奈良 美智の表現形式
- 絵画
- 彫刻
- 造形
- 陶芸
奈良 美智作品の特徴と魅力・評価ポイント
特徴と魅力
奈良美智の作品のなかで頻繁に登場するのが、細い線で描かれ(ドローイング)、抽象化された「子供(圧倒的に少女が多い)」「動物」の絵や造形です。
一見かわいらしく見える、大きな目の少女や犬の表情をよく観察すると、「退屈さへの不満」「純粋な怒り」を秘めていることがうかがえます。
創作初期にあたるドイツ時代に確立したこのスタイルは現在も受け継がれています。
デッサンとは違うニュアンスを持つドローイングは、作家そして作品の本質的特徴を表わします。
奈良美智の絵は、このドローイングによって「紙という平面に物語空間を作ることができる」所が最大の魅力です。
また奈良美智自身がロックを愛する少年として成長し、長じてからも「Arctic Monkeys」ほかパンクロックを好んだことは若い世代にアピールすることにつながりました。
またオルタナティヴ・ロックの代表「Matthew Sweet」や少年ナイフ・ブラッドサースティブッチャーズ|bloodthirsty butchersらにアルバムジャケットのイラストを提供してきたことはさらに認知度を高めました。
またアーティストにも奈良美智ファンが多く歌詞にもよく登場します。
最近では「日向坂46」の2020年2月発売「ソンナコトナイヨ」にも。
評価ポイント
奈良美智が世界的なアーティストに上りつめた背景には、アートに無関心な人々も彼の作品と触れ合う機会が多かったことがあります。
広告や雑誌、パンクロックのアルバムジャケット、あらゆるメディアに登場したことは、美術品投資家たちの注目を集めることに成功しました。
そしてその根底には、彼が属したアートの潮流が時代とマッチしていたことがあります。
奈良美智をアートシーンの最前線に押し上げた原動力として、よく挙げられるのが1990年代に発生した日本のネオ・ポップムーブメントです。
MANGAやアニメーションなど、「ジャパニメーション」と呼ばれる日本発サブカルチャーは、欧米の人々に従来とは異なるエキゾチズムを感じさせ魅了しました。
これらのイメージとシンクロする奈良美智の作風が、うまく時代とマッチしたことは確かに彼の成功に寄与したといえるでしょう。
加えて、並行してNYを中心に起こった「シミュレーショニズム」ともに最先端のムーブメントとみなされたことも幸運でした。
奈良美智はじめ村上隆ほかネオポップ・アーティストを国際舞台に引き上げる大きな力となりました。
シミュレーショニズムの手法は、名画という既存概念、CMなどの大々的にメディア配信されたビジュアルを、作品に取り込んで全く違う世界を見せるというもの。
セルフィー・自撮りの元祖「シンディ・シャーマン/Cindy Sherman」、ピカソのサンプリングで知られる「マイク・ビドロ/Mike Bidlo」など、一躍時代の寵児となったNYのアーティストがひしめいています。
奈良美智も、「ニルヴァーナ」のカート・コバーン、日本のロックグループ「ミッシェル・ガン・エレファント」のジャケットをシミュレーションした作品があります。
リーマンショックから回復後、投資の受け皿として拡大を続ける美術品投資。
700億ドルに迫る勢いの熱狂する市場の最前線はアメリカです。
アート市場の本場で投資家たちの心をつかんだことは、ひとたびオークションに出品されれば億単位の金額で落札される商業的成功をもたらしました。
奈良 美智のプロフィール
幼少期
1959年青森県弘前市の旧家に生まれる。
年の離れた二人の兄がいる3人兄弟の末っ子として育つ。
また両親は共働きだったため、一人で動物と過ごし、絵を描を描きながら幼少期を過ごす。
青年期・学生時代
青森県立弘前高等学校時代にラグビーに目覚める。
その後美術予備校を経て武蔵野美術大学へ入学。
しかしヨーロッパとパキスタンへの旅行に学費をつぎ込み1年で中退。
その後愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻、同大学大学院修士課程を修了する。
大学4年生(24歳)のときには教育実習生として岐阜県立第一女子高校で教鞭をとった経験もある
創作初期
1988年にドイツに移住し「国立デュッセルドルフ芸術アカデミー」に入学する。
2000年まで続くドイツ在住期間はもっとも多くの作品数が多い期間であり、
同時に奈良美智のアイコニックイメージである、大きく見開き上目遣いに見上げる少女のモチーフが頻繁に登場。
ヨーロッパ各国で個展を開き成功をおさめたことから、国内外のアートシーンでコレクターから注目される存在となる。
創作中期
ネオポップ・アーティストの旗手として一躍アートワールドの中心に躍り出る。
国内巡回展「I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」、海外巡回展「Nothing Ever Happens」など古典活動を活発に行う。
ニューヨーク国際センター賞、芸術選奨文部科学大臣賞など多くの賞を獲得。
また趣味の域を超えた音楽好きは健在で、木村カエラと共演したNHK番組「ミュージック・ポートレイト」は多くのファンを魅了した。
創作後期・現在
2007年から滋賀県信楽町「陶芸の森」に滞在後、本格的に陶芸での作品作りを開始。
2018年栃木県那須塩原にアトリエ「N’s YARD」をオープン。
2019年からは「旅する山子」シリーズに取り組んでいる
2020年に入ってからも国内外で展示会scheduleが目白押しだったが、コロナウイルスショックによりいったん白紙に。
アメリカ「Los Angeles County Museum of Art(LACMA)」での大規模個展も延期。
奈良 美智の代表作
「深い深い水たまり」
初の画集のタイトルと表紙にも使われた
「春少女」
東日本大震災後に一時絵が描けなくなった奈良美智。
創作活動再開後初めて描いた絵
奈良 美智の市場価格・オークション落札情報
2020年2月12日 クリスティーズ・ロンドン
「NOWHERE LAND / DEAD OF NIGHT 2004」
2,291,250ポンド(約3億円)
2017年11月25日 クリスティーズ・香港コンベンションホール
「MIA 2001 22. MAR 01」
22,900,000香港ドル(約3.2億円)
2019年10月6日 サザビーズ 香港
「KNIFE BEHIND BACK」
195,696,000 香港ドル(約27億円)
奈良 美智の作品と出会える場所
青森県立美術館
犬の立体像「あおもり犬」やブロンズ像「Miss Forest / 森の子」ほか造形多数
東京都現代美術館(MOT)
「white night」「サヨン(莎詠)「奈良小屋の壁画」ほか
※3年間にわたる休館を経て2019年3月に再開。日本最大規模の美術館
金沢21世紀美術館
「Voyage of the Moon(Resting Moon)」ほか
本コラム執筆者と作家との出会い
はじめて奈良美智の絵を見たのは1993年のスウェーデンの映画「ロッタちゃん はじめてのおつかい」のポスターでした。
「やかまし村の子どもたち」「長くつ下のピッピ」でおなじみのアストリッド・リンドグレーン原作のこの映画のビジュアルを担当したのが奈良美智だったのです。
主演をつとめたブロンドおかっぱの「グレーテ・ハヴネショルド」ちゃんのわがままぶりがなんともかわいらしい子ども映画の名作です。
映画の世界観とマッチしたイラストに魅了され、大阪のギャラリー「graf media」で開催された「YOSHITOMO NARA+graf、「HOME」展に出かけたことを思い出します。
日本では、現在新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中となります。
美術館も自粛要請を受け、全国の国立美術館等は軒並みClosedですが、いつか通常の生活に戻れたら、このコラムを読んで頂いた方であれば是非『奈良美智展』に足を運んでみては如何でしょうか?
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