香港デモの真相

逃亡犯条例の経緯

今回は、香港で続く大規模なデモについての解説と真相、展望を記します。

香港国際空港はデモによって閉鎖され、香港経済、ひいては中国経済にまで響きそうな勢いです。

香港国際空港に座り込むデモ隊

香港で身柄を拘束した国際犯罪者を中国に移送する法律、逃亡犯条例が香港の議会で議題に上がったことがそもそもの原因になります。

この法案は、香港人男性が台湾で恋人を殺害したことから行政長官が法制改正を検討し、議会で審議を開始させたことがきっかけでした。

香港在住の男性が台湾で犯罪を犯したとしても、台湾と香港には国交がないために容疑者を台湾に移送することができなかったのです。

香港は中国政府の管轄になりますので、香港人が犯した国際犯罪は中国に移送し、中国が罪を犯した国に移送するという法律を成立させようとしました。

そして、この法案の審議成立に反発し、デモが発生したのです。

行政長官は、逃亡犯条例の事実上の棚上げを発表しましたが、デモは収まりません。

デモの発生理由

一国二制度の構想のもと、イギリスとの香港返還に合意した鄧小平の切手

ご存知のように香港はアヘン戦争の結果、イギリスの租借地となって繁栄し、1997年に中国に返還されました。

返還当初、中国政府は50年間は一国二制度として承認していると説明していましたが、近年では民主化を侵害するような事態が横行しています。

実は、国家安全条例という2003年にやはりデモによって阻止された法案があります。

国家安全条例とは、デモや反政府活動を徹底的に取り締まるという法律であり、香港市民には受け入れられないことだったのです。

国家安全条例のデモ活動に際して逮捕された人が6月12日に釈放されており、逃亡犯条例のデモ発生が6月15日とほぼ日が前後することもデモの要因の一つでしょう。

逃亡犯条例では、釈放された活動家が海外に逃亡した場合、香港ではなく、中国に移送されることになります。

結果として、そのデモ首謀者は香港ではなく中国で裁判を掛けられる可能性があることからの反発と推測されます。

つまり、中国の一国二制度に対して、返還から民主運動がどんどん制約をされていくことに不安に感じた市民が立ち上がっているということになります。

なぜデモは収まらないのか?

でもで掲げられた、林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官と共産党旗をコラージュしたポスター

逃亡犯条例は事実上の棚上げになりましたが、市民側はこの条例の廃案を求めています。

棚上げとは、議会で審議しないという意味になり、実質上の廃案です。

本来の廃案とは、今回の議会の期末が来年末になりますので、ここで成立しなければ正式に廃案になります。

事実、国家保安条例も2003年の会期末にて廃案が正式に決定しました。

よって行政長官の棚上げ発言は実質上の廃案であり、デモをさらに拡大させる必要はないのに、なぜデモが多発するのでしょうか?

もっとも市民側も、来年の末まで抗議活動を行わなければ、来年の会期末までにまた審議入りされかねない不安感もあるのでしょうが、日本人の感覚では解せません。

日本であれば、行政の長が同様の趣旨の発言をすれば抗議活動は沈静化すると思いますが、香港、ひいては中国の政治に対して信頼性がないとも言えるでしょう。

香港経済の成長率に見る真相

以下は香港の年率の成長率です。

参照元:TRADING ECONOMICS

2018年は近年において最高の成長率でしたが、2019年は相当鈍化しています。

ただし、上記のグラフは相対値であり、絶対値での香港GDP総額は以下のようになります。

参照元:TRADING ECONOMICS

年々GDPは成長しており、2019年は仮に香港が1%成長であれば、362.99×1.01の金額になります。

香港は成長しているのですが、去年と比べると一番上のグラフのように鈍化しているのです。

中国の対外政策と香港

香港の葵涌コンテナターミナル

貿易戦争が勃発すると、民間企業は中国から輸出する際に第三国をかませます。

対外的に香港は一国二制度を謳っていますので、通常、一番コストの少ない香港経由で輸出すれば、対米輸出関税は免除されるはずでした。

しかし、実際には中国経済の減速を真っ先に受けて、貿易不振に陥っているのが実態になります。

今回の貿易戦争で、アメリカは香港経由の迂回輸出を認めていないからです。

米国議会の対応

デモに登場したキャプテン・アメリカの衣装に身を包んだ男性

今回の香港政府の逃亡犯条例に対し、民主党も共和党も「重大な人権侵害」と認定して香港に制裁を加えることを決定しています。

それに対して、政府であるトランプ大統領も香港問題に介入しようとしています。

これは米中貿易摩擦でおそらく中国側から持ちかけられ、その阻害要因となるのが香港だから積極的に介入しようとしていると推測されます。

アメリカの国益に関係なくトランプ自らが動くことはありません。

事実、日韓関係において、トランプ大統領は介入すると言いましたが、後になって韓国内での駐留米軍経費を韓国が一部負担し、将来にわたってはもっとその費用を拡大すると発表したことからうかがえます。

おそらく、トランプ大統領は中国とのディールをまとめるのに当たって、障害となる香港に介入してディールをまとめようとしているとも推測できます。

実際に韓国は、日韓関係への介入を表明した1週間後に駐韓米軍の基地費用負担問題がある程度解決しました。

ですから、香港問題を経由して、今回の米中貿易摩擦が改善する可能性もあるということであり、これは意外と重要なことです。

香港問題のまとめ

100万ドルの夜景。果たして香港はこの先どうなるのか?

香港のデモ問題は結局のところ、民主化問題に密接に関係があります。

例えば中国国内では共産党批判は表向きご法度ですが、香港では自由です。

こういった自由な発言、基本的な人権が制約されることを嫌ったデモと捉えることもできますが、実際のところ、今までは米中貿易摩擦のおこぼれにあずかれたのに、今回はおこぼれにあずかれず、経済が停滞し、食えなくなっている人が増えていることが最大の問題になります。

今回のデモは、香港人の7人に1人が参加したとも言われるほど大規模です。

行政長官が棚上げしても収まらず長引くのは、結局、食えない人が多くなっているからと推測します。

アメリカ議会も関与し、それが香港にまで及んでいることが問題を複雑化させています。

そして、察しの良い方はおわかりになりますが、この問題は台湾問題にも及ぶのです。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください