彼女が指輪を売る時[離婚にまつわるエトセトラ:3]

みんなどうしてる?離婚後の苗字問題

離婚した女性たちは苗字問題、職場などでの呼び名についてどうしているのだろう?

あえて旧姓に戻さないほうが、かえって面倒でないと思っていたけれど、思いがけず娘が「お母さん旧姓に戻したら?」と言い出した。

離婚について理解があるようなことを言っていた娘も、直接の原因が夫の不倫にあると知って大激怒。

「そんなの許せない!お父さんの顔も見たくない」「お父さんの苗字で呼ばれたくない」の一点張り。

10代の少女らしい潔癖さを娘が持っていることに妙に安心してしまった。

そんなのんきな感慨にふけっていられる時ではないのに。

そして職場や近所では、そろそろ夫の不在についてうわさが流れているらしい。

誰にも話していないのに私生活の情報は漏れるものだ。

ま、近所中に同じ会社の人がこれだけ住んでいれば無理もないけれど。

私の勤める会社は「世界のブランド」と前置きが付く財閥系企業。

私の勤める本社は工場合わせて数万人、周辺にはグループ企業も集中している。

大体夫だって、グループ内の銀行に勤めているのだ。

みな勤務先の近くに家を買うから、このあたり一帯が社員の一大コロニーと化しているといっても過言ではない。

だからこの辺の住民は小さい時から「大人になったらあそこの会社に入ってね」と母親に言い聞かされて育つのだ。

さて、表札の名前が変わったら、近所の人たちはどんな反応を示すのだろうか。

夫の言い分:「息子に苗字を継がせたい」


息子を引き取りたい理由の一つに、自分の名字を我が子、それも息子に引き継がせたいという思いがある。

自分には妹がいるが、もちろん他家に嫁に出ているので、跡継ぎは自分だけ。

別に大した出自ではないが、もともとは会津の武家の出らしく、実家は本家筋にあたると聞いている。

その本家側に男の子が生まれなかったため、直系の男子は私と息子しかいない。

両親や親戚筋からの強い希望もあり、もし引き取ることができないとしても、どうしても息子には自分の名字を継いでもらいたいのだが。

妻の言い分:「子どもと母親が別の苗字なんてあり得ない!」


子どもたちが嫌がらないのであれば、旧姓に戻そうか?

そう考えていた矢先に夫から「息子だけは苗字を変えないでほしい」とややこしいことをいってきた。

同じ家に違う名字が混在していたらおかしいでしょう!何を言っているの、と電話を切ってしまったが、そのあとすぐ義母から電話があった。

要するに息子に苗字を受け継がせたいということらしい。

そういえば夫は会津若松の旧家の出。

「御一新の折に8代目が東京に出て、云々」という夫の曽祖父にあたる方の話は、何度も法事でお年寄り連中に聞かされたっけ。

今どきあまり聞かない話だから、いつもは聞き流す年寄りの昔話も記憶に残っていた。

でも、同じ屋根の下で苗字が違うなんてあり得ない!

離婚後の苗字は自由に決めて大丈夫?


結婚によって苗字を変更した側の人たちに共通の問題。

それは離婚後の苗字をどうするかということです。

結論からいえば、旧姓に戻るのも(復氏ともいう)結婚後の姓を名乗り続けるのも、本人の自由意志で決めることができます。

元の配偶者の意向や要求によって、妨げられるものではありません。

ちなみに離婚後の苗字をどうするかについて、「民法第767条」には以下のように記載されています。

1項:婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2項:前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。」

※元夫の苗字をそのまま使用するつもりならば、三か月以内に手続きが必要ということは覚えておきましょう。

しかし、気をつけなければいけないことは、これらの措置の対象はあくまで本人のみだということ。

最初からこの事実を把握しているシングルマザーは少ないのですが、子供たちは対象外なのです。

たとえ母親が親権を持ったとしても、しかるべく手続きを踏まなければ子供たちは夫側の戸籍に残ってしまうのです。

「同一の戸籍であること」と「親権者であること」は、まったく別の問題としてとらえなければいけないことを、よく認識しておきましょう。

子どもの戸籍を母親側に移すには?

親権を持つのは母親なのだから、離婚後は自動的に子供が同じ戸籍になる思っていたシングルマザーは多いでしょう。
しかし、離婚と子供の戸籍は全く別物、連動しているわけでないのです。
子どもの戸籍を移動するには,家庭裁判所の許可、そして役場(子どもの本籍地又は届出人の住所)に届出をすることが必要になります。

離婚後改姓した母親が、子どもを同じ戸籍に入れたい場合には、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可」を申し立て、同じ氏にする必要があります。

※参考「法務省ホームページ 子の氏の変更許可の申立て

夫婦の戸籍に離婚の記載がされていれば子供の戸籍謄本は取得できます。

また、離婚後親の戸籍に復籍したままでは、「戸籍法」上子供は同じ戸籍に入れません。

そのため新しい戸籍を作り子どもの入籍届を提出する必要があります。

覚悟しておきたい!苗字変更後の煩雑な「名義変更」

離婚後に旧姓に戻す、つまり苗字が変更となった人たちが、例外なく苦労するのが様々な「名義変更の手続き」です。

個人差はありますが、次に挙げた内容は、まず大多数の人に当てはまる必須名義変更手続きになります。

まず、自分と子供たちの「銀行口座」の名義変更です。

本人が手続きする必要があり、かつ通帳、印鑑、本人確認書類が求められます。

またマイナンバー制度により、「個人番号(マイナンバー)が確認できる書類」の提出が求められます。

これは、「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律」に基づ板必要措置となっています。

役場関連では、「印鑑登録証」の名義変更も必要です。

会社員であれば会社の総務が代わりに手続きしてくれますが、専業主婦だった方や自営業の方の場合は、国民健康保険や国民年金なども手続きが必要です。

また重要な本人確認証明書類となる「運転免許証「パスポート」「クレジットカード」も早急に手続きを行う必要があります。

そして離婚と同時に転居を行うなら、転出届けも取得する必要があります。それに伴って光熱水費などの公共料金他様々なサービスの名義変更も必要になります。

生命保険や自動車の保険内容の見直しも重要課題です。

これらの手続きをすべて完了させなければならないことを考えただけで頭がくらくらするという方も多いことでしょう。

しかし焦りは禁物です。煩雑な名義変更手続きを行うときには、焦らず急がずが疲れないコツ。

期限のある手続きから順に少しずつ進めれば、徐々に慣れも出てくるのでストレスも少なくて済みます。

一口コラム:今後どうなる?「選択的夫婦別姓制度」


若い世代を中心に未婚率が高まり、もはや結婚の意義そのものが問われている感が無きにしも非ずの昨今。

なかなか決着がつかないテーマがいわゆる「夫婦別姓問題」です。

ここ数十年にわたり、国会でも何度も議題に上りながら、そのたびに「家族のきずなが弱まる」「婚姻制度が崩壊する」などの理由で、法案通過断念を繰り返してきた難問です。

法務省が平成24年に実施した「家族の法制に関する世論調査」によると、夫婦別姓について肯定派が35.5%、反対派が36.4%と約半々の結果となっています。

選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について 参照

また、若い世代ほど選択的夫婦別氏制度に抵抗がないことが明確となっており、おそらく今後さらに夫婦別姓肯定派が増えるものとみられます。

夫婦別姓肯定派が多数派に転じ、夫婦別姓が一般的となる社会になるとき、改めて婚姻制度の在り方、そして家族が共通の苗字を持つ意味について、問われることになるでしょう。

そのとき、人々の意識はどのように変化しているのでしょうか。

結婚、苗字変更とは何だったのか?

結局苗字問題はどうしよう。

今のまま変更しなければ面倒な手続きはいらないけれど、しっくりこない気持ちを抱えて暮らしていかなければならない。

旧姓に戻せば気持ちはリセットできるけれど煩雑な手続きが待っている。

そして職場他周囲への説明も必要になる。

今後の苗字の名乗りについて考えあぐねていると、ふと結婚指輪の内側に自分と夫の名前が彫り込まれていることを思い出した。

とりあえずまだ手元にある、この指輪もどうしようか。

戸籍と同じように、指輪からも夫の名前を消すことはできる。

しかしそこには、かつて夫だった人の名前が彫り込まれていたという事実。

きっといつまでもいつまでも、私の頭からのかないだろう。

確かに、離婚後に結婚指輪や婚約指輪をきれいさっぱり売り払いたい、という気持ちになるのはわかる気がした。

離婚した人間にとって、それはもはや愛情の誓いを示すものではなく、過去の共同生活の抜け殻にすぎない。

特に何年も離婚を覚悟し、すでにこの家を出た夫にとっては。

けれど、私にとってはまだ色濃く残っている結婚生活の記憶。

指輪、そして今の苗字を手放す勇気、いずれもまだ私には足りないのだった。


残り2回となりました。

4へ続きます。

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