アメリカのイエレン財務長官が6月7日の議会財政委員会でインフレ見通しを上方修正する可能性を公表しました。今回は、このインフレの見通しについて解説します。
食糧危機と石油価格
以下がイエレン財務長官によるインフレ見通し引き上げの可能性を伝える記事です。
引用元:ロイター
さて、前回は食糧危機について解説しました。
大抵の穀物は一年草であり、年に一度しか収穫されません。
また、ほとんどの穀物は北半球で生産されており、作付けから受粉期を上手に乗り切れるか否かによって1年の穀物需給は決定します。
今の時期に価格が下がらないということは、秋の不作はほぼ決定したようなものであり、おそらくこの秋は食糧危機になるであろうと説明しました。
その農地を耕すのはトラクターであり、アメリカでは農薬を散布するのに飛行機などを使用します。
その原動力は石油などの化石燃料であり、これらの価格が上昇すれば自然と穀物のコストも上昇することになるのです。
インフレの根源は石油価格にあり!
皆さんがお持ちのスマホにしても電気が主要な電源であり、そのほとんどは化石燃料によって得られていることが実態です。
原子力をも含んだ再生可能エネルギーの割合は、まだまだ化石燃料と比較して低い状態にあります。
今後SDGsブームによって化石燃料の割合が減るかと問われれば、おそらく減らないでしょう。
原子力を除く再生可能エネルギーは供給に問題があるからです。
晴天が続かなければ太陽光は役に立ちませんし、風がなければ風力発電はできません。
つまり石油価格の今後を占えば、このインフレの期間はなんとなくわかるであろうということになるのです。
石油の供給とシェール革命の弱点
石油の世界最大の生産国はアメリカ、次いでサウジアラビア、ロシアと続きます。
アメリカは、2000年代のシェール革命によって実に40年ぶりに産油世界一となりました。
皆さんの中には、アメリカがかつて産油国であったことを知らない方も多いと思いますが、世界の指標原油WTIはアメリカが昔、産油国であった証しでもあります。
さて、シェール革命によって大増産できた石油ですが、問題は供給の増減がOPEC(石油輸出国機構)のようにできないことです。
アメリカは自由市場なので価格が下がれば生産をやめ、上昇すれば生産を加速させることによって需給調整できる側面があります。
ところが2020年に発生したマイナス価格により多くのシェール業者が倒産し、今回の価格高騰場面では増えない現実があります。
これにはさまざまな要因がありますが、一番は、価格が激しく上下し過ぎるために生産者がコストを調節できないということです。
そのほかにも環境問題が発生しており、シェール地盤があっても現在のアメリカでは簡単には掘削できません。
代表的産油国サウジアラビアの動向
一般に流布されているとおり、産油国中でサウジアラビアだけが増産能力があります。
サウジとロシアは2020年、サウジが無謀な石油増産を試みた時点で対立しました。
しかし実際にはこれによってマイナス価格になったことで、サウジの失敗が明らかになり、OPECの主導権がロシアに移行しているのです。
ただし、オーナーはサウジのままになります。
つまりできるだけ供給を絞り、増産をしない体制を敷く、ということになります。
今回ウクライナ侵攻をロシアが決定したときに、ルーブル建ての原油取引をサウジが認めたことは注目に値します。
アメリカとの同盟は石油取引をドル建てで行うことが基本ですが、これをロシアの言い分通りルーブル建ての取引にしたということは、取引量が少なくても画期的なことになります。
上海ロックダウンと石油の需要
需要は主に中国、アメリカが消費しています。
その中国が6月1日から上海のロックダウンを解除したことから、今後の需要拡大に期待が持てるところです。
大事な点は、中国全土の感染状況など共産党が公表しない限り誰にもわからないのです。
いつまたロックダウンが始まるのか、誰にも検討がつかない状況である点には注意です。
中国は、世界で16%のGDP(国内総生産)を占める大国であり、アメリカでシェール増産分の40%の生産拡大を行った際、まるまる輸入してしまった石油輸入大国になります。
この石油輸入大国がコロナが発生してからほとんど輸入を止めてしまっていました。
この需要減は石油取引が始まって以来最大です。
その際にサウジは石油を増産したのですから、マイナス価格になって当然でした。
この中国は最大の経済都市、上海のロックダウンが解けたのですから、今後の需要が拡大するのは必然となります。
中国経済の落ち込みは、数ヵ月の影響は残るでしょうが、その後大きく回復してくることになるでしょう。
今、石油の増産は可能なのか?
まず三大大国、アメリカ、サウジ、ロシアの石油供給拡大は望めないということです。
ロシアはウクライナとの戦争がありますが、一度減産した大きな油田では、長期的時間をおかなければ再開できないという特性があります。
つまり増産ができるサウジ次第の側面がありますが、マイナス価格のような結果は二度と起こしたくないということを考えれば、増産には慎重になります。
アメリカはこれらの事情に合わせて、ベネズエラやイランなどの制裁解除を行うでしょうがこれも役に立ちません。
なぜなら、経済制裁を解除してもおそらく増産には5年はかかると思われます。
理由はロシアと同じで、一度減産した大きな油田はなかなか生産を回復することができないのです。
サウジの原油油田は、穴を掘れば石油が出てくるような状況なので、いつでも増産が可能ですがイラン、ロシア、ベネズエラの油田は複雑なのでそれに対応できません。
上海ロックダウン解除後に待つ世界
一方で、上海ロックダウンの解除を受けて、中国の莫大な需要が復活します。
結果はどうなりますか。
今の状況は完全に需要過多なわけで、価格は高止まりする傾向があるのです。
そうなれば、人や投資家はコロナショック後のマスク騒動の時と同じで買い占めを行います。
加えてこの価格崩壊は、十分な量が出てくるまで収まりません。
つまり近々ではサウジの増産、5年以内ではイラン、ロシア、ベネズエラの増産ということです。
この記事のまとめ
今回の記事では、このインフレの展望を、農作物や電子機器など多様な製品を作り出すに当たり不可欠になる石油の価格に求めて考察した。
ただでさえ石油不足の影響でインフレとなっているのに、需要大国である中国が上海ロックダウンから復活したとなると、さらなる供給不足が心配される。
結果、世界は買い占めへと動き出す。
このインフレを抑えるには、十分な量の石油が必要だが、産油大国のサウジは消極的で、ほかの産油国も技術上の問題などを抱え5年以上はかかる。
すなわちこのインフレは、まだまだ加速してゆくということ!
こういう内容の記事でした。
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