杉本 博司のアートスタイル
杉本 博司作品の特徴と魅力・評価ポイント
特徴と魅力
日本を代表する写真家あるいは現代美術作家といえば、海外ではまず名前が挙がるのが「杉本博司」です。
長く海外を拠点に活動してきたため、アートに興味関心の高い人たちのあいだだけで知られてきた存在でした。
とはいえ杉本博司という名前がすぐ出てこなくても、InstagramなどのSNSで
「小田原文化財団 江之浦測候所」「MOA美術館」
を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか?
前述の建築作品以外にも
「海景」シリーズなどのモノトーンの写真
オペラ座のバレエや創作能などの舞台芸術
自ら店舗「MINGEI」を経営していた古美術
GINZA SIXのプレミアムラウンジ「LOUNGE SIX」のインテリアデザイン
その創作活動は多岐にわたります。
そしてその創作活動のいずれもが世界的な評価を受けています。
評価ポイント
モノクロームのコンセプチュアルな写真家として出発した杉本博司ですが、建築、舞台美術、果ては古美術商まで活動の幅を広げています。
多彩な創作活動の中で「時間の性質」「人間の知覚」「意識の起源」など追求するテーマも多岐にわたります。
日本の伝統表現「墨絵」の感覚を写真に取り入れるなど、作品世界に西洋と東洋の融合も意識して行ってきました。
また作品を表現する技術の完成度に徹底的にこだわる点も大きな特色です。
なにしろ現像ムラを抑えるためオリジナルのマシンを開発したほどです。
杉本作品の大きな特色である「時間軸」の表現を追求するため、8×10インチの大型カメラで撮影する独自の手法を確立しました。
1本の映画の始まりから終わりまでを撮影した「劇場」シリーズはその代表です。
徹底的にコンセプトを練り上げると同時に、アートとして成立する洗練の極致の表現技術。
このふたつをもって生み出される作品は世界から評価されるに値するタイムレスな価値を有しています。
杉本 博司のプロフィール
幼少期
1948年東京に生まれる。
実家は戦前は銀座二丁目にあった「銀座美容商事(現在は御徒町に移転)」。
父親は経営のかたわら落語を愛する洒脱な人であった。
小学校4年生で子供絵画コンクールに入賞。世界巡回展に展示される。
中学生からは自分自身の暗室を持つほど写真に夢中になり、高校からは写真部に入部。
青年期・学生時代
1970年立教大学経済学部卒業
1974年ロサンゼルス・アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン卒業。
その後ニューヨークに拠点を移す。「ドナルド・ジャッド」「ダン・フレイヴィン」ら最先端のコンセプチュアルアートに影響を受ける。
創作初期
1976年ジオラマシリーズスタート。MOMA美術館写真部のキュレーター「ジョン・シャーカフスキー」に250ドルで買い取ってもらう。
当時のMOMAには毎週木曜日にアーティストが作品を持ち込みキュレーターからコメントをもらえるシステムがあった。
ニューヨーク州政府やグッゲンハイム美術館などから奨学金を獲得。
1977年現代美術ギャラリーのパイオニア「南画廊」で最初の個展を開催。
創作のかたわら資生堂の宣伝部にいた画家「杉本絹枝」と結婚。ふたりでソーホーのビルで古美術商ギャラリー「MINGEI」を経営。
現在も個展などで当時の収集品が登場することも。
1980年から海景シリーズに着手。
創作中期
1990年「ON THE BEACH」シリーズ発表。ニュージーランドの海の風景にインスピレーションを得る
1999年国際写真センター、第15回年次インフィニティ賞:ニューヨーク
2001年ニューハッセルブラッド財団国際写真賞
2006年フォトエスパーニャ賞
創作後期・現在
2002年香川県直島の家プロジェクトに参加。「護王神社」を手掛ける。
2005年森美術館およびハーシュホーン美術館(ニューヨーク)にて「杉本博司:時間の終わり」開催。同年初の文筆集「苔のむすまで」を出版。
2008年新素材研究所設立。
2009年U2の「NO LINE ON THE HORIZON」に海景シリーズ「Boden Sea,Uttwil」がCDジャケットに使われる。
この時お互いに写真とアルバム曲をフリーに使える等価交換を約束した。
2017年MOA美術館(熱海)の改装を手掛ける。
2014年パリ「パレ・ド・トーキョー」で大規模個展「今日、世界が死んだ(失われた人類の遺伝子の保管庫)」開催
10年ぶりに「劇場」シリーズの新作も発表
2009年高松宮殿下記念世界文化賞
2010年紫綬褒章
2011年人形浄瑠璃文楽「杉本文楽 木偶坊 入情 曾根崎心中付り観音廻り」を上演
2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ
2017文化功労者、東京
2019年オペラ座ガルニエ宮350周年記念作品「At the Hawk’s Well/鷹の井戸」舞台演出担当
杉本 博司の代表作
「海景 Sea of Japan」
杉本博司の原点とされる作品群。
幼き日に電車の車窓から見た小田原の海岸がルーツとなっている。
ゆかりの地である小田原市片浦地区の江之浦に「小田原文化財団 江之浦測候所」を開設。
「ジオラマ Dioramas」
ニューヨークの自然史博物館で見た剥製の動物たちからインスパイアされた作品群。
「Polar Bear(1976)」「View fullsize(1976)」「View fullsize(1994)」など。
「劇場 THEATERS」
1970年代から取り組む「劇場」シリーズは古い映画館やドライブインシアターを舞台にして撮影されたもの。
最初は「Hall」というタイトルだった。
上映されている映画を長時間露光することによってスクリーン自体が発光体となる効果を狙った作品。
長く中断していた時期もあったが2014年から再開。
「OPTICKS 008」
2018年の新作。
2020年京都京セラ美術館で公開予定。
杉本 博司の市場価格・オークション落札情報
「Black Sea, Ozuluce」 417,000ユーロ
2017年11月21日?2017年11月22日 サザビーズ/パリ
「Black Sea, Ozuluce; Yellow Sea, Cheju; Red Sea, Safaga」 1,888,000米ドル
118.3×148.8 cm 3パネル
2007年5月16日 クリスティーズ/ニューヨーク
「Black Sea, Ozuluce」 646,050英ポンド
2008年6月30日 クリスティーズ/ロンドン
杉本 博司の作品と出会える場所
「小田原文化財団 江之浦測候所」
https://www.odawara-af.com/ja/enoura/
杉本 博司の最新トピックなど
2019年国立新美術館で開催された「カルティエ、時の結晶」展では、会場デザインを担当した杉本博司。
クールな幻想空間に、3.5メートルもの大きな反時計回りの時計が目を引きました。
実はこちらは新作「逆行時計」トいう作品でした。
また2020年3月21日から開幕予定だった「杉本博司 瑠璃の浄土」では
「仏の海(三十三間堂など)」
世界初公開作品「OPTICKS」シリーズ
敷地内の日本庭園に「硝子の茶室(聞鳥庵モンドリアン)」
などの展示が予定されていました。
現在同展は新型コロナウイルス感染予防・拡散防止のため延期されていますが、開催のあかつきには杉本博司の新境地を見せてくれることでしょう。
2020年7月9日の最新情報!
日本経済新聞の人気コラムといえば「私の履歴書」ですね。
各界を代表する経営者やアーティストの生い立ちや苦労話にはひきつけられます。
本コラムを2020年7月より担当しているのが杉本博司です。
https://www.nikkei.com/theme/?dw=20062500(全文読了するには会員登録が必要です)
数奇な運命をたどった先祖たち、そしてうらやましいほど自由奔放な学生時代の思い出話など、興味深いエピソードが満載です。
またコロナウイルス感染防止策に伴う会場封鎖のため開催が危ぶまれていた大規模展示会「杉本博司 瑠璃の浄土」。
現在では京都市京セラ美術館で無事開催スタート。
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20200321-20200614
また同じく京都では「細見美術館」にて「飄々表具-杉本博司の表具表現世界-」展の再開が決定されています。
https://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex069/index.html
大きなイベントが目白押しの2020年ですからお見逃しなく!
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