サウジアラビアに対する正体不明の攻撃についての解説

今回のサウジへの攻撃は想定内!?

サウジアラビアの石油施設に攻撃がなされ、イエメンのフーシ派が犯行声明を出しました。

この犯行声明でフーシ派が犯人と考えるのが通常ですが、アメリカはイランが犯人だと言っています。

今回は、この背景と今後の展開についての解説です。

サウジアラビアの石油施設への無人機による攻撃に関し、イエメンのフーシ派が犯行声明を出したが…

実は、きちんと現在の中東情勢を理解している者にとって、今回の攻撃は間違いなく「ある」と断定できる事件であり、実際に弊社もこの攻撃を想定していました。

ただし、攻撃対象がサウジアラビアで、石油施設を狙うということまではわかりませんでしたが、イスラエルの総選挙までには起こるということはわかっていたことです。

このことを説明するには、現在の中東情勢を理解しなければいけません。

日本人は中東情勢を学習しておく必要がある

UAE、イエメン、イスラエル、イラク、イラン、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、シリア、トルコ、バーレーン、ヨルダン、レバノンからなる中東地域

中東は日本から遠い地域ですが、原油輸入に関して日本は中東に依存しています。

つまり、遠いようであって近い国になるのですが、中東情勢を理解している日本人はそれほど多くありません。

今回を機にある程度、中東情勢を学習しておく必要があります。

イランが核合意を履行していないとの理由から、トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を表明したのは今年に入ってからです。

そもそも、イランが経済制裁を受けていたこと自体をあまりよく知らない人のほうが過半ではないでしょうか。

そこで、なぜ、イランは経済制裁を受けていたのかを解説していきます。

イラン革命までの中東情勢の流れ

イランのテヘランにある聖なる防衛博物館にあるホメイニ師の蝋人形

そもそもイランは王朝であって、その王朝を崩壊させたのがホメイニ師です。

これは宗教革命であり、ユダヤ人が現地住人であるパレスチナ人を迫害して、その地にイスラエルを建国したことから始まっています。

第一次中東戦争をはじめ、イスラエルが中東諸国を相手に連戦連勝を続けたことが、中東のアラブ人の脅威となったことがきっかけです。

つまり、アラブ人やペルシャ人が覇権を握っていたそれまでの中東の権力構造が、イスラエルの登場によって変わってしまいました。

イランでは、イスラエル寄りに転換する王朝政治に対して、スンナ派の指導者であるホメイニ師が打倒を目指して革命を起こしたのです。

これがホメイニ革命とも呼ばれるイラン革命になります。

イランが国際社会から制裁を受ける理由

イスラエルが「首都」と宣言するエルサレム

ホメイニ革命は、イスラエルの権威を排除することを目的に達成されたので、それ以降のイランの国是は「イスラエルのせん滅」になりました。

イランは事あるごとにイスラエルにちょっかいを出しており、それが中東情勢を不安定化させる要因となったのです。

そして、イランは核開発を始めました。

イスラエルも核保有国ですが、敵国イランが核開発を始めたとすれば、イスラエルの存亡に関わる問題です。

そこでイスラエルは欧米に訴えかけ、イランの核開発を食い止める制裁を求めて動き出し、イラン制裁が発動されることとなりました。

もともとは、イスラエルが現地のパレスチナ人を追い出し、ユダヤ人入植地を作ったことがトラブルの原因なのです。

それに反発を続けるイランが核開発をしたから、世界から制裁を掛けられたのです。

トランプの難癖にイランはキレて当然

テロリストならずともキレて当然のトランプの言いがかり

トランプ大統領は、イランが核合意をきっちり履行していないと難癖をつけています。

こういう書き方だと、トランプ大統領を悪者のように感じられる方が多いと思いますが、この件に関してははっきりと断言します、難癖、言いがかりの類です。

イランは何一つ核合意違反をしていません。

そもそも核合意はイランにとって不合理、不条理極まりないものであり、さらにその合意を破ってもいないのに、破ったと難癖をつけられたら、あなたがイランであれば、いつ暴発してもおかしくない状況です。

アメリカの言い分はある意味正しく、イエメンのフーシ派が犯行声明を出していますが、その正体はほぼイランだと断定する意味がおわかりになるでしょう。

イランは、アメリカ自身が何をやってもおかしくないと考えている節があるから、攻撃後すぐに犯人はイランだと決めつけたような態度をとったのです。

イランの宿敵イスラエルの状況

9月17日にイスラエルの総選挙が行われ、リクードが過半数を割り込んだ

イスラエルの首相であるネタニヤフの経歴はまた機会があればお話ししますが、現在、首相を続けられるかどうかの瀬戸際にあります。

長年にわたりイスラエルの首相を続けていますが、夫人が首相官邸内の料理人使用をめぐって、本来は首相の個人費用負担なのに、政府の公金を使って雇ったというどうしようもない汚職疑惑が起こっています。

聞くだけでもバカバカしいのですが、この汚職をめぐり、ネタニヤフは検察から起訴される可能性が非常に高いのです。

そこに総選挙が重なりました。

選挙結果は、このコラムを書いている最中に開票中ですが(9/20現在)、ネタニヤフ率いる与党リクードが勝っても負けても、ネタニヤフ自身が検察に起訴される可能性が濃厚です。

たとえ選挙に勝っても、起訴されることによって内閣総辞職の可能性があります。

進むも地獄、戻るも地獄のイスラエル

「青と白」の指導者、ベニー・ガンツ

イスラエル国内にはさまざまな考えのユダヤ人がおり、野党連合である「青と白」はある程度、パレスチナ人に対して融和的な考えを持っている政党になります。

しかし、迫害され続け、不便で生活に適さない地域に住まわさせられているパレスチナ人は、イスラエルの不満分子であり、野党連合が勝っても不満が爆発する可能性が大きく、どちらにしてもイスラエルの不安定要因となっています。

ネタニヤフが勝っても負けても、進むも地獄、戻るも地獄の苦難の道が続くのです。

そのとき、イスラエルのせん滅を国是とするイランが何もしないわけがないでしょう。

イスラエル国内の動揺を狙うのは当然です。

アメリカがイラン制裁から離脱したのは、イスラエルの不安定要因が表出すれば、必ずイランが動き出すとの読みから難癖をつけ始めたというのが真相になるということです。

イランの権力構造

最高指導者、ハメネイ氏の肖像

サウジへの攻撃のあった際、イラン政府から「関与はない」との声明が出ました。

その代わりにイエメンのフーシ派が犯行声明を出しています。

にもかかわらず、アメリカはイランが攻撃を加えた可能性があると直ちに声明を出しました。

では、イラン政府が事実と異なることを言っているのかと言えば、それは違います。

まず、イラン政府というのは、最高指導者ハメネイ師の下に設置された機関です。

政府は最高指導者の支配下にあり、そこにイラン軍があります。

要約すれば、最高指導者の下に結成されたイラン革命防衛軍と政府のイラン軍は全くの別物というのがイラン政府の認識です。

イラン政府としては、今回のサウジ攻撃には加わっておらず、最高指導者の下に結成されたイラン革命防衛隊はイラン政府の職掌にありません。

イラン政府は今回のサウジ攻撃に関して、政府の管轄では何も行ってはいないと言明できるのです。

イランがアメリカに従う道理はない

ミサイルの前に立つ革命防衛隊の兵士

実際は、イラン政府よりも権力上、上位の組織である最高指導者の下に結成されたイスラム革命防衛隊が関与していると思われます。

イラン政府は関与していませんが、最高指導者に関しての行動をイラン政府は知らないよと言っているにすぎません。

アメリカがイランの関与を言うのは、政府は関与していないかもしれないが、最高指導者は関与しているでしょと言っているのです。

この権力構造をきちんと把握していないと、あたかもイラン全体が関与しているようにイメージしてしまいますが、実際はイランの一部が関与しているというのがアメリカの言い分になります。

ただ、イラン制裁に関しての歴史をきちんと把握していれば、そもそも欧米がイスラエルを擁護するためにイランの核開発を禁じただけの話なのです。

そして、アメリカはその約束を一方的に破り、イランに難癖をつけているのが真相だと言えます。

それにイランが従うかといえば、従うわけがないでしょと思うのが普通です。

今後のイラン・イスラエル関係の展開

リクードの選挙用チラシ

今後の展開は、イスラエルの総選挙結果によって変わってくるでしょう。

現在の首相であるネタニヤフは、パレスチナに対して強硬派です。

一方の野党である「青と白」は、宥和的な政策を訴えています。

この選挙によって、与党リクードのネタニヤフが政権を握るとなれば、イランの反発は継続するでしょう。

ネタニヤフが続投するのであれば、パレスチナ人への虐待がまた続くということで、さらなるイランへの反発が予想されます。

しかし、野党の「青と白」が政権を取ったとしても、基本的にはイスラエルに居住するパレスチナ人の権利は縮小されたままでしょう。

どちらがひどいことになるかと言えば、ネタニヤフ続投のほうがイランの反発は大きくなると言えます。

サウジとイエメンのフーシ派

内戦で荒廃したイエメンの都市タイズ

ただし、反発しているのはイランだけではなく、中東諸国のほとんどがイスラエルの存在を認めていないという事実も重要です。

サウジは、先住民であるパレスチナ人の肩を持ちたいのはやまやまでしょうが、シリア問題などでアメリカに軍事協力を仰がなければいけない状態ですので、安全保障上、アメリカに肩入れしているだけです。

また、イエメンのフーシ派という言葉が何度も出ますが、サウジは何年も前からイエメンの内戦に軍事介入しています。

その敵対勢力がフーシ派です。

サウジの軍事介入に対して、フーシ派の報復ということであれば、国際世論も納得しやすいという思惑もあるでしょう。

9月の末には通常の輸出が行われる!?

サウジの石油施設に対する攻撃によって原油価格が急上昇した

サウジの攻撃の被害が原油5000万バレルに相当すると言われています。

この量は、日本の1年の消費に相当する量です。

いかに被害が甚大であったかおわかりいただけると思います。

参考までに、日本は世界の原油需要3位の大きな原油消費国です。

これだけの被害を受けて、9月の末には通常の輸出が行われるという話は、誰も信じていません。

一応、サウジや日本、アメリカ政府の発表になりますので、関係者は歓迎のコメントを出していますが、日本の消費1年分が攻撃されたのに、9月末という話をいったい誰が信用するのでしょうか?

おそらく、サウジ側が軽傷であることを強調すれば強調するほど、イエメンのフーシ派と称する連中が再びアメリカ、イスラエル、サウジを攻撃するでしょう。

このままで終わるとは到底思えない

アメリカとイランの報復合戦は避けられない!?

ただし、この攻撃が土日に避けたことを見れば明らかなように、攻撃した側もマーケットへの影響を考えています。

アメリカは、イランとのデッドラインを米軍に死傷者が出た場合と明言しています。

ですから、アメリカとの交戦は避けたいという思惑はあるのだろうと推測されます。

そして、イスラエルを攻撃するのは直接的すぎますし、巨大な軍事力に過去、中東は何度も敗北していますので、これも考えにくいのです。

となると、残るはサウジという選択肢が濃厚になります。

どちらにしろ、アメリカの横暴に一矢報いたいという感情が攻撃側にはあるでしょう。

このままで終わるとは到底思えません。

金の価格について

風雲急を告げるアメリカ・イラン関係を前に金価格も予断を許さない

今回の攻撃を受けて金価格は急騰しました。

しかし、サウジの原油輸出は9月末には回復するという声明を受けて落ち着いています。

ただし、上記の説明のように予断を許さない状況です。


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