あなたに5億円の借金があったとしたら
MMTとは、簡単に言えば、国家にいくら財政赤字があっても国の運営はうまくいくという理論になります。
今回は、このMMTがなぜ間違っているのかについて論じていきます。
MMTとは?
Wikipediaでは、以下の通りです。
現代貨幣理論(英語: Modern Monetary Theory、Modern Money Theory 、略称はMMT)とは、【1】貨幣は商品ではなく信頼に基づく貸借関係の記録(負債の記録)である。【2】貨幣は銀行等が貸借関係の記録を書き込む時に創出され、返済する時に消滅する【3】世の中に貨幣が存在するのは、政府が一番最初に貨幣を支出したからである【4】貨幣の信用・価値は、国家の徴税権によって保証されている。 …といった現代の貨幣に対する認識を基本とした経済に関する理論です。要するにこれは、自国通貨建てで政府が借金して財源を調達しても、インフレにならないかぎり、財政赤字は問題ではないという主張なんです。少し都合が良いようにも聞こえます。
次に例を挙げます。
あなたは借金をしました。
年収は、日本人の平均程度の500万円としましょう。
これに対して借金が5億円としましょう。
本能的に返せると思いますか?
まず、年収の500万円は保証されているわけではありません。
リストラや病気やケガなどで会社を辞めざるを得ない状況になるかもしれません。
通常の人はこんな借金、怖くてできないのが普通でしょう。
おそらく年100〜200万円の利払いさえも怪しくなり、その上に人生が100年時代になったとしても、その長さに気が遠くなるような思いでしょう。
自由とは根本的な権利
よく不動産投資で、実際に払う家賃とローンの金額を比較したら、不動産、つまりマイホームを取得したほうがよいなんて話がありますが、年1%の金利であっても利払いを35年も続けていれば結局、返済は倍になるでしょう。
結果的に家賃を支払い続けたほうが金銭的な負担が少なく、借金をしても不動産を買ったほうがよいと言う、銀行や不動産会社の言いなりになってもいけないと言えます。
一番大きな問題は、数字では表現ができない心理的側面です。
最初から踏み倒すつもりで借金する人などいず、必ず返済しなければいけないと思って借りるはずです。
そうした場合、あなたの行動や意思の自由は著しく制限されます。
もっと卑近な例で言うと…
今日17時に友人との約束があったとすると、あなたはそれに合わせて行動しなければ約束を履行できないと思い、実際そう行動することでしょう。
先の約束には、それ以前の行動を拘束する効果があるのです。
これを借金に置き換えると、返さなければいけないお金を月々返済していくと、結果、行動などの自由が奪われることになります。
そのとき自分に投資したいもの、例えば読書ですとか、トレーニングや学習などをあきらめなければいけないことになります。
また、心に一抹に不安があると思い切った行動ができないものです。
借金の場合はお金を返済すことが最優先事項であり、結果とし行動や意思の制限につながります。
自由とはそういう意味での自由であり、他人からの拘束をフリーにした状態でなければ、人間は思い切った行動ができなくなるのです。
個人の借金を国家に置き換えてみる
国家では、例えばアメリカでは債務上限といって、借金の上限が決まっています。
上限を拡大する場合には、大統領の独断だけではなく、議会からも承認を受けなければいけません。
アメリカはリーマンショック以降に借金が拡大していますので、この債務の上限に達するたびに議会と大統領が対立し、結果として最近ではよくある政府閉鎖に追い込まれます。
観光に行っても政府閉鎖に伴って自由の女神が見られないような状態になるのです。
自由の女神が見たいのに政府閉鎖によって見られない、まさに行動が制限されます。
わざわざニューヨークまで行ったのに自由の女神を見られないのは、思いっ切り不満でしょう。
これを借金に置き換えてみると、非常にストレスの溜まることだとわかります。
歯止めがないと人も国家も返済不能になる
アメリカ政府がそのような制限を加えるのは、借金返済のプレッシャーから逃れるため、人間はどこかで浪費したいと思ってしまう動物だということをアメリカの議員さんがよく知っているからです。
もちろん、普段から浪費を繰り返していると、その感覚に慣れてしまい、余計に刺激を求めてそれ以上の借金を重ねてしまう。
これが多重債務者の習性になります。
国家の場合もどこかで歯止めをかけなければ、返済不能になってしまうのです。
この場合の破綻は、年収に対して例えば10年物国債という借金であったら、その総額プラス金利が払えなくなった時点となります。
銀行借り入れの場合、日本では1ヵ月でも延滞があると、その債務は要注意区分に分けられてしまうくらい厳しい審査になっており、これが3ヵ月以上続くと、全額の返済を求められます。
こういった理屈から、MMTをトンデモ理論と訴える方がほとんどですが、実は本質的な問題はここにはありません。
破綻しても返済し続けると言われても…
国家の債務は、リーマンショック以降拡大していて、去年も世界各国の借金額は過去最高となりました。
お金を借りる各政府では、インテリ、エリートが破綻しないように計画し、準備をしているので安心できるでしょう。
逆に毎年、毎月の利払いができなくなったようであれば、破綻するだけです。
MMTの詳しい理論はわかりませんが、おそらくデフォルトしても支払いを続ければ問題がないということなのでしょう。
その時点で、トンデモ理論になるとは思います。
日本政府にとって国債は打ち出の小槌?
国家の借金とは、基本的には国家の債券である国債として発行するものです。
国債は、GDPに対して一番借金の多い日本、世界一借金総額が大きいアメリカでも、発行された全金額のすべてが消化されています。
発行したら、国債はすべて「売り切れ御免!」になっているのです。
発行する巨額の金額、日本では1200兆円と言われているのですが、それが日本国債の発行額とイコールの関係だと思ってください、アメリカですと2500兆円くらいです。
しかも、日本ではマイナス金利が導入され、基本は国債を持っていれば元本は減っていきます。
借りている日本政府は借り得の状態で、これは借金の返済を長引かせれば長引かせるほど政府は金持ちになり、国債券を持つ人は目減りしていくということです。
それでも売り切れになってしまう、まさに日本政府にとってはパラダイスです。
国債は安全資産
アメリカ国債には、2%程度の金利が付くので人気があって当然です。
ただし、勘違いしてはいけないのは、マイナス金利だからと言って、債券の購入者は損をするわけではありません。
マイナス0.5%の日本国債10年物を持っていても、毎年の利払いはありませんが債券の価格は上昇します。
金利がマイナス0.5であれば、毎年0.5%以上価格が上昇すると考えるのです。
利払いを受けることはできませんが、10年物国債であれば、満期を迎える前に手仕舞いすれば、元本以上の金額を受け取れる可能性が高いのです。
そういった意味で、数ある投資商品の中で債券は安全資産と言われるのです。
銀行預金は、債券のシステムを応用した金融商品になるので、債券よりも利払いは悪くなります。
安全、確実を求めるのであれば国債以上の投資先はなく、デフォルトは国家がつぶれることだからです。
あなたの住む場所がなくなるのと同じ意味で、その可能性が高いと思えば移住すればいいだけですから。
問題はお金を貸す方にある
問題は政府の巨額の借金ではなく、世界にそれだけお金を貸す余力のある投資家がいることのほうです。
1兆円の資産を持っている大金持ちがいるとしましょう。
国債は最も安全な投資先ですから、その人たちは、株式や為替のようなリスクのある投資先を選ぶ必要がありません。
何もしなくても余裕で生活ができるからです。
そのようなお金持ちが日米合わせて3900兆円のお金を持っており、世界の借金の総額は兆を超えて京の3桁まで行っています。
MMTが出るのは、まず、お金を貸したいと言っている人が多数いることを示しています。
政府が巨額の借金をしようとしても、貸し手がいなければ借金はできません。
民間企業が社債を発行するときには、最初に引き受けてくれる会社や個人を探します。
ところが政府の場合は信用があり、人気があるのでその必要がありません。
世界で京の3桁の借金(ドル建て)になっても、まだお金を貸したい人がいるということが一番の問題です。
貸し手に問題があるということの意味
国債投資は一番安全な投資ですから、破綻はなかなかありません。
ここで一番の問題は、自身の資産が減ることがない点です。
100億円で国債投資をし、1%の金利が年に支払われるとすれば、年1億円の利払いがあります。
それをまた元本に加えて運用すれば、年を追うごとに資産は増えます。
要するに金持ちがより一層金持ちになり、貧乏人はますます貧乏になるということです。
ひいては社会階層の固定化が進行し、自由主義の国に住みながらも、昔ながらの農家の庄屋と小作人というような関係が復活してくることになります。
MMTの先に待つ嫌〜な社会
日本の戦後復興が農地改革から始まったことを認識している人があまりにも少ないと言えます。
戦前まで権力層は権力層、貧乏人は貧乏人のまま固定化されていたのです。
それをGHQの指令によって小作人を解放し、その人たちが農地を持つことによって経済活動に従事する人が増えた結果が戦後復興につながりました。
MMTとは、日本であれば戦前のように農家に小作人がいたことをもう一度再生させる仕組みになるのです。
資本家とその隷属制度の復活になり得ます。
アメリカで言えば、奴隷制度の復活という意味です。
誰しも小作人や黒人差別したいと思わないでしょう。
しかし、MMTは結果として、そういう社会の帰結になる可能性があります。
金持ちが金持ちたるゆえん
MMTによって膨大に債券が発行されたとすると、生活に余裕がある債券投資家は、政治活動の寄付を行うようになります。
今の日本やアメリカで行われている法人税減税などがありますが、これがなぜ実現しているのかと言えば、企業経営者が法人税の安い国に本社を置き、巨大消費国家で主に経済活動を行い、「税金を払ってほしければ、あなたの国の法人税を下げよ」とやったからです。
建前は法人税が高すぎるという理屈ですが、結局、企業が政府を脅したということでしょう。
政府としては、主な納税者である企業が海外に逃げられては困りますから、政治活動の寄付を行う者をぞんざいには扱えません。
そもそも世の中は金持ち優遇
実際に政府の政策は、金持ち優遇になっています。
10月には消費増税ですが、企業法人税は2年前に減税されています。
そのほかさまざまな面で優遇を受けていますが、個人の優遇はほとんどありません。
日本国内においては貯金率が下がり、逆に企業の内部留保は上昇しています。
社会保険の金額は上昇しているのに、企業の負担は正社員を減らすことによって人材コストが下がっています。
これは、政府の借金を銀行などを通じて主に企業が引き受けているので、その大口の引受先の機嫌を損ねるわけにはいかないという忖度が働いていると考えられるでしょう。
MMTが実際に行われると、今後も大口納税者、国債の引き受け先として企業が優遇される状況になり、ひいては封建制度への逆戻りの礎になる可能性があるのです。
MMTは時代を逆行させる発想
封建制度は領主や経営者に富が偏在した結果、経済活動のバランスが悪く、それなりには発展しましたが、自由民主主義に移行すると、もっと大きく成長しました。
MMTとは、根幹的に時代を自由主義から封建主義に逆戻りさせる発想であり、今後、政治は巨大資本家や大金持ちに忖度して動かなければいけなくなるでしょう。
政治家の活動資金を大金持ちが支えているのですから、必然の結果です。
リーマンショック以降も野放図に借金を増やした結果、その尻ぬぐいは企業や大金持ちではなく、消費増税でもわかるように、政府は貧乏人に払わせようとしています。
MMTをやれば、この動きに拍車がかかるだけです。
富みが領主や経営者に偏在すると結局は経済が発展しないように、借金の貸し手が一部に偏るとロクなことがありません。
すべての人が公平に負担できるようにすれば、社会は健全に発展していくようになっているのです。
貸し手が偏在することで生じる課題
リーマンショックのように何京ドルもの借金を抱えても、アメリカは現在でも運営されている、この安心感が、アメリカをはじめとする国債の人気につながっていると思われます。
しかし、富の偏りがこれだけひどいと、栄養のアンバランスで体の変調をきたすように、国家のバランスも崩れているのが現在の国際情勢です。
かつてインドが提唱した南北経済格差、第三経済圏は格差が縮小していますが、国の内部の格差は現在でも進行中です。
香港のようなデモ、あるいは国際危機のうわさだけによって、現在の安定の根幹が崩される可能性が高いのです。
かつてビートたけしさんが「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグを言いましたが、今はまさしく「国債を、みんなで買えば怖くない」状態。
赤信号に突っ込んでくる暴走者を想定しないで、皆で「債券投資が安全」と騒いでいるだけ。
赤信号に突っ込んでくる車は、トランプ大統領の暴走ツイッターも含むでしょう。
実際に何兆ドルもの借金を抱える国が倒産したらどうなるでしょうか?
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