まずはSNS批判から
香港のデモが相当の期間に上っています。
6月15日前後から続いていますので、約2ヵ月です。行政府長官が「逃亡犯条例を審議しない」と表明したのにもかかわらず、抗議活動が続きます。
今回は、この香港デモが世界危機に飛び火するリスクを解説します。
「いい加減にしてくれよ」と国際関係の専門家の誰しもが嘆いていることでしょう。
自身のツイートに世界が翻弄されている現実を、ある面においてトランプ大統領は楽しんでいるように見えます。
日本のSNSでもそうですが、自身の主張を無遠慮にできることは非常に気持ちが良いものです。
不倫など、いろいろな芸能人のゴシップが流れたりもしますが、それは当事者間の問題で、一市民が非難をしたところで一銭の利益にもなりません。
そんなことにイチイチ目くじらを立てても仕方がないと思うのが道理ですが、世の中の主婦はそんなこともないのでしょう。
本人たちは、今まで自分の意見を一般社会で表明できなかったのでしょうから、非常に気持ちが良いのでしょうが、個人の理性の問題と考えている側からすると、滑稽な光景になります。
きっかけはまたもやトランプのツイート
SNSが持つ背徳感のスリルに足を踏み入れると、なかなか抜けられないという話も聞きます。
ただし、リスクとリターンを天秤にかけると、不法行為と承知してやっている人の気持ちは全く理解できません。
そして、そのような低次元なことをやっているのがアメリカ大統領であるトランプです。
「香港問題が中国政府のネックならば、この問題に介入してもよい」といきなりツイートしたことは驚きでした。
このようなツイートを思いつきでやられると、アメリカの政府関係者も関係諸国の首脳や官僚も、もうやっていられないでしょう。
香港問題へのツイートの裏にある日韓問題
この夏に日韓関係が非常に悪化しました。
この問題に関して、またもやトランプ大統領が「日韓は仲良くしたほうが良い、そして関係改善が困難なのであれば、私が介入をしてもよい」とインタビューでコメントしています。
さらに韓国首脳から実際に調停依頼があると、「私は忙しいのでこのような問題にかかわっている時間はない」と言いましたが、「実際に両者が困っているのであれば仲介しましょう」と言い出しました。
その1週間後に就任以来の最大の懸案と言ってもよい駐韓米軍経費問題で、韓国がある程度の負担増を認めたことを発表しました。
以前にも解説しましたが、トランプ大統領は駐韓米軍の駐留費用を韓国に応分を求めたのですが、韓国は今までなかなかクビを縦に振らなかったのです。
そこで、日本との関係改善を仲介するから、中韓米軍の駐留費の経費を負担するというディールを求めたことが結果としてあると思われます。
日本の場合、韓国をホワイト国から除外しましたが、主要な輸出商品への輸出許可を与えました。
これは充分に予測できたことですが、意外とあっさりと認めたことに違和感を覚えた方は多いのではないでしょうか。
本人は否定するでしょうが、トランプ大統領が現実的に仲裁に動いたことは誰にでも想像がつきます。
香港問題への介入の背景
これと香港問題の介入は、奇妙にシンクロすると感じる人は多いでしょう。
日韓関係がどうしようもなくこじれたときに、トランプ大統領がいきなり仲裁を言い出し、現実的に結果を出したと推測されることです。
米中の貿易摩擦が全くまとまらない方向性に傾いているのが現状ですが、日韓関係と同様に、いきなり仲裁を申し出るということは、間違いなく二匹目のドジョウ狙いだなと感じる方は多いでしょう。
現実問題は違い、上記で示したように、米中関係は全く妥結の方向性へは動いていません。
従って、米中の摩擦の進展はないと考えるのが通常だと思います。
トランプの狙い
トランプ大統領の基本路線は、今までは7〜9月のアメリカ経済成長率が3%を超え、今年はこの7〜9月の景気停滞は予測通りだと思います。
なぜなら、トランプ大統領は経済指標を熟知しており、去年が良すぎる数字の場合には政策を控え、悪い場合は躍起になって政策を打ち出します。
この手法は日本の安倍首相も好む方法で、最近、自民党総裁三選から四選へという報道を見ますが、このように景気が悪くなる前に察知ができていたので、これだけの多選の恩恵に被ることができたのです。
この手法をトランプ大統領が取り入れてたというのが弊社の見立てです。
トランプ大統領は5月から米中貿易戦争をあおってきましたが、これは、去年以上の成長を狙い、選挙に当選するために、なんとしても中国とのディールをまとめようとしたのでしょう。
ここに来て、中国との妥結は年内どころか自分の再選後、ないしは新大統領の選出後と判断したと考えられます。
そうなると、中国との妥結をアピールすることによって、自身の再選を盤石にしようという思惑が変わってきます。
去年が良すぎたので、今年は思いっきり悪くなる方向性に舵を切ったのだと思われます。
グリーンランド買収の背景
つい先日、トランプ大統領は、休暇帰りの飛行機の降り口で「グリーンランドの買収を検討する」とインタビューに答えました。
これには、デンマークを経済的支配下に置くドイツへの対抗策という意味合いもあります。
グリーンランドは資源が豊富で、開発には魅力的な土地になりますが、デンマーク政府は「グリーンランドを売却の予定はない」と否定しています。
ただ、アメリカ大統領が何の根拠もない空想をインタビューでぶち上げる必要もなく、真偽のほどは不明ですが、全く出ていない話ではないと推測できるでしょう。
となると、ケンカの相手は、イラン、中国、韓国、そしてドイツということになります。
このうち韓国とは、一番の懸案である駐韓米軍の問題が、金額はわずかですが解決の方向に向かっています。
となると相手はイランと中国とドイツです。
イラン問題が進展しない理由
イラン問題は、トランプ大統領の一人相撲です。
アメリカの法律では、通商や外交は大統領権限でできることになっていますが、できるだけ議会の承認を得たほうが良いのは皆さんの感覚でもおわかりになるでしょう。
なぜなら、大統領が独断で決めたことを議会で承認しなければ、否決ができるシステムになっているからです。
トランプ大統領がイラン問題で身勝手かつ独断と言える判断をしても、議会下院の院内総務であるペロシがことごとく反対するので、深入りできなくなっていました。
イスラエルに関してもそうで、トランプ大統領がイスラエル政府に性的および人種的マイノリティーの連邦議員の入国を拒否するように求めたのですが、議会はこれに猛反発し、この動きは共和党にも反発させています。
イラン問題でなんらかの行動を起こそうとしても、議会に、特に多数を握られている下院ではことごとく反対され、自身は深入りをしたくてもできない状況にあるのです。
アメリカの香港への視点
一方、香港問題ではアメリカの上下院ともに人権問題を非難する決議を行っており、香港ないしは実質上の支配国である中国に対して非難声明を表明しています。
おそらく時間の問題で、議会は香港、中国に対する制裁を決議するでしょう。
こうなると、大統領と議会は、香港問題に対して同じ立場を表明していることになります。
残るは司法ですが、司法は国際裁判所ではありませんので、国内問題しか扱いません。
もちろん、香港制裁に関して、国内法上の問題があれば審理を行うでしょうが、そんなヘマをトランプ大統領はともかく議会がするとは到底思えません。
香港に関してアメリカ国内の意見は一致しており、これを中国制裁とすると大混乱が起きます。
グリーンランドの問題にしても、いきなり出てきたのでなんとも言えませんが、矛先はおそらくドイツでしょう。
中国の香港への視点
中国はイギリスから香港を返還されてから、公式には一国二制度と謳っていますが、近年、香港への介入を強めています。
その代表が2003年の国家治安条例であり、これも大規模な香港市民の反発を呼びました。
この条例は、香港の自由な言論と行動が弾圧されるというもので、市民運動によって廃案に追い込まれています。
今回の反逃亡犯条例デモは、外から見ると飛躍しすぎに見えなくもないですが、当事者からすれば外堀を埋められるような感覚なのでしょう。
返還から50年後には香港を統合するという中国政府の意思表明になります。
何度も言いますが、中国は民主主義国家ではなく、共産党が指導する独裁国家です。
独裁国家においては、政府を非難することは認められませんし、また、抗議活動も中国国内では多発していますが、基本的には違法となります。
香港に言論の自由は認めないというのが中国政府の基本的な立場なのです。
香港問題における米中の対立軸
アメリカ政府と議会は、香港に対して人権侵害と、そんなことを一切、中国政府はやっていないのに決めつけています。
一方で中国は、将来においては順次、香港の言論の自由は縮小していく方向性です。
アメリカからすれば、これは基本的人権の侵害であり、このような行動に関しては実力をもって行使するのが過去の歴史です。
ただ、相手は中国ですので、今までもさまざまな人権蹂躙の行動に関しては、行動を控えてきた側面があります。
しかし、今回の場合、議員も選挙を控え、当選のために自分の実績をアピールする必要があります。
そして、通商問題で利益を奪っている日本、韓国とはある程度解決していますが、中国には利益を取られっぱなしという認識です。
再選のためには中国と摩擦を劇化させ、最悪の場合、かなり深刻な対立になる可能性があります。
トランプの方針転換
景気を下ぶれさせないようにしたのが今年のトランプ大統領の方針であったと考えられます。
しかし、FRBが言うことを聞かず、中国とは選挙までに妥結する見通しがなくなったことで、もしかしたら、この9月まで徹底的に経済を悪くする方針としたように見受けられます。
決定打はグリーンランドの買収で、これによってドイツとの対立をあおっているのです。
今年の7〜9月の成長が悪ければ、来年の経済成長は2018年の3%を超え、4%、5%になる可能性が出ます。
おそらく、トランプ大統領は今年の成長を1〜2%にし、来年の7〜9月期の成長を再び3%台にすれば、自身が再選される算段だったのでしょうが、頼みの中国がすでに来年の大統領選挙の結果を見てから交渉に入る準備に切り替えたのでしょう。
米中の摩擦は年内には妥結しないと考えるのが妥当です。
米中対立の今後
中国との妥結は選挙でのアピールにならず、議会も同様です。
であれば、徹底的にケンカをするほかありません。
前にも触れたように、中国が香港の言論の自由を認めるわけがなく、アメリカは人権を侵害するどの国をも許さないという立場ですから、妥協の余地は全くないのです。
トランプ大統領の方針転換によって、米中の徹底的対立になる可能性があります。
中国は、泰然自若として自分の立場を変えることはないでしょう。
これから米中関係が徹底的にこじれる可能性が出てきているのです。
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