8月27日のパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の発言が市場に大きな影響を与えています。
今回は、その解説です。
インフレに強い金
パウエル議長が「2%超の物価上昇を目標とする」と発言したことで、金に投資する皆さんが想起したことは「インフレに強い金」という言葉ではなかったでしょうか。
これは金に投資する者にって重要な言葉です。
インフレとは物価上昇のこと。
しかし、物価が上昇しても金が上昇しない場合もあります。
今回の新型コロナ禍では日米ともに物価が下がり、その後、金融緩和の影響もあり物価が上昇しています。
以下のグラフはアメリカの消費者物価指数。
以下は日本の消費者物価指数になります。
上記のように日米ともに物価は上昇し、金も上昇しているのは皆さんもご存じの通り。
物価上昇とともに金の価格が上昇しているのだから、「インフレに強い金」は当たっていると思う方も多いことでしょう。
確かにその通りですが、実際はインフレになっても金が上昇しないケースもあります。
今回のインフレ目標は金の下落を意味する
今回のパウエル議長の発言は、物価上昇目標を2%から2%超に変更したのですから、金の投資家なら買いと思う方は多いでしょう。
しかし、それは正解ではありません。
そもそもインフレとは通貨安から派生するものです。
つまり金の価格変動要因、
【1】ドルの上下動
【2】金利の上下動
【3】GDP
の【1】のドルに相当します。
日本でも円安になれば物価が上昇するように、「インフレに強い金」とはドルの価値が下落することを指しています。
今回のパウエル議長のインフレ目標、物価上昇の2%から2%超への変更は、実質金の下落を意味するということを解説したいのです。
2020年3月からの金融の動き
物価上昇とは、円安になれば日本の国内物価が上昇するという意味であるということは前述しました。
日本円の価値が小さくなるのですから、現金よりも株や不動産、金を持ったほうが目減りが少ないという意味になり、実際にその投資は増えます。
円安になれば金は買い、そして株は買いというようなまことしやかなウワサは、皆さんもよく耳にするでしょう。
円安になったから株が上昇した、金が上昇したというのは実際のことになります。
同様の理由に、金融緩和もあります。
金融緩和とはお金の供給を増やすこと、量が増えるのですから価値は下落します。
反対に実物資産である株や不動産、金は上昇することになります。
これが3月から金のマーケットで起こっていることです。
すなわち、米ドルも日本円も量を増やし、物価も急落し上昇した通りに金の動きもそうなっています。
もはや新型コロナ禍の最悪期を脱したということは…
新型コロナ禍の最悪期とは、世界的には4月から5月になります。
外出規制が発出され、消費は伸びませんから物価は下がって当然です。
同時にお金も大量に増やしたのですから、ドルや円の価値が下がり、金の価格が急騰しました。
9月上旬現在、4〜5月と比較すれば最悪の時期は完全に脱し、相対的に見れば、今は景気が回復に向かっているということになります。
最悪期に金の価格は急騰するのは当然ですが、経済がよくなるということはお金の量が増えてもドルが強くなる、そして物価は上昇するという形に変更になっているのです。
ドルが強くなるということは今までの一方的なドルの下落は訂正され、高くなるわけです。
ドルが高くなって金が上昇するわけがありません。
政治に逆らうな
今回のパウエル議長は、アメリカ経済をよくするために発言し、その方策、指針を明らかにしているわけですから、「政治に逆らうな」の格言通り、ドルは素直に考えれば強くなります。
たとえ物価が上昇しても、ドルが強い中で金が高くなる可能性はあまりありません。
なぜならほとんどの物価上昇とは、ドルや円が弱くなることによって発生するものです。
そのほかにも需給によって発生することもあり、例えば、任天堂のゲーム機やスマホの値段も人気があれば天井知らずになります。
でも、今はそこまで景気がいいことはないでしょう。
飛行機で自由に移動することもできませんし、東京都に至っては多少解除されたものの夜間外出禁止令みたいなものです。
でも、4〜5月から比べればましであり、景気は回復しています。
すなわちドル安や円安に向かうような状況ではなく、むしろドル高、円高が一段と促進されるような状況に、パウエル議長がさらにドルを強くするという前向きな発言をしたのです。
金の価格変動要因で見れば…
ここで円高と記しましたが、皆さんが想起されるドル円という相対的なレートではなく、実効為替レートに象徴される絶対値のことです。
おそらくドル円のレートは円安に向かいますが、絶対値では円高になるでしょう。
そして、価格変動要因【2】の金利が2%から2%超に変更になれば、金利は上昇します。
金の価格変動要因の【1】と【2】は下落方向を示しているのです。
【3】のGDPだけが少し難しいのですが、これは長期的と短期的な見方を分けて考える必要があります。
長期的にはパウエル議長がアメリカ経済をよくすると言っているのですから、【3】のGDPは【1】と【2】に反している形に見えます。
しかし、短期的に見れば失業保険申請者数は予想よりも増加し、思うように失業者の低下は進行していません。
失業者が多くてGDPが回復するか否かの問題です。
そして、最近発表されたフィラデルフィアやメトロポリタンなどの各連銀の景況感指数は軒並み悪化しています。
短期的には【3】のGDPは下を向きそうな感じです。
そうなると金価格はどうなるのかの問題です。
この記事のまとめ
今回の記事では、パウエル発言の指し示す物価上昇は金の買いにはなり得ない。景気の上昇に連動したインフレになるのでドルも円も絶対的に強くなり、金利も上昇。
短期的にはGDPも下落と、金の価格変動要因すべてが金の下落を示唆。
という記事でございました。
最後に、以下のドル建て金価格日足グラフをご覧ください。
黄色い30の足は現在上を向いていますが、これが下を向き始めてデッドクロスが完成した時がターニングポイント、本格的な金の下落へと向かうでしょう。
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