独立運動の主因は緊縮財政
今回はヨーロッパ地域で独立運動が起こる理由を考えていきます。
なお、今回の考察には香港や数年前に盛り上がったジャスミン革命などの新興国地域は含まれません。
主に先進国地域、例えばスペインのカタルーニャ地方などで起こっている独立運動についてです。
2008年のリーマンショックからすでに11年が経過しましたが、リーマンショック直後は、どの国も財政難に陥り、不景気なので個人の所得も企業の所得も減少しました。
そこで政府は、公共投資などを増やして財政を拡大し、これを景気回復のきっかけとします。
ドイツはおそらく完全にリセッション入りするでしょうが、その際に財政を拡大して、景気の浮揚を図らなければいけないのです。
しかし、ドイツ政府は財政規律を厳しく設定しており、現在でも財政政策を拡大しようとしません。
ドイツは何がきっかけで景気が浮揚するか五里霧中です。
もちろん、政府の歳入が減るのですから、予算も減額しなければいけないというのが通常の考え方でしょう。
これは間違った発想で、第一次大戦後の大不況でアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が一般的にはニューディール政策と呼ばれる政策を行い、結果的に景気が浮揚しました。
民間の投資や消費などが不振の場合には、予算を減らすのではなく、逆に拡大させなければいけないというのが昨今の財政学、経済学の基本になります。
財政拡大と緊縮財政
日本では東日本震災後、当時の民主党の野田首相が消費税増税を国民にお願いしました。
その際の言葉は非常に印象的でしたので、覚えている方も多いと思います。
すなわち、「このままだと日本はギリシャのようになってしまう」と。
当時のギリシャは財政赤字を意図的に隠しており、政権交代したパパレンドゥ首相がそれを露見させました。
結果としてギリシャの国債価格が急落して金利が急騰し、デフォルトつまり倒産するのではないかと一般的に言われました。
日本もギリシャのようにデフォルトを起こす可能性があると、当時の首相が明言したのです。
その後、ご存知のように自民党の安倍晋三が首相に返り咲き、アベノミクスを実行しました。
アベノミクスとは、財政を拡大して景気を拡大させることです。
やっていることは第一次大戦後のルーズベルトと一緒で、不景気で財政がしぼんでいるときに景気浮揚のために国家予算の拡大を図りました。
結果は現在の景気の通り、あの震災直後の打ちひしがれた状況ではなくなったと言っても過言ではないでしょう。
つまり、財政を緊縮すると景気がさらにしぼみ込むことは、経験則、データ的に明瞭なのです。
緊縮財政は何をもたらすか
緊縮財政が何をもたらすのかを考えていきます。
わかりやすい例は日本の震災直後で、何が起こっていたかを思い出してください。
福島原発の悲惨な事故に対して、国会周辺で大きなデモがあり、周縁では尖閣諸島近辺に中国船籍の船が大量に出没し、さらには軍用艦までが近づきました。
また、韓国の当時の李明博大統領が島根県の竹島に上陸し、日本および天皇陛下に対して侮辱的な言説を吐きました。
当時の民主党がやった、収入が減るので予算も減らすということをやると、国内はもとより、対外状況も不安定化するのです。
しかし、その後、安倍政権になってアベノミクスという政策を立ち上げると、こういった不穏の状況が解消されてきているということは事実でしょう。
要するに、不景気なときに、もしくは景気がよくても、財政の緊縮はやるべきではないということです。
緊縮財政は結果的に、国内および周縁地域でも不安定化につながります。
現在、日本は借金が多すぎると言われながらも、安倍政権が財政を拡大するのは、国内外の不安定化を阻止する側面もあるのです。
南欧債務危機とヨーロッパの不安定化
ヨーロッパは近年、多くの国で独立運動が立ち上がってきています。
これは言うまでもなく、ギリシャでの赤字偽装をきっかけとした南欧債務危機の勃発によるところが大きいと言えます。
PIIGSと呼ばれるポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインが大きな債務を抱え、返済が不可能になる可能性があった事件です。
これらの債務国を助けたのは、ドイツでした。
もともとユーロ圏とは、ドイツを中心に成り立っている経済連合です。
ドイツはヨーロッパの中心にあり、経済でも昔はフランスと競合関係にありましたが、現在では東西ドイツの統合の影響もなくなり、ユーロ圏では最大規模の経済になっています。
富める者が貧しき者に手を差し伸べるという事態に陥ったのです。
ヨーロッパが不安定化している理由
富める者であるドイツでは、放蕩したギリシャやそのほかの国に対して、私たちの稼いだお金を無闇にあげるような真似をするなという国民の声が一斉に上がりました。
ギリシャを筆頭にお金を貸す国には、国民の総意として、厳しい条件をつけないと融資ができない状況になったのです。
そこで、ドイツ国内と同様に国家が赤字であれば予算の拡大は認めないという厳しい財政規律を適用し、ドイツ流の資金融資を始めました。
これが、南欧債務危機の国々で相次いで独立運動が起きる結果となったのです。
ブレグジットも、結局は当時のキャメロン首相が悪いという意見が主流を占めていますが、もともとの原因は緊縮財政です。
スペイン・バスク地方の独立運動の原因
スペインのカタルーニャ地方、バスク地方の原因も、根本は緊縮財政に求められます。
カタルーニャ地方は、バルセロナでオリンピックが開催されたことからもわかるように、もともと豊かな地域です。
ヨーロッパ人種の起源の地域という説もあるくらい、古代から栄えた地域になります。
この地域に、スペイン政府が緊縮財政を敷くと、この地方の人たちの多くが重税感を感じるようになりました。
その反面で還元がなされない、だったらスペインから独立したほうがよいということになってしまったのです。
しかし、スペイン自体がこの地域なしでは存続できませんので、独立の可否を問う投票を先導した政治家が国家反逆罪として指名手配されてしまう帰結となりました。
スコットランドの独立運動
もともとIRAなどの対立によって独立運動が盛んな地域ですが、スコットランドは教育熱心な地域として有名です。
平均で家庭収入の5割ほどを子供の教育費につぎ込む地域になります。
ここにイギリスの緊縮財政が襲い、結果として子供に十分な教育費を求めることができなくなったことが独立運動の背景です。
スコットランド、ウェールズなどは、緊縮財政によって教育費から切り詰めたのは対照的な現象になります。
前述のスペインやドイツのように富める地域から大きな税金を負担するのに反対するのに対して、税金によって、教育費が賄えないということが独立運動の背景にあります。
イタリアの緊縮財政
イタリアの緊縮財政も、もともとドイツ支援の緊縮財政によって起こった政情不安になります。
イタリアの場合、ベルルスコーニなどの穏健な中道右派が政権を担っていましたが、ドイツ発の緊縮財政によって、政権が急伸左派に乗っ取られるようになりました。
ドイツによるEUの指導によってもたらされた結末ですが、この緊縮財政に反対する政権ができてしまったのです。
当然、緊縮を無視するイタリア政府の方針に対して、EUから罰則が通達されていますが、民主主義の根幹にかかわる問題になっています。
ルール上、EUはイタリアに罰金を科さなければいけませんが、それは民主主義の根幹に関わる問題になり、悩みは深いものになります。
当面の間、解決しないでしょう。
身に余る借金を背負った国の末路
このように先進国での緊縮財政は、内外の政治不安を引き起こし、ひいては体制の不安定をもたらすことになります。
こういった背景から、MMTという財政を無限に拡大する理論が生まれますが、あくまでも無限に拡大した財政に対して、お金を貸す人があっての話です。
現在は低金利時代になりますので、人々はよりよい利率の国に投資しようとしますが、いったんこのような低金利の状態がなくなってしまえば、一斉に投資家は資金を引き揚げにかかります。
結果として、借金の多い国は予算が組めずにデフォルト、破綻という道に進むことになるでしょう。
まとめ
我々にとって、収入が減れば支出を減らすのは常識ですが、近代国家の財政では、歳入が減れば逆に支出を増やさなければいけないという暗黙の了解も存在するのです。
MMTのような無限の借金という極端なことではなく、返済能力のある範囲で、やはり予算は拡大しなければならないと言えます。
また、景気の良いときはできるだけ予算の支出を減らし、債務の返済に回さなければいけないことも事実です。
債務を返済能力を上回って無限大に増やせば、将来世代にわたり返済に苦しむことになります。
しかし、不景気時に予算を拡大しなければ、危機の伝播はもっと早くなるということです。
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