リスク回避相場とはどういう意味か?
7月から11月に金の高値予想が変わっていますが、ここにきて相場に変調が起こっています。
今回はその解説です。
マーケットが大暴落すると、ニュースで「リスク回避の動きが鮮明になり株価や為替が下がった」という表現をお聞きになると思います。
この「リスク回避」という意味を、なんとなくわかっている気になっていると思いますが、ニュースの原稿を作っている人も読んでいる人も、ほとんど理解していません。
ニュースを作成している人が理解していないのですから、皆さんがリスク回避を理解できるわけがないのです。
参考までに、ニュース原稿の製作者は、基本的にはマーケットが暴落したり急騰したりした場合、金融関係者に取材します。
しかし、その金融関係者もリスク回避の意味がわかっておらず、表面の言葉を「だいたいこんな意味だろうな〜」と思いながら使っている人がほとんどです。
ほとんどの人がリスク回避の意味をわかっていません。
これを厳密に定義していきます。
リスク回避の定義
リスク回避を理解するために、知っておかなければならないことがあります。
まず、マーケット分析には3つの手法があります。
① ファンダメンタルズ分析
② テクニカル分析
③ 内部要因分析
このうちリスク回避は「③内部要因分析」に依拠するもので、内部要因の分析がわかっていない人にはリスク回避を説明できません。
内部要因分析を具体的に言うと、誰が売って誰が買ったのかの分析で、現在では主なマーケットプレイヤーの分析になります。
昔は瞬時に誰が買って売ったのかはわかったのですが、個人情報保護の時代に移行し、取引所もメインプレーヤーの手口しか公表しなくなりました。
データが公表されないので、この分析は後退しているのが現状ですが、リスク回避という言葉は、この内部要因分析から派生したものになります。
ファンドの動きで市場がわかる
現在のマーケットの主要プレイヤーは、ファンドです。
端的に言えば、投資信託のことになります。
一般の皆さんから集めた資金をプロが株式、債券、為替市場で運用するという集金方法をファンドと言います。
このファンドの動きを観察していると、市場の変化がわかります。
金融市場で、それなりのボリュームがあって儲かるのは株式市場です。
金の市場もそれなりに儲かりますが、ボリュームがないのでファンドのような巨額資金の運用には不向きなのです。
もちろん、相当数のファンドが金市場でもお金を運用していますが、投入の割合は数パーセント程度で大きな金額ではありません。
株式市場は金市場の100倍以上のボリュームがあるので、ファンドはほとんど株で運用します。
債券市場とリスク回避
プロの運用者といっても、年がら年中儲かるわけがなく、必ずヘッジを行います。
そこで登場するのが債券市場です。
債券市場は株式市場よりも大きいのですが、あまり儲からないのでほとんどのファンドのメインは株式市場です。
債券はあくまでも株式市場の保険で、株式市場が8月の初めのように大きく下がれば、債券市場で、株を買っている場合は債券を売って損失を補填します。
この株買い-債券売りは、壊滅的な損失を防ぐために構築されたポジションになります。
これで皆さんが投資信託にお金を預けた場合、損失が大きくても10%程度に収まり、損失が50%以上になるようなファンドがあまり存在しないのはそのためです。
結局、普通の経済活動をしていれば、株式を買っていれば儲かるようなシステムになっています。
そして、その相場には今年の8月やリーマンショックのように、流れに逆行するようなスパンが必ずあるのです。
このときの平時のファンドのポジションのとき、株買い-債券売り状態のことを、リスク選好ないしはリスクオン相場と言います。
このポジションが逆(株売り-債券買い)になることを、リスク回避ないしはリスクオフ相場と呼ぶのです。
8月に株価が下がった理由
今回、8月から株価が下がり始めましたが、この相場はファンドのポジションの組み換えで起こりました。
8月前までは株買い-債券売りだったのですが、下落のきっかけは内部要因分析では、株売り-債券買いに変化したことが原因です。
マーケットの主要なプレイヤーのファンドが株買いから株売りにポジションを変化させたのですから、株価は下がって当然です。
もちろん、上記の「①ファンダメンタルズ分析」では、米中双方が関税をかけると発表したことは皆さんが認識している事実になります。
つまり、今回の株の下げは「①ファンダメンタルズ分析」と「③内部要因分析」によって明白だったのです。
金利が上昇し始めた
端的に言えば、ファンドが株を買うのをやめたら、リスク回避と呼ばれる大規模な株式市場の暴落が始まります。
その派生要因で、株買いで損失を出したファンドは必死に債券を買うのです。
債券を買うということは、金利が低下することです。
現在、金利が世界的に低下していますが、これは株買いで損をしたファンドが一斉に債券を買っているから起っている現象になります。
すなわち、ファンドが株の損を回避したら、自動的に金利はまた上昇するのです。
現在、世界で一番下がっていたドイツの金利が低下傾向から一転、アップトレンドに変化しようとしています。
テクニカル的には、まだドイツ金利が底を打ったとは確認できませんが、その可能性は高いと思います。
世界で一番下がっていたドイツ金利が反転上昇し始めたのですから、世界で一番大きいアメリカの債券市場も高騰から下落に転じています。
すなわち、ずっと下がりっぱなしだった金利が上昇し始めているのです。
ファンドのポジションでマーケットは動く!?
このようにファンドの基本的なポジション、株買い-債券売りを理解していると、リスク回避とリスク選好がわかってきます。
現在は買っていた債券を手仕舞いし、売っていた株を買い戻しているのです。
その後に来るのは、ファンドは皆さんから集めたお金を運用しているのですから、儲けなければいけません。
株買い-債券売りというポジションに9月4日くらいから構築され始めています。
ただし、ファンドはまだそのポジションを構築していません。
今は株売り-債券買いのポジションの解消をやっていて、特に株の場合は株売りの買い戻しによって買われているのです。
二番底への流れ
通常、内部要因分析では、この買い戻しの買いでマーケットのアップトレンドが盤石になるとは考えることはできません。
高値で買っても儲かるような材料がないからです。
実際、経済指標も世間のセンチメントもさえないものになっているのは、皆さんのほうがよくご存知でしょう。
ファンドや一般の投資家が買ってくるのは株価が安くなったところで、今後、今までの金利安の反動で、金利が高くなったことは、株式市場にネガティブな作用をもたらすでしょう。
すなわち、金利が高すぎるので株式投資には妙味がないという雰囲気が醸成され、こうなると買い戻しで上昇した株式相場は下がります。
これが一般的に二番底と言われるテクニカル的な現象です。
もう一度、安値を株価は取るということです。
このように、リスク回避とは本来はファンドのポジションのことであり、ファンドが株売りを始めるとそのリスク選好が叫ばれることになります。
金と金利の関係
上記では金利のことを明確に記してまいりました。
従前から言うように、今の金相場は金利次第の側面があり、世界の指標金利であるアメリカの金利が下がれば金の価格は上昇し、反対に上昇すれば金の価格は下落することになります。
金利に魅力がないから、ファンドや投資家は無金利のゴールドを一斉に買うのです。
このリスク回避のときに買われるのは、一般的にはドル(米債券)、金、スイスフラン、円などがありますが、今回、特に買われたのは金と米債券でした。
これは、ほとんどのファンドがドルで運用されており、スイスフランや日本円を買うのには、そのドルをフランや円に換える手数料が発生しますので、できればその手数料は払いたくないからです。
今後の金の天井形成までの展開
今回の場合、ドル建ての金や米債券でヘッジでき、ドル資産をほかの資産に振り向けたので、スイスフランや円がそれほど上昇しなかった理由になります。
金はファンドのポジションの組み換えで金利が高騰したことによって、低金利では金を買うという根拠がなくなったのです。
結果として、金は急落します。
そして、今度は株価が金利の高騰を嫌って下落しますが、本質的にはアメリカ経済は絶好調そのものですので、安いところの株は買われます。
ただし、そのときに金利はファンドが株を買えば自動的に債券を売るわけですから、金利は上昇するのです。
こうやって、金の天井が形成されることになります。
次回FOMCと金利、そして金価格
9月17日から開催されるFOMCでは、トランプ大統領の意向通りに金利を引き下げることでしょう。
そうなると金はどうなるか、ということです。
当然、暴落はしているでしょうが、来週あたりからそのFOMCの動きを見極めたいということで金の上下動が止まります。
そして、利下げ発表後に金利は下がるわけですから、金の価格は上昇し、また売り場を提供してくれる、そのときに金利が下がっているのですから株価は上昇しますので、そのヘッジのためにファンドは債券を売るのですから、また金利が上昇するのです。
そうすればまた金は下がる、ということです。
こうやって考えていくと、金の動きの予測がより鮮明になるのです。
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