2020年10月「杉本博司」最新情報~瑠璃の浄土展~

京都市京セラ美術館こけら落とし「杉本博司 瑠璃の浄土」

長い年月に集められた珠玉の色が並ぶ

2020年春以降コロナ感染拡大防止の影響により中止延期された展覧会が相次いだ日本のアートシーン。

10月現在では、感染拡大予防ガイドラインに沿った対応を講じながら各地の美術館ギャラリーが営業を再開しはじめています。

ソシテ現在日本で最も注目度が高い!展覧会といえば東京森美術館の「STARS展」でしょう。

なにしろ世界が注目する6名の日本現代アート作家

  1. 草間彌生
  2. 李禹煥(リ・ウファン)
  3. 宮島達男
  4. 村上 隆
  5. 奈良美智
  6. 杉本博司

代表作そして新作が一堂に会するのですから無理もありません。

リファスタでも作家ごとに鑑賞レポートをお届けする予定です。

↓ 第一回目「村上隆」特集

2020年10月最新情報「~STARS展~村上隆作品紹介」

しかし関西のアートシーンも負けじと熱い!見逃せない展覧会が目白押しです。

特に今回ぜひご紹介しておきたい展覧会がSTARS展メンバーのひとり「杉本博司」による

「杉本博司 瑠璃の浄土」展

です。

↓過去の杉本博関連コンテンツはコチラ

杉本 博司/Hiroshi Sugimoto

2020年10月4日(日曜日)に最終日を迎えたこの展覧会は、「京都市京セラ美術館(旧京都市美術館)」のお披露目でもありました。

コロナ渦下の現在、訪れたいと思いながらかなわなかった方も多いはず。

この記事では「杉本博司 瑠璃の浄土」展の全貌を余すことなくお伝えします。

ぜひ雰囲気だけでも感じていただけたらさいわいです。

※写真はすべて筆者撮影。著作権はリファスタに帰属しますので無断転載はおやめください。

「杉本博司 瑠璃の浄土」展の開催場所は?

元の建物を極力変えず居心地よい空間に生まれ変わった

京都岡崎エリアはどんな場所?

「仮想の寺院」をイメージしたという「瑠璃の浄土」。

開催場所は、3年の歳月をかけて改装された京都市京セラ美術館(旧京都市美術館)です。

岡崎エリアとよばれるあたりで平安神宮のすぐそばにあります。

近隣には「京都国立近代美術館」「京都市美術館 別館」「細見美術館」「みやこめっせ」などアートスペースが集中。

加茂川と合流する琵琶湖疎水の流れも美しく、アート散歩にうってつけの場所でもあります。

すぐそばには南禅寺があり湯豆腐の名店があちらこちらに点在。

そしてこれからは紅葉の季節。京都の秋を存分に堪能できますよ!

かつての大寺院跡に建つ京セラ美術館

京都市京セラ美術館のある岡崎一帯は、かつて平安時代に「六勝寺」と総称された6つの寺院があった場所です。

天皇や中宮の発願で建立された由緒ある大寺院でしたがその後の戦乱などで荒廃し長くさびれた場所でした。

京都市京セラ美術館は「円勝寺(鳥羽天皇のおきさきである中宮の発願。1128年落慶)」の跡に建てられています。

六勝寺のなかでは女性の発願による唯一の寺院でもあります。

1000年前の京都の寺院跡というロケーションは、今回の展覧会の作品展示の構想のベースとなったそう。

美術館御用達の骨董店を経営していたニューヨーク時代、扱ってきたさまざまな仏像の顔が脳裏に広がったことでしょう。

「瑠璃の浄土」ネーミングの由来

展覧会では宝物殿として古代の遺物も。瑠璃と呼ばれた青い古代ガラスも

「瑠璃の浄土」、字面だけ見ても美しい光景が目に浮かぶタイトルですが、平安時代の流行歌(今様)の歌詞にちなんでいます。

瑠璃の浄土は潔し

月の光はさやかにて

像法転ずる末の世に

遍く照らせば底もなし

さて瑠璃の浄土とは、実際にはどのような場所なのでしょう?そして瑠璃が意味するものは?

瑠璃という文字を見れば反射的に「青色」が思い浮かびますね。

そう仏教世界で瑠璃といえば「東方浄瑠璃世界」とよばれる薬師如来がおさめる青の光に満ちた世界をあらわしています。

(現世を守護する薬師如来は「東方浄瑠璃世界」、極楽に導く阿弥陀如来が「西方極楽浄土」をおさめる)

左手に薬つぼ、右手は薬指が前に出した薬師如来は、その名の通りに病気を治し健康を守ってくれる仏様。

薬師如来の立つ「東方浄瑠璃世界」は、瑠璃(=ラピスラズリ)が大地をおおい、青い光に満ちた清寂と清浄の世界であると仏本にはあります。

「瑠璃の浄土」展示作品

杉本博の写真アートといえばモノクロームプリント「海景」

光学硝子五輪塔

まず立ち並ぶ「光学硝子五輪塔」から瑠璃の浄土展ははじまります。

残念ながら写真撮影が許されなかったスペースです。

透明な光学ガラスでできた球体をのぞきこむと、そこには代表作「海景」の世界が広がっていました。

OPTICKS

海景が見せるモノクロームの世界から一転して色の世界へ。

当初のタイトル「Colors of Shadow」のとおり暗闇に浮かぶ強い色に目を奪われます。

物理学の面から光を研究したニュートンによって「OPTICKS 光学」はうまれ、「光は粒子」「白い光は色の光の集合体」がはじめて提唱されました。

ニュートンと全く同じ実験装置を作り、毎日5:30からその日の朝日の光をチェックし「日によって微妙に異なる色の粒子」をとらえ、今回の作品の完成が実現しました。

また実験装置「アイザック・ニュートン式スペクトル観測装置」は見事に光のスペクトルを床に映し出していました。

瑠璃の箱

寺院を想定した展示だけあって、各通路はあたかも回廊のよう。

その回廊の途中に設置されていたのが「瑠璃の箱」です。

製作途中に生じた光学硝子の破片を集めたもの。

まるで宝石を集めた箱のようにも見え、まるで別世界へ誘う窓のように光と色にあふれていました。

しかし当時の製作に使用された光学ガラスにはトリウムやカドミウムなどの有害な物質が使用されていました。

公害防止のため1970年代に全面的に製造中止となっています。

「仏の海」

光学硝子五輪塔展示同様に撮影は許可されていませんでした。

おそらく瑠璃の浄土展示の中のメイン作品として楽しみにしていた人が多かったのではないでしょうか。

三十三間堂千手観音を中心に据えた写真作品の一大展示です。

三十三間堂では千手観音の左右には1000体の観音像が並びますが、こちらの展示ではさらにその存在感が強調されて静かな迫力に圧倒されます。

観音像の前に立った時、会いたい人に似た像に出会ってしまうそう。

この部屋であなたは会えましたか?

護王神社模型

ベネッセアートサイト直島にある杉本博司によって設計された「護王神社」の模型展示です。

本殿と石室はガラスの階段で結ばれていて、神社の地下と地上が一体となった作りになっています。

模型ではその様子がよくわかり、白木、石、ガラスで構成された無機質な美を堪能することができます。

直島特有の家屋や寺社などを改修する「家プロジェクト」の作品のひとつでした。

直島・本村地区の氏神がまつられているので、参拝はいつでも自由にできます。

日本海 隠岐

ほかの「海景」作品と同様に水平線によって画面が二つに分断された杉本ファンにとってはおなじみの構図。

モノクローム画面によって隠岐の海は厳しくそして厳かで、寺院の座敷を仕切るふすま絵のようにも見えます。

デジタル写真が主流となる中で、フィルムと印画紙の「ゼラチン・シルバー・プリント」による深みのあるグラデーションや質感を存分に味わえます。

内部探検!京都市京セラ美術館

全て京都の食材のランチプレート

さて、リニューアル後さらに魅力あるアートスペースになった京都市京セラ美術館についてもいくつか情報をお伝えします。

「京セラスクエア」

エントランス前のスロープ状の広場は、イベントやコンサートスペースとして活用される予定です。

このスロープによって地下にあるはずのエントランスがとても明るくて広い空間になっています。

ミュー時アップショップやカフェもあり、とても居心地の良いスペース。

ちなみにカフェでサービスされる京都の食材を使ったプレートメニューは必食!

また京都産のクラフトビールも用意されています。

「本館」

中央ホールがちょうど各展示室へのセンターハブの役割を果たしてくれます。

西広間の天井のステンドグラスや西玄関の大階段など、各所にはかつての面影がそこかしこに残ります。

個人的には重厚な黒塗りの扉が残されていたことが喜びでした。

「東山キューブ」

「瑠璃の浄土」展が開催されたのは新設された東山キューブです。

隣接する京都動物園、そして視界の向こうに見える東山の緑。

ロケーションがもたらす最高の借景によってまるで別世界のよう。

会期終了後も鑑賞できる!「硝子の茶室 聞鳥庵」

京セラ美術館日本庭園のひそかな人気者「亀」

展覧会は終わっても杉本作品を鑑賞する時間はまだ残されています。

美術館内の日本庭園に設置されている「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」は2021年1月31日まで展示されることに。

しかも野外での展示ですから入場料などは必要ありません。

冬眠するまではカメが歩く姿も見られます!

最後にこれからの季節おすすめルートをご紹介しましょう。

まず「阪急京都線河原町駅(終点)」から丸山公園の南門まで移動、そして神宮道を直進。

すると突き当りは平安神宮の赤の大鳥居。そのそばに京都市京セラ美術館があります。

小1時間ほど京都の町並みと神宮道の紅葉を楽しみながらの散策コースとしてもおすすめです!


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