トランプ弾劾は成立するのか!?
日本では話題になっていませんが、アメリカではウクライナ疑惑をめぐって蜂の巣をつついたような騒ぎになっています。
今回はその解説です。
従前から何度も言うように、弾劾は成立しません。
冒頭から断言してしまいましたが、現時点でその可能性は極めて小さいということです。
ただし、大統領選、議会選後はわからないということだけは付記しておきます。
実は先週、全米各地で州知事選挙があり、ことごとく共和党候補が負けていることから、民主党が攻勢に出ているという事情もあります。
アメリカの有権者に、大統領が共和党であれば議会は民主党に任せ、権力の偏りをなくそうという意識が働いているものと思われます。
トランプ大統領が再選されれば、議会や州知事は民主党から選出されるという傾向が過去30年にわたってはっきりあるのです。
有権者の意向は、トランプ再選を念頭に州知事選挙に投票したとも言えると推測されています。
現状の上院は共和党、下院が民主党は過半数を握っており、2/3以上の賛成がなければ、トランプ大統領を弾劾に持ち込むことができません。
理由は、上院で必ず否決されるからです。
全米で弾劾の公聴会が公開されていても、結果は見えているのです。
民主党の党内事情と弾劾
ただ、この弾劾が来年11月以降まで審議され、民主党が弾劾に必要な議席数を確保すれば、ゆくえはわかりません。
ただし、イギリスのブレグジットでも見られたように、同じ議案を複数回にわたり議会で採決することはできません。
この点をわかっている下院の院内総務のペロシは、来年以降にトランプ弾劾を審議する予定でした。
ところが、民主党の大統領有力候補の一人であるバイデン前副大統領の息子が、ウクライナのガス会社に関わっていることから、それまではバイデンで決まったようなものであったのが雲散霧消し、この弾劾を呼び込む議会議員の声が大きくなった結果、弾劾調査が実行されたということになります。
ともかく、メディアでもよく報道されるように、現在の民主党の大統領候補は多すぎるのが実情で、中でもバイデンが有力候補だったのですが、スキャンダルによってペロシがコントロールを失ったのが実情でしょう。
民主党はすでに内部分裂しており、強硬派が勝ち目のない弾劾調査を行っているというのが推測になります。
いくら騒いでも、現状では弾劾は成立しません。
そもそもウクライナ疑惑とは!?
民主党の大統領有力候補であるバイデンの息子が、ウクライナのガス会社に勤務していたことがそもそもの契機です。
それに対してトランプ大統領が、「バイデンの息子がウクライナのガス会社で何をやっていたのか」と新任のウクライナ大統領に調査を要求したのが問題の発端になります。
そもそもアメリカ人や日本人で、ウクライナ状勢など知っている人など皆無に近いと思われます。
まず言えることは、ウクライナ国内の主要な暖房エネルギーは天然ガスです。
ところが、国内で算出される天然ガスはほとんどないので、ロシアから輸入することになるのです。
ヨーロッパ各国は2015年、ウクライナのパイプラインを通る天然ガスをウクライナの天然ガス料金未払いによってストップされたという苦い経験があります。
現在では、ヨーロッパの冬場の天然ガス需要は、ロシア産の依存は下がっていますが、ロシア産の供給が停止されれば重要な政治問題になることは変わりがありません。
ウクライナ国内ではほとんど天然ガスの採掘などありませんから、そのパイプラインは実質ロシア国有といっても過言ではありません。
つまり、アメリカ民主党大統領候補の有力者であるバイデンの息子がウクライナのガス会社に勤務しているということは、彼がロシア寄りではないかということが問題なのです。
ロシアのウクライナ侵攻
2015年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻し、世界各国から侵略戦争だと大きな批判を浴びています。
ただし、その報道は西側の見方であり、ロシアが一方的に悪いというわけではありません。
そもそもクリミア地域は親ロシア住民が多数を占めており、ウクライナで親欧米政権ができるたびに独立運動が起きてきました。
そのほか2つの地域でもロシア寄りを求める運動が起きます。
ウクライナの中でロシア人は約40%に上り、その住民がロシアに肩入れをすることを望めば、政権はそれを無視することができないということです。
実際、ウクライナでは欧米寄りと親ロシア派が拮抗しており、しばしば政治問題になります。
こうした中でロシアがウクライナに侵攻したことによって、欧米は一斉にロシア制裁を行いました。
これは、ロシアのプーチン大統領がクリミアに居住する旧ロシア人保護を目的に、侵攻を正当化しようとしたために起こったことです。
プーチン大統領はロシアの出兵を公式には認めていませんが、実際には東ウクライナでもロシア軍と思われる部隊が行動しています。
クリミア侵攻によって崩壊したG8体制
この侵攻で一番問題になったのが、G8体制の崩壊です。
従前はG7でしたが、そこにロシアを招きG8になりました。
しかし、結局、G7が西側諸国の組織であり、ことあるごとにロシアは自国の主張が全く通らないことに言及し、ウクライナ侵攻をきっかけにG8から離脱してしまいます。
これによってG8体制は崩壊しました。
また、日本の北方領土問題も悪化したのは、日本が欧米諸国と足並みをそろえ、ロシアに制裁を課したときからです。
現状では返還には無理があります。
プーチンの言い分
このように記すと、プーチン大統領が一方的に悪いような心象をお持ちになるかと思います。
しかし、実際はクリミア侵攻にはロシア人保護という名目があり、プーチン大統領は「法の正義に従う」と常々言っていることから、国際法の順守も意識しているはずです。
シリア内戦にロシアが介入したのも、ロシア人の保護という名目があります。
ただし、主権国家に軍隊を投入するのは、主権国家の承認が必要であり、そのプロセスを踏んでいないことが侵略行為に当たるというのが欧米側の主張です。
ですから、クリミアや東ウクライナに軍隊を派遣しても、あれはロシア軍ではないとプーチン大統領は言明するのです。
そもそも、地域にロシアに肩入れしてくれという住民が40%もいると、ウクライナ自身が不安定になるのは当然です。
問題の背景にあるオバマ政権の無策
問題は、アメリカ民主党大統領有力候補であるバイデンの息子が、ウクライナのガス会社に勤務していることにあります。
欧米にとって敵国であるロシア系統のガス会社に勤務しているだけでも、ヨーロッパにはガス供給の問題がありますので、「あいつを排除せよ」というのが当然の政治的要求になると言えます。
それにトランプ大統領が手を出しただけの話であって、完全にバイデンをつぶそうと思ったわけではないでしょう。
ウクライナにロシア軍が介入した後もアメリカの反応は遅く、むしろドイツのメルケル首相を中心に対ロシア政策を決定したことがあります。
はっきり言えば、オバマ政権はウクライナに無関心でした。
ウクライナ、シリア問題の端緒は、もともとはオバマ政権が矛盾した決定ばかりをしていたために起こったことであり、トランプ大統領の責任ではありません。
ウクライナ問題の歴史的意義
ウクライナ侵攻は、旧ソ連崩壊以降にロシアが仕掛けた初めての対外戦争になります。
シリア問題では海軍も動き、ロシアの陸海空軍がここ数年で初めて海外で活動をし始めた事例になります。
当然、アメリカにとってロシアの伸長は脅威であり、その前線であるウクライナに関与しないオバマ政権の無策の尻ぬぐいをトランプ大統領がしているのです。
その上に、ウクライナのガス会社は100%輸入に頼っており、うち90%以上がロシア産です。
ウクライナにはそのパイプラインを維持する予算がありませんので、実質はロシアのガス会社と推測されます。
それに対してヨーロッパ諸国は、ロシア産天然ガスの依存は減ったとはいえども大きな割合を占めるため、ウクライナを通過してポーランドなどに伸びるパイプラインに大きな関心を寄せるのは当然です。
そのロシアのガス会社にバイデンの息子が勤務しているとなれば、ヨーロッパ諸国にとっては決して軽視できない問題なのは容易に想像できるかと思います。
つまり、このウクライナ侵攻にはロシアの伸長という意味があり、ひいては東西冷戦の再びの勃発を意味しています。
ウクライナ問題と金
戦争といえば金ですが、現状、この情勢に関して影響があると思えません。
しかし、ロシアの周縁国、中国、トルコ、ウクライナなどは金の買い付けを増やしている国ばかりです。
これらの国のドル離れは顕著であり、その代わりに金を買っています。
こういった意味でも東西冷戦の再び激化ということが考えられます。
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