サファイア「4大宝石 青の宝石の王者」
サファイアという単語を目にした時、あなたは何を連想しますか?
英国王室キャサリン妃のエンゲージリングでしょうか?
(故ダイアナ妃が所有していた18カラットのスリランカ産サファイア)
オスカーワイルド「幸福の王子」に泣いた思い出?
(貧しい人々を救うためサファイアの目をツバメに託した)
それとも子供たちのお気に入りゲームソフト「ポケットモンスターアルファサファイア」が即座に思い浮かぶ、という方もいらっしゃるかもしれません。
いずれのケースも青の宝石サファイアが
「世にも得がたい宝物」
「たぐいまれな貴重な宝石」
をイメージさせる存在であることに間違いありません。
歴史をさかのぼってみても、カシミールサファイアやセイロンサファイアは富や権力のシンボルでした。
またサファイアはおとめ座が属する9月の誕生石にふさわしく「貞節」「純潔」を意味する石でもあります。
21世紀の現在も鉱物学的には同じグループのルビーとおなじく高価格で取引されるカラーストーンです。
本コンテンツではサファイアの価値を改めて知っていただきたいという願いを込めて
- History 人とサファイアとの歴史
- Journey サファイア原石の産地情報
- Grading サファイアの鑑定基準or評価ポイント
- Regend 伝説的ジュエリー紹介(ブランド 女優たち)
上記にカテゴライズしたのすべてについて紹介します。
History 人とサファイアの歴史
- サファイアヒストリー 古代から現代まで
- 歴史に名を残した伝説のサファイア
- 合成はどのようにして生まれたか?
サファイアの歴史 神話時代~古代ローマ
サファイアの語源は古代地中海文明にさかのぼる
古代よりサファイアは最も貴重な宝石でした。
最もよくいわれるようにラピスラズリとの混同があった可能性も高いのですが、現在のサファイアも含まれていたことでしょう。
商人たちによってもたらされたスリランカ(セイロン)サファイアのほか
エーゲ海にはサファイアを抱くコランダム鉱床(エメリー)を持つナクソス島があるからです。
そのような条件が重なって、青の宝石サファイアは古代ギリシャやローマの神話や伝説にもよく登場します。
なにしろ「サファイア」という呼び名そのものが
- 古代ラテン語「sapphirus サッピルス」
- 古代ギリシャ語「sappheiros サピロス」
に由来すると考えられているゆえんです。
どちらも「青色」を意味しています。
ギリシャローマ神話の中のサファイア
たとえばギリシャ古代文明華やかなりしころのヘレニズム時代
(わかりやすくいえばアレキサンダー大王の死後(紀元前323年)から紀元前30年頃の古代ローマ隆盛期の端境期にあたる)
のギリシャにさかのぼってみましょう。
この時代の彼の地においては宝石はそれぞれ特定の神、および未知のパワーと関連があると考えられていました。
サファイアの場合は
ギリシャ神話の中の最高神ゼウスの頭部を飾り
ゼウスの息子太陽神「アポロン」を祭るデルフィ神殿への供物
として最も貴重な宝石であるとみなされていました。
特にサファイアの価値を高めたのが現在では世界遺産として観光客を集めているデルフィ神殿の神託(神々からのメッセージ)です。
デルフィ神殿の元の所有者である大蛇「ピュートン」を倒したアポロンは巫女を通じて神託を伝えていたと信じられていました。
より多くの神託を授かるため、人々は霊力があると信じられていたサファイアをこぞって供物として捧げました。
第三の目パワーを引き出すサファイア
デルフィ神託から連綿と続くサファイア信仰により次第に「サファイア=第三の目 サードアイ」として神秘的なパワーを引き出すと考えられるようになりました。
古くは魔女や魔術師と呼ばれた人たち、そして現在のスピリチュアルカウンセラー、ネクロマンサー(黒魔術師)に珍重されるようになりました。
このほかサファイアにまつわる逸話はまだまだ尽きることはありません。
ソロモン王がシバの女王に贈ったサファイアの指輪
トロイのヘレンの美しさの秘密とされたサファイア
など様々な物語が語り継がれています。
サファイアの歴史 中世~現代
聖職者たちの宝石サファイア
古代史の中で燦然と輝くパワーストーンとして君臨したサファイア。
さらに1000年以上の時を経て中世の世に移り変わり、人々のサファイアへのあこがれはさらに熱烈なものとなります。
特筆すべきは大司教をはじめとした聖職者たちがこぞって「天国の象徴」としてブルーサファイアを身に着けるようになったことです。
また心身の治癒に効果がある稀有な宝石としても注目されるようになりました。
フランス西部の都市レンヌ出身「マルボード司教(1035-1133)」によって詠まれた
「Liberlapidum 石の書」
には60個の宝石が登場しますが中でもサファイアは特別な薬効がある石として紹介されています。
教会に集う人々は司祭たちの豪華な装いを引き立てるサファイアの青の輝きをあこがれを持って眺めました。
また他国との戦争に明け暮れる王たちにとっては、サファイアは「忠誠」「和解」をもたらす護符でもありました。
またサファイアは恋人や伴侶の心変わりを知らせるともいわれ、また若き日のナポレオンが多情で知られたジョゼフィーヌ皇后に贈っています。
ステータスシンボルとしてのサファイア
もちろんサファイアは聖職者たちだけでなく王侯貴族のステータスシンボルでもありました。
宮廷文化が成熟するにつれて王侯貴族たちにとって宝石やジュエリーは欠かせない存在となりました。
なかでも未知のパワーを持ち権力の象徴としてのサファイアは最も人気のある宝石でした。
14世紀あたりを境に希少価値の高いダイヤモンド(長く産地がインド以外無かった)が台頭してきましたが、ルビーやエメラルドと並んでヨーロッパの王侯貴族たちのお気に入りがサファイアでした。
装いを引き立てるジュエリーはもちろん、王冠や笏(欧が持つ宝飾的な杖。権力の象徴とされた)にサファイアは欠かすことのできない宝石でした。
歴史に名を残した伝説のサファイア
グランドサファイア
多くの王家の王冠を飾ったサファイアの中でも、よく知られているのが135.74カラットのスリランカ産サファイア「グランドサファイア」です。
(ルスポリサファイアとも呼ばれることがあるが、そちらは同じ王冠を飾った全く別のサファイア)です。
1669年ルイ14世が買い入れたあと、フランス革命時に民衆の強奪により一時行方不明となりました。
その後ほかのフランス王室の宝石と一緒に当時の警察により見つけ出されるものの、他脳宝石とは異なりルーブル美術館ではなく国立自然史博物館に収蔵されました。
理由はグランドサファイアがほとんど人の手が加えられていない原石に近い状態の石だった為でした。
キャサリン妃のエンゲージリング
おそらく世界でもっとも有名なサファイアといえばキャサリン妃が贈られたエンゲージリングを飾るブルーサファイアです。
よく知られているように故ダイアナ妃が英国王室御用達ブランド「ガラード」のカタログから選んだエンゲージリングです。
12カラットの美しい色合いのセイロンサファイアを14個のダイヤモンドが取り囲んだ豪華なリングですが、購入当時1981年の価格は推定価格28000ポンド(約436万円)程度でした。
英国王室は宝石の中でも特にサファイアを重視してきました。
黒太子のルビー(実際はレッドスピネル)で知られるクラウンジュエルのトップには大粒のサファイアがあしらわれています。
これは「聖エドワードのサファイア」と呼ばれており、貧しい人に施したサファイアがエドワード王の遺体に戻されたという逸話があるものです。
1840年結婚前のアルバート公がヴィクトリア女王にサファイアのブローチを贈って以来、王室のビッグイベントにサファイアはつきものでした。
たとえば現エリザベス女王の父に当たる英国ジョージ6世はサファイアを特に好み、節目節目には子供たちにサファイアのジュエリーを与えました。
カール大帝の護符
ヨーロッパ全土を征服したフランク王国カール大帝が所有していたサファイアのペンダントです。
大粒カボションカットのサファイアを重ねた構造になっており、キリストが磔にされた十字架の木片が含まれていると信じられています。
もともとはともに東ローマ帝国と戦ったイスラム帝国アッバース朝使節団からの贈り物でした。
「所有者を皇帝にする」
「一緒に埋葬したカール大帝の遺体が腐敗しなかった」
など様々な逸話があります。
約800年の時を経てドイツのアーヘン大聖堂からナポレオンの接収によりフランスに流出。
ナポレオン1世の妻ジョゼフィーヌ、その娘オルタンス、孫のナポレオン3世の皇后ウジェニーが受け継ぎました。
第一次世界大戦時のドイツ軍による爆撃を受けた「ランス・ノートルダム大聖堂」の復興のためランス大司教に寄贈しました。
ドイツからの返還要求にはノンを突き付けたのだそう。
現在もランスのタウ宮殿にて常設展示されています。
デリーパープルサファイア
宝石は美しいだけでなく、時に魔力を秘めていると恐れられることもあります。
その代表的な石といえば45.52カラットのブルーダイヤ
「ホープダイヤ(米国スミソニアン博物館所蔵。持ち主を次々に破滅に陥れると今も恐れられている)」
でしょう。
そして専門家ですら警戒心を抱く呪いの石が「デリーパープルサファイア」です。
実際はアメジストですが1972年に再発見されるまで大粒のサファイアと信じられていました。
もともとは英国がインドから戦乱に乗じて略奪した石ですが、所蔵していた大英博物館のスタッフが偶然発見。
呪いの歴史が秘められた石として世間に知れ渡るようになりました。
収められていた箱の中に呪いをあらわす紙が入っていたことから、博物館によって調査が進められると驚くべき真実が次々と判明しました。
まず持ち帰った兵士、そして家族が次々と不可解な死を遂げていたいたことが判明しました。
1890年以降にミステリー作家「エドガーアランポー」の友人であり科学者だった「エドワードアレン」が所有。
しかしやはり数々の不運に見舞われ、すっかり理性を失った彼はデリーパープルサファイアをテムズ川に投げ込みました。
しかし3か月後には河川の底をさらう浚渫船に引き上げられて宝石ディーラーを経由してまたもやアレンのもとに舞い戻ってきました。
観念した彼は家族に「決して医師に触るな」と言い渡し、銀行の貸金庫に預けて二度と近寄ることはありませんでした。
彼の死後1943年遺族によって大英博物館に寄贈されました。
発見者のスタッフも不幸にあったとのこと。現在も呪いは続いていると噂されています。
ルスポリサファイア
王冠を飾ったグランドサファイアと混同され論争の的となってきたのが136.9カラット「ルスポリサファイア」です。
残念ながら現在は行方不明、もう一度目にすることのかなわないサファイアです。
21世紀に入ってから19世紀のオークションでの取引記録が発見され、宝石商ホープ(ホープダイヤの名付け親)に売却されたことが判明。
その後ロシア皇帝ニコラス1世が購入しカルティエがネックレスに仕立てた可能性が高く、証拠とされる絵画が残っています。
描かれているのはルーマニアのマリー王妃ですが、同王室によて1950年代に売却。
した後の行方は分かっていません。
インドの星
実に563.35カラットとゴルフボール級のビッグサファイアが米国スミソニアン博物館に所蔵されています。
インドの星というネーミングに反して、推定1700年ごろ産出スリランカ産サファイアです。
1900年開催パリ万博に出展するためJ.P.モルガンが購入し、万博終了後に博物館に寄贈しました。
表裏ともにスターが見られる珍しいサファイアであり、見る方向によっては12本のラインが確認できます。
1964年盗難にあうも2肥後無事博物館に戻されました。
合成サファイアはどのようにして生まれたか?
同じコランダム属の宝石であるサファイアとルビーの合成方法はほぼ同じです。
代表的な合成方法としては
- 世界最古のサファイアやルビーの合成方法「ベルヌイ法(火炎溶融法)」
- 美しい結晶を形成できる「フラックス法(溶液法)
- FZ法(フローティングゾーン法)
が挙げられます。
ベルヌイ法による合成に成功したのはまずルビー、そして遅れること数年「鉄とチタン」を加えることでサファイア合成に成功しました。
その後溶媒駅の中で結晶させるフラックス法が登場。
結晶化に時間を要するものの、非常に美しい合成サファイアが誕生します。
それがカリフォルニア工科大学の化学者キャロルチャザムによる「チャザムサファイア」です。
1958年に成功したこの画期的な合成方法によって、最高クラスの天然サファイアの合成が可能となりました。
フラックス法の重要ポイントは
- 適切な素材や温度の調節
- 最適な溶媒
この二つのポイントをパーフェクトに満たしているのがチャザムサファイアでした。
しかしすべての製法をオープンソースとしたベルヌイと異なりチャザムは一切製作過程を公開しませんでした。
サファイアの将来を熟慮しての決断、と信じたいところです。
Journey「サファイアはどこからやってくる?」サファイアの旅路(鉱山情報)
21世紀以前まで高品質サファイアの産地はカシミール(インド)、ミャンマー(ビルマ)、スリランカ(セイロン)に限定されていました。
そして著しく鉱物学が発達し機器類が進化した現在では新しく有望な鉱脈が発見されてはいますが、サファイアの産出量は年々先細りしています。
また新興富裕層たちはダイヤモンド以外のカラーストーン、それもカシミールサファイアのような歴史的価値の高い石を好みます。
価値あるサファイア色合いの美しい大粒サファイアは、今後も資産価値の高い宝石として注目されることでしょう。
ここでは世界の主なサファイアが採れるエリアを紹介します。
サファイア産地「インド(カシミール)」
キングオブサファイアともいうべき特別な存在が「オールドマイン」と呼ばれるカシミールサファイアです。
具体的にはヒマラヤ山脈の北部ザンスカールにおいてわずか6年間(1882年~1887年)に産出された数千個のサファイアを指します。
特筆すべきはその深みのある色合いで
- コーンフラワーブルー
- ブルーベルベット
これらの形容詞はカシミールサファイアだけに許されています。
カシミールサファイアが発見されたきっかけはたまたま起きた土砂崩れでした。
発見後は直ちに統治者であったマハラジャによって厳重に管理されました。
カシミールサファイアは採掘だけでなく取引状況も記録されていたため、絵画作品に匹敵する「来歴」が確かな石が多いのも他のサファイアと全く異なる点です。
ジュエリー史に燦然と輝くサファイアジュエリーにセットされているので、美術館や博物館にも多く所蔵されています。
サザビーズやクリスティーズなどオークションにまれに登場しますが、まさに価格は天井知らずで取引されています。
1952年に近隣エリアで新しいサファイア鉱山が発見されていますが、残念ながらカシミールサファイアの特性を兼ね備えた石は産出されていません。
サファイア産地「ミャンマー」
スリランカと並んで古代より宝石産地として名高いのがミャンマーモゴック地域です。
いうまでもなくモゴック産ルビーは最高級ルビーの代名詞ですが、サファイアも負けず劣らずの品質の高さを誇ります。
原則的に外国人の立ち入り禁止エリアのため情報は少ないものの、東部を中心にモゴック全域で産出されているようです。
かつては「暗すぎる」と言われたほどのディープブルーがモゴックサファイアの特徴でした。
現在は採掘エリアが広がった影響もあって様々な色合いのサファイアが産出されています。
サファイア産地「スリランカ」
宝石の島と名高いスリランカは最も古くから良質なサファイアを産出してきました。
地面や川底を掘るだけで宝石を含む「イラム層」と呼ばれる砂利層があらわれるのがスリランカの特徴。
現在も主に人力で採掘されています。
色合いの薄い石が多い中にも「ロイヤルブルー」と称される濃い青色の石も見つかります。
またスターサファイアのほとんどはスリランカ産の石になります。
スター効果、アステリズムと呼ばれる「星」がクリアに見える良質なスターサファイアが手に入ります。
そしてピンクオレンジ色が特徴的なパパラチアサファイアもスリランカ特産のサファイアです。
サファイア産地「タイ」
インド、ミャンマー、スリランカと並ぶ重要な産地がインドシナ半島です。
火山活動の活発化によって噴出したアルカリ玄武岩がこのエリアの山地、平野部や河川に蓄積。
この玄武岩にサファイアやルビーが含まれているのです。
タイもまたサファイアを多く産出してきました。
- カンチャナブリではブルーサファイア
- タンチャブリではグリーンサファイア
とエリアによって異なる色合いのサファイアとの出会いがあります。
1990年代以降宝石産業の軸を採掘からカットへシフトしたタイですが、現在また採掘が再開しているエリアが出てきています。
サファイア産地「カンボジア」
カンボジアもまた隣国タイと同じく玄武岩由来のサファイア鉱床を有する国です。
特にタイ国境の地域パイリンは内戦時のポルポト政権が資金源としていたほどサファイアのほかにルビーやジルコンなど多様かつ豊富な宝石を産出しています。
パイリンで産出されるサファイアはブルーのみ、黒に近いほど濃い色合いが特徴です。
通常サファイアは「色を濃く」するために加熱処理を行いますが、パイリンサファイアは「色を淡くする」加熱処理を行います。
大半の石の加熱処理は国境を挟んでタイ側チャンタブリで行われています。
サファイア産地「ベトナム」
北部のルクイエン地域、南部ファンティエットにはサファイアとルビーを豊富に含む鉱脈が見つかっています。
19世紀フランス植民地時代から宝石の存在は知られていました。
しかしベトナムは長く戦火の中にあったため本格的な採掘がはじまったのは1980年代に入ってからでした。
北部では淡く明るい色合いのブルーサファイア、南部では青以外のファンシーカラーサファイアの割合が多く参集されています。
サファイア産地「マダガスカル」
スリランカに次ぐ宝石の島として宝石鉱山開発が行われているのがマダガスカル島です。
近年サファイアをはじめ多くの宝石鉱脈が発見されています。
上位ランクのスリランカ産に匹敵するブルーサファイアが採掘されるうえに、マダガスカルはスリランカ(九州の約2倍)の9倍の面積を有しています。
タイやスリランカのバイヤーや採掘業者が乗りだし、マダガスカルは一大宝石ブームを巻き起こしました。
しかし宝石ラッシュ以後は指定保全地域での採掘や密輸などの問題が指摘され、一時サファイア輸出停止措置が取られました。
サファイア産地「ナイジェリア」
アフリカギニア湾に面したナイジェリアは西アフリカ最大規模のサファイア産出国です。
2014年タラバ州「マンビラ高原」で透明度が高い大粒のブルーサファイアが大量に採掘されたというニュースが流れました。
濃い色合いのブラックサファイアというイメージを覆す明るい色合いの石が多く、現在アフリカで最も有望視されている採掘エリアです。
そのほかアフリカではケニアやタンザニアで良質のピンクサファイアが参集されています。
サファイア産地「オーストラリア」
19世紀からオーストラリアの東海岸ではサファイアが採れることは知られていました。
1850年代のシドニーを起点としたゴールドラッシュの副産物としてサファイア鉱脈が発見されたのです。
最も大陸から遠いなど不利な条件が重なり、オーストラリアでのサファイア採掘が本格化するのは1960年代の終わりに入ってからでした。
オーストラリアのサファイア採掘をリードしたのはご多分に漏れずタイ。
宝石産業が盛んなタイは世界中のあらゆる場所で宝石を買い求めていましたが、オーストラリアに宝石ブームをもたらしたのも彼らでした。
オーストラリア産サファイアの多くは、インドシナ半島のサファイア鉱床同様にディープブルーが特徴です。
輸出先のタイではその多くがベリリウム拡散処理により明るい色合いに改変して販売されました。
Grading サファイアの評価ポイント
- サファイアの評価ポイント「カラー」「カラット数」「透明度」「非加熱」「化学処理の有無」
- オークション会場をざわつかせた超高額サファイア
サファイアはどのような評価ポイントで価格が決定されるのでしょう?
ダイヤモンドには「4C」と呼ばれる4つの評価基準
- Caratカラット 重さ
- Cutカット 研磨による輝き度合
- Colorカラー 透明を再譲渡する色味(ブルーなどカラーダイヤは例外)
- Clarityクラリティ 透明度
があります。
カシミール産サファイアや歴史的価値を持つサファイアジュエリー以外、評価基準はさほど明確ではありません。
とはいえ高額で取引されるサファイアが備える条件は存在します。
ここでは
- サファイアの宝石としての特徴
- サファイアの評価ポイント
- オークション会場を沸かせた超高額サファイア
について紹介します。
そもそもサファイアとはどんな宝石?
サファイア=赤色以外のすべてのコランダム
ルビーとサファイアは同じコランダムに属する宝石です。
ではルビーとサファイアを分けるものはなにか?
それは色 カラーです。
結論から言えば「赤に見えないコランダム」はすべてサファイアと分類されます。
そのためピンクカラーのコランダムが「ルビー」もしくは「ピンクサファイア」どちらになるか?
しばしばサファイア論議の的となるテーマですが原則ピンク色のコランダムは「ピンクサファイア」と判断されます。
サファイアは無限のカラーバリエーションを持つ
サファイアといえばブルーの宝石、と連想する方がほとんどでしょう。
しかしサファイアの属するコランダム宝石のカラーバリエーションは無限大といってよいほど。
そのため青色以外のサファイアは特に「ファンシーカラーサファイア」と呼ばれています。
その中には
妖しくオレンジに光る「パパラチアサファイア」
アレキサンドライトのように色が変わる「カラーチェンジサファイア」
などマニアが数多くいるレアストーンもあります。
サファイアは大粒の石が多く見つかる
またカラット数が大きい石がみつかるのもサファイアの特徴です。
ルビーは赤色を発色させるクロムによって結晶が大型化しくくなります。
ひきかえ数十カラットの巨大なサファイア原石が発見されたニュースは枚挙にいとまがありません。
サファイアは何からできている?
鉱物学的な分類ではサファイアはルビー同様に「コランダム」という種類に属する宝石です。
主成分は無色透明の酸化アルミニウムに「チタン鉄」が含まれることで青に発色します。
サファイアの評価ポイント
サファイアは「カラー」で評価される
サファイアのカラー評価
高額で取引されるサファイアの色とはどのようなものでしょう?
そしてサファイアの色は次の二つに大別されます。
青 ブルーサファイア
青以外 ファンシーカラーサファイア
それぞれの評価ポイントをまとめてみました。
ブルーサファイアの評価ポイント
なによりも「鮮やかな青」が求められます。
色みの強さや、鮮やかさの度合いを示す「彩度」で表すなら「強い」~「鮮やか」に該当する色です。
はっきりとした青、そして紫の色味の強い青のサファイアは最もカラット当たりの単価が高くなります。
グレーがかかった石や暗い色味のものは総じて低評価です。
ファンシーカラーサファイアの評価ポイント
ピンクからオレンジ 「パパラチア(パパラチャ)サファイア」
主にスリランカで採掘されるパパラチアサファイアは希少価値の高さで高値で取引されるサファイアです。
パパラチアとは「蓮の花の色」を意味しており、オレンジとピンクが絶妙にまじりあった色が印象的です。
「ピンクオレンジ」とはっきりわかる色合いのサファイアがパパラチアサファイアと認識されます。
ピンクサファイア
赤には及ばないピンクから明るいパープルまでの範囲のサファイアです。
ロマンティックな印象があり人気の高いカラーです。
パープルサファイア
ラベンダーカラーから深い紫までのサファイアをパープルサファイアと呼びます。
鮮やかな彩度のものが好まれます。
カラーチェンジサファイア
アレキサンドライト同様に光線によって色が変わるサファイアです。
色の変化の鮮やかさで評価されます。
多くの場合
- 昼間の太陽光もしくは蛍光灯のもとでは青~紫、もしくは緑
- 夜間白熱灯のもとでは紫、もしくは淡い茶色
のように色変化が見られます。
スターサファイアは「星の見え方」で評価される
半透明のスリランカ産サファイアに「スター効果」が見られるスターサファイアがあります。
(低品質のインドスターサファイア、ごくわずかにモゴック産スターサファイアもあるがスターサファイアの大半はスリランカ産)
スターサファイアの評価の決め手は石そのものの色の美しさです。
グレーの色味が強いものは評価が低くなります。
そして多少暗い場所でもスター効果が見られ、しかも中央に星が出るかがポイントです。
また一般的なスターは6本のラインですが、ごくまれに12本ラインのスターサファイアが見つかります。
サファイアは「透明度(クラリティ=インクルージョンの有無)」で評価される
外観を損なうような内包物のない透明感の高い石が理想です。
そして実はサファイアはルビーよりも透明度が高い石がほとんどです。
またカシミールサファイアのように微小な内包物によって光を散乱させることもあります。
これがカシミールサファイア独特のビロードのような質感なのです。
(カシミールサファイアの特徴には直線的なカラーバンドも含まれます)
サファイアの場合は必ずしもインクルージョンが評価を下げることはないことを覚えておきましょう。
サファイアは「加熱or非加熱」で評価される
ルビー同様に加熱処理が施されない、自然のままの「非加熱」「ノーヒート」サファイアは非常に貴重です。
手に入れやすい比較的手ごろな価格のサファイアの多くは何らかの加熱処理がなされています。
加熱処理の有無は非常にサファイアの評価に影響するため日本では1994年より加熱処理の情報開示がスタートしました。
もっともサファイアの採掘がはじまって以来加熱による色の改変が行われていました。
サファイアの加熱処理の歴史の大変革が1970年代からバンコクで始まった無色サファイア「ギウダ ギューダ」サファイアの加熱処理です。
おそらく1200~1300℃の高温で加熱することでギウダ原石に含まれるシルクインクルージョン(ルチル)が溶解します。
非常にクリアな発色の美しいブルーサファイアに改良することに成功しました。
廃棄されていたギウダが「天然ブルーサファイア」生まれ変わり販売されるようになりました。
サファイアは「化学処理の有無」で評価される
宝石の鑑定レポートにはなんらかの「化学処理」が認められた場合明記するように法律で取り決められています。
ここではルビー同様サファイアに施される化学処理について列挙します。
充填
破損を隠すための処理になります。
表面のキズやヒビ(フラクチャー)を隠すために鉛ガラスなどの透明な物質をフラクチャーに充填します。
特殊研磨
カボションカットされたは、石の内部に含まれるシルクインクルージョンによって「スター効果(アステリズム 星彩効果)」が見られることがあります。
スターと呼ばれる人気の石ですが、このスター効果を人為的に引き出すに特殊な研磨を施すことがあります。
拡散加熱処理(リムドーピング)
加熱処理をおこなうときチタンやクロム、ベリリウムを加えることで色の改良をおこなうものです。
理論的には宝石の表面、そして内部の原子レベルにまで元素を拡散浸透させるという高度な技術になります。
非常に小さい原子ベリリウムが採用されたことで隅々まで色を行き渡らせることができるようになりました。
サファイアは「カット」で評価される
サファイアの最も重要な評価ポイントは色ですが、実はサファイアの色は均一ではありません。
ほとんどのサファイアは「ブルー」と「非ブルー」の部分があり、青く見える面積を目立たせるのがカット技術が問われるところです。
たとえばスリランカ産サファイア表面近くに青い部分が集中しているので、カット職人はその部分にキューレットを配置することで全体的にブルーに見えるようにします。
サファイアは「カラット数」で評価される
同じコランダムに属するルビーと異なり、サファイアは巨大結晶がよく見つかります。
- 2016年には世界最大のスターサファイア「1404カラット」
- 2021年には世界最大のサファイア原石「310キロ」
が見つかり話題を呼びました。
これほど極端な例でなくとも、ルビーよりは格段にカラット数の大きい石が手に入れやすいのはサファイアの魅力です。
カシミールサファイアとはいかずとも、スリランカ産やミャンマー産の品質の良い大粒サファイアに狙いを定めるのが得策です。
オークションをざわつかせた超高額サファイア
史上最高額サファイア「ブルーベル」
2014年クリスティーズでサファイア最高落札額レコードが更新されました。
392.52カラットのスリランカ産サファイア
「アジアの青い美人 BlueBelleofAsia(Belle=フランス語で「美人」の意)
です。
1696万5千スイスフランは当時のレートで20億円を超えサファイア世界最高価格で匿名の刃部ウニ落札されました。
1926年にスリランカ最大の宝石の街ラトナプラで発見後、イギリス自動車王の手に渡った後は長らく行方不明の石でした。
史上最大!50カラット超えカシミールサファイア
オークション会場で最も貪欲な入札者といえばまず英国屈指の宝石商グラフの名前が上がるでしょう。
2021年にはオークション史上最大カラット数を誇るカシミールサファイアの落札に成功しました。
英国ギネスビールに嫁いだイタリア貴族が所有していた55.19カラットと25.97カラットのカシミールサファイアです。
1930年代にカルティエによってダイヤモンドと組み合わせたブローチにセッティングされました。
オークションに登場した初めての30カラットを超えるカシミールサファイアとして注目を集め、落札金額は390万ドルでした。
ロックフェラー家所有サファイア
2001年当時で303万1000米ドルで落札されたのがロックフェラーサファイアです。
62.02カラットのステップカット(ステップカット)モゴック産ブルーサファイアです。
1934年にインドのマハラジャからロックフェラー財閥が購入したことがネーミングの由来となっています。
サファイアと間違えやすい宝石リスト
タンザナイト(モース硬度 6.5~7.5)
1960年代から流通し始めた比較的新しい宝石(ゾイサイトに属する)です。
タンザニア北部メレラニ丘陵でのみ産出され、美しい青紫に魅力があります。
ティファニーが発掘した新宝石として話題となりました。
ブルートルマリン(モース硬度 7~7.5)
宝石の中で最もカラーバリエーションが豊富なトルマリンにはブルーの石もあります。
別名「インディゴライト」と呼ばれるブルートルマリンは濃い紫がかった青が魅力です。
日本で特に人気の高いパライバトルマリンもネオンブルーに輝くトルマリンです。
ブルーガーネット(モース硬度 6.5~7.5)
赤系の石、というイメージが強いガーネットですが青や緑など様々な色がそろいます。
近年アフリカ産のブルーガーネットが次々と発見されています。
タンザニアのウンバ渓谷、マダガスカルのベキリー、ケニアのタイタタベタでは青や紫の美しいガーネットが採掘。
特に「ベキリーブルーガーネット」は国内外で高値で取引されています。
アウイナイト(モース硬度 5.5~6)
ドイツでのみ採掘例のあるレアストーンで、美しい青色で人気を呼んでいます。
宝石と呼ぶには硬度が足らないことも欠点とされないほど宝石好きに支持されている石です。
アクアマリン(モース硬度 7.5~8)
エメラルドと同じベリルに属するアクアマリンは水色~青~青緑と幅広いカラーバリエーションがあります。
ブラジルのサンタマリア鉱山では深い青のアクアマリンが採掘され
「サンタマリアアクアマリン」
はアクアマリン愛好家の憧れの的です。
アクアマリンは透明度が高く、形が整った大きな結晶が鉱物マニアからも人気を集めています。
ブルートパーズ(モース硬度 8)
トパーズはコランダム同様にあらゆるカラーがそろう宝石です。
赤~オレンジ色のインペリアルトパーズ、ローズ色のピンクトパーズなどは特に高価で取引されています。
そしてごくまれに淡い色合いのブルートパーズが産出されます。
安価な「スイスブルー」「ロンドンブルー」と形容される青色トパーズは加熱あるいは放射線処理が施されています。
Regend サファイアを買うならどのブランド?名作ジュエリーを知りたい!
名品が豊富なブランド
語り継がれる伝説のジュエリー
価値ある宝石はいつの世も換金性の高い資産として受け継がれてきました。
他国ほどジュエリーや宝石をめでる文化が成熟していない日本国内にも、リセールショップの増加により売買がしやすくなりました。
現在新興国の富裕層が形成されつつあり、宝石ジュエリー市場はますます勢いを増しています。
「高額査定」が望める条件をそなえた宝石は、いざというときの心強い味方となってくれるでしょう。
またジュエリーの評価査定においては、名門ブランドのジュエリーであることも大きな強みとなってくれます。
ここではサファイアの名品を世に送り出してきたブランドをピックアップしてみました。
また「グレースケリーが愛したカルティエ製サファイアジュエリー」についても紹介します。
ブランド紹介!サファイアを買うなら「カルティエ Cartier」
王の宝石商「カルティエ」
サファイアを手に入れたいと思ったらまずはカルティエのコレクションをチェックしましょう。
1847年創業以来フランスを代表するハイブランドとして世界の宝飾業界をリードしてきました。
デビュー直後からヨーロッパやロシア、インドなどの王族たちの御用達ジュエラーだったことから「王の宝石商」と呼ばれてきました。
2022年4月に京都市京セラ美術館にて6年ぶりのハイジュエリーイベント「シジエムサンスパルカルティエ」の開催が記憶に新しいところです。
ブライダルジュエリーの人気ブランドとして常に上位を占めており
- トリニティ
- パンテール
- タンク
などいつかは手に入れたい名品が多くあります。
現在はジュエリー及びウォッチ巨大コングロマリット「リシュモン」の一員となっています。
多くのビッグブランドを擁するリシュモンにあってトップブランドとして売り上げ上位を占めています。
プラチナを採用した最初の宝石商
意外と知られていませんがプラチナジュエリーの歴史はカルティエから始まりました。
古代より金や銀は貴金属として重要視されてきました。
どちらも融点が1000℃前後(送風すれば七輪程度の規模の小さい設備でも達成可能な温度)、大掛かりな設備がいらず加工が容易だったことが理由でしょう。
一方プラチナを溶かすにはその約二倍にあたる1800度を要します。
原産地(南米)以外の土地ではほとんど使われることはありませんでした。
しかし非常に高い融点を持つ=高い耐久性であり、変形や石外れが起きにくい利点につながります。
加工は難しいけれど破損トラブルが起きにくい白く輝く素材プラチナに目を付けたのがカルティエです。
かつての顧客だった王侯貴族たちが栄華を極めた時代の終焉を直感し、新しい富裕層のための独自のスタイルを模索していたカルティエにとってライバルが使用していないプラチナは非常に魅力的な素材でした。
満を持して1890年カルティエは一切のプラチナ以外の素材を排除した「ガーランド」を発表。
外側から留め枠が見えないミステリーセッティングによってレースのような繊細なジュエリーは今なおカルティエの伝説的存在です。
カルティエの思惑通りガーランドコレクションはセンセーションを巻き起こし、ブランド世界進出の大きな一歩となりました。
ヒョウ(パンテール)とカルティエ
ブランドアイコンとなっている「ヒョウ(パンテール」はいったいどこからやってきたのでしょう?
それは20世紀を代表するアーティスト「ジョルジュバルビエ」がカルティエの依頼によって作成した一通の招待状でした。
女性(おそらくカルティエのデザイナーでありルイカルティエの恋人でもあったジャンヌトゥーサン)と黒ヒョウを描いた招待状が誘う展示会で発表されたのは一連のヒョウをモチーフにしたコレクションでした。
その後カルティエのさまざまなジュエリーや時計にヒョウの斑点が現れるようになりました。
また有名なシンプソン夫人のブローチなど歴史に残るオーダーメイドジュエリーも多く残されています。
現在もパンテールシリーズは時代に合わせてアップデート、ヒョウの横顔はカルティエとともにあります。
カルティエ伝説のジュエリー
カルティエによるジュエリーアーカイブには多くの名作が存在します。
しかし販売された後は公の場に姿を現すことなく幻の存在となったものも少なくありません。
今回はグレース・ケリー、レーニエ3世の長女が受け継ぐ「カルティエサファイアスイート」ついて紹介します。
モナコ王室に受け継がれるカルティエ製サファイアネックレス
モナコ王妃にして世紀の女優「グレースケリー」の結婚式でひときわ目を引くサファイアがありました。
彼女の夫レーニエ大公の母親「シャーロット王女」の首元で輝いていたカルティエ製「サファイアスイート」でした。
大粒のカボションカットのサファイアをダイヤモンドで連ねた豪華なネックレスです。
1956年の二人の結婚式以後もたびたびスナップショットに収められており、彼女お気に入りジュエリーのひとつだったのでしょう。
現在は同じ生を持つグレースケリーの娘シャーロット王女に受け継がれ、こちらもよくパパラッチの撮影によく登場しています。
長きに渡り大国のはざまでほんろうされた世界第二位の小国モナコですが、現在はフランス併合の危機(2002年フランスと合意)も去り観光立国タックスヘイブンとして繁栄しています。
モナコでは他国のように長く続いた王家が存在しないこともあり代々継承されてきた歴史に名を残すようなジュエリーがありません。
グレースケリーが残したジュエリーとともにこのサファイアスイートもモナコの至宝として受け継がれていくことでしょう。
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