イランが核開発を再開する懸念が高まっています。今回は中東情勢を中心に、高騰するエネルギー問題をはじめとする世界情勢について考えていきます。
イラン核合意が崩壊の危機に
イランがIAEA(国際原子力機関)の査察に隠れて核開発を行っている懸念が高まっています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/944becabf2e4671607acea134584acb58d21cf78
引用元:時事通信社
これは、ロシアのウクライナ侵攻で石油の供給が足りなくなることから、いったんイランとの核合意から離脱したアメリカが再交渉に入り、年内には核合意に復帰する道筋に水を差したかたちです。
アメリカとしては欧州のエネルギー不足に対応するために、ベネズエラやイランの経済制裁などを廃棄する準備を着々と進めています。
この対応は、この2ヵ国が重油生産の比重が大きいことにあります。
なぜ今、シェールガスが使えないのか?
石油の世界ではシェール革命が起こり、その中心にアメリカがあります。
ただしアメリカで産出される石油は軽質油と呼ばれるもので、これを精製して高騰しているガソリンやジェット燃料などに投入するには相当なコストがかかるのです。
むしろ、重質油から精製油を製造する方が安く上がります。
日本が何年も前から中東産原油への依存から脱却できないのは、中東から主に重質油を輸入しているからです。
ロシアからも輸入していることが今回のウクライナ侵攻で明らかになりましたが、ロシア産も軽質油がほとんどで、石油製品を製造するのには不向きになります。
では、なぜ石油製品の製造に軽質油は不向きなのでしょうか。
その背景にあるのは、昨今の環境規制の問題で、日本では二酸化硫黄の排出基準が厳格に規定されており、それは欧米でも同じことです。
主に人体に悪影響を及ぼすのが硫黄分になるのですが、その除去装置、製油所にある精製装置は重油に対応したものになっています。
軽質油で行うためにはさらに設備更新をしなければなりません。
各石油会社は今後電気自動車に移行していく可能性がある中、ただでさえ国内の製油所を統廃合している段階で、収益の目途が立たない投資を躊躇するのは当然でしょう。
アメリカでも製油所の老朽化が常に問題となっていますが、同様の理由です。
問題をややこしくする重質油と軽質油の違い
アメリカの場合、メキシコ産やカナダ産が重質油になりますが、それでも足りないのでベネズエラやイランの経済制裁を解き、重質油の値段を下げようとしています。
この重質油、発電に当たっては石炭と並び優秀なエネルギー源になります。
しかし昨今の二酸化炭素の問題で、縮小するよう国際社会が促しているのは周知の通りです。
世界に軽質油があり余るほどあるのですが、原油の取引は重質油と軽質油を一緒に取引するので問題をややこしくているのです。
また経済的な合理性の問題もあります。
軽質油の価格は重質油と比較して高いのです。
日本の高度経済成長期に、石油の精製にはコストの安い重質油が重用されたことも今回の石油の需給を乱れさせる要因となっています。
サウジアラビアの産出油で一番高いものは、アラビアンスーパーライトといって軽質油ですが、需要は主に重質油になっているのが現状です。
主要産油国サウジアラビアと同盟国アメリカの関係
では、中東の各国の状況に目を向けていきましょう。
まずはアメリカの軍事同盟国、サウジアラビアです。
シーア派のイランやユダヤ教のイスラエルに対抗するために、アメリカに安全保障を頼っています。
一方で、ロシアのルーブル建て石油取引にいち早く応じ、経済は中国とロシアという二面性を発揮しています。
これは、バイデン大統領がカショギ氏暗殺事件をサウジの皇太子(MBS)の責任にした側面から関係が悪化しているものです。
サウジは親米から急速に東西両陣営にいい顔をする状態に入っています。
NATOの一員トルコとアメリカの関係
トルコは、今回のウクライナ侵攻では仲介の任に当たっています。
NATO(北大西洋条約機構)加盟国で西側の一員、つまり安全保障も経済も欧米に依存していた国です。
ところが現職のエルドアン大統領になってからは、敵国であるロシア製の戦闘機やミサイルなども購入する状態になっています。
つまり安全保障ではロシアの介入も許し、またトランプ時代には鉄鋼や自動車などの経済制裁を受けたことから、米ロ双方に肩入れする状態になっているのです。
バイデン政権以降、アメリカはトルコをほぼ敵国と認定している一方、NATOの一員としても認める、さっぱり理解できないような事態にまで関係性が悪化しているのが現状になります。
シリア、イラク、イランと中ロ連合
内戦で有名なシリアはロシアの同盟国で、領内にロシア海軍の基地がある一方、経済は欧米に頼っています。
イラクはフセイン大統領が倒れてからは、アメリカ寄りになっているのかと思えば、実際はイランの支配下に置かれているようなものです。
イラクに並んで、イエメンやヨルダンもイランの支配下に入りつつあります。
これらの国はアメリカの支配を嫌い、急速に中国・ロシア連合に近づいている状態です。
イランがシーア派連合を形成するためにイラクやヨルダン、パレスチナなどを自国寄りの世界に引き込もうとしているのです。
中東の親米国はカタールとイスラエルのみという現実
中東で親米なのがカタールになります。
カタールには米軍が1万人ほど駐留しており、ウクライナ侵攻に際して欧州への大量の天然ガス供給にすぐさま応じました。
ただカタールはそろばん勘定の面もあり、東日本大震災に際し、大量の液化天然ガスを市場価格の数倍という値段で日本に輸出しています。
今回の値段も判明しませんが、欧州はおそろしく高い天然ガス代を飲まされているでしょう。
カタールが親米を明確に示しているのは、アメリカとくっついていた方が儲かるという皮算用も否定できません。
こうやって考えていくと、中東地域でアメリカとともに歩んでいく決意を明確に示している国はイスラエルくらい。
ほとんどは経済的には中国、ロシアに肩入れする国の方が多いのです。
印パ対立に見る世界情勢の矛盾と現実
インドは歴史的に国境問題を抱えている中国に対抗するため、ロシアから武器供与を受けています。
ほかに隣国のパキスタンとも領土紛争を抱えています。
アメリカはそのパキスタンを支援しているので、インドに武器を供与できません。
結果としてインドは、安全保障ではロシアに頼るようになった経緯があります。
パキスタンは債務保証として中国に港を供与している状態です。
インドに限って見ていると、中国に対しては地図上、南からインド、北からロシアが挟むような形になるので、安全保障上合理的な判断になるといえるでしょう。
ところが敵国パキスタンが中国に港を供与しているのを見て、経済的にはアメリカに頼ろうという動きになっているのです。
このように世界の流れは、安全保障はアメリカ、経済的には中国に頼ろうという動きが鮮明になっています。
アジアでも特に東南アジア諸国のほとんどは、安全保障はアメリカ、経済では中国に頼る動きが鮮明です。
世界の趨勢と日本の立ち位置
日本人は、ウクライナ情勢では一方的にロシアが悪く、ウクライナは被害者というイメージを抱きがちです。
ところが先進国を除いたアジアや中東などでは、東西どちらの陣営にも仲良くするのがトレンドと言えるでしょう。
実際に日本も、経済的には中国に頼り、太平洋を挟んだアメリカには経済・安全保障の両面を頼っているという状態です。
しかし現在の日本国内は、一方的にアメリカの肩を持ち、中国経済を排他的に見る動きが台頭してきています。
もちろん、アメリカ抜きの日本社会は考えられませんが、中国経済も抜きには語れないのが現状でしょう。
この記事のまとめ
今回の記事では、供給不足と価格高騰が世界的な問題となっている石油について、重質油と軽質油の2種類があり、今主に不足しているのは重質油であることを確認。
アメリカのシェールガスなどは軽質油であり、実質、現状の問題に対応できない。
また主要産油国が多くある中東において、丸っきりアメリカに協力的な国はカタールとイスラエルくらい。
アメリカの軍事同盟国であるサウジも経済面では中ロ側。
イラクやイエメン、ヨルダンは反米国のイランに取り込まれいるのが現状。
しかし、こうした東西両陣営にいい顔をする国々は、アジアや中東ではむしろ一般的とさえ言える。
日本もしっかりと実情を見据える必要があるだろう。
こういう内容の記事でした。
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