思い起こされる2014年10月の日銀の追加緩和
年初よりイランでの緊張から原油価格が高騰すると騒がれていますが、実際は違います。
今年の原油価格は去年と同様に低迷するでしょう。
今回は本稿初めての解説になりますが、原油の価格決定メカニズムの基本中のキホンになります。
2014年10月に日本銀行は、原油価格の低迷によってアベノミクスの効果が剥落しかねないということで、前年4月に続く追加緩和を敢行しました。
原油価格が再び高騰することを前提に日銀は追加緩和を行ったのです。
結果、効果は全く出ず、その後のチャイナショックによって景気は悪化の一途をたどり、その後のブレグジットやアメリカ大統領選挙の混乱によって世界景気は低迷しました。
原油価格は追加緩和前までは100ドルを超す水準でしたが、現在までその後100ドルを超すことはなく低迷したままになります。
基本的には日本銀行は、原油相場の基礎中の基礎を知らずに、いつか原油価格は戻ると信じて追加緩和を行ったのです。
日本のエリートですら知らない原油価格決定メカニズム
要するに、日本のアナリストや政策関係者の中に、原油価格が何で決定されているかちっともわかっていないのです。
年初のイラン関係の悪化によってガソリンスタンドに行列ができるというバカバカしい事態に発展しました。
そもそも日本のエリート中のエリートが原油価格の推移が何で決定されているかも知らないのですから、庶民がそのニュースにだまされてガソリンスタンドに行列を作るのは無理もありません。
日本経済にとって重要なエネルギー源である原油の見通しなど、誰も理解しないのです。
原油に関する誤解
原油に関してはさまざまな誤解があります。
温泉が各地方ごとによって湧出する源泉は似て非なるものであるのと同じで、原油も源泉が違えば種類も違うのです。
例えば、ロシアで掘り出される原油とイランに埋蔵している原油の種類は全く違います。
ところがほとんどの人は、種類が一緒だという認識なのです。
中東で産出される原油に日本が依存するのは、その理由があります。
その依存を中東からほかの地域になんてド素人がよく言いますが、無知としか言いようがありません。
日本の精製設備は中東産原油に対応したものであり、いきなりロシア産やアメリカ産の原油を持ってきても対応できないのです。
だから今後も中東依存度が9割を割り込む見込みはありません。
原油の需給特性
また、原油には年間を2回に分ける需給の特性があります。
例えば大豆や小麦などは、北半球では春に作付けして、秋に収穫する特性があります。
つまり、需給が一番引き締まっているのは夏で、需給が一番ルーズなのは秋という特性があるのです。
原油の場合は、1〜6月が不需要期、7〜12月が需要期になります。
このうち1年で一番の需要期になるのが12月であり、不需要期は1月です。
これは、暖房油需要で夏場よりも冬場のほうが1割原油需要が多く、その多くは12月に手当てされます。
11月から12月にイランが暴発しなかったのは、商売で忙しいからテロなど起こすヒマがなかったからです。
クリスマスに西洋社会が休暇に入るころにテロを再開し、新年のころにピークになっただけでしょう。
そして、1年で一番の不需要期である1月に、何も起こさないことはありません。
イラン情勢は予断を許さない
確かにイランがこれ以上テロを繰り返せば、国際社会からボイコットされる可能性が大なことから行動は控えるでしょう。
しかし、そもそもイランという国の本質を理解していないから、そんなことが言えるのです。
そもそもイランという国はイスラム・シーア派ですが、このシーア派の全世界制覇を千年、二千年単位で本気で考えています。
トランプ大統領が大統領選挙にかかりっきりになっている今年などは、非常に狙い目です。
このことは北朝鮮にも言えます。
大統領選挙の年にこの両国は暴れるのです。
その傾向があるからトランプ大統領が機先を制しただけで、北朝鮮はうまく機能し、イランは機能しないということだけになります。
ですから、イラン情勢は全く予断を許さない状況です。
きちんと基本を押さえておけば、今後原油が上昇する見込みがないというのが本当のところです。
原油の価格決定理論
金の場合、価格の変動要因は、
① ドルの変動
② 金利の変動
でした。
このうち①を原油を当てはめてみましょう。
下記のグラフは上がアメリカのWTI、下がアメリカの実効為替レートになります。
2014年に日本銀行が原油価格が低下して経済成長が見込めないことを理由に緩和を実行しましたが、その後、思惑通り原油価格が戻らない理由は皆さんにもおわかりになったと思います。
非常に簡単なことで、原油価格はドルと反相関の関係にあるのです。
ドルが上昇すれば金と原油の価格は下がり、ドルが下落すれば金と原油価格は上昇するだけの話です。
要するに、リーマンショック前に原油が120ドルを超えたのは究極のドル安であったから、価格が120ドルを上回ったのです。
しかし現状、アメリカドルは2000年代中葉の95近辺から120前半まで急騰しているのですから、約25%の上昇になります。
ゆえに、原油価格は昔のように100ドルや120ドルなどに達することはないということです。
つまり、イラン情勢で原油価格が急騰するようなことはありません。
あり得ないことを「あるある」と言って、メディアや専門家はウソをつきまくっています。
原油価格はドルに反相関しており、その構造は金と同じで、白金とパラジウムも同じです。
金利と原油の連動
金と金利は現在非常に強い相関関係にありますが、金と原油の価格決定価格メカニズムがドルに連動するのと同じであるならば、原油も同じはずという仮定を設定して観察してみます。
確かに金利が低下することによってリーマンショック前に高値を出していますが、その後も金利が低下しているのに価格は反落しています。
多少の相関はありますが、近年においては違います。
下記は2016年からの原油と金利の関係です。
金の場合は金利が上昇すると価格は下がっている反相関でしたが、原油の場合は金利が上昇すると原油も上昇するという相関関係にあります。
現在の原油相場は金利と相関関係であり、金のように反相関ではないということです。
2019年の中間から相関関係がないように見えますが、これはイラン情勢がサウジへの攻撃などによって、価格が高止まりしていることが理由になります。
本来、中東情勢などの緊張がなければ、原油価格は下がっていたでしょうが、下がらない理由ができただけの話です。
金利と原油の正の相関関係はなくなったのか?
原油は有限の資源であり、いつかは原油はなくなるなんて思っている方はいませんか?
小学校、中学校で学習したこの常識が、現在もそうだと思っているのは間違いです。
もはや原油という天然資源は、有限なものではないという学説まで登場しています。
要するに、テレビやスマホのように製造したければ、材料さえあればいくらでも製造できるかもしれない工業製品のようなものだという学説もあるくらい、原油の埋蔵量は過去にないくらい大きくなっているのです。
現在の可屈可能年数は50年と言われていますが、近い将来120年くらいになるだろうと一般的に言われています。
原油などの採掘に関して、アメリカのシェールガスを筆頭に最新の技術が次々と開発された結果、地球上に人類が採掘可能な油田がどんどん増えていくことが予測されているのです。
思えば石油ショックのころ、可屈可能原油が30年ほどしかないと一般的には言われたのが、今から10年後の2030年には120年分の可屈可能原油に増えるのですから、そもそも皆さんが小中学校の義務教育で学習した内容の価値が大転換しているのです。
つまり、原油は有限の資源という発想はありません。
今後の原油
ゆえに今後の原油は、高い値段をつければ、産油国が一斉に売り浴びせを行うというのが当然の世界になっていく可能性が高いです。
サウジアラビアの国営石油会社のアラムコは史上最大規模の上場を果たしたのは、世界の冠たる産油国であるサウジでも今後は石油で食っていくことができないという危機感の表れです。
地球上に原油はあり余っているのですが、皆さんは小さいころからの刷り込みで足りないと信じているのです。
原油の価格は白金と同様、需給がルーズで上がる見込みがありません。
イランが悪さをしてくれ?
上がる時期というのは、この時期イランが悪さをして、秋口にイスラム暦でラマダンの時期にまた今年もイランが悪さをするでしょう。
そうすると、イランが悪さをして石油が高騰をすると信じた連中が一斉に買います。
そこを信用で売ればいいだけの話です。
現在の原油相場に買いという概念は存在しなく、1970年から続いた強気相場の終焉に2020年はなるでしょう。
それが原油相場の見通しになると思います。
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