前回は2022年の金相場予測の【前編】として、予測の必須材料である2021年の金相場の変動要因の動きを振り返りました。
【後編】である今回は、これらの変動要因の2022年の動きを予測し、金価格の展望を解説していきます。
2021年の金相場と金の価格変動要因の動き
以下が2022年の金相場を予測する際の比較材料となる前年、2021年の3要因の動きを振り返った【前編】です。
まずは基本である金価格の3つの変動要因を確認しましょう。
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)
の上下動になります。
では、一つずつ2022年の見通しを追っていきましょう。
2020年の金融緩和と2021年のドル高
2020年はコロナショックの発生によって、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が大量のドル供給を行ったためにドルが安くなりました。
このような不景気な時代になると、どこの国も通貨安を誘導して輸出を促進したいと考えます。
しかし2020年はドルが安く、相対的に円やユーロなどは高くなりました。
それをいつまでもやっていてはアメリカの一人勝ちになるので、以下のドルインデックスチャートの通り、2021年からはドル高に誘導したのです。
また、下記の2021年の金利の推移を見れば、主に金利から誘導しているのは明らかでしょう。
つまり2021年はドルが高く、そのほかの通貨は安いという政策合意が作られていた可能性が強いということができます。
2022年の【1】ドルの見通し
では、2022年のドルはどうなのか?
まずFRBはテーパリング(金融緩和の縮小)を2021年11月から始め、今年のどこかの時点で利上げをすると言っています。
ドルが「ドル×金利」という計算式から成り立っていることを考えると、これはドルが上昇するという意味です。
では、そのほかの国はどうかでしょうか。
日本は金融緩和の縮小を2021年の年末に正式に発表しましたが、すでに2021年の4月からステルステーパリングを行っていたことを無視してはいけません。
ただ、アメリカのように政策誘導目標金利を上げるという声明を出していませんし、またユーロも日本と同様、金融緩和の縮小は発表していても利上げには言及していません。
つまりアメリカの金利だけが上昇し、そのほかの国は横ばいとなると、来年もこのドル高が続くと考えるのが妥当でしょう。
米雇用の状況からドルの展望を読む
下記の記事で言及したように、現在のドルはアメリカの雇用情勢とリンクしています。
2021年末に発表された4.2%の失業率は完全雇用に近い状態です。
季節性として、1〜3月は新規の雇用が増えない傾向があり、春にかけて新規に募集が多くなり、夏以降は年末商戦に向けて激増し、ピークは11月になるのが例年のアメリカの傾向です。
一方で、前年と比較して雇用がどうなのかを検証する必要があります。
大統領選挙の混乱もあり雇用が最悪な状況だった2021年の年初と比較すれば、失業率が6%と4%では今年の方がはるかにましになっています。
つまりドルは去年と比較して高いということになるのです。
ただし、去年1月のドルインデックスのレート約89に対して現在は96で、失業率は2%しか改善していないのにドルは7%も高い状態です。
傾向としては、ドル高は続くが少し高い水準にあるので注意ということになります。
金利とインフレのゆくえは?
金価格の二番目の変動要因である金利、つまりインフレはどうなるのかという問題があります。
2021年の前半は、2020年と比較してインフレ率が高くなりしました。
そして、後半は本物のインフレということになります。
当初、FRBのパウエル議長は今年の春までにこのインフレは解消すると説明しましたが、年末にかけて相当長期間のインフレが続くと説明しました。
過去の経緯からいえば、インフレは一度発生するとなかなか収束しないことも事実です。
そこでパウエル議長は、テーパリングを行うことによって原資である融資資金を封じ込める作戦に出ています。
買い占め封じ込めでインフレの抑制は成功するか?
今回のインフレは、物資不足に伴う供給不安から、企業が不足するであろう素材・原料を買い占めしている結果です。
ですから、金融緩和の融資で実行された資金をパウエル議長は封じ込めようとしています。
ただし買い占めを行った企業の多くは莫大な利益を収めており、こういう状態では人間の欲の顔が突っ張り、とことんまで買い占めを行うこともまた事実です。
現実に、原油は一度バイデン大統領が脅迫めいたことを行っても、再び価格が高騰してきています。
これはアメリカで資金が調達できなくても、ほかの国で緩和マネーを調達できるからです。
つまり金利の上昇、インフレ終息の見通しは立たないということになります。
2022年のGDPはどうなる?
GDPは、2020年の経済がマヒ状態よりもよくなることは確かで、その典型は2021年でした。
2020年と比較すれば、2021年が飛躍的によくなるのはわかりきったことでした。
2021年と2022年ではどうなるのかといえば、よくはなるだろうが成長率は悪くなるのはわかりきっています。
なぜなら、2020年よりもよくなった2021年と比較する2022年は、成長ペースが減速するからです。
金の価格構成要素の見通しをまとめると…
上述の金価格の変動要因の動向をまとめてみましょう。
まずドルは、雇用で見れば年末の失業率が4.2%と完全雇用に近い形です。
一方で、政策ではテーパリングから利上げに向かうアメリカと、テーパリングだけの日本とユーロを比較した場合、ドルが強くなることが予測されます。
つまり雇用は強くても、オミクロン株などの感染状況から低下する可能性があるということになります。
一方で政策は、ドル高になるということです。
次に金利はインフレが進行し、ドルは利上げが確実な情勢です。
一方で、金利の重要な指標である住宅は、テーパリングを止めたとしても需要の伸びは変わらないでしょう。
その根拠は、金利が1.5%、30年で2%では、大きく金利負担が伸びないことが上げられます。
しかし、現在は短期金利が上昇しているだけで、これが長期金利にまで波及すれば、長期金利も上昇する傾向になるでしょう。
現在の金利では、住宅需要が落ちるとは考えられず、金利も上昇するだろうということです。
GDPは、2021年と比較して確実に成長が減速します。
一方でこれは成長率、つまり相対値での話で、絶対値の話になると歩みは遅くてもGDP総額は確実に上昇してくることになります。
金相場変動のキーになるのは長期金利
以上、価格構成の3要素を見ても、帯に短したすきに長しで、金相場が大きく動くことを示唆するものがありません。
わずかに長期金利が上昇した場合、大きく金相場が下に行く可能性が高いということになります。
では、長期金利が大きく上昇するとはどういうことなのか。
長期金利の停滞は2000年代の初頭から発生している問題で、どこの国でも観察されています。
詳しくは以下の記事を参照ください。
短期金利はどの国でも上下するのですが、長期金利は年々下がっている傾向にあるのです。
長期金利の上昇はあり得る?
長期金利の停滞は、学術的には謎とされていますが、おそらく先進国で相次ぐ金融緩和の影響と考えられるでしょう。
潤沢なマネーが供給される一方で、貸し出しが増えないということです。
マネーの増加と比較し、飛行機や鉄工所のような大規模な融資を受けないと建設できない産業が大きく減少したことが原因でしょう。
ITの発展に伴い、巨額の融資が減った一方で、マネーは金融緩和と成長で伸びているので、長期金利が停滞しているということです。
今のところ産業構造の転換は目に見えて変わっていませんし、将来もそうなるような見通しもありません。
つまり突発的な例を除き、長期金利の大幅な上昇があり得ない社会状況となっているということです。
今年の金相場は…
上記の見解からは金相場は横ばいになるのが有利、上値はあまり見込めず、長期金利の上昇によって下落があり得るということになります。
例年8月に最低金利を付けるので、金の高値は今年も8月になる可能性が高いでしょう。
ただ去年の前半にドルにフォーカスが当たったように、金利からドルにフォーカスが変わればその限りではありません。
ドルはどう考えても高く、金利が横ばい、GDPは上昇となると、金は若干下向きということになります。
中国の爆買いという不確実要素にも注目!
わずかに覚えておきたいのは、中国の爆買いがまた開始されています。
これは言うまでもなく、2008年のリーマンショック以降、金融緩和によって中国の爆買いを誘発したことと無関係ではありません。
金の買い付けは中国がダントツのトップであり、今年もその資金余剰から買い付けることになるでしょう。
本来、金の需給は価格とあまり関係ありませんが、そこにフォーカスが当たると金を含む資源が何もかも買いになる可能性があります。
そのピークは、金利が安くなることが見込まれる8月でしょう。
この記事のまとめ
今回の記事では、金価格の変動要因の2022年の見通しを確認。
結果、ドル高、金利は横ばい、GDPはそこそこの上昇となり、金価格は横ばいなら上々で、若干の下落の可能性のほうが高い。
しかも仮に長期金利が上昇すれば、金は大きく下がるだろう。
またリーマンショック後同様に金の爆買いを始めた中国の動きにも注意!
こういう内容の記事でした。
改めまして、本年もよろしくお願いいたします。
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