今回から2回にわたり、賃上げおよび賃上げ税制について解説します。
前編に当たる今回は、賃金が上昇しない背景にある日本のインフラと貧富の格差の関係の実態についてです。
日本人の生活実感
「働けど、働けど、楽にならない生活」と石川啄木が詠んだのは明治時代。
当時の日本は富国強兵の最中、封建制度を脱して近代的な資本主義に移行した時期です。
日本では戦後復興のことしか語られませんが、アメリカでは江戸時代から明治維新を経て近代資本主義を取り入れたことが日本の最大の成功と言われています。
皆さんは現在の生活が「働けど、働けど、よくならない生活」と思っていますか?
石川啄木が生きた明治から大正にかけて、日本は飛躍的に発展した時期ですが、現在も負けず劣らず発展しています。
以下のグラフは日本人の所得推移で、長い髭はボーナスを示しています。
青い濃い部分を見ればわかるように、バブルが崩壊した1990年代前半以降から賃金は伸びていません。
まさに石川啄木の詠った情景ではないかと憤るかもしれません。
しかし、しっかりと現実を考えてほしいのです。
明治時代より格段に生活水準が上昇している現実
例えば、IT革命は2000年前後から開始されたとされています。
1990年代はインターネットなど普及しておらず、2000年前後のインターネットの通信料は10分つないだだけで1万円近く取られるような料金体系でした。
それと比較すると1ヵ月1万円程度で通話もネットもできる今の時代は相当に安くなったと言えるでしょう。
お給料だけを見ると上昇していませんが、ネットがない時代と比較すれば生活は格段に便利になっているのです。
実は生活水準は明治維新のころのように各段に上昇していることを忘れて、給料が上がらないと怒っている人たちがいます。
例えば、明治維新から日本の生活が格段に便利になったのは電気です。
それまでローソクが灯りの源だったものが電気になってどれだけ私たちの生活が豊かになったのかを考えなければいけません。
東日本大震災の時、計画停電でどれだけ電気がありがたいものかを思い知った私たちですが、今はもうそんなことを忘れています。
日本の将来は暗いというデタラメ
今の世は、スマホがないと生活ができないと訴える人が本当に多いと驚きます。
便利なものがあると、人はそれがないことに不便を感じる錯覚に陥っているだけです。
一方で、スマホやネットがもたらしてくれた利便性は否定できません。
つまりお給料は増えていなくとも、生活は明治維新に電灯が普及したくらいのスピードで便利になっているのに、「働けど、働けど、よくならない生活」と勘違いしているとも言えるのでは無いでしょうか。
だから日本はダメ、将来は暗いというのはデタラメで、日々の生活はよくなっているのが事実。
もういい加減、日本はダメダメと言うのはやめにしませんか?
日米中の賃金の推移
以下のグラフはアメリカの賃金推移です。
これを見れば当然アメリカ人をうらやましく感じるでしょう。
2000年前後は10ドルだった時給が今25ドル超え、すなわち賃金は3倍になっています。
次のグラフは日本の賃金とドル円レートです。
日本の賃金が伸びないのは円高のせいと考える人も多いと思いますが、この20年間ドル円レートはほとんど動いていないのに等しいです。
反対に為替が自由化された1973年から1990年代まで円高ですから、賃金の上昇とともに円の価値も上昇しているので、ものすごい賃金上昇、つまり1970〜90年代に働いていた人たちが異常にお金持ちなのも理解できるでしょう。
実質の賃金は5倍にも10倍にもなっていたのです。
ちなみに以下は中国の賃金推移です。
。。。
もはや言葉も出ないというのが感想ではないでしょうか。
貧富や地域間の格差が激しい米中
実は、日本ではこれだけ物価が上昇して賃金が上がっても不満が少ないのです。
アメリカや中国と比較すれば、個人個人は不満に思うかもしれません。
しかし、アメリカや中国の貧富の差を見ればわかるでしょう。
例えば前述したインターネットで言えば、日本より広大な土地があるアメリカに縦横無尽にインターネットケーブルを敷設するのには無理があります。
一方で日本では、NTTが敷設した電話回線、稲盛和夫さんによる第二電電によって全国縦横無尽にインターネット回線を接続することができました。
このインターネットの接続によって、生活が格段に便利になっています。
一方のアメリカでは、有線でのインターネット接続は日本よりも数十年遅れていました。
これを全体の話に広げていくと、日本は橋や道路などの社会インフラがほかの国々と比較して非常に優れているとも言えるのです。
ですから、東京と地方の格差は広がっているとはいえ、アメリカと中国の都市部と地方の格差と比較をすれば可愛いものなのです。
各国で賃金上昇が異なる理由
一昨年に行われたアメリカの大統領選挙では、今のご時世に選挙が郵便投票で行われるという時代錯誤に驚いた方が非常に多かったのではないでしょうか。
アメリカでは南北戦争の時代からこの制度が当たり前のようにあります。
つまり道路などが整備されておらず、投票に行きたくてもいけない人が多数いたので、郵便投票が認められている経緯があるのです。
コロナ禍で郵便投票が増えた側面はあるものの、投票に行きたくてもいけない人が多数いることも、アメリカ国内では事実としてあります。
ですからいくらお給料が上がっても、裕福な地域に居住している方はその恩恵を被ることができますが、一方で移民で英語が話せず、地方の不便な地域に住んでいる人の生活水準は道路でさえ未開通の所があるので、貧富の差が増大するのです。
となると労働者の側から不満の声が上がり、それが賃金上昇に拍車をかけるということが起こるから賃金が上昇するのです。
一方日本では、庶民はお給料が上がらないと不満を漏らしますが、大金持ちと貧困層との生活差はあまり感じられません。
また世界類を見ない保険制度と、仮に働けなくても大丈夫な手厚い生活保護。
ましてや労働者は生活がインターネットによって便利になっているのですから、中国やアメリカのように声を大きくして賃金を上げろと要求しません。
アメリカは前述の通りの理由で富める者はますます富み、貧乏な人は社会的な生活コスト、道路がないので交通費がかかるので、生活はいつになっても豊かになりません。
その結果が現状になっているのです。
なぜ貧富の差が拡大するのか?
日本では年金は潰れませんが、支給は永遠に下がり続けます。
ただし日本は社会インフラが世界一です。
つまりお給料が上がらなくても庶民の格差がほとんどないのです。
普通の生活をしていたらホームレスになる可能性もありますが、死ぬことはありません。
アメリカや中国ではホームレスになれば死の現実が待っています。
だから全体のお給料を上げようとがんばっていますが、社会的なインフラがない地域ではそのコストがものすごくかかります。
結果として、貧富の差が拡大するのです。
モノの価格の低下が日本人の生活を豊かにした
日本人のお給料は、岸田首相がいくら減税効果によって賃金アップを優遇しても上昇しないのは当然のことになります。
経営者として、売上が上がらないのに賃金を上げろというのは無理筋な話でしょう。
実際に僕自身も、この全体主義的発言には馬鹿にするのもイイ加減にしろと言いたいです。
まず日本人の生活が豊かになったのは、相対的にモノの価格が下がっているからです。
つまり、携帯料金でも昔は1通話1万円かかることもザラでした。
今はかかっても20〜30円です。
そのくらい物価が下がっているのです。
日本の賃金が上がらないのは…
これは、人を介さない商売になっているからです。
かつて電話をかけるのであれば、まず電信電話公社(現在のNTT)にかけて交換手を呼び出し、相手が応答してから通話ができる制度でした。
今は人を介さない商売になっているわけで、コストが劇的に下がっているのです。
百貨店に行けば、エレベーターガールがいることが当たり前でしたが、今は自分で行く階を指定します。
人を介すということは非常なコストがかかることであり、日本はそのコストを減らすために異常とも言える努力をしてきたのです。
そして、オイルショックのようにたった5ドルだった原油が30ドル近くになったのですが、電気料金も下がり、すべて値下がりによって庶民の生活水準が維持できるようになったので賃金を上げろという声が上がらない状況です。
なぜなら上がってもせいぜい1%か2%であり、年収500万の人に年間5万円、10万円給料を上げると言っても、それを12ヵ月に分けると1万円にもなりません。
苦労して賃金アップを勝ち取ったとしてもその程度なので、普通なら経営側にその要求をしないでしょう。
なぜなら年間で5万円、10万円なら生活の改善を行えば生活水準を維持できるからです。
経営者に恨まれても、その程度なら仲良くやったほうがマシということになります。
この記事のまとめ
今回の記事では、米中と比べて日本はこの20年間、賃金がほとんど上昇していないことを確認。
一方で、社会インフラに関して言えば日本は米中よりもはるかに発展しており、貧富の格差も相対的には大きく開いてはいない。
すなわち、インフラに乏しい米中では社会生活にさまざまなお金が必要となり、さらに言えば文字通りの死活問題となるので、賃上げ要求も声高なものとなる。
日本では賃金が上昇せずとも貧富の差によって直面する危機がそれほど大きくなく、また上がったとしてもたかが知れている。
こうした背景があり、日本人は米中のように声高に賃上げを供給しない。
こういう内容の記事でした。
次回は今回の内容を踏まえ、それでも日本に賃上げが必要な理由について説明していきます。
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