ニキ・ド・サンファルのアートスタイル
表現形式
- 絵画
- 彫刻(造形)
- 建築
- 著述
表現ジャンル
- コンセプチュアル・アート
- ヌーヴォー・レアリスム
ニキ・ド・サンファル作品の特徴と魅力・評価ポイント
ニキ・ド・サンファルとはどのようなアーティストだったのか?そして作品の特徴と魅力をひもといてみました。
特徴と魅力
パリの中心ポンピドゥーセンターに隣接するストラヴィンスキー噴水
日本の直島アートエリアのカラフルで心楽しくなるような彫刻
そして「ナナ」に代表される生命力あふれる女性のオブジェ
ニキ・ド・サンファルの作品は没後20年近くたった今なお世界の多くの人々に親しまれています。
正規の美術教育を受けていないアーティスト作品「アウトサイダー・アート」「アール・ブリュット」の例にもれず、ニキのアートは無邪気で大胆、自由奔放な作風が魅力です。
ディオールのトップデザイナーであるマリア・グラツィア・キウリがニキへのオマージュを2018年春夏コレクションで取り上げたことは記憶に新しいところです。
また今年2020年も(残念なことにコロナ渦によって中止されましたが)ニューヨークのMOMA美術館では2020年大規模な展覧会を予定していました。
写真で見るありし日々のニキ・ド・サンファルは驚くほどの美貌に恵まれた女性でした。
貴族階級の流れを汲む裕福な家系に生まれ、その後ファッションモデルからアーティストへの華麗なる転身を遂げた彼女の人生は
いわば人々のあこがれを集める時代の寵児。
しかし、彼女の人生を通じての心の旅は波乱万丈そのものでした。
裕福だったはずの両親は世界恐慌によって破産を経験し、幼いころから両親との別居を余儀なくされました。
加えて父親による性的虐待、両親の不和、人間関係の軋轢に苦しみぬき、ついには精神を病んでしまいます。
アートセラピーの一環としてコラージュや絵をはじめたことがきっかけで、自分の心を開放することを知り、アーティストとしての人生を歩み始めることになったのでした。
彼女が創作活動をはじめた1960年代は、反戦と女性解放をメインテーマに人々がデモを行いながらも、多くの男性が戦争に徴兵され女性が責任ある仕事につくことが難しかった時代です。
そして現代は世界を巻き込む大きな戦争はなく世界には女性の首相が誕生し同性婚が許され、一見人々の信条や行動を縛るくびきは消えたかのように見えます。
しかし人種差別は今なお残りテロの恐怖は去らず、そして世界中がコロナ危機に巻き込まれるなど、やはり社会は一定の閉塞感に支配され完全に自由になったとは言えない状況です。
心を開放し自由な表現をメインテーマとして追及したニキ・ド・サンファル作品が彼女が活躍した当時の人々、そして現在のわたしたちの心をとらえて離さない理由はそのあたりにあるのでしょう。
評価ポイント
ニキ・ド・サンファルはまさにアール・ブリュットの申し子ともいうべき、カラフルで大胆な発想の作品を多く残しました。
アール・ブリュットとは「(論理的な)手を加えられていない」作家自身の内側からわきあがる原始的とも呼ぶべき芸術的衝動によって創作された作品の総称です。
伝統や受けた教育などにとらわれない、精神病患者や精神薄弱者あるいは子供や素人アーティストらの作品を指し、「ジャン・デュビュッフェ」によって定義され社会的な認知を受けるようになりました。
他のアール・ブリュット作品同様に、ニキ・ド・サンファル作品も色の洪水に満ち、自由奔放なフォルムで構成された「生の喜び」をあらわす明るい作品が大半。
しかしその一方「射撃芸術」のような「体験すること」で得る芸術体験を観客に突き付ける、観客を油断させない一面も持ち合わせています。
ニキ・ド・サンファルのアートを読み解くもうひとつのキーワードは「フェミニスト運動」です。
女性解放が叫ばれた時代の大きなうねりに共鳴しながらも、モデルとして自分の容姿で収入を得る矛盾に悩む彼女の心情は「ナナ」「ブラックビーナス」シリーズに昇華されました。
彼女の表現に心を打たれた女性は多く、日本では私設ミュージアムを創立した(2011年閉館)「ヨーコ増田静江」がよく知られています。
ニキ・ド・サンファルのプロフィール
裕福ながら過酷なな幼少期
1930年 パリ近郊で生まれる。
母親は裕福なアメリカ人、父親は貴族の家系を引くフランス人だった。
しかし1929年の大恐慌によって破産し両親はアメリカからフランスに移住し、生まれたのがニキだった。
他に4人の手兄弟妹がいるがうち二人は自ら命を絶っている。
母親からは肉体精神的な暴力を、父親から派生的虐待を受けたことはのちの作品にも影響を残した。
1937年に一家はニューヨークで暮らすようになる。母親に名付けられたというニキという呼び名はこのころから。
モデルそして母親となった青年期・学生時代
厳格なミッションスクールになじめず放校となること数回。
両親の不和も手伝って早いうちから自立をのぞみ、1947年ごろからファッションモデルとして、ディオールなどの一流メゾンで活躍。
また同時期に幼なじみのハリー・マシューズと駆け落ち市1949年には結婚。翌年には子供にも恵まれる(最初の娘ローラ)。
しかし母親から強制され反抗した「良き妻よき母親」のレールに乗っていることに気づき苦しむ。
その一方演劇の勉強のかたわら油絵などの創作活動をスタート。
きっかけはアートセラピーだった創作初期
1953年 前年パリに移住し環境の変化がわざわいしたのか重度の神経衰弱症状に悩む。
セラピーの一環として絵画製作に本腰を入れ演劇の道は断念する。
二人目の子供息子フィリップを育てながらルーブル美術館に通い、クレー、マチス、ピカソ、ルソーに触発される。
またスペインのマヨルカで一時暮らし、後のタロットガーデンにつながるガウディの「グエル公園を知りあこがれを抱くようになる。
1955年 生涯を共にする二度目の伴侶「ジャン・ティンゲリー」と出会う。当時彼は妻帯者だった。
生涯の伴侶と仕事に出会った創作中期
1960年 ハリー・マシューズと離婚し、ティンゲリーと公私共にパートナーとなる。
ティンゲリー、イヴクライン、アルマンなどとともに、ヌーヴォー・レアリスムに参加。
1962年 アメリカで「射撃」パフォーマンスを披露する。
1974年 イタリアのトスカーナで出会ったアートに造詣の深い幼なじみと再会。
彼女はフィアット社の名誉会長の妻であり、その縁でタロット・ガーデンの敷地を得て建設に着手。
創作黄金期となった創作後期・現在
1980年代に入るとナナコレクションを大量に発表した。その一方エイズ啓蒙など社会活動にいそしむ
1988年 初来日
1994年 カリフォルニア州サンディエゴ市北部のラホヤ(La Jolla)に移住。
2002年 71歳で死亡。死因は長年吸引してきた科学煙によるものと推測される。
ニキ・ド・サンファルの代表作
「射撃絵画 Shooting Picture」
1970年まで制作されたニキ・ド・サンファルのアイコンと呼ぶべき作品群。
キャンバスに置かれた絵の具の入った袋を銃で撃ち、絵具が流れ出る痕跡がそのまま作品となった。
パフォーマンスアートとして構想されたもので、ロバートラウシェンバーグとジャスパージョンズによって撃ち抜かれた作品はテートギャラリーに収蔵。
「ナナ NANA」
暗さと反発を感じさせる自画像や射撃絵画をはじめとするパフォーマンスアートは、もともとアートセラピーの一環としてスタートしたというプロフィールを想起させる不安定さがあった。
その後作風は一変し、不自然に抑圧された旧弊な女性像を否定する自由奔放な姿、そして同時に強い母性を感じさせる堂々たる女神像「ナナ」シリーズにたどり着いた。
「良き娘良き妻」であるべく抑圧された少女期からの脱却、社会から強制された女性像からの解放、そしてみずからの出産やパートナーを得たことの安心感が作品の背景にうかがえる。
「タロットガーデン(イタリア トスカーナ)」
アントニオ・ガウディによる「グエル公園(バルセロナ)」にインスパイアされたニキ・ド・サンファルが私財を投じて作り上げた公園。
その名の通りにタロットカードに登場するキャラクター21体の彫刻や建物が並ぶ。
ニキ・ド・サンファル自身も「imperatrice 女帝」と呼ばれる建物の中に暮らしながら、24年の歳月をかけて完成させた。
毎年4月1日から10月15日まで一般公開されている。
「洞窟(ドイツ ヘレンハウゼン王宮庭園内)」
ニキ・ド・サンファル生前最後の作品となった。
1676年に建設された避暑のためのバロック様式の建物「 ヘレンハウゼン王宮庭園」をベースにした半建築作品。
鏡のかけらやカラフルなガラス、珪酸石をちりばめた空間に、144体もの女性像が配置。
ニキ・ド・サンファルのアートカタログとも呼ぶべき空間になっている。
ニキ・ド・サンファルの市場価格・オークション落札情報
「ナナ・ドーン」 645,800米ドル
2007年11月15日 サザビーズ/ニューヨーク
「ドリームマシン」 581,050ユーロ
2008年5月26~27日 サザビーズ/パリ
https://www.sothebys.com/en/auctions/ecatalogue/2008/contemporary-art-pf8007/lot.31.html?locale=ja
「クールドライオン」 161,000米ドル
2013年11月13日 クリスティーズ/ニューヨーク
「アドリアーナ」 158,500米ドル
2012年5月9日 クリスティーズ/ニューヨーク
ニキ・ド・サンファルの作品と出会える場所
ベネッセ多摩本社ビル(東京・多摩センター駅前)
京王電鉄・小田急電鉄・多摩都市モノレールが乗り入れる「多摩センター駅」広場に面したベネッセビル前で2体(以前は5体)の野外彫刻が見られる
彫刻の森美術館(神奈川・箱根)
ナナシリーズの女性像が見られる
直ベネッセハウス ミュージアム(香川県)
「猫」「らくだ」などの野外彫刻が見られる
https://benesse-artsite.jp/art/
ニキ・ド・サンファルの最新トピックなど
ニキ・ド・サンファルのカラフルな作品群を見ることができる「タロットパーク」「直島ベネッセハウスミュージアム」などは、InstagramなどのSNSの人気スポット!
近年では初期の絵画やオブジェ作品、増田静江や松本路子らと交わした絵手紙にも注目が集まっています。
またアート取引の過熱ぶりも影響してか、2014年に開催されたパリのグラン・パレ他ヨーロッパ各地で展覧会が開催されて大盛況でした。
日本でも2015年国立新美術館で100点を超えるニキ・ド・サンファルの作品を展示した回顧展が開催されましたが、またそろそろまとめて作品を鑑賞する機会がほしいものです。
コメントを残す