ウクライナ侵攻を受けて、欧米ではロシア経済が疲弊する・潰れるなどとまことしやかに語られています。
果たして本当かどうか、ロシアとウクライナの経済の実情を国家の準備金の観点から検証してみましょう。
「戦時の金」「有事の金」の意味
戦争には莫大な戦費がかかるので国家財政が圧迫されます。
第二次大戦後に日本やドイツがハイパーインフレになったのは、膨大な赤字国債を発行した結果、通貨が暴落したからです。
相対的に金は、国家の信用などとは関係がないので価格が上昇します。
ゆえに現金よりも価値が棄損しない金に人気が集まり、戦争で莫大な借金を負った国家の通貨は売られ、金が購入されるので「戦時の金」と言われるのです。
ただし現代の戦争は、国家財政が崩壊するまで戦費を使わないので、金は上昇しなくなっています。
露宇いずれが戦費調達が困難か?
それではロシアとウクライナ、どちらが戦費の調達が困難なのかを検証しましょう。
まずロシアの主力輸出品目は、天然ガスや原油です。
https://comtrade.tradingeconomics.com/comtrade/share?r=ukr&c=0000&v=treemapcategories&t=2&title=
参照元:TRADING ECONOMICS
一方、国土では戦争が起こっているウクライナは、鉄鋼やシリアルが主な輸出商品になります。
このうち鉄鋼は、東部が欧州最大の鉄鉱石の産地でもあり、それを現在ロシアに占領されています。
そしてシリアル、つまり穀物加工食品は、港をロシアに占拠され使えない状態です。
どちらが戦費調達が困難なのか、誰が見ても明らかです。
ロシア経済の停滞がメディアで叫ばれていますが、このまま戦争を継続すれば、資金的にはウクライナが圧倒的不利としか言いようがありません。
ロシア経済の本当の現状
以下のグラフは、ロシアのGDP(国内総生産)成長率の推移です。
ロシアの4〜6月の経済成長率を見ると、マイナス4.1%なので一見鈍化しています。
しかしこのロシアのGDPは、国際比較しやすいように自国通貨のルーブルではなく、ドルで計算したものです。
これは今、ドル円レートが年30%も円安になっているので、円建てのGDPは大幅に上昇しますが、ドル建てのGDPは前年比、単純計算で30%下落するのと同じことになります。
つまり日本政府の発表するGDPはわずか1.6%の成長ですが、本当はそのほか円安効果があるとすれば日本の成長は実質マイナスなのです。
ドルとルーブルの関係は?
ドルとルーブルの関係はどうなっているのでしょうか。
チャートの真ん中のあたり、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した結果、大幅なルーブル安となりました。
しかし9月13日現在では、ルーブルはドルに対して約19%高い状態です。
GDPの成長率がマイナス4.1%ですが、これはドル建てでの話であり、ルーブルが平均ドルに対して10%高いということになれば、実質ロシアは6%の成長ということになります。
これは農業や建設などは壊滅的に減少していても、石油やガスなどのエネルギー輸出が飛躍的に伸びている結果です。
ですからノルドストリームが稼働を停止しても、痛くもかゆくもないというのがロシア経済の実態になります。
つまりウクライナ侵攻に対する欧米の経済制裁の結果、ロシア経済は軟弱になると見られていましたが、実は誰がどう見てもロシア経済は安泰なのです。
一方のウクライナは、もう収入が無く、この戦争を早く終了させたいはずですが出来ない状態です。
ウクライナ東部3州の趨勢
最近になり、ウクライナが東部州の一部を奇襲によって奪還しましたが、何も収入がない状態で、誰がウクライナにお金を貸すのでしょうか。
穀物の輸出が再開すれば、と思う方も多いでしょうが、ウクライナやロシアの穀物が注目されたのは2015年以降のことです。
これはウクライナやロシアの穀物が異常に安いので、世界各国から多くの引き合いがあったことによります。
ところが、この戦争によりコストが格段にアップしているので、戦争が終結したとしても以前のような需要はありません。
WHO(世界保健機関)が新興国を中心に食料危機が起こる可能性に言及したのは、コストの安いウクライナ産小麦を多くの新興国が購入していたからでした。
新興国はできるだけ安い食料を購入するのは必然ですが、コストが上昇するとそれが買えなくなるから、新興国を中心とした穀物危機が起こると言ったのです。
要はコストの高いウクライナ産小麦などお呼びではなく、今後の収入も絶たれたことになります。
鉄鋼は、東部3州を奪還することは今のウクライナには困難でしょう。
なぜロシアはすぐに東部3州を併合しようとするのか、それはロシア、ウクライナ地域で重要な工業都市だからです。
そしてこの地域にはロシア人入植者がほとんど、という理由からです。
侵攻の名目上の大義名分はロシア人入植者の保護ですが、実際はこの地域の利益を得るためです。
ロシアと金準備の関係
ロシア経済が戦争を継続するのに非常に良好な環境にあるのに対し、ウクライナは絶望的な状況です。
ここでロシアの経済状況を知る上で重要になってくるのが金の国家備蓄になります。
ロシアの金準備は、2022年2月に戦争を始めてから大した量は減っていません。
国家が存亡の危機に立つと、大抵の政府は政府保有の金を売却することによて資金を得ようとします。
好例が最近のトルコです。
トルコは2021年にインフレによって国家の存亡の危機に立たされましたが、虎の子である金売却によって難を逃れました。
今でもまだまだ経済は正常化していませんが、立ち直りつつはありるので、金の保有を増やしてきています。
ロシアが手持ちをほとんど減らしていないということは、経済が盤石であるといえるでしょう。
ウクライナの準備金は?
一方ウクライナの金保有はわずか27トンで、ロシアの1/10。
そもそもウクライナは、戦争以前は汚職と内戦の国です。
それが戦争が始まって、ゼレンスキー大統領は超一流の政治家のように振る舞っています。
そもそもこの金準備は、戦費の調達で担保に入れられている可能性もあります。
いずれにせよ、ロシアは貿易によって好調、金準備を見ても大きな変動がなくそれが担保に入っている形跡もありません。
国が不味い状態か否かは金準備などを見ればたいていはわかるものだ、ということを覚えておくとよいでしょう。
この記事のまとめ
今回の記事では、ロシア経済とウクライナ経済の現状を考察し、膠着するウクライナ侵攻の今後について考えた。
ロシア経済は、メディアで叫ばれているように欧米の経済制裁の影響を受けてはおらず、むしろ主要な輸出品目を切り取られた状況のウクライナこそ経済的に八方塞がりと言える。
この事実は、ロシアが国家経済危急時の切り札である準備金にほとんどと言っていいほど手を付けていない状況から裏付けられる。
一方のウクライナの準備金は、ロシアの1/10規模。
もはや勝敗は決したも同然か…。このような状況でウクライナは今、奇襲で連戦連勝らしいが、見方によっては冬を前にした最後のあがきになる可能性もある。
こういう内容の記事でした。
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