公的資金が金を購入するなんてあり得ない

今回は、読者の方から「年金機構が金を購入したら、もっと運用が楽になるのではないか」という質問をいただいたことへの回答です。

以前に紹介をした記事

https://media.rakuten-sec.net/articles/-/29243

引用元:楽天証券

上記の記事については、以前も当コラムで取り上げました。

金投資の基本に立ち還ってみよう。

そもそもこの著者は、金相場が動く要因をわかっていません。

金相場を動かしている要因

金相場を動かしている要因はすなわち、

【1】ドル
【2】金利
【3】GDP

であり、現在は1980年代にアメリカの金利がピークになった時から下がって、過去最低の水準になっています。

参照元:TRADING ECONOMICS

以下の通り、緑色の線で金のドル建て価格チャートを加筆すれば、2000年以降は低金利によって金が上昇していることが明らかです。

参照元:TRADING ECONOMICS

つまり、金の上昇の根幹は「金利」なのだから、「年金機構に金を買わせればもっと金価格は上昇する」と主張したところで何の意味もないのです。

これは、相関関係と因果関係の混同であり、年金機構が金を買うというのは単なる相関関係にすぎません。

因果関係と相関関係の視点で見れば…

相関関係と因果関係の混同とはどういう意味かと言えば、原因に対して結果がついてくるということは、病気に例えると悪いところを治療したら完治します。

ところが相関関係の場合、体の悪い部分を治療しても完治しないということを指すのです。

今回の場合は原因を低金利とすると、金利が安値から上がってくれば金は下がっていきます。

参照元:TRADING ECONOMICS

緑線の金価格は、青線の金利が8月上旬に過去最低になった時点で過去最高の2100ドル目前まで迫りました。

ところが、金利が上昇すると金の価格は下がっています。

これを因果関係と言うのです。

年金機構が金を買っても…

佐渡金山の遺構

年金機構による金購入は、金の価格変動要因【1】ドル、【2】金利、【3】GDPのいずれにも含まれていません。

なぜ含まれていないのかと言えば、金の需給など誰にもわからないからです。

毎年新産の金が統計資料などで発表されますが、「それ本当ですか?」と聞き返したくなります。

例えば、佐渡島では観光客相手に砂金取りツアーなるものが開催され、わずかながら金が採れます。

これは日本各地の河川に行っても、一生懸命やれば0.1gくらいの金は1日かければ取れるのです。

つまり、世界の砂金など集めようと思えばいくらでも集められますし、昨今はパソコンや携帯電話に使われるリサイクルの金も回収されています。

その上に、エジプトのツタンカーメンのマスクなどにもあるように、有史以前から金は採掘されているのです。

その全部の採掘量など誰にもわかりません。

それで年金機構が買えば需給がひっ迫して金の値段が高くなるなんて、あり得ないのです。

ハント兄弟の銀買い占め事件

ヨーロッパで使われた銀食器

この方はおそらくハント兄弟の銀買い占め事件、シルバーショックなども知らないのでしょう。

過去に銀が大高騰したことがあるのですが、ハント兄弟が世界中の銀を買い占めたことが理由でした。

しかし、ハント兄弟は敗れ去ります。

全世界の人が手元の食器などに使われている銀製品を鋳つぶして供給したのです。

結果、買い占めても買い占めても銀の供給は止まらず価格は暴落。

ハント兄弟は破産しました。

シルバーショックの教訓

金箔が入っている日本酒だってあるのに…

こういう事件を知っていれば、有史以来掘り出された金がいくらかもわからず、しかも金箔入りなんて食品も存在し、その金箔は人体では融解せずに体外に排出されます。

ですから、金を探そうと思えばいくらでもその辺に0.0001gくらいは転がっていますし、海の中にも微量ながら存在します。

それで年金機構が買えば高騰するなんて、へそで茶をわかすお話ということです。

高騰すれば、ハント兄弟の銀事件のように皆が金を供出するだけのこと。

当時の高騰した銀価格はいまだに高値を抜いていないはずであり、そのくらいハント兄弟は銀を高騰させました。

値段が高くなれば供給がいずれ上回る、しかも私たちの日常にあるものならなおさらです。

そもそも金は幻!?

金の金庫の中は空っぽ!?

日本円の金の先物取引があり、取引はグラム単位ですが、実際の受け渡しは1kg単位になります。

これは何を意味しているかと言えば、グラム当たり100円上昇したら損益は1000倍、10万円の損益が出るのです。

つまり、実際の取引の1000倍以上あることを前提にした取引になります。

ところが、実際の取引において日本国内にはそれほど莫大な量の金は存在しません。

もし取引者で買いポジションを持っているお客全員が全部金に換えてくれと要求したら、全部を金に換金することができないのです。

そんなことが行われる理由は、流動性の確保のためです。

金取引における流動性の確保とは

FXなどで買いたい時に買えて売りたい時に売れる流動性は先物取引の賜物

実際の金を保有している人だけを売買の対象にしたら、1日に何度も値段は成立しません。

皆さんはできるだけ安い値段で買いたいし、高く売りたいのは間違いのないでしょう。

その時点ではその価格が最高値なのか最安値なのかわからないから売買が成立するのです。

値段というのは買う人と売る人がいるから成立するものであり、買いたい人ばかりであれば天井知らずに上昇します。

ところが、実際に保有している人だけではそんなことは起こりませんが、この取引参加者を1000倍にすれば最高値でも平気で買っていく人が存在するのです。

こういうために先物取引、信用取引は存在するのです。

年金が先物取引なんかに手を出したら…

年金がギャンブルのような取引に手を出せば悲惨なことになるのが目に見えている

皆さんにも馴染のみ深いFXも先物、信用取引です。

つまり、実際にはないものを取引しているのが先物、信用取引になります。

年金が先物取引を行いそれを現受けするときに、実際の金がないなんて事態になったらどうするのでしょうか。

値段は高騰するでしょうが、モノがありません。

その間に値段がハント兄弟の銀買い占め事件のように大暴落すれば、皆さんの将来受け取る年金が消えてなくなります。

それで「なんでそんな商品に投資したんだ!」と普通の国民なら怒りますよね。

ファンドが石油なら買う理由

お肉や魚だったら冷凍庫一つで保存がきくが原油はそうは行かない

この記事の中に出てくる原油には、ファンドや年金は参入している可能性があります。

これには理由があり、原油の場合には金と違い誰でも受け取れるようなものではないからです。

金は1kgや1オンスあたりの受け渡しで家の押し入れにでも保管はできますが、原油は専用の保管設備、いわゆる石油タンクが必要になります。

専用のタンカーやタンクを作るのには何千億という資金が必要であり、借りるにしても年間で何千万円というおカネが必要です。

そんなおカネを用意できるのはわずかな富豪や法人だけであり、全世界の人が気軽に参加できるようなものではありません。

ところが金や銀、白金、パラジウム、豚肉や牛肉などは、家の冷蔵庫や押し入れでも保管できます。

牛肉や豚肉の受け渡しも家の冷蔵庫では不可能ですが、その辺の冷蔵倉庫であれば石油タンクよりは安く借りられるでしょう。

つまり、大衆が参加できるような先物取引であれば、ハント兄弟の買い占め事件のようなことが可能ですが、石油などは一般の人はおいそれとは参加できないから主にファンドは参加するのです。

金のETFや純金積立の場合

純金積立を金そのもので戻してもらおうなんて考えている人はまずいない

そして、もう一点、ワールドゴールドカウンシルなどは金のETF(上場投資信託)などが過去最高の残高になったと盛んに喧伝します。

これも金の先物取引と同じで、各国によってバラつきはありますが、だいたい10〜50%程度しか金を保有していません。

つまり、ETFが1億円の金の買い付けを受け、約款でその買い付け量は10%と定められていたら、1000万円の買い付けしか行わないのです。

1億円全量を買い付けることはまずありません。

ところが万が一ハント兄弟事件のように買い占めを受けて、お客さんにその金を全量交換してくれと要求された場合、約款にてその10%しか受け渡さないと記されていれば、その10%だけで済むのです。

つまり、全量の金を受け渡さなくてよいと約款に記されているのであれば、それは裁判にもならないのです。

でも、ほとんどの人はそんなことを想定していないので約款など読んでいません。

ほとんどの人は現金でそのおカネを返してくれればいいという感覚ですから、金のETFは成り立っているのです。

純金積み立ても同様になります。

公的資金は絶対に損を出せない

国民生活の根幹の一つである年金は失敗が許されない

ところが日本の年金の場合、全国民に加入の義務があります。

もし年金機構が金を購入し、金の価値がまだまだ上がると見て金のETFを購入したら、確かにこの人が言うように金の価格は高騰するでしょう。

しかし、実際の金がなく供給が増えてしまった場合、とてつもない損害を受けることになります。

間違いなく日本の年金機構は破産するでしょう。

しかも約款に損をしても保証しないなんて書かれたら、年金を払っている人は訴えるすべもなくて泣くに泣けない状態になります。

政府の公的資金というものは、絶対に損を出してはいけないものです。

なぜなら、国民一人一人が働いて支払った税金が原資なのですから、それを「大損しました。ごめんなさい」ですまないからです。

だから、税金で運営されている日銀が買っているものに損はありません。

今、日銀が買っているものは日本国債や株式、リートなどがあり、年金機構が買っているものにはそこには海外の株式運用が拡大しています。

短期的には損をするかもしれませんが、大きい流れで見れば、金融庁や年金機構の人は大損はないことを見越して買っているのです。

もちろんノーリスクということはありませんが、それなりに保険、ヘッジはかけているでしょう。

金の価値はなくならないが…

カイロにあるエジプト考古学博物館に展示されたツタンカーメンの黄金の棺

ただ、この文章を読んでもおわかりのように、金は夢のような金額が儲かる可能性もあり、そして有史以来、財産の最終手段として認められています。

そういった意味では金を保有する意義は大きいのですが、現状で夢を見るような値段が出る可能性を秘めた材料は出ていないだけです。

とは言え金の価値が減って石ころみたいな値段になるようなこともあり得ないことから、安いところで買うことは推奨します。

なぜなら世界中の政府が借金まみれであり、その借金が消えてなくなることは当面はないように見受けられるからです。

その際に、リーマンショックや今回の新型コロナのようなことが起これば金の価値はますます増大するでしょう。

だから今の値段では売却を考えてもいいですが、買い付けは推奨しません。

この記事のまとめ

今回の記事では、年金機構が金を買い付けるなんて話はナンセンス。

年金機構の金買いなど金相場の変動要因に含まれてはおらず、因果関係と相関関係の混同にすぎない。

しかも金の受給など誰にもわからず、年金機構が買ったところで、人間界にも自然界にもあまたの金が埋蔵されている。

また、金の売買は実物のない先物(信用)取引で成り立っており、そもそも公的資金である年金は性格上絶対に損は出せないため、そんな博打のようなマネには手を出せない。

こういう内容の記事でした。


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