イラン制裁、米中貿易交渉に関する解説

米中通商交渉のゆくえ

イラン制裁が国際的な制裁へと発展しそうな勢いです。

今回は、イラン制裁と米中通商協議の方向性について話します。

報復関税のかけ合いになりそうな米中

今年に入って、米中が3月1日を期限として貿易に関する不均衡について話合いを行っていました。

しかし、3月1日では合意しないということで、アメリカは5月1日までの60日間の延長を主張し、中国は6月1日までの90日間の延長を主張しました。

この延長期間に関しては双方とも譲らず、決着期間の合意なきまま交渉は続いています。

トランプ大統領が5月1日を意識していたことは明らかで、4月中は「交渉は順調だ」と明言していましたが、5月2日になり、「この交渉は遅すぎる」と不満を表明しました。

そして5月6日に「5月10日に制裁関税をかける」とツイッターで言明したことから、俄然マーケットで注目をあびています。

この際に、ライトハイザー通商代表がトランプ大統領のツイートを裏付ける発言をしましたが、その時にはマーケットは反応していません。

後にアメリカの官報に記載されたことから、報復関税の設定は規定路線、よほどのことがない限り実施される見込みです。

5月8日からは、中国代表団がワシントンを訪問し交渉に当たりますが、今のところ合意できる見通しはなく、中国はさらに報復の関税をかけると言っています。

まさに泥沼の貿易戦争です。

トランプ大統領の意図を推測する⁈

トランプ大統領の頭の中にはイラン問題に本腰を入れたい思惑がある!?

トランプ大統領は、最近イラン情勢についてもかなり政策の変更を行っており、アメリカとしては少なくとも連休中の週末、5月3日までに中国問題を終わらせたいという意図があって、期限を5月1日までとしていたのでしょう。

ところが報道によると、土壇場で中国が今までの合意を破棄したために、アメリカ側が交渉の席を立ったとされています。

しかし、実際は先の米朝首脳会談でもアメリカは、対外的な心象を悪化させないような一方的に自国有利な発表をしたので、この報道を額面通りに受け取るわけにはいきません。

中国側がこのアメリカの発表に対して何のコメントも出していませんので、真相は藪の中です。

実際の交渉で何があったのかはわかりませんが、トランプ大統領は明らかに5月1日のイラン制裁更新に合わせて中国問題を一部解決し、イラン問題に移行したいという思惑があったと推測されます。

なぜアメリカは5月1日にこだわったのか

日本では新天皇の即位に伴う改元の日であった5月1日だったが、アメリカにとっては…?

では、中国の要求する6月1日ではなく、5月1日にこだわったのか、ということです。

これはアメリカ経済に問題があります。

去年のアメリカ経済は、年初の法人税減税などの減税効果によって冬から夏にかけて好調でした。

経済のデータは、去年との前年比によって統計を出しますので、今年の初夏から夏にかけてのアメリカの経済には悪い数字が出る可能性があるのです。

その悪い材料をいつまでも引きずるわけにはいかないですから、トランプ大統領はこういった行動に出たのであろうと推測できます。

去年の10月からアメリカの経済が下押しした原因は、ドル高と金利高になりますので、トランプ大統領はFRBに対して「金利を下げろ」と要求し続けたのは記憶に新しいことでしょう。

結果として、金利は安く誘導され、ドル高も12月には訂正されました。

トランプ大統領の思惑をまとめると、

  1. 金利問題に関しては、6月以降に金利は上昇曲面になるのが確定的なのですが、この金利上昇は抑えることができない。
  2. では、ドル高になるのを抑え込もう。

になります。

目的はドル高の抑え込み

貿易問題を拡大させれば勝手に実行為替レートが下がる点がキモ

今までトランプ大統領は、ドルと金利を操ることによってアメリカ経済の失速を防ぐことに成功してきました。

しかし、金利は経済が好調であれば物価が上昇することになりますので、ドル高を抑え込もうというのが意図になります。

では、ドル高を抑え込むのにはどうしたらいいのか、という問題です。

これは非常に簡単で、貿易問題を拡大させれば勝手に実行為替レートが下がりますので、貿易問題を拡大させるのです。

その結果が、中国との摩擦の激化です。

おそらく日本との貿易交渉も、日本政府には6月の大阪サミットまでに解決させたいという思惑があるでしょうが、中国との問題がこじれたために解決しないでしょう。

トランプの思惑にあるのは2020年の再選

すべての根底には2020年の大統領選挙がある

トランプ大統領の思惑は、去年の夏までアメリカ経済の景気はよかったので、今年は悪くなる。

すなわち、7月までは去年よりも成長は大きくならないのですから、経済は停滞する可能性が高くなります。

だったら、金利が高くなるのは押さえられませんが、貿易問題を7月まで長引かせればドル安は維持できるという思惑になるということです。

ドル安になればアメリカの輸出は振興するので景気の腰折れはありません。

そして、世界貿易が今年の7月までは低調になり、アメリカの数字は悪くなりますが、来年の大統領選挙の終盤である6〜7月は逆に良い数字が出る可能性が高くなります。

かなり複雑な説明をしていますが、トランプ大統領としては、来年の10月くらいに史上最大の景気にしておけば、11月の大統領選挙で再選できるという思惑がありますので、本音は今年の10月までアメリカ経済に良い数字が出てほしくない、ということでしょう。

この辺はだいぶ長い時間をかけて説明していきますので、今わからなくても安心してください。

言えることは、トランプ大統領の目的は選挙であって、来年の10月にアメリカ経済を最高の状態に持っていけば、再選は実現されると考えていることです。

イラン問題

ウーバーに次ぐタクシー配車サービスであるリフト

イラン問題の本質も選挙です。

オバマ前大統領のイラン制裁解除は、レガシー(政治的遺産)と言われています。

トランプ大統領はこれを壊そうとしているというネガティブな報道が非常に多いのですが、本質は違います。

例えば今、株式市場で話題のリフトというIPO株があります。

このリフトという会社は配車サービス大手ウーバーの二番手の会社になりますが、実はイスラエルでの起業会社です。

イスラエルは、アメリカ経済のキモと言える部分を握っており、イスラエルの安全保障を行うことがアメリカの利益を支えるという考え方は、アメリカのエスタブリッシュメント(支配層)の総意と言ってもいいほどです。

すなわち、トランプ大統領はイスラエルの権益を守るためにイラン制裁の強化を行っています。

ご存知のように、イスラエルとイランは対立し、双方ともに非難合戦を今も続けています。

また、シリア問題でもイランの保護する部隊がアメリカと局地的な戦闘が起こっており、アメリカにとってもイランは厄介な存在です。

イラン制裁強化はアメリカの権益を守る

日本などへの制裁除外措置までもが適用除外となった対イラン制裁

オバマ前大統領は紛争地域に介入し、その地域、特にイランに平和をもたらすためにイラン制裁を解除しましたが、トランプ大統領は、アメリカの権益を守るためにイラン制裁を強化しています。

ご存知のようにオバマ前大統領は、ノーベル平和賞を受賞したくらいの博愛主義者ですが、トランプ大統領はアメリカファーストを訴える実利主義者です。

トランプ側からすれば、イラン制裁の強化はイスラエルの権益、ひいてはアメリカの権益を守るのですから至極当然です。

それを「オバマレガシーの破壊」と決めつけるのは、何もわかっていないからこのような間抜けな報道が跋扈するのです。

冷静に考えれば、平和主義と実利主義が相容れることはなく、それをトランプ大統領がオバマ前大統領を嫌いだからそういうことをするのだ、という主張はちっとも論理的ではなく、何がやりたいのだろうかと思うのみです。

選挙のためには容赦なし

イスラエルのハイファにあるハイテクキャンパスに立つマイクロソフト社

そして、民主党の地盤であるイスラエル票を奪いたいという思惑もあります。

ですから、トランプ大統領はイラン制裁を強化したいのです。

実際、オバマ政権でのイラン制裁解除はイスラエル出身者から大きな反感を買っており、トランプ大統領が前回の選挙で勝てたのは、イスラエル票のおかげという側面もあります。

もちろん、リフトやアップル、マイクロソフトなど、アメリカを代表するIT企業がイスラエルに拠点を持っていることから、多額の献金も期待できるという実利もあります。

つまりイランにとっては不合理だろうがなんだろうが、実際に核開発をしており、主力軍隊である革命防衛隊はアメリカにテロ組織認定されていますので、イラン制裁を解除するのにはトランプ大統領の機嫌を取るほかないのです。

しかし、次期大統領選挙での勝利が確定するまでは、イラン制裁は解除されないでしょう。

イランのロハニ大統領が逆にトランプ大統領の神経を逆なでしているのは、思うつぼでしょう。

イスラエル票を盤石にするためには容赦はしない、ということです。

ヨーロッパはどうするのか?

本来ならばヨーロッパはイラン制裁には否定的になるところだが…

イラン制裁をオバマ前大統領とともに解除したヨーロッパ各国は、どういう対応を取るのかということです。

非常に明快なことで、オバマ前大統領がイラン制裁を解除した時には、リビアのカダフィが倒閣され、重油輸入をリビアに頼るヨーロッパは困り切っていたから、イランの制裁を解除した側面があります。

リビアも最近は政変があり、再び政情不安になるかもしれず、再びリビアからヨーロッパへの重油輸出が不安定になる可能性があるので、本来ヨーロッパはイラン制裁には否定的になると思います。

ヨーロッパが制裁に前向きな理由

保有原油埋蔵量、原油生産量、原油輸出量が世界最大とされるサウジアラビア王国の国有石油会社であるサウジアラムコ

そのほかの主な重油輸出国にはベネズエラがあり、ご存知のようにクーデターがほぼ失敗に終わりかけています。

つまり再び重油の輸出が再開される見込みです。

そして、第3位にサウジアラビアは昨年末のトルコ領事館におけるジャーナリスト、カショギ氏の暗殺に皇太子(実質的なサウジ国王)が関わったことから、制裁を受けていたので重油輸出ができない状態でした。

ところが4月の下旬、サウジの国営石油会社アラムコの大規模な起債が国際社会から認められたのです。

これはサウジに対する制裁解除を意味します。

つまり世界の重油供給不安は、サウジが輸出を再開することによって解消することになるのです。

このことが、ヨーロッパがイラン制裁に前向きな理由になります。

リビア、ベネズエラの供給不安がありますが、サウジが輸出を再開すれば、重油の供給不足不安が解消されることになり、世界のならず者、イランの制裁を強化したところで何ら問題はないのです。

サウジは、イスラエルの中東での最大の理解者であることは言うまでもありません。

つまりサウジの制裁を解除するということは、イスラエルを利することになるのです。

すべて推測になりますが、今の世界情勢はこうなっています。

米中交渉とイラン制裁のまとめ

以上をまとめると、

1. 中国との貿易交渉はすぐに終わらせるか、ないしは長引かせることがアメリカを利する

この選択は、長引かせるという選択になったと思います。

すなわち、習近平のワシントン訪問はすぐには実現しない可能性が高い。

2. イラン制裁の目的は、イスラエルの権益を保護するため

イスラエルはアメリカの経済的権益を支える屋台骨になること。

ヨーロッパは重油の供給不安を抱えているがサウジの経済制裁が解除されたため、もはや供給不安がないので、アメリカに同調するであろうということです。

こうやって考えていくと、世界で起こることは、ほとんどアメリカ中心で起こっていることがわかると思います。

そして、全部の問題がつながっていることもおわかりになるでしょう。


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