バイデン大統領が「ロシアはウクライナに侵攻する」と言ってみたり、ロシアも侵攻を否定しないなど、緊迫感が増しているウクライナ情勢。
現在のサプライチェーンの混乱とウクライナ問題は、実は間接的につながっています。
ウクライナの問題の根幹
ウクライナ問題の根幹は民族問題等もありますが、結局は、数年前にアメリカがロシアに対して「NATO(北大西洋条約機構)を拡大させない」と口約束をしたことに起因しています。
ソ連邦崩壊後、ロシアは衛星国を多く構築しましたが、ポーランドをはじめNATOに加盟する旧ソ連圏の国々が増えました。
結果としてNATOの勢力が拡大し、それに対抗する仲間が減ってきたことがロシアの危機感だと思われます。
もっとも、イデオロギー的な争いは存在しないと考えます。
ソ連時代は完全な共産主義国だったロシアですが、一応現在はさまざまな批判はあるものの資本主義国家であり、民主主義国家です。
ゆえにこの対立の構造を的確に表したものではないと言えるでしょう。
ウクライナを巡る米ロの言い分
今回のウクライナ問題は、数年前にアメリカがロシアとNATOを拡大しないと口約束をしたのにもかかわらず、ウクライナが民主主義の結果、NATOに加盟する可能性がある点にあります。
ロシアから見れば、ウクライナのNATO加盟はアメリカが約束違反をしたと捉えるのが当然です。
アメリカからすれば、口約束をした覚えはあるが署名をしたわけではなく、国是として民主主義で決定したことは尊重するという態度になります。
ロシアとの約束は忘れたわけではないが、ウクライナが加盟をしたいといえばそれを拒否しないという主張になるのが自然の流れです。
ロシアからすれば、口約束とはいえNATOを拡大させないとアメリカが言った以上、ウクライナが加盟申請をしてきても受理しないと考えるのが普通のことでしょう。
しかし、アメリカは受理する可能性があることでもめ事が起こっているのが、ウクライナ情勢の概要になります。
ロシアの懸案事項
ソ連が解体されてロシアが誕生して以来、懸案になっているのは外貨獲得の手段です。
旧ソ連時代からことごとく工業化に失敗し、産業が台頭しない状態が現在のロシアになります。
外国と貿易をして外貨を獲得できるのは原油や天然ガスになり、それが国家の収入の6〜7割を占めている状態です。
これがロシアの弱点でもあり、強みでもあります。
言うまでもなくエネルギー価格が高騰しているときにはロシアは現金収入が増える一方、エネルギ―価格が低迷しているときには弱みにしかなりません。
その体質の強化をプーチン大統領は就任以来図っているのですが、以前よりはましになったとはいえ、まだまだその依存度が変わらないことにロシアの根本的な問題があるのです。
エネルギー価格高騰の余波
現在、天然ガスを筆頭にエネルギー価格が高騰しています。
このエネルギー価格の高騰は、ロシアから欧州への天然ガスパイプラインの送管の不安定さが結果として欧州のエネルギー価格の高騰につながり、それがアメリカに飛び火をしたかたちです。
アメリカでのインフレとは、アメリカの政権にとって致命的な失点であり、これをなんとしても防がなければいけないことに政策合意がされています。
すなわちアメリカでは、インフレを退治することが最優先の政治課題です。
コロナショックによって世界の中央銀行は大規模な金融緩和を実施し、世界で自由に売買できる現金が増えたことが今回のインフレにつながっています。
理由は、自由に売買できるお金が増えたことによって、経済が活発化するのはメリットである一方、それが買い占めの資金につながる可能性がデメリットになります。
その懸念は大規模の金融緩和以前からあったのですが、当時は経済の再生の方が最優先でした。
そこから約2年経過した現在、副作用として出てきたのです。
エネルギー価格高騰の罪をなすりつけられたロシア
欧州のエネルギー価格の高騰は、実際は買い占めによって起こっているのであり、ロシアはあまり関係がありません。
ところが欧州やアメリカがその責任をロシアに求めたことから、問題がウクライナに飛び火したのです。
実際の話、欧州に送るパイプラインが不安定になったのが事実なのか否かは確認ができません。
また実際に不安定になっているとしても、おそらく中国がロシア産の天然ガスを高く買い付けているからでしょう。
ここで以前にお伝えした、人民元高によって中国が世界の資源市場を買い占めているという記事を思い出してください。
現在のエネルギーや穀物、金属、半導体などの買い占めは、円高になれば日本が海外資産を買う行為が増えるのと同じで、中国でもそれが起こっています。
中国は世界の石油、穀物、船を押さえているのです。
一方で欧米、もちろん日本も中国と競り合っています。
その競り合いに欧米日は負けているということです。
理由は、中国の人民元が年間1%も上昇し、それに対して日本円は年間10%も売られているところに求められます。
同じ資金があっても99で買える中国と、110を出さないといけない日本、中国が競り勝って当然です。
中国の爆買い力の凄まじさ
今の世界の資源市場では、出物があれば中国が全てかっさらってしまいます。
5年くらい前ですが、国際市場で金の出物が10トンあったそうです。
入札者は高すぎるので安くなるまで待とうと考えていたそうですが、中国がいきなり出てきて言い値で全部買い付けしてしまったといいます。
例えば現在、世界の物流が混乱していますが、中国は値段に関係なく空いている船を全部買ってしまうのです。
一方の欧米日は、値段が高すぎるので下がるまでミニマムのオーダーしかしません。
何を買い付けるにしても、中国との競り合いになったら全部負けてしまうというのがおそらく現状なのでしょう。
ロシアの前提と欧米の前提
ロシアがウクライナに侵攻しようとしているのは結局、欧米が欧州のエネルギー価格安定のため、そしてインフレ阻止のためにトラブルになっているのが真相です。
ロシアには事を荒立てる誘因がありません。
原油価格が高騰した結果、天然ガス価格も上昇しているのですから、ロシアは笑いが止まらない状況になっているのは想像に難くないでしょう。
儲かっているときに、トラブルを起こして収入が少なくなるという間抜けをしたくはないはずです。
つまりロシアにとって今回のウクライナの争乱は、できるだけ最小限にしたいという誘因があります。
一方、欧米はロシアからの天然ガス供給を安定化したいという問題があるので、トラブルを引き起こしているということです。
ウクライナを巡ってロシアとNATOは激突するか?
ロシアから言わせれば、中国が天然ガスを言い値で買ってくれるのだから、欧米もそれ以上の値段を出せばいいということになります。
ところが欧米は、それをすればインフレが進行してしまうので飲めない、一方のロシアからすれば高く買ってくれる方に売るのは当然の理屈。
だったらウクライナのNATO加盟をちらつかせ、ロシアを怒らせるという手段に出たわけです。
結果、プーチン大統領はその罠に引っかかり、緊張が高まっているということではないでしょうか。
しかし、ロシアはウクライナで緊張が高まっても儲かっている現状は変わらず、商売の邪魔にならないようにと考えているでしょう。
アメリカはこれ以上のエネルギー価格の高騰は政権の土台を揺るがすので、下手なことはできません。
結果いくらウクライナで緊張が高まっても誰も得をしないので、あったとしても散発的な武力衝突くらいで、何も起こらないと考えることが見方としては妥当だと考えます。
今後の欧米と中露の対立の展望
問題は、このまま原油価格、エネルギー価格が高騰した場合、アメリカや欧州は困るという点です。
一方で中国とロシアは余裕綽綽。
ロシアにとっては原油価格が高いことは歓迎すべきこと、中国にとっては人民元高によって資源を争奪することはアメリカの傲慢さを訂正すべき手段となっています。
アメリカは一方的に攻められるだけ。
しかし、これは原油価格が高騰しているときの話です。
原油価格が急落したら、逆に中国とロシアは立場が追い込まれます。
つまり資源を買い占める資金がなくなり原油が安くなった場合、アメリカが有利になるということです。
このケースでは、日米欧はインフレへの免疫がついているので対処はしやすいでしょうが、原油価格の急落によって特にロシアは窮地に追い込まれるでしょう。
その際には本当にウクライナに侵攻する可能性がある、ということになります。
そしてもっと大事なことは、資源価格の全般的な下落によって中国も行動が変わるということです。
この記事のまとめ
今回の記事では、ウクライナ情勢の根幹には、数年前にアメリカがロシアに「NATOを拡大させない」と口約束をしたことがあることを確認。
また背後にはサプライチェーンの混乱、特にエネルギー価格の高騰があることを指摘。
そしてこのサプライチェーンの混乱を引き起こしている元凶は、人民元高を背景にした中国の買い占め。
現状、エネルギー価格の高騰で儲かっているロシアにとって戦争は悪手。
しかしこのエネルギー価格がひと度急落すれば、ロシアは窮地に追い込まれウクライナ侵攻という手に打って出る可能性は高い!
つまり原油価格次第でウクライナ情勢は変わるということ。
こういう内容の記事でした。
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