ダイヤモンドにサステナビリティが求められる時が来た!
はたして現在ブラッドダイヤモンドは姿を消したのでしょうか?
2007年日本で公開されたレオナルドディカプリオ主演映画「ブラッドダイヤモンド」はアフリカの内戦における資金調達にダイヤモンドが利用されている事実を広く世に知らしめました。
ブラッドダイヤ根絶のため国連やダイヤモンド関連企業が共同でスタートさせたキンバリープロセスも、制度の欠陥や巨大化しすぎた組織運営のまずさを指摘する声が出ています。
SDGs意識の高い若年層を中心に、よりクリーンでサスティナブルなダイヤモンドが求められる現在、むしろ合成ダイヤモンドの未来が期待されているかもしれません。
今後天然ダイヤモンドの価値はどう変わるのでしょうか?
そしてラボグロウンダイヤモンドの共存は可能なのでしょうか?
今回「2021ダイヤモンド考察」と銘打って
- 「ブラッドダイヤモンドの現状」
- 「天然ダイヤモンドの価値」
- 「今手に入れるべきダイヤモンド」
の3テーマを取り上げました。
本記事では前述の紛争ダイヤ取引の現状についてご紹介します。
本記事を最後まで読んで頂くと
- ブラッドダイヤモンドが生まれた背景
- キンバリープロセスの限界
- ダイヤモンド流通透明化の取り組み
など、ダイヤモンド取引の影の部分、そして現在のブラッドダイヤモンド根絶の取り組みなど、あまり知られていない事実について理解を深めていただけます。
あわせてシリアで命を落としたジャーナリスト「後藤健二」さんによるルポタージュ「ダイヤモンドより平和が欲しい」も触れています。
同じ日本人としてぜひご記憶にとどめていただけることを願っています。
ダイヤモンドを手に入れてみたい、と考えている方はぜひご一読ください。
ブラッドダイヤモンドが生まれた背景とは?
武装組織とダイヤモンドコングロマリットとの利害一致
ダイヤモンド、そしてルビーサファイアエメラルドの四大宝石を筆頭に、宝石類は世界標準の価値を持つ資産です。
かさばらないので持ち運びしやすく、古今東西人々の携帯財産として重宝されてきました。
しかしその特性によって、鉱山から容易に持ち出しやすくダイヤモンド産地における紛争資金源となってきました。
これらのダイヤモンドが「ブラッドダイヤモンド」「紛争ダイヤ(コンフリクトダイヤ)」と呼ばれるものです。
ダイヤモンドは金と同様に世界中で換金が容易、しかもカットや研磨によっていくらでもカムフラージュが可能です。
そして紛争国に武器を売りたい欧米諸国は、ダイヤモンド需要国でもあります。
あらゆる意味でダイヤモンドは武器調達資金源として最適だったのです。
アフリカのダイヤ鉱山が悲劇に見舞われるわけ
アフリカにおけるブラッドダイヤという悲劇の背景には、紛争多発エリア=ダイヤモンド産地という不幸なマッチングがあります。
- 15世紀からの奴隷貿易
- 欧米列強による植民地化
- 意図的に仕組まれた民族対立
- そして2度の大戦後の不合理な国境分割
あまりにも長いあいだ、深く痛手を負ったアフリカの人々にみずからを統治するだけの力は残されていませんでした。
さらに戦後の東西対立が絡み国同士の対立が激化、旧植民地での人種差別が拍車をかけたことなど様様な悪条件が重なりさらなる悲劇を生みました。
南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策が終了した時点(1990年代)から、紛争が多発=ブラッドダイヤモンド流通がピークに達したことも注目すべきでしょう。
このように長期間にわたって理不尽な暴力が恒常化してきたアフリカにおいて、紛争多発の要因を特定することは容易ではありません。
ひとつだけ確かなことは、あまりにも長い暴力の歴史が遺した負の遺産が悲劇の原因となっていることです。
たとえば後述する後藤健二氏による「ダイヤモンドより平和が欲しい」に登場する武装勢力による人々への手足切断は、ベルギー(国王レオポルド2世統治時代)が旧植民地コンゴで行ったゴム園での奴隷への制裁を踏襲したものなのです。
いま改めて後藤健二「ダイヤモンドより平和が欲しい」を再読したい
ダイヤモンド消費大国のひとつである日本ですが、ダイヤモンドについて関心が高いとは言えません。
大きな理由の一つが、多くの人々にとってダイヤモンドジュエリーが身近になるのは「ブライダルシーンのみ」という現状があるからでしょう。
しかしダイヤモンドが生み出される悲惨な状況を伝えようとする多くのジャーナリストの努力によって、人々はダイヤモンド採掘の現場で何が起きているかを知ることになります。
- 正規非正規とわず軍隊による殺戮
- 劣悪な環境での強制労働
- 誘拐された子供のなれのはて「少年兵」
ダイヤモンド取引の影、という表現では到底足りないほどの正視に堪えない現実が暴かれていました。
日本においてもシリアで非業の死を遂げた後藤健二さんによる「ダイヤモンドより平和が欲しい」があります。
なぜ自国のダイヤモンドが国民を苦しめてしまうのか?
シンプルな文章で淡々とつづられているからこそ、深く考えさせられる名著です。
キンバリープロセスの限界とは?
キンバリープロセスはダイヤモンド取引の番人ではない
紛争資金にダイヤモンド(別名紛争ダイヤ。一時は全世界のダイヤモンド流通の4%を占めていたといわれています)が使われている事実に非難が集中したことで、ダイヤモンド取引の透明化への試みがスタートしました。
その柱となっているのが国連やダイヤモンド関連企業が共同して紛争ダイヤ輸出入禁止を義務付ける「キンバリープロセス」です。
しかしダイヤモンドの番人として機能するほどキンバリープロセスの追跡範囲は広くありません。
制度の欠陥を指摘する声は絶えず、参加する組織や関係国の結束も一枚岩ではないのが現状です。
次にキンバリープロセスの問題点を列挙してみました。
問題1「キンバリープロセス追跡対象はダイヤモンド原石のみ」
ブラッドダイヤモンドをなくすためにスタートしたキンバリープロセスによって、確かに紛争地からのダイヤモンド原石の輸出量はほぼゼロとなっています。
しかしキンバリープロセスの追跡対象は「ダイヤモンド原石の採掘地」のみ。
ダイヤモンド原石が研磨されてしまえば、キンバリープロセス証明書は不要です。
そしてダイヤモンド鉱山のそばにはダイヤモンド企業が運営する研磨工房が控えています。
問題2「キンバリープロセスが問題視するのは紛争ダイヤか否か」
さらにキンバリープロセスが監視対象としているのは「紛争地で採掘されたダイヤモンド原石」に限られる点です。
ダイヤモンド採掘現場で問題視されている「不当賃金」「劣悪な労働環境」「児童労働」などの問題はキンバリープロセスは無視します。
さらに紛争が発生していない国に密輸されてしまえば追跡は不可能です。
キンバリープロセスに依存しない動き
ダイヤモンド採掘における負の側面は、ダイヤモンド消費国の若い世代の価値観とはそぐわないものです。
キンバリープロセスが抱える問題は、ダイヤモンド関連企業やダイヤモンド産出国政府側の利害の一致、そしてあまりにも巨大化しすぎた組織のマネジメントが困難を極める点にあります。
キンバリープロセスの不完全さを埋める自主的な動きは、すでに多くのダイヤモンドブランドによってはじまっています。
実際のところ、ブラッドダイヤモンドは売れません。
現代の若者にとって、人の血にまみれたと知っていながらほしいと思う感覚はずれている、といえます。
SDGs意識を共有する現代を生きる人々は、血を代償としたダイヤモンドを手に入れたいとは思わないのです。
ブラッドダイヤモンド根絶の動き
ティファニーのサスビナリティの挑戦
2019年ティファニーは採掘された場所が明確なダイヤモンドのみを調達することを決定しました。
同時に0.18カラット数ダイヤモンドの原産地情報を公表することも宣言。
ティファニーのショーケースには原産国のラベルが並ぶことになります。
この試みによりティファニーは世界ではじめてダイヤモンド原産地情報を公開したジュエラーとなりました。
デビアスのトレーサビリティシステム
デビアスグループの専属鑑定機関「IIDGR」では、登録鉱山において採掘から鑑定までを一貫して行うパーフェクトな鑑定レポートを発行しています。
さらにブロックチェーン技術による追跡システム「Tracr」も運用スタート。
これまで実現できなかったダイヤモンド追跡システムの構築に成功しました。
GIAのダイヤモンド原産地情報レポート
2019年からGIAではダイヤモンド原石に対して産地情報レポートを発行するサービスをスタートしました。
対象となるのは原産国内で研磨前にGIAの分析サービスを通過したダイヤモンドです。
一度でも原産国を離れたダイヤモンドは、「キンバリープロセス証明書」「鉱業会社からの請求書」「完全密封」という条件を満たしたうえで、GIA担当者の立会いのもとで梱包を解く必要があります。
消費者意識の変化がブラッドダイヤモンドを駆逐する!
「もう美しいだけのダイヤモンドは買わない」
消費者のこの決意こそがブラッドダイヤモンドをなくせるのです。
そして紛争問題だけでなく、ダイヤモンド採掘や加工における児童労働や環境破壊などの問題への配慮も必要です
ご紹介してきたように消費者および販売側の意識改革そして技術革新によって、どのような足跡をもつダイヤモンドなのかがわかる時代となりました。
現在ではモノを選択するときの判断基準に「エシカル」「SDGs」を意識することが当たり前となりました。
ダイヤモンドも「どこから」「どのようにして」「誰の手で」もたらされたものなのかを知っておくことが重要です。
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