2020年6月11日未明、アメリカの金融政策決定会合であるFOMC(連邦公開市場委員会)終了後のパウエルFRB議長の会見を受けて、金価格が急騰し新値に迫る勢いです。
今回はFOMCの内容と影響について解説します。
6月11日のFOMCの内容まとめ
主な要旨と影響は、文章での説明だとわかりづらいので以下の図をご参照ください。
決定内容 想定される結果 影響
金利を2022年末まで ゼロ金利 アメリカ国債投資離れ
ゼロ金利を維持金融緩和を数か月行う ドル安 株・金高など現金以外の資産上昇
YCCコントロール検討 金利不安 金利の乱高下
では、順に解説していきましょう。
ゼロ金利期間は2022年末まで
新型コロナ禍の発生と同時にアメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が行ったゼロ金利への緊急利下げの期間の目途を、2022年末までと初めて公式に表明しました。
今も、そしてそれ以前もゼロ金利でしたので影響は少ないのですが、期間がどのくらい続くのかはお金を借りる人には重要です。
ゼロ金利が2020年6月までか、2022年末までかによって負担するリスクが異なり、長ければ長いほど借りるお金は違います。
今回の決定によってどのくらいで返せる借金を借りてもいいかの目途が示されました。
FRBはこの決定で、企業の経営活動のさらなる増進効果を狙ったのです。
一方でアメリカ国債に投資する人にとっては、金利がつかない期間が2022年まで続くのであまりよいことではありません。
国債に金利がつかないのであれば、当然投資を見合わせる投資家も出ることは必然です。
金融緩和の数ヵ月の維持
金融緩和とはマーケット、ひいては世の中にお金をばらまくことです。
ドルを供給するのですから、需要がなければドルは値下がり、すなわちドル安を招きます。
ただし、新型コロナ禍が発生した時は、どの企業も資金繰りをしなければならず、ドルを手当てしようするのでいくら供給してもドルが足りない状態でした。
現在は供給が充分に足りてドルは下落していますが、まだ当面供給を続けるというFRBのメッセージになります。
現状ドルの供給は過剰ですので、それが継続されると聞いたマーケットは円高になり、金価格はドル安だと上昇するので実際に上昇しているのです。
イールドカーブコントロールの先送り
イールドカーブコントロール(YCC)とは、イールドは金利、カーブは金利の推移、コントロールは金利の推移をコントロールするという意味です。
わかりやすい例が日本銀行の政策で、現在、短期金利をマイナス、長期金利をゼロ近辺と別々に誘導目標を置いています。
こうした誘導金利目標の操作をYCCというのです。
アメリカでの導入は初になるので数ヵ月前から検討を行っており、今回も検討中ということで先送りしました。
短期でお金を借りるのはお給料日までにお金を融資してもらう感覚に近く、消費目的やつなぎ融資、つまりは使ったらそれでおしまいというお金を指します。
一方で長い期間借りるお金とは、投資をしてそれを回収する意味合いで借りる割合が非常に大きくなり、つまりはお金の再生産の側面があるのです。
従前の取引では短期金利が1%上昇すれば長期金利も1%上昇したのですが、YCCでは例えば短期が1%上昇すれば長期は0.5%程度にするという形になります。
この効果は、金利が当面安い場面が続けば企業は安心して企業活動を行うことができ、金利の上昇に備えて対策を練る必要がなくなることを防ぐ意味があります。
FOMCの決定事項の影響
上記で説明したように、FRBはFOMCの声明文にて企業活動の活発化と雇用を促進すようなメッセージを送りました。
この影響は金利安、ドル安が続くということになります。
金においては【1】ドル安、【2】金利安が価格の変動要因ですので金価格は上昇する、実際にFOMC前まで1700ドル近辺だったものが1730ドルまで上昇しました。
しかし、従前までは上記の【1】ドルと【2】金利だけが金価格の変動要因でしたが、最近はこれに【3】GDPを加えており、このGDP、今回の声明文の内容では下がることになります。
まず大前提ですが、今マーケットで発表されているのは2020年の1〜3月期のGDPです。
アメリカでは年率で5%程度のマイナスになっていますが、4〜6月は30%のマイナスが市場予想になっています。
しかし、弊社は前々から言っているように15%程度のマイナスとしています。
不等式で金価格予測を導き出すと
30%でも15%でも4〜6月のGDPが下がるのは確実であり、金にとっては【1】ドル安と【2】金利安で上昇と見ることができますが、【3】のGDPは確実に下がることになります。
ここで不等式で説明しましょう。
金の価格
【1】ドル+【2】金利>【3】GDP=金高
【1】ドル+【2】金利<【3】GDP=金安
現状、金利はゼロでドルは下がってもマイナス1%程度に対し、【3】のGDPは7月末に10〜15%下がるわけですので金安が確定するのです。
ちなみに株価はどうなるか?
さらにいえば、株式が上がる前提条件も【1】ドル安、【2】金利安です。
これはアメリカ国内居住者にとってはどうでもいいことですが、海外からアメリカ株や債券に投資している人にとっては、ドル安という条件は株への投資意欲をそぎます。
以下の公式になれば、アメリカ株式や債券に投資しますか?
アメリカドル下落率>アメリカ株式の上昇率
いくらアメリカの株式が上昇してもそれ以上にドルの価値が下がれば、株価が上昇してもアメリカ株に投資する妙味はありません。
つまり、ドル安は株が上がる条件ですが、株価以上にドルが下がってしまえば今後アメリカ株は下がることになります。
ですから、FOMC直後からアメリカの株価はダウを中心に下がっているのです。
ナスダックだけが上昇していますが、いずれドルが株価以上に下がれば下がってくるでしょう。
同様に、株価が上昇していることに金が上昇した原因がありました。
いくらFRBが企業に活発に催促しても、ドルの価値が目減りしていけばGDPも下がっていくのは目に見えています。
ゆえに、上記の【1】ドル+【2】金利<【3】GDPとなり、金の価格は下がることになるのです。
貴金属価格予測まとめ
今までのようにドル安・金利安だからといって金価格が上昇するわけではありません。
プラチナ(白金)もパラジウムも同様です。
白金、パラジウムは不景気によって金ほど需要が強くありませんから、余計に下がりやすいだろうと考えています。
金の場合は、余っている金があれば必ず買うという投資主体があるので需給はひっ迫しています。
結論としては、それあってでも【3】のGDPの落ち込みによって金の価格は下がってくることになるはずです。
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