タンカー攻撃イラン犯人説への世界の反応
以前、イランとアメリカの対立の原因は、イスラエルとサウジアラビアにあると解説しましたが、今回は現状がどうなっているのか、そして予想し得るイラン-アメリカ関係の今後を解説していきたいと思います。
安倍首相がイランを訪問中、ホルムズ海峡にて未確認部隊によるタンカー攻撃が発生しました。
アメリカは、証拠映像とともにイラン政府の指示による攻撃と主張しましたが、各国の反応は鈍いものとなっています。
わずかにイギリスが賛同していますが、日本を筆頭に態度を表明していない国が多いのが現状です。
この理由は、明らかに過去の湾岸戦争やイラク攻撃の際にアメリカが不十分な証拠、映像を数多く提出し、結果的に「イラクに大量破壊兵器はなかった」と当時のブッシュ大統領が言明する事態にまで発展したことにあると思われます。
国際社会は、過去のアメリカの証拠でっち上げに疑いの目を向けている、というのが真相でしょう。
この部隊について、攻撃主体がイラン政府、ないしはイラン政府の関与のある団体なのか、いまだに不明です。
国際社会の認識としては、イラン政府の関与がある団体であろうということになっていますが、決定的な証拠はありません。
アメリカ-イランを取り巻く仲介外交の現状
イラン政府は、核合意離脱に向けて着々と準備を進めており、その期限は
7月1日〜8日
になると前回の記事で説明した通りです。
ただし、安倍首相も仲介したように、世界はイランとアメリカの関係修復に躍起になっている状態で、劇的に交戦が回避される可能性もあります。
安倍首相は、仲介工作の失敗を認め、第三国のスイスの仲介も裏工作なので情報はありませんが、おそらく伝聞がないことは失敗していると予測できます。
ゆえに現在、アメリカとイランを仲介する国がないような状態であり、行き着くとことまで行くという根本は変わっていません。
現時点では仲介する国がないことから、仲介が成功する可能性は限りなくゼロに近く、当事者間での解決は、お互いに自説を強弁していますので、無理な可能性が高いです。
アメリカのデタラメな主張が折れるほかないのですが、次期大統領選が盛り上がっている最中にトランプ大統領が引く可能性も少ないと思います。
トランプ大統領の本音とイランの態度
トランプ本人は戦争嫌いで人の死にコンプレックスがありますので、できれば交戦は避けたいのが本音でしょう。
「できれば戦争はしたくない」と言っていますが、あれは本音です。
娘のイバンカが毒ガスで死んだ赤ちゃんの写真を見せてシリア攻撃を決断したという伝聞もありますが、あれは間違いなくトランプ本人の決断であろうと推測されます。
それくらいトランプ大統領は、人の死が耐えられない性格です。
しかし、今まで何があってもイスラエルとサウジアラビアを支援してきたのですから、今さらイランと仲直りするとは言えません。
交戦やむなしの感情に流れている可能性のほうが高いと思われます。
イランのほうは、ハメネイ師とロウハニ大統領、そして国民もすべてアメリカの要求を突っぱねるつもりなのは言うまでもありません、そもそも何かに違反したわけではないのですから。
つまり当事者間の合意の可能性もなし、仲介国もなしという状態ですから、行き着くところまで行くという予測になります。
この前提条件が崩れるときに戦争が回避されるのは言うまでもないでしょう。
イランの歴史と中東での立場
イランは、世界で唯一のイスラム教シーア派国家です。
これは、スンナ(スンニ)派はサウジやイラクのように数ある中で、シーア派を国教としているのはイランだけという意味です。
世界中のイスラム教シーア派の聖地に当たります。
隣国のパキスタン、イラクともにスンナ派ですので、その立場は常に不安定なものになります。
シーア派立国の経緯ですが、そもそもイランはほかのアラブ諸国同様に王政で、1980年代のホメイニ革命によってシーア派国家になりました。
シーア派とは経典の宗教で、対するスンナ派は、唯一神アッラーやムハンマドの言ったことを信仰する宗教です。
日本は大乗仏教ですが、仏教伝来時にすでに開祖のブッダが入滅しており、入ってきたのは『法華経』などのお経であることによります。
そういった意味では、イラン人と日本人は、民俗学的には親和性があるということです。
また、日露戦争に勝利した日本の強さに対し、憧れを持っています。
日露戦争当時、イランはオスマントルコなどの侵略を受けており、大国イランでも勝利することができなかったのに、日本は帝政ロシアに勝利したことから、驚きと尊敬をもって見られていることが、日本とイランの友好の礎になります。
この点は、露土戦争でロシアに敗れたトルコも同様です。
イスラム革命防衛隊の位置づけ
歴史を振り返ると、かつて文明の大国であったのが、イギリスの産業革命を経て、後進国に堕落したことが現在の不安定な状況の経緯になります。
その不安定な状況で、ホメイニ革命時に、政府の軍隊ではないイスラム革命防衛隊が現在でも存在します。
この部隊は現在でも政府の管轄ではなく、イスラム教の最高指導者ハメネイ師の管轄であり、政府は関与できません。
ロウハニ大統領がいくら「イラン政府の関与がない」と言っても、ホルムズ海峡にてタンカー攻撃を加えたのは革命防衛隊だという、アメリカの主張の根拠になります。
イラン政府は革命防衛隊に関与ができないのですから、イラン政府は関係がないと主張できる、というのがロウハニ大統領の主張になります。
つまり、普通の国家であれば軍隊と政府は一体ですが、革命防衛隊は政府の軍隊ではなく、シーア派の軍隊なのです。
それをアメリカと国際社会がごっちゃにしているので、イラン政府に圧力をかければ、革命防衛隊もおとなしくなると世間が勘違いします。
ハメネイ師とロウハニ大統領の関係性
ロウハニ大統領はハメネイ師によって任命されており、その命令は絶対ですので、ハメネイ師が「黒」と言えば、白いものでも「黒」と言わなければいけない関係性です。
つまり、イランにおける絶対権力者はハメネイ師であって、ロウハニ大統領にはアメリカとの妥協や協力という選択を独断でできません。
ハメネイ師がアメリカとの妥協を呑まなければ、和平は間違いなく実現ぜず、そのハメネイ師がアメリカとの和平を拒否していますので、現時点では絶対に無理と言い切れてしまいます。
ただし、状況は一日もあれば変わります。
おそらく、核合意離脱期限の7月1日のぎりぎりまで、交渉は行われるでしょう。
仲介国の候補
現在の状況を精緻に分析していくと、交戦やむなしの状況になっています。
しかし、平和を尊重する双方の主張と仲介国の存在によって、交戦が回避される可能性はゼロではありません。
イラン、アメリカ双方との友好国というと日本が挙げられますが、トルコも候補の一つです。
ただし、トルコはイランともアメリカとも最近は微妙な関係ですし、最大の問題は、国内経済が危機に瀕しており、この状況にクビを突っ込む余裕はないというのが本音です。
永世中立国であるスイスは、仲介に失敗している可能性が高く、ほかにイラン、アメリカという大国に意見ができる候補は中国、ロシア、フランスでしょうが、アメリカとの関係を見ると、どこも微妙になります。
参考までに、イランは中東一の大国です。
エジプトは、すでにその座から転落していると見るのが妥当で、そもそもイスラエルとの関係性から、アメリカ寄りが明白です。
トランプ大統領は、イスラエル-エジプトの関係性から、毎年エジプトに補償金を払っており、その節約をしたいという意向が、今回のイランとの摩擦の大きな要因になると考えられます。
シーア派の教え
イスラム教シーア派の教えが、今後のイランの戦略を知る上で重要なキーになると考えられます。
シーア派は、経典を題材に信仰心を操る宗教であり、その教えとなる経典とはムハンマドが記した『コーラン』です。
7世紀の成立で、国家体制を築くために必要な要素をすべて込めてあります。
キリスト教やユダヤ教の聖典が理念だけを書いてあるのに対し、法律や憲法の理念など国家体制作りまで入念に書かれているのが大きな違いです。
その内容は、主に「イスラムの家」と「戦争の家」という体系で書かれています。
イスラム教が平和を望む宗教と言われるのは、この「イスラムの家」の中にはアッラーだけでなく、キリスト教やユダヤ教をも含んでいるからです。
キリスト教とユダヤ教とも仲良くするべきと説いています。
オスマントルコ治世下のエルサレムではキリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒が共存していたことが有名で、逆にイスラエル統治下になるとムスリムを弾劾し始めました。
水掛け問答
イスラエル政権とは、今までキリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒が仲良くしてきたものを排除した政権、つまり「イスラムの家」に属する国家ではなく、対立する概念の「戦争の家」に属する国家だという考えが支配的になります。
ここから、イランがシーア派武将集団のヒズボラを支援しているというアメリカの根拠が成り立つのです。
もちろん、イラン政府はヒズボラなど支援していませんが、革命防衛隊を通じてヒズボラを支援していたら、アメリカはイラン政府の関与があると主張できます。
しかし、イラン政府とは関係のないことですので、「支援していない」とイラン政府は言い張ることができます。
ここが今回の紛争のキモになるわけです。
でも実際は、ロウハニ大統領は宗教指導者のハメネイ師の忠実な部下なのですから、関係ないわけがないでしょ、というのがアメリカの言い分になります。
法治国家におけるイランはあくまでも関係がなく、ハメネイ師が革命防衛隊を通じてヒズボラの支援をしていたという証拠があれば、アメリカの言い分も通ることになります。
しかし、イラン政府には「関係がないこと」と突っぱねることができるのです。
「その約束」を破ったのならば…
問題はここからで、「イスラムの家」にはキリスト教、ユダヤ教、イスラム教が属しており、「その約束を履行するべきだ」と『コーラン』には記されています。
現在では、「その約束」とは国と国の条約であり、遵守すべき約束がオバマ政権下で合意したイラン核合意になるわけです。
ただし、「相手が約束を破る場合にはその限りではない」ということです。
この場合、アメリカというキリスト教国は、「イスラムの家」から「戦争の家」に出ていくことになり、その戦争の国に対しては、「やられたら、その通りのことをやり返せ」と『コーラン』に明確に書かれています。
今回のアメリカの不条理な要求に屈服して和平を結んだ場合、イランは「やられたらやり返せ」と『コーラン』に書いてある通りの行動をとるということです。
この辺の解釈の違いがジハード(聖戦)を生み出しています。
イランとアメリカの今後
イスラエルは、イランにとってはすでに「戦争の家」に属している国家であり、今回の結果がどうなろうとも、アメリカという国がイランにとって「戦争の家」に移行することは間違いありません。
イスラエルがイスラム教徒を蹴散らす限り、イランにとっては戦争相手です。
これを解消するには、和平条約を結ぶほかありませんが、ユダヤ教が国教であるイスラエルからすれば、イスラムとの和睦など到底飲めるものではなく、まず無理です。
アメリカもイスラエルを支援する限り、戦争相手となるでしょう。
かつてブッシュ大統領がイランと北朝鮮を「悪の枢軸」と表現し、悪を体現する国家と今でも見なされているのが現状ですが、イランにとっても、完全にアメリカとの交戦状態になってくる「戦争の家」に移行するということです。
つまり今回の戦争が回避されても、イランは間違いなくアメリカに報復を行いますので、また中東での泥沼が始まると覚悟しておいたほうがよいでしょう。
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