皆さんもご存知のエリザベス女王。
今回はイギリスの歴史を紐解きながら、なぜイギリスのポンド貨(スターリング貨)にエリザベス女王が描かれているのかを考えます。
イギリスの栄華は女性が代表の時に現出する
1980年代にマーガレット・サッチャー首相が在任した当時、「イギリスの栄華は女性が代表の時に現出する」とよく言われたものです。
サッチャー首相は新自由主義を引っさげ、あらゆる改革を打ち出しました。
例えばイギリスには「ゆりかごから墓場まで」という言葉がありましたが、多くの負担を強いられていたこの社会福祉にメスを入れ、大改革を行っています。
ほかに有名な改革には金融ビッグバンがあり、これを受けて日本では資本取引に初めて課税を実現した日本版金融ビッグバンが橋本龍太郎内閣で成立しました。
その功績の高さから、イギリスの政治史上ではウィンストン・チャーチル首相と並び称されるのがサッチャーです。
そして、もう一人の女性代表は言わずと知れたエリザベス1世になります。
彼女の功績で有名なものは、「無敵艦隊」と呼ばれたスペイン艦隊の撃破でしょう。
覇権国家オスマン・トルコとスペイン「無敵艦隊」
現在では見る影もありませんが、当時の大国といえば、ヨーロッパ諸国ではなくオスマン・トルコ帝国でした。
前世紀までは中東、北アフリカ地域に派遣されたヨーロッパの十字軍をことごとく撃破していたのがオスマン・トルコ。
現在では信じられないでしょうが、14世紀にフランスが派遣した十字軍をトルコが壊滅したという事実は、当時のトルコの絶対的な軍事力を示すエピソードになるでしょう。
そんな世界随一の軍事力を持っていたトルコ海軍を破ったのがスペインだったのです。
スペインは、自国領がオスマン・トルコに侵略されたことを契機に戦争を始め、両海軍はアドリア海で陣を並べて激烈な戦いを繰り広げました。
勝敗を決したのは大砲の使い方です。
トルコにも大砲を製造する能力がありましたが、それを小型化する技術がスペインにはありました。
スペイン海軍といっても単なる寄せ集めなのですが、この大砲を各船籍に積んで勝利したことから「無敵艦隊」の誕生となります。
イギリス国教会の成立と定着
当時のイギリスは、ドイツで誕生したルターのプロテスタントの影響が出始めたころに当たります。
これはドイツでの活版印刷の発明によって、教会や司教といった限られた人のものだった『聖書』が一般の信者にまで行き渡るようになった改革の賜物です。
カトリックが見放された理由に、免罪符という自身の罪を高額で教会に買い取りそのお金で私腹を肥やしていたことがあります。
イギリスでも、エリザベス女王の先代のヘンリー8世が国教をカトリックに戻しましたが、女王は再びプロテスタント系のイギリス国教会を設立したのです。
スペインとイギリスの対立
エリザベス女王が国教をプロテスタントに戻すためにスコットランドのメアリー王女を殺害し、スペイン国王フェリペ2世の激怒を買ったことをきっかけに交戦が始まりました。
スペインはイギリスに向けて艦隊を出動させましたが、先のトルコと戦いによって戦費が大幅に不足。
その上にペストと思われる疫病が大流行というような状況で兵士もトルコと戦った指揮官も船上で病死。
結果、経験の浅い者たちが「無敵艦隊」を率いて遠征したのです。
それでもスペインには多少の勝ち目があったのですが、素人のような指揮官が国王フェリペ2世の意向に沿いすぎ、軍事上あり得ないようなミスを繰り返した末に敗退しました。
ゆえにイギリス海軍の勝利は奇跡ではなく、必然だったのです。
なお、当時のスペイン国王フェリペ2世はカトリック、一方のエリザベス女王はプロテスタントという構図。
つまり、この英西対立は宗教戦争でした。
ポンド貨と女王に見るアングロサクソン思想
エリザベス女王の最大の功績とは、イギリス国教会を国教にしたことにあります。
ポンド貨に女王が描かれているのは、イギリスを代表する宗教は国教会であるという意味で、それを安定的にもたらしたのはエリザベス女王という意味になります。
アメリカの民主党と共和党も、おそらくこの背景は保守派と呼ばれるのがカトリック的な共和党、時代に合わせて新しいことを積極的に取り入れるプロテスタント的な民主党という理解でいいでしょう。
カトリックは近年では離婚を認めるようになりましたが、いまだに中絶はアメリカで大論争になっているほど、欧米では宗教が根づいているのです。
ゆえに硬貨に描かれたエリザベス女王には自由と公正、そして新進気鋭を愛するイギリス国民という意味合いがあります。
そして、この発想をアングロサクソン思想といい、今日の覇権国家であるアメリカにも引き継がれているのです。
コメントを残す