今まで金の価格構成要因は、【1】ドル(人民元)、【2】金利、【3】GDP(国内総生産)と解説してまいりました。
ただし、この説明はあくまでもファンダメンタルズの側面からの価格構成要因です。
今回は、テクニカル的側面である内部要因について説明します。
内部要因分析とは?

内部要因とは、誰が買ってだれが売ったかを分析する手法です。
平成の前半までは証券市場にしても商品市場にしても、各取引員から売買の明細が発表されていたのですが、個人情報保護の観点から取りやめになっています。
つまり誰が売って誰が買ったかが不明確になってきたので、この分析手法は廃れました。
わずかにCFTC(米国先物委員会)による投機家、商業筋などの部門別での建玉状況は今でも発表されていますが、基本的に1週間遅れの発表なので何の意味も成しません。
1週間前は高騰していたのに今週は暴落していたということであれば、その構成主体の何が売ったのか、また買ったのかがわからなければ分析しようがないのです。
こういう理由で、最近では内部要因の分析を語る人、語れる人が極端に少なくなっているのが現状です。
価格高騰場面で内部要因分析が必要な時代になる

今までは、ドルの価格が上昇すれば金価格は下がり、金利が下落すれば金価格は上昇するというような面がありました。
今、アメリカの金利は高騰状態です。
アメリカの短期指標金利は1年間で1100%も上昇しており、この状態では金価格は暴落するはずですが、現実の金相場は非常にしっかりしています。
つまり【1】ドル、【2】金利、【3】GDPというファンダメンタルズからの分析は、昔の内部要因のように役に立たない状態になりつつあるのです。
金利やドルが高騰しているのに金が下がらないのはおかしな状況であり、結果としてほかの分析が要求されることになるでしょう。
そこで一番しっくりくるのが内部要因なのです。
金の内部要因とは?

金の主な取引とは、海外金と国内金の鞘取り(アービトラージ)になります。
これは金の価格がグラム建てであろうがトロイオンス建てであろうが、ドル建て、円建て、人民元建てであろうが同じ価格になることを「鞘取り」というのです。
例えばNYの価格がグラム3000円で日本が6000円とすれば、鞘取り筋はNYを買い、東京を売るという行動に出ます。
なぜなら、金は世界のどこに行っても同じ価格に収れんするからです。
安いNYを買い、東京を売り、いつか同じ価格になったときに決済するのです。
そうすれば間違いなく儲かるという図式になります。
これはFX市場でも同じで、ドル円、ユーロ円、ユーロドルは、計算式で答えが全て同じになります。
0.1円でも値段差が生じれば、割安な方を買い、割高の方を売るという鞘取りを仕掛けるのです。
これは人間にはできないので機械が行う、これをHFT(超高速取引)といいます。
「たかが0.1円の値段差でいくら儲かるの?」と思う方もいらっしゃるでしょうが、これを100万円単位ではなく10億円や100兆円単位で行うわけです。
そうなると100万円で行うよりも飛躍的に儲けは増えます。
そして必ず儲かるわけですから、いくらお金をかけても元金は回収できるのです。
ですから、こういった筋はいくらでもいます。
上記はFXや株式の世界では常に行われていることですが、商品の世界でも金の価格差を利用して、日本では主に三井物産のトレーダーがその業務を行っています。
商品市況の現物筋の動き

内部要因には、現物筋(商業筋)、ファンド(投機筋)、一般という3つの主体があり、今回は特に現物筋の動きを見ていきます。
金の投資の差益によって利益を確保している人間からすると、現物筋の考え方は理解できない方が多いでしょう。
世の中には金を保有することによって商売が成り立っている人たちがいます。
工業製品のメーカーやパソコンやスマホのメーカーにとって、金がなければ製品が製造できません。
そのほか日本の伝統である金箔などのメーカーも、金を保有していなければ商売ができません。
これらのメーカーは、その商品を売ることによって生計を立てているので、どんなに高くても保有する、つまり現物を買うのです。
しかしこのように高騰している最中だと、いつ暴落するのかと不安に怯えるため、彼らは先物で現物で保有している分を売る。
そして今のように価格が高騰すれば、売りを損切してさらにまた売ることを繰り返します。
水が高いところから低いところに流れるように、いつかはこの高騰相場も終了するので、メーカーとしては商品を作ることに専念するために、機械的にその作業を行うのみです。
そして最終的に暴落した場合、保有している金の時価会計の減損処理は先物でカバーし、企業や個人の決算は影響を受けない形にしています。
先物を売る、そしてその先物も値段が上昇すればするほど値洗い損になるので、いったん手じまい、また高い値段を売るということを繰り返しているのです。
実際の全体の流れは?

ここで全体の流れを見てみましょう。
現物筋以外の主体であるファンドや個人投資家は、この高騰状態では買いしか選択肢はなく、その買いを入れるためには売りのオファーがなければ買いたい値段で金を購入することはできません。
ところが現物業者は常に先物では売っているので、売りの注文は引きを切らない状態になります。
すなわち、買い方は常に買える状態になるのです。
そうすると現物業者、商業筋は損切をしてまた売るということの繰り返しになります。
となると金が1万ドルになろうが原油が500ドルになろうが、現物が必要な人たちは常に売り続けることになります。
だから、値段が商品相場は高騰しやすいのです。
そして実態とかけ離れても、ファンドや一般投資家が買い続ける限り、値段は高騰するのです。
金のヘッジは先物の金市場しかないゆえに…

これが株式になると、売る主体がありません。
ファンドは何かを買えば何かを売るというバイ-セル戦略を行っていますが、これは先物を売るのではなく、日経を買えば相対的に高いNYダウを売るなどの行為を行っているので、一方的な上昇にはつながりません。
ところが商品市場では、金であればヘッジで売るのは先物の金市場しかなく、しかも値段は世界でつながっています。
東京で現物で買ってNYの先物で売る、ということをやってもその影響は結局、東京にも与えるわけなので値段が高騰しやすいのです。
株式などの場合、例えば日経の個別を買って先物を売るということもできますが、金の場合はそれができません。
他のあらゆる選択肢を探しても金以外のヘッジ手段がないのです。
結果としてインフレはどこまで行くのか検討がつかない状態になります。
金価格高騰のサイクルに入った?

現在の日本のインフレは、小売価格はまだ上昇し始めたばかりでありますが、これからが本番です。
現物業者は高くなればなるほど売り、一方で現物を買うという行為に走るので、さらに値段が高騰するという連鎖になります。
そのほかの一般投資家やファンドはもっと買ってくる、という状態になります。
となるとこのインフレは終わるでしょうか。
通常に考えれば、株や円のバブルなど行き着くところはある程度見えているのですが、商品相場にはその終わりが見えないのが怖いところ。
だから金の価格がグラム1万円になってもおかしくはありません。
値段が高すぎるという基準が金利やドルの通りに動かないのですから、基準がないのです。
だから2万円になっても驚きません。
そのサイクル入りしていることは確かでしょう。
もはやこのインフレは止まらない

こうなると結論は、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長がこのインフレは終息可能と言ってはいますが、はっきり言って無理でしょう。
このインフレを免れるためには政策金利を0.5%などとけち臭いことをやっているのではなく、一気に20%近く上昇させるか、赤字国債覚悟の金融緩和をすぐさまやめるしか方法はありません。
しかしそれを行えば、世界は空前絶後の大不況になるので、バイデン大統領やパウエル議長、岸田首相に行える度胸はないでしょう。
つまり世界の指導者が変わるまで、このインフレは止まらないということです。
この記事のまとめ
今回の記事では、金価格高騰の背景を内部要因的側面、特に現物筋の動きから分析。
現物筋は、暴落に備えて先物で現物で保有している分を売るという行動を取っている。
現在のように金価格高騰の局面では、売りを損切してさらにまた売ることを繰り返す。
すなわち今や金価格が高くなればなるほど売り、一方で現物を買うという行為に走るために、さらに値段が高騰するという連鎖に入った。
そしてこのインフレを収束させるすべを日米欧など主要経済国の首脳は持ち合わせていないに等しい。
よってこの金の高騰は当面止まることはないだろう。
こういう内容の記事でした。
コメントを残す