宝石と同じ価値を持っていた古代ガラス
古代ガラスが誕生した当初、ガラスは大変な希少価値をもつものでした。
そのため宝石と同質のものとみなされ王侯貴族たちのジュエリーを飾りました。
そして時代が進むにつれて、透明で光り輝くガラスは宝石の代用品として工芸品や手頃なアクセサリーとして多くの人々を楽しませてきました。
現在でもガラスは、ハイクラスジュエリーのイミテーション制作に使用されています。
ガラスと承知したうえで宝石の代わりとして利用することは悪いことではありません。
問題はガラスを「ガラスとしてではなく」もっと価値ある宝石として販売されることなのです。
実は今も昔も最も多く模造宝石の材料に使われるのはガラスです。
ガラスはどんな色にも染めることができ、様々な質感を与えることができるため、多くの宝石に似せて作ることが可能だからです。
また宝石の破損部分(フラクチャー)をガラスで充填することで、欠点を隠すこともできます。
このようにガラスがどのように模造宝石あるいは宝石加工に関わっているかを知ることは、ジュエリーに興味がある人には重要な知識のひとつです。
ここでは、模造宝石とガラスの関係、そして最新鑑定事情などについてご紹介します。
宝石の真贋見極めの難しさ
矢野研究所のレポートによれば、ここ数年日本国内における宝石や貴金属ジュエリーの消費は伸びてきています。
もしここにリセールされたジュエリー類の数字を加えれば、さらに数値データは大きくなることでしょう。
参照:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2117
しかし、マーケットの拡大の裏には「真贋判定」の問題がつきもの。
特にダイヤモンド以外の宝石は、「4C(ダイヤモンドの品質評価基準。カラット、クラリティ(透明度)、カラー、カット)のような確たる評価基準がありません。
またダイヤモンドは、信頼できる鑑定機関に4C基準に照らし合わせた「グレーディングレポート (ソーティングレポート)」発行を依頼することができます。
※記載内容を要約したカードは「ソーティングメモ」と呼ばれる
https://kinkaimasu.jp/about_diamond_sorting_memo/
しかしダイヤモンド以外の宝石についてはダイヤモンドと同等の鑑定結果を手に入れようとしても、確固たる品質評価基準を持たないため不可能です。
ダイヤモンド以外の宝石で入手可能な鑑定結果を記した書面は、宝石の名前や人工処理の有無などを記載した「鑑定書」のみなのです。
ガラスでつくられる模造宝石
模造宝石の見分け方のひとつに「気泡」の有無を確認する方法があります。
なぜなら天然の宝石に気泡が存在することはないからです
※琥珀など内部に液体存在すれば共存するケースはある
しかし昨今のガラスやプラスチック製造技術の向上により、気泡がほとんど見られないガラス製の「模造ヒスイ」ほか精巧な模造宝石の出現例もあり油断できません。
ここではガラスを用いた模造宝石の例をご紹介します。
模造オパール
メリカ人「ジョン・スローカム」によって開発された「スローカムストーン」は微小カラーセロファンをガラスで固めたものです。
オパール独特の遊色効果や半透明カラーが再現できたことから1970年代ごろ人気を博しました。
現在ではドロマイト(苦灰石)を配合した乳白色「合成オパライト」が最も普及している模造オパールです。
マラカイト(孔雀石)
銅山の副産物である緑の石「マラカイト」
この深い緑色は堂によるもので、ガラスに混入することによって容易に再現することができます。
有名なのがチェコ特産「マラカイトガラス」です。
第二次世界多選前から作られたアイテムはアンティークとしても人気があります。
ルチルクォーツ(針水晶)
日本人にファンの多いルチルクォーツは、ガラスでできたフェイク宝石の代表です。
たいていの場合不自然な金銭やラメが浮遊しており、すかしてみるとよくわかります。
全てのカラーストーン
エメラルド、ルビー、サファイア、アメジストなどおよそどんなカラーストーンにも利用できる模造方法が「ガーネット・トップ・ダブレット」です。
光沢の強い「アルマンディン・ガーネット(濃い赤色)」をの薄片を、再現したい宝石の色と同じカラーガラスを貼り合わせるのです。
アルマンディン・ガーネットの色は見た目に影響することなく、いかにも宝石らしい光沢効果を与えてくれます。
看破する方法は、石部分を横から見れば張り合わせた個所が分かります。
ルースの場合はテーブルを下にしてパビリオン側から見るとよいでしょう。アルマンディン・ガーネットによって赤い環が現れます。
ガラスで行われる宝石加工(エンハンストリートメント)
上質とは言えない宝石原石が、様々な加工を程化された後見違えるように輝く姿は驚くばかりです。
- 特殊なポリマーやワックス、プラスチックで含浸されたヒスイやエメラルド
- 高温で加熱処理されたルビーやサファイア
これらの加工(エンハンスメント トリートメント)された宝石たちは、生まれ変わったように鮮やかな色味を得ることができます。
しかし自然の姿を失うことによって、正確に鑑定された後の取引価格は半減することも。
そして宝石加工においてもガラスは大活躍。
主に宝石のキズを隠す、もしくは透明度を改善するために利用されます。
またガラスは他の加工材料よりも硬度を有するため耐久性が高い事も利点として挙げられます。
ここでは主だった宝石のガラスを使った加工とその効果についてまとめました。
ダイヤモンド
ダイヤモンド表面に達するような内部のひび割れがある場合、クリスタルガラス(鉛含有量が高いガラス)で充填します。
見た目上はひびが消え、透明度はアップしますがひびそのものは残ったままになります。
ルビー
ダイヤモンドよりもルビーは内部に多数のひび割れ(フラクチャー)があるケースがよくあります。
大量の鉛ガラスを充填することでひび割れを消します。
しかしダイヤモンドよりも硬度が低いルビーでは、より耐久性に問題が残ります。
サファイア
価値のない無色コランダム(化学的組成上はサファイアと同等)にガラス充填を行ってから青の染料で染色を行います。
2020年現在の宝石鑑定の最新事情
宝石の鑑定結果は価格を決める重要な要素。
特に4Cという厳密な品質評価基準を持つダイヤモンドは、鑑定結果によって価格ははっきりと差がつきます。
なにしろカラーだけでも23段階に分けて鑑定されるのです。
ここでは2020年現在最新の宝石鑑定上をピックアップしました。
宝石鑑定にもAIが活躍する時代に!
AI(人工知能)によって膨大なデータによる誤差のないダイヤモンド鑑定を目指す動きが活発化しています。
イスラエルのダイヤモンド鑑定システム開発会社である「サリネ・テクノロジー社」では、ダイヤモンドのデジタルレポート「サリネプロファイル」提供をスタート。
主に「カラー」「透明性」を重視した画像解析によってAIが判定します。
鑑定士の議了の差など数値化しにくい鑑定結果の精度を高める有効な手段と期待されています。
このAI鑑定を国内の宝飾ブランドで先陣を切って導入したのが「ケイ・ウノ」です。
2018年4月20日からAIが鑑定したダイヤモンドの販売をスタート。
スマホで顧客に魅せられるサリネプロファイルの評判は上々のようです。
A.G.Lが合成ダイヤモンド鑑定をスタート!
日本国内にはみずから「鑑定機関」を名乗る多くの宝石鑑定機関が存在します。
もし手持ちの宝石やジュエリーの鑑定を依頼するなら、GIA基準にのっとって正確な鑑定を行う鑑定機関を選ぶ必要があります。
条件を満たした信頼できる宝石鑑定機関を統括しているのが「一般社団法人 宝石鑑別団体協議会(AGL)」です。
まさに日本の宝石鑑定機関のトップであるAGLでは、合成ダイヤモンドについても鑑別書に簡易グレード表記を付記することを決定しました。
4Cグレード
- カラーレスダイヤ 5段階「COLORLESS(D-Fカラーに該当)」「NEAR COLORLESS(G-Jカラーに該当)」「FAINT(K-Mカラーに該当)」「VERY LIGHT(N-Rカラーに該当)」「LIGHT(S-Zカラーに該当)」
- ファンシーカラーダイヤは無数 「PINK(RED)」「ORANGE」「YELLOW」「GREEN、BLUE」「BROWN」等…
- クラリティ・グレード 12段階 「VVSクラス(FL、IFはVVSクラスに含む)」「VSクラス」「SIクラス」「Iクラス」で全12段階。
- カット・グレード 5段階 「EXCELLENT」「VERY GOOD 」「GOOD」「FAIR」 「POOR」
昨今のラボ・グロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド。2018年からデビアスも販売スタート)の急速な普及を受けた格好です。
※GIAのみグレーディングレポートは発行します。
今後合成ダイヤモンドの流通量が増加するだろうという予測は、国内外のダイヤモンド関連組織の共通認識であり、2018年には世界の有力ダイヤモンド産業組織「CIBJO」「WFDB」らが国際ガイドラインを発表しました。
ラボ・グロウンダイヤモンドは人工物といえど、「光学的」「物理的」な科学的特性は天然ダイヤモンドと変わりません。
違いはダイヤモンドができた「場所」と「時間」です。
天然ダイヤモンドが地球のマントル奥深くで何億年もの時間を経て生成されるのに対し、ラボ・グロウンダイヤモンドは実験室の器具の中で4週間から数か月で完成します。
価格が同クオリティの天然ダイヤモンドの半額以下、エシカル的観点からも大気汚染やテロリストの影響を受けないラボ・グロウンダイヤモンドは、近々ダイヤモンドマーケットの主力プレイヤーになるかもしれません。
現在ではラボ・グロウンダイヤモンドという呼び方もクールとみなされず、「クリエイテッド・ダイヤモンド」という呼び名がファッション界では主流となっています。
宝石を見極めるためにガラスをよく知る
技術が発展した現在においても、中世の昔同様に
- 宝石やジュエリーのイミテーション制作
- 宝石をよりよく見せる宝石加工
どちらにもガラスは最も重要な素材として利用されてきました。
宝石をよりよく見せることで、価値を向上させる工夫は古来行われてきており、GIAの「The Early History of Gemstone Treatments(https://www.gia.edu/doc/The-Early-History-of-Gemstone-Treatments.pdf)」ではその詳細を読むことができます。
単に真贋判定のためだけではなく、宝石をよりよく見せる技術のひとつとして、ガラスが関わる宝石加工について知識を得ておくことは重要です。
参考文献・サイト
日本の文献
谷一尚「ガラスの比較文化史」「ガラスの考古学」「世界のとんぼ玉」「古代ガラス 銀化と彩り」
吉水常雄「古代ガラス」「正倉院ガラスは何を語るか – 白瑠璃碗に古代世界が見える」
ほか
海外の文献
Julian Henderson「Ancient Glass: An Interdisciplinary Exploration」
ほか
参考サイト
奈良文化財研究所 https://www.nabunken.go.jp/
東京国立博物館 https://www.tnm.jp/
中近東文化センター http://www.meccj.or.jp/
ほか
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