ロバート・モリスのアートスタイル

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表現形式

  1. 絵画
  2. 彫刻(造形)
  3. インスタレーション
  4. ダンス
  5. 建築

表現ジャンル

  1. コンセプチュアルアート
  2. ミニマルアート
  3. ランドアート
  4. プロセスアート

ロバート・モリス作品の特徴と魅力・評価ポイント

1970年代の代表作「ラビリンス」
参照元:By Adrián Estévez (Estevoaei) – Own work (Original text: self made), CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4289225

カットされた巨大なフェルト作品で知られる「ロバート・モリス/Robert Morris」ミニマルアートの先駆者として知られるアーティストです。

しかしモリスの創作活動をミニマルアートに限定することは到底不可能。

87歳の生涯の中で彼の表現スタイルは美術関係者を困惑させるほど目まぐるしく変化しました。

ロバートモリスとはどのようなアーティストだったのか?作品の特徴と魅力をひもといてみました。

特徴と魅力 

ロバートモリスに魅了される大きな理由は、ひとことで言えば驚くほどの多様性です。

  • アンチフォームと呼ばれる工業用フェルトを使った一連の作品群
  • 演劇やダンスなどのパフォーマンスアート
  • ハードゲイポルノ?と目を疑う挑発的なボディアート写真作品(「Labyrinths–Voice–Blind Time」)。
  • 壮大なランドアート作品

1人のアーティストがなしえたとは思えないほどの作品世界の振れ幅の大きさです。

また芸術理論の構築にも意欲的で修士号を取得し、今も彼の残した各論文は重要な資料となっています。

かようにロバートモリスのアーティスト人生は、禁欲的に一つの表現方法を追求してきた同じミニマルアートに属する

「ドナルド・ジャッド」「カール・アンドレ」「ダン・フレイヴィン」

らとは対極にあったといっていいでしょう。

プライベートもなかなかににぎやかで、合計3度の結婚生活を経験し

(あの有名すぎるポスター「Labyrinths–Voice–Blind Time」で誤解されがちですがゲイではなかった)

最後の妻ルシールとの間には娘ローラも生まれています。

さまざまな批判も浴びながら(多くはほかのアーティストの影響を「受けすぎる」とみなされたこと)、臆することなく自由に表現することを続けた姿にあこがれすら抱きます。

評価ポイント

抽象表現主義の絵画創作からスタートしたロバートモリスの創作活動は、その後パフォーマンアートプロセスアートに移行し、現代彫刻ランドアートなど様々な表現方法で作品を残しました。

なかでも、大きなフェルトが垂れ下がるアンチフォームと呼ばれる現代彫刻作品は最も代表的な作品として認知されています。

またパフォーマンスアートの小道具として始まったミニマルアート作品は、その多くが美術運動の基礎とみなされています。

モリスの作品世界には一貫性に欠ける、という見方もありますが、半面その多様性こそ最大の功績ともいえます。

うたかたのようにうまれては消える美術表現のトレンドは、時として多くのアーティストの才能を開花させることなく凡庸なまま終わらせるリスクがありました。

しかしモリスが臆せず実験的な手法を取り入れ創作スタイルをアップデートし続けたことは、結果的にアメリカを現代アートのハブセンターというポジションに導くことに寄与しました。

ロバート・モリスのプロフィール

小石の波紋をあらわしたステンドグラス
参照元:By Daniel Villafruela, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10620371

「地元の美術館でのスケッチに明け暮れた」幼少期

1931年 合衆国カンザスシティの郊外ミズーリ州で生まれる。

幼いころから漫画を真似て書くのがうまく、長じてからは現在のネルソンアトキンス美術館に足しげく通い、展示品をスケッチするようになった。

「表現スタイルの模索が続いた」青年期・学生時代

最初の妻シモーヌは舞踊家振付家としてモリスに大きな影響を与えた。
参照元:By Carol Petersen – Simone Forti Archive, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47195612

1948年 「カンザスシティ大学」で工学を「カンザスシティ美術大学」で美術を学ぶ。

1951年 カリフォルニア美術学校(サンフランシスコアートインスティテュート)に進む。

しかし1学期通っただけで米陸軍工兵隊に入隊。

1953年  オレゴン州のリード大学に入学し、心理学と哲学を学ぶ。

しかし2年後にはアーティストとしての道を進むと決めてサンフランシスコに移住。

リード大学の同窓生であるダンサーのシモーヌフォルティと結婚(後に離婚)

「ミニマルアートとダンス表現に目覚めた」創作初期

1960年  ニューヨークのハンター大学で美術史を学ぶ。前年から妻シモーヌと移住。

ルーマニア出身の大彫刻家「コンスタンティン・ブランクーシ」の論文で修士号を取得。

シモーヌの影響は大きくダンスや演劇作品に関わるようになる。

このころから絵画から造形に転向。

「多彩な表現に挑戦した」創作中期

モリスのミニマルアート表現の素材は、キューブ立体や板からすぐ工業用フェルトに変更された。

カット、折り畳み、またはドレープによって表現された「プロセスアート」はモリスを世に知らしめた。

同時に過激なパフォーマンスアートも盛んで物議をかもした。

ヌードの彼が登場する「I-BOX」

そしてナチスのヘルメット、サングラス、チェーンを肩にかけ上半身ヌードのポスター写真「Labyrinths–Voice–Blind Time」は彼の最も悪名高い行為とし知られる。

1970年代からはランドアートに積極的に取り組む。

1977年 アムステルダム市立美術館と共同でAmsterdam金工レリスタットのアートセンターに天文台を設計。

イギリスのストーンヘンジ、古代の太陽や星の観測遺跡にインスピレーションを得た。初期のランドアートで最も有名な作品となった。

「絵画に回帰しランドアートに取り組んだ」創作後期・現在

1980年以降ファイアストームシリーズに代表される絵画表現を再開した。

主に核戦争を想起させる終末思想、死をテーマとしている。

また1973年から取り組んでいる「目隠ドローイング(盲目の女性に指示)」は2000年代以降も取り組んだ。

Robert Morris Blind Time drawings, 1973-2000

https://www.youtube.com/watch?v=xRoi4hwPA14

2002年 フランス中世建築「マゲロン大聖堂」のステンドグラスを製作。水に落ちた小石の波紋を描いた

2018年  ニューヨーク州キングストンで肺炎のため亡くなる。

ロバート・モリスの代表作

ロバートモリス最晩年の作品
参照元:By G41rn8 – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=83796194

「Untitled」

題名を持たない一連の工業フェルトを使ったアンチフォーム作品はモリスの代名詞。

1967年から1996年のあいだの作品数は数が把握できないほど。

重力によって偶然生じる流動性と柔軟性を表現。以降プロセスアートの創始者と呼ばれるようになった。

「I-Box」

マルセル・デュシャンとジャスパー・ジョーンズの影響が色濃かった時代の作品。

(パフォーマンスアート「サイト」に登場するマネの「オランピア」を模した裸体の女性はモナリザの絵を題材にしたマルセル・デュシャンへのオマージュ)

大文字「I」の形をしたドアの向こうには、皮肉な笑顔を浮かべた全裸のモリス自身が立っている。

「無題(鏡の立体)Untitled (Mirrored Cube)」

鏡面を持つ正方形の立体(ミラーキューブ)が床に置かれ壁面の鏡に映り込む。

1965年に最初のバージョンがニューヨークで展示されて以来、現代美術史にとって重要な作品であるとみなされている。

「蒸気(steam)」

ランド・アートの先駆的作品として知られる。

ウエスタンワシントン大学の敷地内に設置されており、地面から蒸気を生じさせて噴水のように見せている。

「Boustrophedons」

タイトルは古代の筆記方式(1行ごとに読む宝庫を変え文字を反転させる)「牛耕式」を意味するギリシア語。

「モリスの最後の展覧会「Banners and Curses」に出展された。
ロダン彫刻にインスピレーションを得た黒い衣の人物が踊り又倒れる。

ロバート・モリスの市場価格・オークション落札情報

「無題」 72,100ポンド

2007年5月16日  サザビーズ/ロンドン

折りたたまれた巨大なフェルトが中央で開かれている。

対象でも泣く結果でもない、あくまでも「物事の変化のプロセス」に視点を置いた。

https://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2014/contemporary-art-day-auction-l14023/lot.105.html?locale=ja

「無題」  120,000米ドル

2007年5月16日  サザビーズ/ニューヨーク

2枚のフェルトを重ね上部を内側に折り畳みは止めで閉じている。

https://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2007/contemporary-art-day-sale-n08318/lot.275.html?locale=ja

「無題」 293,000米ドル

2016年5月8日  クリスティーズ/ニューヨーク

1990年代半ばからフェルトによるアンチ・フォーム作品はモノクロームが多くなる。

この作品もそのひとつ。

https://www.christies.com/lotfinder/Lot/robert-morris-b-1931-untitled-5994806-details.aspx

「無題」 458,500米ドル

2011年5月12日  クリスティーズ/ニューヨーク

4mもの巨大な一枚フェルトを使って重力によって垂れ下がる状況を「描写」することを試みた。

1960年代終盤に多く作られたロバートモリスのシンボル的作品。

https://www.christies.com/lotfinder/Lot/robert-morris-b-1931-untitled-5437515-details.aspx

ロバート・モリスの作品と出会える場所

滋賀県立近代美術館

工業フェルトによるアンチフォーム作品(無題)を所蔵

ロバート・モリスの最新トピックなど

破門が美しいステンドグラス。プロセスアートの先駆者モリスの真骨頂。 参照元:By GO69 – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43314557

ロバートモリス作品を常設している国内の美術館は多くありませんが、定期的に同時代のアーティストとの比較をテーマにした展覧会が行われています。

菅木志雄(2016)高松次郎(2019)との二人展によって、同時期に活躍したアーティストに共通する時代のうねりのようなものを私たちに見せてくれます。

ロバートモリスのように、生涯を通して新しい表現方法を模索したアーティストの場合、クリエイトされた時代によって好みが分かれるのも面白いところ。

作家のすべてを肯定する必要はなく、またモリス自体全くそんなことは望んでいなかったでしょう。

作品が作られた時代に作家が興味を持ち影響を受けたことの確認作業を楽しむ、ロバートモリスはそんな楽しみ方ができるアーティストです。


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