しています。
今後もトランプ大統領は、言動や行動がおかしかったりするでしょうが、決定的な証拠が上がらない限り、第一期目の任期に関しては弾劾裁判など行われない可能性のほうが圧倒的に高いのです。
冒頭で「弾劾裁判の可能性がない」と言ったのは耳目を引くためであり、現時点ではその可能性はなく、将来はよほどのヘマをすれば可能性があるということです。
将来のトランプ弾劾の展望
よくウォーターゲート事件で、当時のニクソン大統領に弾劾裁判を行ったという勘違いをしている人が多いのですが、ニクソン大統領は議会にて糾弾され、弾劾裁判も有罪がほぼ確定していたことから、結果が出る前に辞任したので、過去に大統領弾劾というものはありません。
では、トランプ大統領が次回の大統領選挙に勝利し、二期目になった時に下院・上院ともに民主党主導の議会であれば、どうなるでしょう。
弾劾される可能性があるのですから、議会次第になりますが、トランプ大統領は二期目の就任直後に辞任する可能性があります。
現職の大統領が辞任するのと、選挙で敗退して大統領を辞めるのとでは、政治的な立場が全く違います。
日本でも国会議員の不逮捕特権があるように、議員時代の容疑に関してはどこの国でも優越性があります。
つまり大統領をクビになるのと辞任するのとでは、警察や司法の心象がまるで違いますので、トランプ大統領の二期目は議会次第です。
ただし次期大統領選挙は、以前トランプ落選が濃厚と記しましたが、現状は民主党の顔ぶれを見ても、役者不足の感は否めません。
加えて大統領、下院、上院ともに民主党になることがどうしても想像できません。
この30年程度、有権者は、大統領が民主党なら議会は共和党というような選択をしており、政治組織の3主体が全部が民主党になる可能性は、有権者意識からはあまり考えられない状態です。
どちらにしろ、大統領職の状態がアメリカでは上記のように安定しませんので、金がどうなるか、言うまでもないでしょう。
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