古代ガラスコレクターアイテム「ローマンガラス」「とんぼ玉」
紀元前から脈々と続く古代ガラスの歴史は、現在も世界中で発掘されている
- インド・パシフィックビーズ
- ササン朝ペルシアのメソポタミアガラス
- そしてガラス革命をもたらした古代ローマ帝国の吹きガラス
など古代のガラスたちは沈黙のうちに私たちのうちに語り掛けてきます。
はるか数千年前の出来事とは思えない大移動を果たしてきた古代ガラスたち。
地中海から海を越えて中近東、西アジア、中国や韓国、そして日本までたどり着きました。
遠く離れた世界の果てからやってきたさまざまなガラスは、当時の人々をどんなに驚かせたことでしょう。
数千年の時を超えて現在に当時作られたビーズや器が残されていることからも、貴重な宝物として大切に受け継がれてきたことがうかがえます。
今回は、古代ガラスの2大コレクターアイテム「ローマンガラス」「とんぼ玉」についてご紹介します。
ローマンガラスとは?そしてコレクターが語る魅力について
ローマンガラスは古代へのタイムトラベルを楽しめる!
ローマンガラスの魅力に取りつかれた人々が口をそろえるのは
「古代の人々の生活に思いをはせる時間を持てるから」
なにしろ本物ならば少なくとも1500年前のガラスなのです。
古代ローマではじめて吹きガラスの技術が発明されて以来
(驚くことに現在までガラスの製造技術はほとんど変わっていない!)
ガラス作りは一気にローマ帝国領土全体に広まりました。
※通常古代ローマ帝国時代とは「西ローマ帝国における西方正帝の消滅まで」の期間を指す。具体的には紀元前27年~476年まで地中海全域、そしてイラン・イラク・シリアほかメソポタミアも勢力下に収めた。
グラス、ゴブレット、皿、水差しにいたるまで多くのガラスが作られました。
約500年のちに古代ローマ帝国が衰退し、世界史はイスラム勢力全盛期へと移ります。
そしておそらくは戦乱や逃亡などによって、多くのガラス製品が戦乱の際に土中へと埋もれていきました。
それから1000年以上の月日が流れ19世紀に入ると、空前の遺跡発掘ブームを迎えます。
ドイツの考古学者「ハインリッヒ・シュリーマン(トロイの木馬で有名なトロイ遺跡を発見した)ほか多くの歴史家や探検家によって古代のローマンガラスが大量に発掘されました。
破損されることなく作られた時の形を保っているガラスがいくつも残っていることも驚異的でしたが、さらに人々を魅了したのは器の肌をおおう「銀化現象(イリデッセンス 虹彩とも呼ぶ)」でした。
ローマンガラスは「銀化」現象を味わえる!
見る角度によって色みが変わる、オパールやアワビなどの貝殻の内側に見られる「遊色効果」は、当時のガラス職人を大いに刺激しました。
- ティファニーによる「イリデッセンスガラス」シリーズ
- スチューベンによる「オーレン」シリーズ
これらは、アンティーク(100年以上前の古物)ヴィンテージ(100年未満の古物)ガラスマニア垂涎の的です。
このように一流のガラス職人たちを魅了したローマンガラスは、日本人にも人気のアイテムです。
しかし人気が高いコレクターアイテムは贋作が多くなるのを避けられません。
来歴の確かなアイテムを信頼のおけるショップやオークションで手に入れておくことをおすすめします。
オークション落札事例紹介
3世紀初頭の高さ18.2 cmのローマンガラス 「6,250ポンド」
クリスティーズロンドン 2016年7月6日
https://www.christies.com/LotFinder/lot_details.aspx?intObjectID=6009448
コレクター垂涎!ローマンガラス
ローマンガラスを選ぶとき、どのような点を重視するとよいのでしょうか?
ローマンガラスを選ぶポイントについてご紹介します。
銀化現象が美しいものを選ぶ
日本人ローマンガラスの多くは表面を覆う「銀化(ガラスの風化現象のひとつ。土の中でガラス成分のソーダや珪酸分が化学変化を起こしたもの)」を珍重しますが、
「銀化をありがたがるのはジャパニーズテイスト」
と銀化部分を削り取ってしまうのがドイツほか欧米のコレクターです。
ジャパニーズテイストに対して「ジャーマンテイスト」と呼びます。
確かにローマンガラスが古代世界を席巻した理由は吹きガラスによってはじめて「透明なガラス」が実現したわけですから、理にかなっているといえばいえるのですが。
本物のローマンガラスを見たい!という人は
- 古代オリエント博物館(東京・サンシャインシティ文化会館7階)
- シャトレーゼローマンガラス美術館(山梨県甲斐市)
などのミュージアムをぜひ訪れてみてください。
とんぼ玉とは?そしてコレクターが語る魅力について
とんぼ玉は手のひらアンティークとして楽しめる!
とんぼ玉とは、様々な装飾を凝らしたガラスなどでできた球、ビーズのことを指します。
アンティークビーズ、オールドビーズという呼ばれ方もします。
とんぼ玉の魅力は小さなビーズに工夫を凝らした意匠が加えられているところ、
そして小さいので持ち運びしやすい点にあります。
ローマンガラスのボトルはどこに置くのか?考えてから購入する必要がありますが、とんぼ玉にはそんな心配はいりません。
数が多いので手に入れやすい!
古代ガラスの歴史は、とんぼ玉作りで始まったといっても過言ではありません。
そのため数が多く、比較的手に入れやすい点が魅力です。
数千年前の遺物が数十万、運がよければ数万円で手に入ることもあるのです。
覚えておきたいポイントのひとつに、
ローマ帝国時代に生まれた「吹きガラス製法」の古代ガラスと比較すると
吹きガラス以前主流だった「コアガラス」製法のものはより稀少価値が高いとみなされることです。
- 手間がかかるため大量生産できなかったこと
- カルタゴやのようにローマ帝国に滅ぼされた生産地が多いこと
が理由と考えられます。
アクセサリーとして身につけられる!
なにしろビーズなので、破損個所がないものなら鎖やコードに通すなどして身につけることができます。
装身具として利用することが可能なアンティークは貴重です。
コレクター垂涎!古代とんぼ玉コレクション
とんぼ玉は世界中に熱心なコレクターがいる人気のアイテム!
コレクター同士のオークションや販売会もよく開催されており、また国内外で多数の専門書が出版されています。
そしてとんぼ玉と一口でいっても「アイビーズ」「人面ビーズ」「ゴールドサンドイッチビーズ」「ジャワ玉」などさまざまな種類があります。
ここではとんぼ玉コレクター憧れの古代とんぼ玉をご紹介します。
フェキニアの「アイビーズ」「人面ビーズ」
クレタ文明(紀元前2000~1400年頃)とミケーネ文明(紀元前1600~1200年頃)と多くの文明が栄え滅びていった古代の地中海世界。
なかでもローマ帝国に燃やし尽くされた都市カルタゴの悲劇など、ドラマチックな逸話に事欠かないのがフェキニアです。
海上交易で活躍し地中海の覇者とうたわながら、ローマ帝国が徹底的に人々もろとも建物を焼き尽くしたため、ほとんど遺跡が残されていません。
しかし古代フェニキアが交易をおこなってきた地域では、多くのフェニキアに由来するとんぼ玉が見つかっています。
そして今日とんぼ玉コレクションでもっとも称賛されるのがフェニキアの
- 「アイビーズ モザイク貼眼玉」
- 「人面(人頭)ビーズ 芯巻玉」
なのです。
アイビーズは春秋戦国時代の中国でも作られていました。
ゴールドサンドイッチビーズ
ローマ時代に入っても多くのビーズが作られました。
このころになると交易路はさらに拡大し、遠く中国や日本でも出土されるようになります。
特に名高いビーズが「金とんぼ」とも呼ばれる「ゴールドサンドイッチビーズ(海外では「ゴールドフォイルビーズ」とも)です。
紀元前3世紀から紀元後3世紀ころまで地中海沿岸や黒海北岸エリアで作られました。
ゴールドサンドイッチビーズは時代により製法が異なります。
紀元前3世紀から紀元前後までは「金層重ね貼り付け玉
(芯巻技法によって表面に金箔を張り、さらにガラスを重ねる)」
紀元後1~3世紀までは「金層重ね筒挟み玉
(ふたつのガラス管を重ねてあいだに金箔を挟む)」
時代を推測する手掛かりとなります。
またローマ帝国が衰退した後もゴールドサンドイッチビーズはインドや東南アジア、日本まで広まりました。
インドネシアなどでは実際の制作例が見つかっています。
日本では京都府長岡京市「宇津久志1号墳」でローマ時代のゴールドサンドイッチビーズが出土しています。
1~4世紀の帝政ローマ領内で製造されたと判断されており、その根拠は蛍光エックス線分析で「ナトロン」が成分に含まれていたことが判明したことによります。
ジャワ玉
東南アジアの国々では、ビーズはとても大きな意味を持ちました。
富の象徴でもあり、病気や災害から身を護る「護符」の意味があったのです。
ガラスを作ることができない地域では通貨として流通することも。
中でも豊富なとんぼ玉を制作してきたのがインドネシアです。
いわゆる「ジャワ玉」と呼ばれるモザイク貼り付け玉がよく知られています。
- 数センチはあろうかという巨大なモザイク貼り付け玉「マニックサユル」
- 鳥のモザイクを配したレアビーズ「マニックブルン」
このふたつは特に人気の高いジャワ玉です。
古代ガラスをコレクションするなら購入元を重視!
当たり前ですが、だれも目にしたことがない古代ガラスは、本物保証が難しい点が難点。
ミュージアムに陳列されている古代ガラスを見たり、骨董店アンティークショップに通うなどの努力を重ねることが一番ですが、最も確実なのは「信頼できる場所」で入手するということです。
たとえば名の通ったオークションなら、出品前に厳重な鑑定が行われるので安心です。
毎日オークションやクリスティーズなどの大御所オークションハウスでも、最近ではオンライン入札が可能ですから挑戦してみるのも手です。
また古代ガラスを素材にしたアイテムを購入するのも手軽に楽しめる良い方法です。
たとえばアンティーク、古代ビーズを素材としたジュエリー作家は多く、
- オカベマサノリ
- semeno(セメノ)
などの人気ジュエリーデザイナー、ブランドがあります。
はじめてとんぼ玉を手に入れるなら、これらのジュエリーを入口とするのもおすすめです。
小さなガラスのとんぼ玉はもしかしたら2000年前に古代ローマの石畳を歩く女性の旨を飾ったのかもしれない。
そんな空想を楽しむ時間こそ、とんぼ玉を手にする醍醐味なのです。
参考文献・サイト
日本の文献
谷一尚「ガラスの比較文化史」「ガラスの考古学」「世界のとんぼ玉」「古代ガラス 銀化と彩り」
吉水常雄「古代ガラス」「正倉院ガラスは何を語るか – 白瑠璃碗に古代世界が見える」
海外の文献
Julian Henderson「Ancient Glass: An Interdisciplinary Exploration」
参考サイト
奈良文化財研究所 https://www.nabunken.go.jp/
東京国立博物館 https://www.tnm.jp/
中近東文化センター http://www.meccj.or.jp/
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