サプライズとなった米雇用統計の結果が金価格与える影響

8月5日発表の米雇用統計は、発表前には弱いというコンセンサスでしたが、結果は非常に強いものとなりました。

今回は、この結果が金価格に与える影響について解説します。

金の価格構成要因と雇用統計

【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)

が金の価格構成要因になります。

なぜ金にとって米雇用統計が重要なのかといえば、上記の内、ドルが米雇用と同様の動きをすることを今まで何度も説明しました。

現在の金相場は米新規雇用者数の良し悪しに注目!

なおドルの強弱には主に2つの要因があり、もう1つはインフレ、需給になります。

雇用統計が弱いとなぜ予測されたのか?

雇用統計の予測方法は主に2つあります。

1つは、毎週木曜日に発表される失業保険申請者数です。

参照元:TRADING ECONOMICS

6月と比較して、7月の失業保険の申請者数は明らかに増加しています。

つまり失業者が増えており、雇用情勢は悪化していることになります。

もう1つは、毎月第4営業日に発表されるISM非製造業の雇用指数です。

今回は雇用統計の前日、8月4日に発表されました。

参照元:TRADING ECONOMICS

なぜISMの製造業の雇用指数ではなく、ISMの「非」製造業の雇用指数なのかといえば、アメリカの産業構造は製造業の比率がGDPに対して10%、対する非製造業が90%を占めるからです。

ゆえに非製造業の雇用の方が大きく、こちらの方が正確に雇用情勢を反映していることになります。

ところがほとんどのアナリストは、雇用統計予測のときに失業保険申請者数しか見ていません。

つまり、今回の雇用統計の非農業部門の新規雇用を失業保険の申請者数で予測しようとしたのです。

上記の通り、ISM非製造業の雇用指数は良化しており、この良化は失業保険申請者数と相反します。

ここに疑問を持たなければいけません。

失業とは文字通り仕事を失うことであり、雇用とは企業に就職することです。

この2つは正反対の意味なのに、ほとんどのアナリストは失業イコール雇用と考えたから間違った結果になりました。

失業者の増加とは景気が悪いことだから新規雇用も減るだろうという、安易な発想を持ったのです。

記録的水準のレイオフと記録的に好調な雇用

ほかの指標に、企業の人員整理をまとめたチャレンジャーレポートがあります。

参照元:TRADING ECONOMICS

6月は、企業の人員整理数が大幅に増えました。

これは、FRB(連邦準備理事会)の利上げによって利幅が確保できなくなった企業がレイオフを行った結果です。

7月も6月ほどではなくとも利上げを行ったので、多い水準に変わりありません。

つまり7月は企業の雇用調整、簡単に言えばクビが多発したのですが、新規の雇用も多かったことになります。

これで、上記の文脈を説明できます。

つまり記録的な水準のクビがあっても、記録的に好調な雇用(ISM非製造業雇用指数)もあったということです。

その結果、労働者の総雇用者数は以下のようになりました。

参照元:TRADING ECONOMICS

4月から総雇用者数は減っていますが、その後多少上下はあってもほぼ横ばい状況です。

2022年3月まで新型コロナで弱った雇用が順調に回復し、現在はコロナ前とほぼ同じような水準になります。

つまり雇用は、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が言うように「非常に強い」ということになります。

金利というもう一つの要因

ドルの計算式は「ドル×金利」です。

その金利は以下のようになっています。

参照元:TRADING ECONOMICS

2020年から毎年のように6〜8月に金利は下がってきており、2020年、2021年ともにその年の最低金利は8月4日でした。

2022年は最低金利ではありませんが、8月1日に直近の安値の金利をつけ、雇用統計の強さを見て反転しています。

この8月に金利が反転するのは年末商戦を控えて、毎年のように8月から資金需要が回復し、雇用も同時に回復するからになります。

つまり今後はドル高、金利高になるのです。

今後の金価格の展開

金の価格構成を構成する3つの要因を背景に説明しましょう。

【1】ドル高
【2】金利高
【3】GDP弱含み

という結論を上記から得ることができました。

これらは、この8月5日の雇用統計の前には以下のようになっていました。

【1】ドル安
【2】金利安
【3】GDP安

【1】と【2】が金にポジティブな影響を与え、【3】だけがネガティブだったのです。

ところが今回は、【1】から【3】までがネガティブになりました。

つまり、ここから大きく金価格が下落する可能性があります。

もちろんドル高、金利高、GDP安が続けばの話であり、日々これらの状況は動きます。

また、上記の価格構成要因のほかに需給があります。

現在、米中が台湾を巡り対立、露宇、アゼルバイジャン、スリランカ、ミャンマーなど対立を抱えている国は、ドル支配と決別するために一生懸命金準備を増やしています。

これらの国が今後も金準備を増やすことで、金の需給が非常にタイトになることでしょう。

目先は下がるが、いつまでも安いというわけはではないということになります。

この記事のまとめ

欧米との対立を深めるロシアのプーチン大統領をはじめ、中国など東側陣営は今、金準備を根拠にドル支配から抜け出そうとしている

今回の記事では、8月5日発表の米雇用統計が予想より良い結果だったのは、記録的水準のレイオフがあった反面、新規雇用が記録的に好調だったからであることを確認。

多くのアナリストは、失業保険申請者数のみを見て予測を立てたのでハズしたということ。

この雇用統計発表以前の金価格の構成要因の状況は、ドル安(金価格の上げ要因)、金利安(金価格の上げ要因)、GDP安(金価格の下げ要因)だったが、この発表を受けてドル高(下げ要因)、金利高(下げ要因)、GDP弱含み(やや下げ要因)へと転じた。

すなわち、金の急落も視野に入れなければいけないということ。

ただし、中露をはじめ東側陣営が準備金を増やしている状況なので、一度下がっても需給を理由にまた上がるだろう。

こういう内容の記事でした。


コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください