大統領弾劾に関する一般の認識との差
2月から話題になっている一連のロシア疑惑に関して、モラー特別検察官のチームによる捜査結果が公表されました。
ロシア疑惑に関しては疑惑なし、そしてその捜査妨害に関しては可能性はあるが立証はできないという結論です。
今回は、このロシア疑惑に関して解説します。
アメリカの大統領には、微罪でも法律を侵せば議会の弾劾裁判によって有罪が確定する場合があります。
議会の弾劾と司法との決定的な違いは、議会の弾劾は疑わしくても罰することができるのに対して、司法は証拠を集めて立証する必要がある点です。
議会ではトランプ大統領が気に入らないと言って、上下院の2/3以上が有罪と認定すれば弾劾できますが、司法は完全に有罪の証拠を集めなければ有罪にはなりません。
例えば、マイケル・フリンという人物がロシアからお金を受け取ったことは立証できましたが、トランプ大統領の指示によるということは立証されていません。
誰の目から見てもフリンの単独犯行とは思えず、トランプ大統領の指示によるものだなと思うのですが、証拠は「ない」のです。
この場合、議会は強制的に弾劾を行うことはできますが、司法の場では証拠がなければ有名な「疑わしきは罰せず」の言葉通り、立件して裁判にかけることができません。
民主党のペロシ院内総務の弾劾戦略
以前に解説したように、下院の院内総務であるペロシ議員は、下院では賛成多数で弾劾裁判を勝ち取ることができますが、上院では共和党が過半数を制していますので、弾劾裁判で有罪にはできないと見て動議は出しません。
今回、トランプ大統領が立件される可能性は極めて少ないと言うよりも、ほとんどゼロです。
一方で民主党下院は「モラー特別検察官を証人喚問する」と言って、この件を長引かせるようなことをやっていますが、意味はありません。
証人喚問をしても何も出てこないでしょう。
ただし、あくまでも「今回は」の話であって、トランプ大統領が時期大統領選挙にて再選を勝ち取ったとしても、上院を民主党が制すれば、おそらく弾劾の動議が出てくることでしょう。
その場合、可決する可能性が高く、どちらにしろ辞任に追い込まれるというシナリオが想定されます。
ペロシ下院院内総務は、おそらくこのシナリオを描いて今は弾劾を行わないのです。
トランプ大統領は「潔白とされて晴れ晴れしい気持ちだ」と言っていますが、まだ終わっていないということは強調しておきます。
2020年の大統領選挙のゆくえは?
先日、アメリカ大統領選挙において「トランプ大統領が再選される」と意見表明した麻生財務大臣ですが、これはアメリカのエスタブリッシュメント層の最新のコンセンサスだと紹介しました。
この意味は、先日の記事でも紹介しましたが、アメリカの有権者はねじれの政権を好みます。
共和党のトランプ政権発足当時は、オバマ時代を反映して議会も共和党が制していましたが、中間選挙を経て下院は民主党が制しています。
そして、次回の選挙では、票読みをしても民主党が過半数になる可能性が高いと思います。
アメリカの有権者は、このような投票行動を無意識に行っています。
投票行動には、テレビやメディアの言っていることに自分の投票行動は左右されないと80%以上が回答しています。
その一方で大統領や議会が暴走すれば、それを抑える役割は立法と行政をねじれさせればよいと考えています。
アメリカは完全な三権の分立ですので、大統領が暴走すれば司法や議会がそれを食い止めるシステムがありますが、司法による解決には時間がかかりますので、その役割を議会に求めるのです。
ねじれ政治とその弊害
結果として平成に入ってからの30年間、アメリカの政治は議会と大統領の所属政党のねじれ現象が起こっており、これがかなりの悪影響を及ぼしています。
具体的には、法案が全く議会を通過しないという、まさに議会は何も決められない状態になっているのです。
30年前は年間に議会を通過する法案は10%以上あったのですが、今では2%程度しかありません。
アメリカでは年間に500本以上の法案が議会に提出されますが、承認を得られるのは10本だけという意味です。
普通は与党の賛成多数で成立しますが、その与党が提出した議案でさえも議会を通過しなくなっています。
要するに、有権者が望んでねじれ議会にしているのですが、その結果は何も決められない議会に陥っているのです。
合衆国憲法に規定された大統領像
アメリカの憲法は、大統領は党派を超えた人物であることを想定して書かれています。
トランプは共和党の候補として大統領選挙に出馬しましたが、大統領になった瞬間、その人物の高潔さから共和党はもちろん、民主党の意見も聞き、党派を超えてアメリカに最大限の利益をもたらすことのできる国の代表者であることを想定して、大統領職を規定しているのです。
ところが、ここ最近の大統領、もちろんトランプ大統領も含みますが、党の利益の代弁者に成り下がっています。
娘のイバンカと娘婿のクシュナーを「あいつらは民主党員だ」と平気で言い放っているのは有名な話です。
父親が共和党員であれば体面上、共和党員だというのが普通ですが、平気で「民主党員だ」と言い放ってしまう神経は理解に苦しみます。
議院内閣制のようになったアメリカ
イバンカやクシュナーをトランプ大統領が「民主党員だ」と言うのは、彼らが非常にリベラルな考え方をするからです。
リベラルな考え方をアメリカでは民主党的と言い、保守的な人を共和党的と言います。
二人が生まれ育ったニューヨークは、リベラルの考え方をする人が多い土地柄で、その考え方に影響されているだけであり、彼らが民主党員というのは間違っています。
こうした党派を代表する考え方を大統領がするのは、アメリカの憲法の設計上なされておらず、普通はこういうのを議員内閣制といい、代表例は間接選挙で首相を指名する日本です。
安倍首相は自民党の利益の代表者ですから、党の主張を言います。
アメリカは直接選挙で大統領を選ぶので、当選したら党派を超えてアメリカの利益を追及しなければいけないのが、いつの間にか議員内閣制度のようになっているということです。
大統領選挙に投票する有権者が党派を超えて国の代表を決める投票行動を行わず、議員内閣制度のように投票しているのですから、大統領も党の利益を代表する行動、言動をするのです。
アメリカ人の投票行動
このような考え方が現在のエスタブリッシュメント層では支配的であり、実際の世論調査はトランプ大統領が敗退すると出ています。
しかし前回の大統領選挙で、ヒラリーが世論調査で圧倒的有利であったことが、トランプが僅差で勝者になった理由と分析されています。
このケースでは、有権者が議会と大統領をねじれさせたいと考えるのであれば、議会を民主党にし、大統領を共和党にするという選択をするはずだと考えるのです。
議会は何も決められないのだから、トランプのように決め方に問題はあるが、きちんとやり抜く人を選びたいという思惑があるようです。
トランプはクロなのかシロなのか?
捜査過程の内容が漏れ伝わってきていますが、いくら疑惑があろうとも立件はできません。
具体的に立件とはどういう意味かと言えば、トランプ大統領を裁判にかけることが可能なのか、ということです。
モラー特別検察官が証拠を十分に担保して公判を維持できるか判断したのですが、証拠がないので裁判をやっても勝ち目がないと判断したのが今回の捜査結果です。
つまり、証拠がないので裁判にかけても無罪になるので「シロだ」とトランプ大統領は言っているにすぎません。
その根拠は、今回のモラー特別検察官の捜査にトランプの個人弁護士ダウドが全面協力していることで、これはFBIの特別捜査チームも認めています。
事の真相
どういうことかと言えば、トランプ大統領はロシア疑惑に関するすべての資料をFBIに引き渡しているのです。
もちろん、そんなことをすれば有罪の可能性が出ると言って当初は拒否しましたが、ダウドの説得によって、FBIに提出を要求された資料をすべてFBIに引き渡しています。
しかも証拠の一部を破棄することもなく。
容疑者が自分に都合の悪い資料を破棄するのはよくあることですが、その破棄も一切していません(と、トランプ大統領の個人弁護士ダウドが言っています)。
ここでFBIで優秀な検察官がその資料を隅から隅まで調べても証拠が出てこなかったのです。
ですから、民主党は再捜査などと今後の展開によっては要求するでしょうが、まず立件は不可能でしょう。
これに対してトランプ大統領は、すべての要求される資料を提出して無罪を勝ち取ったのですから、潔白だと主張できるというのが事の真相になります。
法的にトランプ大統領はシロだが…
ただし、コミー長官に対してのFBIに対する捜査妨害に関しては、トランプ大統領が何度も「コミーを解放してやれ」と言ったと証言する人間がいます。
これも録音テープもメモも見つかりませんので、立証は不可能に近いものがあります。
証言だけで裁判は維持できますが、肝心なトランプ大統領が「自分の言ったことや行ったことでさえすぐに忘れてしまう人」という側近の話がいくつもありますので、裁判では「そんなことを言っていない」と言い張るでしょう。
実際に「『コミーを解放してやれ』(一般的に『コミーに捜査をするな』もしくは『クビにするぞ』と言っているように解釈されています)と言ったか?」と弁護士のダウドがトランプ大統領に聞いたところ、即座に「そんなことを言っていない、もっと違う表現をしている」と言い張っています。
こういう人に、自分に不利なことを忠実に言え、と裁判所が命令しても無理なことでしょう。
こんな証言だけではモラー特別検察官も公判を維持できないとして、「捜査妨害の可能性は多いにある」と報告書に記したのでしょう。
法的にトランプ大統領はシロなのです。
ただし、娘婿のクシュナーもロシアからの献金疑惑がありますが、これはどうなるかわかりません。
聞こえる範囲では、立件される可能性は高そうです。
どちらにしろ、娘夫婦はホワイトハウスを去る可能性はありますが、しばらくトランプ大統領にはお付き合いしないと無理なようです。
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