金銀プラチナの歴史と今後のプラチナの価格はどうなるのか?

過去の経緯を見れば未来のことはなんとなく見えてくるのが当然のことのように思います。

これはノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんの「過去10年の需給動向を見れば今後の流行する商品が見えてくる」という発言からも正しいと言えるでしょう。

今回は金銀の歴史から今後のプラチナ(白金)の動向を考えていきます。

昔のお金は金か銀か?

1601年に江戸幕府により開山された佐渡金山の構内

少なくとも中年以上の世代は、日本で最初に発行された通貨は和同開珎だと教わりました。

では、その和同開珎は何でできていたかといえばになります。

オリンピックでは金銀銅と3種類のメダルがありますが、お金の始まりもやはり銅。

古代エジプトやローマなどでは金貨や銀貨が存在したともいいますが、日本の金銀の抽出方法は江戸時代に朝鮮半島より灰吹法などが伝来してから発展したのです。

大阪では石見銀山からの銀貨文化、江戸では佐渡金山から算出される金貨が中心でした。

さて、ここで問題となるのは金と銀、お金としてどちらが重用されたかです。

金貨と銀貨の選択

石見銀山の坑夫たちの供養を目的に建立された五百羅漢

前述した石見銀山が世界遺産に認定されたのは、欧米、特にイギリスが銀本位制度を確立し、その輸入を長崎の出島を通じて行っていたからです。

イギリスが銀本位制度というと信じられない方も多いでしょうが、1970年代まではスターリングという通貨、12進法を採用しており、このスターリングの頭文字は一般的にはシルバー(銀)の「S」だといわれています。

アメリカドルも昔はアメリカペソと言われ、「$」の記号もシルバーの「S」に由来すると言われています。

アメリカペソといったのは、メキシコで大規模な銀鉱山が発見され、独立間もないアメリカではその銀貨を使って市場社会が形成されたことの影響です。

黄金の国ジパング

ヴェネツィアに立つ『東方見聞録』の著者であるマルコ・ポーロの像

日本の石見銀山でもおわかりのように、18世紀から19世紀には世界的に大規模な銀山開発が始まりました。

ヴェネツィア人商人のマルコ・ポーロが著した『東方見聞録』では日本は黄金の国とされていますが、これは金を指すとともに銀のことも指しています。

当時のヨーロッパはまだ南アフリカの金山も欧州大陸での金も、そしてアメリカでもゴールドラッシュも起きておらず、日本の金山は非常に貴重なものであったことが伺えます。

ここから類推されることは、貴重な金貨を製造するのにはその絶対量が不足していたことがイギリスの銀本位制度、アメリカでの銀貨の流通の理由だったということです。

ところが、ご存知のように欧州大陸でも続々と金鉱山が発見され、20世紀になるとアメリカではゴールドラッシュが起こり、イギリスの植民地のローデシアなどでも金鉱山が発見されました。

すなわち銅よりも銀、そして金になっていくわけですが、金の鉱脈を発見できるほどになった人類は、同時に銅や銀の産出を増やすようになったのです。

西洋と東洋の金と銀の比率の差の違い

イングランドの物理学者にして数学者、天文学者など多彩な肩書を持ち、万有引力の法則の発見者として有名なアイザック・ニュートン

アメリカは1873年に金と銀の比率を1:16と定めた法律を定めました。

また皆さんもご存知のニュートンは物理学者として有名ですが、実は金融学者でもあり、イギリスでの金と銀の比率を決定しています。

日本の場合は金も銀も取れたので、欧米とは金銀の比率が異なり、鎖国を解いた時に欧米に金貨が流出したのは有名な話です。

また清(中国)では銀本位制度を採用しており、欧米と比べて金と銀の比率が小さかったので滅亡を早めたともいわれています。

アジア各地では金と銀の産出量の違いが欧米よりも大きくなかったので、比率は小さくなったのです。

金銀比差による投資手法とプラチナ

アメリカで2013年に発行された金貨(右)と2014年に発行された1オンス銀貨(左)

現在でも金銀比差と呼ばれる投資手法が重用されるのは、この金本位制度や金銀複本位制度、銀本位制度の名残です。

同様に金とプラチナの比差を基本に投資取引を行うのは、金銀比差からの派生になります。

参考までに、アメリカやイギリスでは法律で金貨1枚に対して銀貨12〜16枚と設定されましたが、この割合を上手に利用すれば、いくらでもお金を儲けることができました。

しかし、この比率はうまく運用されることもなく、金本位制度廃止とともに廃れたのです。

プラチナと金の比率格差で運用する人がいらっしゃいますが、金銀の比差でも上手にコントロールができなかったのに金プラチナでうまくいくと考える方はきっと歴史を知らないのでしょう。

過去にうまくいっているのであればまだしも、うまくいかなかったものが現代でうまくいくはずがありません。

銀から金、そしてプラチナへ

かつて銀鉱山で栄えたコロラド州シルバートンの市庁舎

一般的に、プラチナは金に対して1/3の生産量しかないといわれます。

これは、欧米でアメリカやニュートンが金と銀の交換比率が1:12〜16に設定されたことに重なるものがあります。

この比率が崩壊した理由は銀の生産が飛躍的に伸びたこと、そして金の生産量も飛躍的に伸びたのですが、需要にその生産が追いつかなかったことが挙げられます。

つまり、金はいくら製造してもそれ以上の需要が存在し、金と銀の交換比率がどんどん上昇していったのです。

参考までに、1873年にアメリカが金銀交換比率を1:16と定めたのは銀鉱山のある州に有力なタニマチが存在し、その人たちが銀鉱山を守るために低めに設定させたわけです。

結果として、その比率を保つために連保政府、財務省は銀の買いつけを行い銀の価格を維持しました。

要するに、銀鉱山のオーナーたちは自分たちの利益を確保するために政府に銀の買取を要求したのです。

こういうことをやっていれば業界がダメになる典型で、アメリカにはいまだに銀鉱山はありますが、操業などコストに合わないので廃鉱になっています。

プラチナと金の比率差

プラチナと金の比差を知ると…

プラチナと金の比差は1:3からスタートしています。

しかし、この比率事態がもうデタラメもいいところというのが実際の取引をやっている人の感想でしょう。

2000年代初頭にプラチナ、パラジウムバブルが発生し、金よりも価格が上回ることがありました。

金の1/3しかプラチナの生産量がないのに、当時はプラチナの価格のほうが金より高くなるのは異常事態だと言われました。

この経緯を知っている人にとっては、今の金とプラチナの比率などなんの参考にもならないということはおわかりになるでしょう。

銀から金にお金が変わった理由

1944年、アメリカを中心に為替相場安定のメカニズム構築のために連合国の代表らが集まったニューハンプシャー州のブレトンウッズホテル

銀から金にお金が変わった理由は明瞭です。

銀よりも金の生産量が少なく、そして光り輝くものは女性を中心に人間は皆好きだからです。

加えてお金という生活必需品に対してのレア感が金には備わっていたので、長年にわたり機能したのです。

しかし、金本位制度が崩壊しブレトンウッズ体制もうまくいかず、結果として変動為替相場制度に移行し、それ以降は信用本位制度に移行しました。

信用本位制度とは、政府が発行する紙切れを信用するということです。

金本位制度下では紙幣を金に交換することを政府が保証しましたが、現在では政府の信認は金と交換しなくても保証されるという欺瞞の中で成り立っていることになります。

プラチナ本位制度はあり得た?

プラチナが貴金属の王者なり得た可能性は?

金本位制度が崩壊したら、これをプラチナ本位制度に変えることができなかったのかと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そもそも金本位制度の崩壊は、アメリカ政府がお金を発行しすぎたことに起因します。

ベトナム戦争などの戦費調達によって軍事費がかさみ、金とドルを交換することができなくなって金本位制度が崩壊したのです。

これが世でいうニクソンショック。

現在では、1970年代の10倍以上の各国政府から紙幣が発行されていますが、今では交換保証をつけなくても信用本位制度はうまく運用されています。

ですから、プラチナ本位制度など創設する必要がなかったのです。

環境問題とプラチナの価格

昨今問題となっている環境問題、これにプラチナが大きく関わっていることはご存知でしょうか。

お金がないと生活ができないのは当然ですが、同時に人間にやさしい環境がなければ人は生存ができません。

具体的にいえば、プラチナは燃料電池や排ガスの触媒などの部品に使われています。

ある意味、環境問題はお金よりも大事な問題であり、人類共通の問題としてプラチナは非常に大事な存在となったのです。

それが以下のプラチナ価格のグラフになります。

参照元:TRADING ECONOMICS

2000年代の前半には今では考えられないような2000ドル越えのプラチナがあるのです。

これはいわゆるBRICSなどの新興国の成長によって環境問題がクローズアップされたことに起因する値段になります。

この時に何が起こったのでしょうか?

環境問題に関わる自動車や飛行機の製造メーカーからこんなに高いプラチナは使えないという声が挙がり、結果として代替商品の開発が進みました。

結果、触媒の代替品として炭素(燃えカス、つまり炭)が開発され、リサイクルが行われた結果が現在の価格になるわけです。

プラチナの可能性

金にはプラチナや銀にはない人類の本能を刺激する魅力がある

一方で金はどうでしょうか?

金本位制度では実は1トロイオンス18ドルから交換が保証され、金本位制度がなくなった現在では1700ドルになっています。

なぜ価格が維持できるのかといえば、生産を上回る需要があるからです。

プラチナは炭素やリサイクルに変わり、2008年の2000ドル越えの時より需要がなくなっているため下落しています。

もちろん、新たな需要が見つかれば価格は上昇するでしょうが、その需要は環境問題のように人類にとって普遍的問題で、尚且つお金のように現代人にとって必要不可欠でなければなりません。

現在の世界を見渡してもそのような需要があるとは思えず、おそらくプラチナの代替需要やリサイクルに変化した今、それを凌駕するような需要は存在しないでしょう。

ゆえに現時点で言えることは、供給もある程度細っていますが需要はそれ以上に落ち込んでいるということです。

そんなプラチナに上値を夢見ても仕方がありませんし、新たな上昇は無いと考えます。

現在の見通し

アメリカの有名投資家でロジャーズ・ホールディングスの会長であるジム・ロジャーズ

金の価格が上昇していますが、原油価格がマイナスになったように資源の時代は終焉を迎えようとしています。

一人、ジム・ロジャースだけが金銀の価格は目先は下がるかもしれないが、大きな流れは買いと言っています。

彼は自分の本を売りたいからサービストークをしているだけでしょう。

プラチナの見通しは需要が見つからなければ尻すぼみの価格になる、これが現在の見通しです。

需要があれば未来は見えますが、現時点でその可能性は低いと言えます。

むしろ、まだ電気自動車の普及によって電線需要が伸びる銅の価格のほうが上昇する見込みがあるのではないでしょうか?