通常のお米は現在キロ500円くらいが流通相場ですが(因みに小売価格ではありません)、この9月には170円という破格お米が出回ることもあります。
何故かといえば、秋の収穫に備えヒネ(古米)を放出して倉庫を開けるためです。今回は、穀物インフレの動向を踏まえ、今後の金価格について解説します。
ハーベストプレッシャーの時期来たる
皆さんのお住まいの地域でも稲穂が黄金色となり、収穫を待っているでしょう。
北半球ではハーベストプレッシャー、つまり収穫期の価格圧迫の季節になってきています。
農家や農作物の販売業者がヒネ(昨年産)を放出し新しいものを出荷することから、価格が下落する時期です。
それでは、今年の傾向を見てみましょう。
世界の三大穀物とは?
世界の三大穀物は小麦・大豆・トウモロコシ(コーン)です。
1.小麦
日本では小麦は、政府が海外産を全量買取販売する統制価格の形態をとっていますので、小麦価格は比較的安定しています。
しかし、昨今の穀物インフレで政府の買取価格が上昇したため、消費者向けの販売価格が上昇しています。
それでは困るということで、岸田政権は9月・12月の販売価格の見直しを凍結しました。
大豆
大豆は納豆や味噌、醤油の原材料であり、日本人にも用途の多い穀物ですが、絞りカスがサラダ油になるので、全世界的にも需要の高い作物です。
とうもろこし(コーン)
コーンは、日本では人の食べ物という認識が高いですが、実はニワトリや豚の飼料用穀物という意味での世界三大穀物になります。
すなわちコーン価格の上昇は鶏肉、豚肉、牛肉などの価格の上昇を意味するのです。
一番生産しやすいのが小麦
上記が三大穀物の概要ですが、この中で一番育てやすいのが小麦。
小麦は北半球でも南半球でも生産され、春小麦と冬小麦の二毛作が可能ですから、年がら年中出回っています。
今回のウクライナ侵攻で、ウクライナ産の小麦が輸出できないと騒がれましたが、実際は石油やガスと違い、いくらでも代替可能な穀物です。
ただし、ウクライナはヨーロッパ最大の穀倉地帯なので価格が安いのです。
その結果、新興国などで困る国があるということで問題になりました。
一番育てにくいのがコーン
反対に一番、育てにくいのがコーンになります。
コーンは、背の高い穀物です。
この背の高さがあだとなり台風、ハリケーンがコーン畑を直撃すると壊滅的なダメージになります。
その上、植え付けも難しく、5〜6月の天候不順がそのまま収穫に影響するナイーブな食物です。
ですからコーンが取れないと大抵の場合、小麦も大豆も取れません。
反対にコーンが豊作であれば大抵の場合、大豆も小麦も豊作になるのです。
すなわちコーンの価格を見ておけば、全体的な穀物の市況がわかることになります。
コーン価格と金価格の変動要因の関係とは?
コーンの直近1年間の価格推移は下記のグラフのとおりです。
3月くらいからインフレが焦点となり、価格が上昇してきています。
また2月24日からウクライナ侵攻が始まり、ヨーロッパ最大の穀倉が閉鎖されたので、価格上昇に拍車かかりました。
コーンの価格構成要因は、金価格の構成要因でもあるドルになります。
コーンは20年も30年も保存できないので、金利はあまり関係がありません。
ゆえに9〜10月の新物が出回る時期になると、農家は前年取れたコーンをヒネとして放出してしまいます。
関係があるとすれば、短期金利くらいです。
GDP(国内総生産)に関しては、景気がよくなれば当然食糧出荷も増えるので、多少は関係があるでしょう。
しかし世界的に人口が増え、豊かになっているので食料の需要は増えることになります。
その上、不景気でも食料需要はそれほど減らないので、金利同様、あまりGDPにも影響されません。
ドル価格とコーン価格の関係
では、いかにコーンの価格がドルと密接にリンクしているのかを見てみましょう。
まず今年1年間の相場を見ると、ドル(緑線)が上昇するとコーン価格(青線)も上昇するという関係性で、ドルとコーンの価格が反相関の関係ではありません。
ところが過去25年間で見てみると、緑線のドルの価格が高いと、青線のコーンは安く放置され、反対にドル価格が安くなるとコーン価格が上昇する関係は金と一緒です。
上記の比較から、直近1年間のコーン市場は、本来ドルが上昇しているので価格が下落するはずが、反対に上昇してしまっていることになります。
さらに9月相場に入ると新しいものが順次収穫されるので、古いトウモロコシの価格は安くなるものですが、反対に上昇している状態です。
ドルとリンクしている相場が「通常相場」であれば、供給が不足して価格が上昇するような相場を「需給相場」といいます。
上記のコーン価格の推移を見れば、WHO(世界保健機関)やFAO(国際連合食糧農業機関)が言う今年の「穀物危機」は現実的な問題だとわかるのです。
コーン相場から見る金相場の今後
以下のグラフは金価格とドルの関係です。
5月以降、ドル(青線)が上昇すれば金(緑線)が下落するという通常相場になります。
それ以前は金利が下落しており、ドルの価格はあまり動かなかったので、金利にリンクした動きでした。
ところが4月からFRB(連邦準備制度理事会)は金融緩和の縮小を決定して金利を引き上げたので、ドル高、金利高で金の価格は下落したのです。
この金利高、ドル高は当面続く見通しです。
ところがウクライナ侵攻を受けて、東西両ブロックのデカップリングが鮮明になっています。
東側ブロックの筆頭である中国やロシアのほか、トルコ、メキシコなどの中央銀行が積極的に金を買いつけているのは有名な話です。
ドルほど自国通貨に信用がない新興国諸国が、その信用を裏付けるために今まで以上に金を積極的に買い付けてくるのは、現時点では不可避のような状況に見えます。
つまりコーン価格のように、金もいずれは需給相場に移行する可能性が高いといえるのです。
この記事のまとめ
今回の記事では、世界三大穀物の中でもその指標となる上記のコーン価格の推移を見ると、今年の「穀物危機」は現実的な問題だとわかることを確認。
すなわち現在のコーン価格は「通常相場」から、供給が不足して価格が上昇する「需給相場」に入っている。
現在、コーン価格同様にドルを価格の構成要因とする金は、依然として通常相場ではあるが、ドルからデカップリングされた東側新興国が自国通貨の信用の裏付けとして金の買付けに走れば、金もいずれは需給相場に移行するかもしれない。
そしてその可能性は、現状では高いと言わざるを得ない。
こういう内容の記事でした。
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