降って湧いたようにFRB(連邦準備制度理事会)理事たちが年内のインフレ懸念を表明し始めています。
今回は、これはどういうことなのかについての解説と金相場への影響についてです。
インフレの定義とは?
今回のインフレ懸念は、従前からいう数字のマジックのインフレ懸念とは違います。
これだけFRBの理事や財務長官が言及するということは、間違いなく「投資家へのメッセージ」にもなるので重要です。
さて、インフレとは単純な物価上昇のことではありません。
経済学的に言えば、通貨安から物価が上昇することをインフレと呼び、物資の不足から物価が上がることはインフレとは呼びません。
需給の状態から値段が上昇することは自然な物価上昇であり、決して特異なことではないのです。
つまり、この物価上昇に名前をつける意味がなく、通貨安から物価が上昇することは特異な現象なので「インフレ」という名称がつきました。
4〜5月のインフレ懸念と今回のインフレ懸念の違い
今年の2〜3月ごろから、FRBのパウエル議長やイエレン米財務長官がインフレ懸念を口にし始めました。
去年の4〜5月の物価上昇がパンデミック宣言やロックダウンによって異常に低い状態であったことから、物価の上昇が抑え込まれました。
通貨安が大幅に進行した今年の4〜5月は、去年の4〜5月と比較して物価上昇が大きくなるという「インフレ懸念」です。
言わば数字のマジックであり、それによって金利の上昇などの悪影響を懸念したインフレ懸念だったのです。
今回のインフレ懸念は、おそらく上記のものとは違います。
まず、その期間をイエレン財務長官やFRBの理事たちは「年内」と明確に規定しています。
インフレが始まればその期間など明示ができるはずもなく、これは人造的なインフレなのであろうと想像できます。
戦後のドイツや日本で起こったような1日で物価が2倍になるようなハイパーインフレは想定してはいないということができるのです。
せいぜい1ヵ月に1%程度の物価上昇を見込んでいるということになるでしょう。
今回のインフレの要因とは?
今回のインフレは、何から引き起こされるかを考えてみましょう。
要因としては、
【1】自然な需給による物資不足
【2】通貨安
【3】金融緩和
の3つが想定されます。
【1】に関しては、コロナワクチン接種で経済が再開されることによっての物資不足の可能性が指摘できます。
一方で【2】の通貨安は、アメリカ国内では去年からドル安によって経済的な恩恵を受けてたので、そのインフレ懸念の可能性は否定できますが、今年通貨安にする国々に関してはインフレが想定できます。
そして、一番可能性があるのは【3】の金融緩和からのインフレ懸念です。
金融緩和からのインフレについて検証
【3】金融緩和からのインフレについて検証してみましょう。
下記はFRBのバランスシートの総額になります。
バランスシートの総額とは、上昇すればするほどFRBが金融緩和を拡大しているという意味になります。
その金額が6月13日から飛躍的に伸びているのがわかるでしょう。
この時期と前後してFRBの理事たちや財務長官が盛んにその喧伝を行っています。
つまり、今回のインフレ懸念は金融緩和を拡大する、そしてその期間は年内だと言っているのです。
今回の金融緩和拡大による株価や金価格への影響
金融緩和拡大という言葉を聞いて、すわ「株は買いだ」、「金は買いだ」という声が聞かれてくるでしょう。
これは大いなる勘違いであり、金と株の価格の構成要因、
【1】ドル
【2】金利
【3】GDP(国内総生産)
に金融緩和は含まれないことを思い出してください。
金融緩和は、価格の構成要因の単なる付随事項です。
金融緩和によって通貨供給が増えるならば金や株は買いになりますが、実際には今年G7各国とドルを高くすることを約束しています。
すなわちアメリカ以外の同盟国、日本やイギリス、インド、オーストラリア、EUなどの通貨は安くなりますが、ドルは高くなるということです。
ですから、ドル建ての金融資産はドル高になるので安くなりますが、日本を例にとってみると、円建ての金価格や日経平均株価などは高くなるということになります。
どういうことかと言えば、ドルの供給も増やすけれど、ほかの国はそれ以上に供給を増やして、全体としてはドル高を維持するということです。
そして物価上昇が我慢ならない範囲になれば、テーパリング(緩和の縮小)を始める、ゆえにハイパーインフレになる可能性は低い、だから安心してくださいというのがイエレン財務長官やFRBの理事たちのメッセージだと考えるとすべてのニュースに整合性が与えられるのです。
金相場への影響
まず踏まえるべきは、金の価格構成要因に物価上昇は含まれていない点です。
インフレとは基本的に通貨安から派生するものであり、結果として今回のインフレ懸念は金融緩和を拡大し通貨安が想起されますが、ほかの国が金融緩和をドルよりも行うので、ドルは相対的には高くなります。
ゆえに金の高騰原因にはなりません。
ましてや【2】金利に関しては、物価が上昇するので金の安い要因になります。
唯一【3】GDPは去年よりもよくなることは確定的ですので、金の上昇要因となります。
総合的に考えれば金は安い傾向になるであろう、ただし暴落はしないという結論に至るのです。
ドル円相場と日本の金融緩和のゆくえ
皆さんが関心のある日本円建て金や日経平均についても触れておきましょう。
以下のとおり日銀バランスシートは4月から大きく増えています。
ただし、アメリカのそれと比較すると増加幅は限定的であり、大したことではありません。
ゆえにドル÷円で考えていくと、FRBが大幅増か日銀が小幅増加として、ドル円の価値は円安方向に行くであろうと考えることができるでしょう。
しかし円の絶対的な価値は現在、年初から6%ほど下落しており、今後も下落するかといえばかなりの疑問が残ります。
なぜならアメリカが緩和を行う、つまり借金の背景である国債の購入の主な買い手は日本であり、そのために人為的に円安に持っていっている可能性があるからです。
すなわち今の絶対的な円安というのは人為的、つまりドル購入コストが低下したことによって大幅なドル購入が日本から行われている可能性が高いことによってドル円が円安になっているのです。
3月末のようにドル購入が一巡すれば、再び円高になる可能性があります。
円建て金や日経平均への影響は?
加えて3月までは日銀は大幅なETF(上場投資信託)の購入を行っていましたが、4月以降はほとんどのその購入を行っておらず、実質テーパリングを行っている可能性があります。
すなわち、緩和額はこれ以上増えない可能性の方が高い。
となると、円の価値は増大しドルの価値も増大する、すなわちドル円は大きくは動かないと結論づけることができます。
ここで注目してほしいのは、円の価値の増大とは金の価格構成要因の【1】ドルに相当する点です。
つまり実質的な円高を示すことであり、これは円建て金価格や日本株の下落を意味します。
金以外の貴金属等への影響
インフレ要因の物資不足による価格高騰は主に銅に相当します。
つまり、金融緩和によって資源価格は上昇するのですが、ドルが高いためにそれほど上昇はしないということになります。
ところが銅は物資不足であり、これが要因となって価格が高騰する可能性があります。
そのほか白金やパラジウムは環境問題対応で高いと想起されていますが、実際の需給はタイトではなく、それほど需給はひっ迫していません。
ですから、6月中旬に起こったような急落が起こるのです。
原油も同じで需給は全くひっ迫していません。
おそらく金融緩和拡大の思惑から買ったものでしょうが、世界中に原油が有り余っている現象を勘案すればいずれ落ちると予測できます。
この記事のまとめ
新たなインフレ懸念の背景にあるのはアメリカの金融緩和。
ただし、他の同盟国と比べて緩和の量は少なくなるので、相対的にドル高は維持される。
また、インフレによって金利は上昇。
すなわち、金の価格構成要素のうち2つが金の下げを示唆。
日本の場合、緩和の量はアメリカほどではなく、これ以上増えない可能性の方が高い。
ゆえにドル円は大きくは動かないと結論づけることができる。
総合的に考えると、ドル建ての金価格が一番下がり、円建て金はそれ以上下がるとは考えにくいが下方向であろう。
こういう内容の記事でした。
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